第64話 メギド
「あ・の・牛・ど・もぉぉぉぉ!!」
「カノープス様っ! お怪我はございませんか!?」
この9階層【辺獄】へと、転移したのは勇者カノープスと、その副官でもある魔導女帝のカタリナだ。そんなカタリナの心配もよそにカノープスは怒りに吠えた。
「くそぉぉぉ!! カタリナぁ、何をしているっ!? 早くさっきの階層へと戻るぞ!! さっさと空間転移を準備しろっ!!」
「かっ……カノープス様。階層移動の空間転移は使えません。転移トラップで飛ばされてしまったため、このダンジョンの座標が把握できないのです」
「できないだとっ!? ……どいつもこいつも。俺にストレスしか与えることしかできないのかぁぁー!!」
「……きゃあ!?」
苛立ちからか、カノープスは身体から闘気を放出し、その風圧でカタリナは吹き飛ばされてしまった。聖なる闘気が光の柱となって、赤黒い空へと立ち昇る。
そんな勇者が怒り狂う中、すぐ近くにある岩場の裏で冷や汗を垂らしながらその様子を窺っている者が二人。そう、ヨルシアとミッチーだ。
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《小声にてお送り致します》
「おいおい、ミッチーさんよ? なんで勇者のヤツあんなに怒り狂ってんだ? マジで勘弁してほしいんですけど……」
「知りませんよぉぉ!! あんな怒り方するなんて尋常じゃないですって!? これだと、オレたちが考えた『勇者が本気を出す前に倒しちゃおうゼ☆』作戦が使えないっすよ?」
「まいったな……。なぁ、ミッチーさんや? 俺、あんなのとやり合いたくねーんだけど? もういっそのこと出直すか?」
「そうっすね!! あんな触れる者、皆傷つけるような奴と戦うなんて嫌っすからね。ヨルシアさん、帰りましょう!」
ミッチーが振り返ると、偶然にも足下に落ちていた小枝を勢いよく踏み折る。
――パキッ……!!
ちょっと、ミッチィィー!? 何してんの!?
ベタ過ぎて笑えないんだけどぉーー!?
するとカタリナが、瞬時にその物音に反応して詠唱破棄で魔法を放った。
「……そこっ、【聖光】!!」
カタリナから放たれる光のレーザーが、ヨルシアたちが隠れる岩場を直撃し爆発する。煙が辺りを覆い瓦礫が崩れ落ちた。
「うぉっ!?」
「ヨルシアさん!! ちょっと押さないで!? あっ……」
突然放たれた攻撃魔法に、ヨルシアは思わず体勢を崩してしまいミッチーを岩場から押し出してしまった。四つん這いになり突如現れたミッチーと勇者たちの目が合う。
「あなたは……。何故こんなところに……」
「これはこれは領主サマ。なるほど、そういうことか……。貴様も黒幕の一人というわけか。くっくっくっ……あーはっはっはっ!! これは面白い。おい、いるんだろ? 出てこいよクソ悪魔!!」
なっ……何か自己解決されてる……。
しかも、俺がいることバレてるだと!?
猫の鳴き声でなんとか………ならねーよなぁ。
クソっ、もう行くしかない。
俺は岩陰からスッ……と出ると、勇者たちと相対した。
あー、もう勇者マジ強そうじゃん。なんか身体光ってるんですけどー。勇者って自然発光する生き物なの? つか、何あの剣? 自己主張し過ぎじゃね? 刀身がシースルーなんて聞いたことねえよ。なんのクールビズだよ? ツッコミどころ満載すぎんだろ。
「さて、領主サマ。いつからその悪魔と手を組んでいた? まさかハズレ勇者の貴様ごときが国に弓を引くとはな」
「ふっ……ふん!! いつまでも、あん時のオレだと思うなよ!? お前なんてけちょんけちょんにしてやっからな! ぶっ飛ばしてやる!!」
おぉ!! ミッチー、言うじゃねぇか! でもな、下半身がそんな子鹿のように震えてちゃあ説得力ないぜ?
「ミチオ様、いや……大罪人ミチオ・タナカ!! 国家反逆罪を犯し、あまつさえカノープス様への暴言。恥を知りなさいっ!! 死を以ってその罪を償うといい!!」
カタリナが右手に魔力を集め魔法を撃とうと構えるが、カノープスからの待ったが入る。
「カタリナ、まだ待て」
「……かしこまりました」
そのままカタリナはカノープスの後ろへと下がった。あら、聞き分けの良い部下ですこと。さすがは俺様ヤロー。
「おい、お前ら? 殺す前に聞いておいてやろう。お前たちの目的はなんだ? 何故、手を組んだ?」
目的? この勇者は何を言ってるのだろう? 目的なんてなんもないし。俺はただヒッソリとダンジョンで暮らしたいだけなんだけど。正直に話したら帰ってくれたりするのだろうか?
もしかして無害アピールでもしたら帰るパターン?
うん、アピってみるか!
「目的なんてねぇーよ。俺はここで安全かつ平和に暮らしたいだけの善良な悪魔だ。ミッチーには、それを手伝ってもらっているだけで、別に『国を滅ぼそう』とか、『人類は全て敵だ』とか、そんな危険な思想なんて持ってねーよ。お互いにメリットがあるんだし、このままにそっとしておいてくんねーかな?」
どうやら俺の言葉が気に入らなかったらしく、勇者の顔がみるみる険しくなっていく。
ふぅー……。
まさかの地雷かぁ……無害アピールしたのになー。
つか、こいつも導火線の短いタイプだったのね。それにきっと勇者には『敵を倒しますか』という選択肢の中に『いいえ』がない。『はい』オンリーの生粋のイエスマン。お前、超めんどくせーな!?
「ふざけるなっ!! 善良な悪魔だとっ? どの口がものを言っているのだ。安全だ? 平和だ? 貴様らの存在こそが悪なのだっ!! 悪魔に手を貸した大罪人ミチオよ。もう語るまい。貴様もその命を以って罪を償うといい!! カタリナいくぞっ!!」
「はいっ!!」
こうしてダンジョン9階層【辺獄】にて、ヨルシア対勇者の戦いが開始した。
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《4階層》
『ゴブリダさん、狂戦士隊が押されています。どうやら相手隊長格との戦闘のようです。救援にむかえますか?』
「シャーリー殿!? ……マップを確認した。すぐに向かおう。ゴブスロ、ついて参れ!!」
「はっ!!」
騎士団との戦闘が始まり、4階層のあちこちで乱戦が繰り広げられていた。どこもかしこも響き渡るのは悲鳴に怒号、そして激しい剣戟の音。まさに激戦だった。
正面から迫りくる騎士たち。ゴブリダは魔剣を振るい通路いっぱいに炎の斬撃を放つ。剣から放たれた炎が、騎士たちに直撃するが相手はそれでも怯まない。それは勇猛や不屈といったものではなく、自分たちの身を顧みない狂気に近かった。
肉を切らせて骨を断つ……。相手は急所の守りを固めるために殺しきれない。傷つきながらも反撃をしてくる。
それでもゴブリダは燃え上がる魔剣を構え通路を突き進む。最小限の動きで騎士たちの足を狙い、戦闘力を奪っていった。相手を殺すことよりも無力化させることを優先している動きだ。殺さなくても一時的に行動不能にしてしまえばそれでいい。今はできる限り敵戦力を削ぐ。
通路を進むと、生き絶えたゴブリンや騎士の亡骸が数多く横たわっていた。騎士一人に対し、ゴブリン五体。地の利があるとはいえ、想像以上の被害が出ている。徐々にジリ貧に追い込まれつつある戦況にゴブリダは焦っていた。
『ゴブリダさん、この先の部屋に隊長格がいます。……ご武運を』
「シャーリー殿、了解した。なんとしても早々に頭は仕留める!」
ゴブリダが部屋へ入ると、ゴジャギとバーサーカーたちが血だらけで倒れていた。そして、その先には剣を構えたポールとコーニールが。
ゴジャギたちは、辛うじてハァハァ……と息も絶え絶えに生きていた。
「ほう、これはまた強そうなのが出てきたな。……んっ、炎の剣? ポール殿、きっとあやつが例の魔剣持ちかと」
「ではコーニール殿、魔剣は先にあのゴブリンを倒した方の物ということでよろしいですかな?」
「いいですとも!」
ゴブリダは人族という種族が嫌いだ。
自分勝手で強欲。それでいて残酷でもある。悪いところをあげたらキリがない。今も部下を殺されかけ、あろうことか主より与えられた魔剣まで狙ってくる始末。
このまま憎しみに任せて剣を振ってもいい。怒りに狂い人族たちを残酷に皆殺にしてもいい。それをやる理由がゴブリダにはあるのだから。
しかし、それを彼はやらない……。
――何故ならば彼には心があるからだ。
だからこそ彼は強い。何が大切かを知っているから。皆を守り、ダンジョンを守り、全てを守りたい。敬愛する主から下賜されたこの素晴らしき力で。
「……鬼怒気!!」
ゴブリダが、そう口にすると身体のまわりに赤い闘気が出現する。それは徐々に大きくなり憤怒の顔をした鬼の顔を形成した。
「「なっ……!?」」
――ゴブリダの一閃。
突撃してきたポールとコーニールを壁際まで吹き飛ばした。二人は間一髪、丸盾で防御はしたが、斬撃の跡に沿って盾はひしゃげた。
「ゴブスロ、ささっと片付けて他の救援へといくぞ!!」
「はっ! 地獄の底までお供いたします!!」
「おっ……オデも、ルっ……ルルたんのために頑張る!!」
血だらけのゴジャギも起き上がり、マッスルポーズを決める。大声で「痛きもちぃー」を連呼していたが、いかんせんツッコミがいない。そうツッコミがいないのだ……。
こうして四階層も混沌となり、ダンジョン防衛戦はいよいよ最終局面を迎えた。
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