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第63話 月の花と黒の薔薇

「ねぇ、あーちゃん? この階層は空気が悪すぎます。早く出たいですー」

「マリ? 絶っ対、その結界を解くんじゃないわよ? 解いたらあっという間に瘴気中毒になっちゃうから。早いとこ出口探してここから脱出するわよ?」


 この8階層に転移させられたのは、魔導少女(マジカルスター)の双子。歳はまだ13歳と若いのだが、幾多の上級魔法を使いこなす天才魔導士の二人である。レグナード王国にある国立魔導学院を僅か一年で卒業するといった前代未聞の神童たちだ。


 二人とも身長は140cmほどしかないが、自身の背丈よりも長い宝玉付きの杖を装備している。

 アリエッタは、肩甲骨あたりまである紫髪をすっきりとアップでまとめ、特殊な魔糸で編み込んだローブと、その下には魔導学院のブレザーミニスカを着用している。

 マリエッタは逆に髪は下ろし、姉と同じローブを着用しているが、姉は羽織るだけに対し、マリエッタは前面にあるボタンをキッチリと掛けローブを着こなしていた。


「マリ、私の飛翔(フライ)で飛ぶわよ?」

「うん、あーちゃんよろしくー」


 二人はそう言うと、それぞれの杖に横座りのような形になり空へと飛び立つ。

 アリエッタの飛翔(フライ)は杖に座らなくてもいいのだが、アリエッタ曰く座ったほうがエレガントということらしい。


「それにしても瘴気は別として、ここはとても綺麗な階層ね。あたし、こんなダンジョン見たの初めてかも」

「……あーちゃん、熱でもあるの? あーちゃんがそんなロマンチックになるなんて不吉の前触れです」

「なっ……、失礼ね!! 私だって花の一つくらい愛でるわよ!!」


 アリエッタが顔を真っ赤にして怒っていると、ダンジョン内にどこからともなく声が響く。


「おーーほっほっほっほ! あらあら、本当の花の良さもわからない小娘が何について語ってるのかしら? まずはその絶壁のような胸を膨らませてからものを言いなさい」

「やめなさいマリア。そんなに煽ると後で厄介よ?」



 二人は星空を見上げると、大きな満月をバックに現れたのは金髪と赤髪の魔族が二人。まず、どうしても目がいくのは、自分たちにはないその大きな胸の膨らみだった。いや、膨らみというかもはや突起である。自身のものが平地ならば、目の前にいる魔族のはエベレストとマッターホルン。思わずマリエッタは、自身の胸をペタペタと触りため息をついた。


「ちょっ……ちょっとマリ!? なんでため息なんかつくのよ! あたしたちはまだ成長期なんだからいずれ大きくなるわよ! てゆーか、おばさんたち!! あたしたちに喧嘩売るなんて覚悟できてるんでしょうね?」

「でしょうねー」


「「お・ば・さ・ん?」」


 アリエッタの一言により、リリーナとマリアの魔力が爆破的に増大した。

 そして手を掲げ魔法を発動させる。


「あっ……あなたたち!? 言っていいことと悪いことがあるわよ!! 一度、痛い目に遭いなさい……氷嵐連槍(アイシクルランサー)!!」

「おっ……お仕置きが必要ですわね。 ……爆炎連槍(フレアルランサー)!!」


 リリーナとマリアが放った、氷と炎の数百の槍が魔導少女を襲う。


「ふんっ! やるじゃないの。おばさん(・・・・)! ……爆風障壁(ゲイルウイング)!!」

「あーちゃん、あぶないです。……魔鋼壁(ガンズウォール)


 アリエッタが真空の魔法障壁で炎と氷の槍の威力を弱め、マリエッタの黒い鋼の壁で二人の魔法を防御する。



――ズドォォォォォーーン



 黒い鋼の壁がパキパキと音を立てて崩れ落ちていった。


「マリア、あの子たち思った以上にやるわね」

「リリーナさん? 褒めすぎよ。まだ挨拶しただけですわ! きますわよ?」


 アリエッタが二人の魔法を防ぐのと同時に詠唱破棄で魔法を発動させていた。


「痺れちゃえ! 豪雷爆撃破(ヴォルテックウェーブ)!!」


「「……!?」」



 ――ピッシャァァァーーン!!!



 耳をつんざくような雷鳴が階層内に響きわたった。

 アリエッタが放ったのは広範囲殲滅魔法の一つ。詠唱破棄とはいえその威力はDランクの魔物であれば一瞬にして消し炭になる。そして……。



「いでよ……、黒鉄乙女(ジ・アイアン)戦士巨神(・メイデン)



 アリエッタの詠唱破棄の雷陣魔法の隙に、マリエッタはきちんと(・・・・)詠唱をおこない、最上位土岩鋼魔法の一つ【黒鉄乙女(ジ・アイアン)戦士巨神(・メイデン)】を発動させた。


 全長30メートルもある鉄巨人。それが8階層に突如あらわれたのだ。魔導少女(マジカルスター)の二人が鉄巨人の頭へと降り立ち、雷撃によって舞い上がった白煙を睨む。


「いたたた……、まだピリピリする。……って、何あれー!?」

「おのれぇ、小娘!! わたくしの毛先が少し焦げたではありませんの!! って、なんですの!?」


 鉄巨人は二本の片刃の剣を持ち、それを振り上げリリーナとマリアへと斬りかかる。

 剣を振るたび、ブォォォン……という、恐ろしく低い風切り音が鳴り響いた。


「キャハハ!! いい気味ね! マリエッタ、もっとやっちゃいなさい!」

「あーちゃん、いっえさーですぅー」


 鉄巨人が剣を振ると、足下にある邪紫梅の木はバキバキと倒れ地形が変わっていく。

 リリーナとマリアは鉄巨人の攻撃を避け、鉄巨人に攻撃を与えようとするが、リリーナの魔爪は鋼鉄の鎧に弾かれ、マリアの爆炎魔法はその巨大な剣でかき消された。


「ほんと堅いわね」

「リリーナさん、こちらも全力でやらないとまずいですわよ?」


 二人が魔力を集中し、鉄巨人に攻撃をしようとした刹那、魔導少女にその瞬間を狙われた。



「ねぇ、おばさん? 隙ありよ!! ……雷神爆撃槌(トール・ハンマー)!!」

「そのまま圧死して? ……降魔隕石呪(ジオ・ブロス・メテオ)



 リリーナとマリアの正面に巨大な雷撃の塊が迫り、その頭上からは赤黒く熱された巨大な岩の塊が二人を潰そうと落ちてくる。



「はぁ……ほんと派手ねぇ。仕方ない娘たち。きなさい……黒薔薇(ノヴァ・ゼノビア)!!」



 マリアの周囲に立体魔法陣が出現し、そこから黒炎で形成された荊の蔓が、アリエッタの放った雷撃に向かって伸びていく。

 すると黒炎の蔓が雷撃を受け止め、まるで根をはるように雷撃を包み込んだ。そして、次の瞬間……。


「吸いなさい、黒薔薇(ノヴァ・ゼノビア)

「なっ!?」


 放たれた雷撃を養分にして、黒炎の蔓がグングンと巨大化していく。

 まるで信じられないものを見るように、アリエッタとマリエッタは目を大きく見開き驚いていた。


「リリーナさん、準備は整いましてよ?」

「じゃあ、上の邪魔な岩を斬るわね? ……月の光よ、我に力を……月華美刃(ムーンエピフィルム)!!」


 リリーナの両手の魔爪が、白く輝き始めると美しい長剣を形成していく。

 そして、ヒュン……と一振りすると刀身から白い魔力の花弁が宙を舞った。


「一撃で仕留めてあげるわ!!」


 リリーナが両手を合わせると、その長剣は一本の白亜の大剣へと変貌した。

 それを大きく振りかぶり、リリーナは空を駆け上がる


「はぁぁぁ……月華一閃(げっかいっせん)! 斬月崩天華(ざんげつほうてんか)!!」


 白亜の大剣から放たれる、一筋の巨大な斬撃。濃縮な魔力を纏っているためか、残滓が花びらのようにその斬撃の後をなぞる。


 リリーナの巨大な斬撃が隕石に直撃すると、中心から真っ二つとなり隕石は粉々に砕け散った。


「リリーナさん、ナイスですわ! その岩もいただきますわよ。吸いなさい、黒薔薇(ノヴァ・ゼノビア)


 降りそそぐ隕石のカケラを、黒炎の蔓が触手のように包むと、そのまま全て呑み込んでいった。

 魔力を吸収し、まるで大木のように太くなった黒炎の蔓。それがウネウネと不気味にマリアの周辺を蠢いていた。


「おーほっほっほっほ! 小娘ども覚悟しなさい! あなた方の魔法なんてわたしたちに掛ればこんなものですわ! さぁ、お仕置きの時間ですわよ」


「うぅー……、まさか防がれるなんて。……マリ!! あのおばさんたち、ぶっ飛ばして!!」

「あーちゃん、任せて。いけ、メイデンちゃん」


 マリエッタの一言で、鉄巨人が巨大な剣を振りかぶる。


「させませんわ!」


 瞬時に黒炎の蔓が鉄巨人に巻き付き、その動きを封じた。

 まるで油の切れた歯車のように、ギギギっ……と金属が軋む音が鳴り響く。


「……えっ!? 嘘っ!?」

「メイデンちゃん、頑張るのですぅ!!」


 魔導少女(マジカルスター)の二人は、残りの魔力を鉄巨人へと送り込む。しかし、それでも黒炎の蔓は振りほどけなかった。


「あなたたち、そんなことしても無駄よ? あと、悪いことは言わないから全力で防御障壁をはりなさい。マリアのとっておきはキツイわよ?」


 リリーナが諭すように二人に警告をする。


「おーほっほっほっほ! 小娘ども、わたくしたちをおばさん呼ばわりした罪は重いわよ? では、そろそろ幕引きとしましょうか? 狂い咲け……黒薔薇(ノヴァ・ゼノビア)!!」


 マリアの一言で、鉄巨人の全身をとり巻く蔓から無数の黒炎の薔薇が開花した。そして、マリアが一言こう呟く。



「……煉薔薇百花繚乱(ミリオンローズフレア)!!」



 

 ――ズダダダダダダダダダァァァーーーン!!!!




 見事に咲いた数多の黒薔薇が次々と爆裂していく。それは開花の流れを見るように、大輪の花を咲かせては散っていくさまは絢爛華麗。


 あっという間に鉄巨人を消し炭と化した。

 魔導少女の二人も全力で防御障壁を展開したが、それも虚しく黒炎は防御障壁を貫通し、二人を邪紫梅林へと吹き飛ばす。


「まっ……マリ? 大丈夫!? ……痛っ!!」

「あっ……あーちゃん、なんとか……生きてる……ですぅ……うっ」


 思った以上に身体へのダメージが大きく、二人が張っていた瘴気保護結界も弱まってしまった。それにより瘴気によるダメージも発生し、二人の身体を徐々に侵食していく。


「こんなおばさんたちにしてやられるなんて……」

「……あーちゃん悔しいですぅー」


 二人がなんとか立ち上がると、その正面にリリーナとマリアが上空より降り立つ。


「あなたたち? おとなしく捕まるなら命まではとらないわ。もう諦めて投降しなさい?」

「おーほっほっほ! 無様ね! いい? これに懲りたら口の利き方には注意しなさいよ?」


 するとアリエッタとマリエッタの目尻に大粒の涙が浮かび上がり、二人がワナワナと震えだした。


「「ふっ、ふっ……、ふぇぇぇぇぇぇ---ん!! あんた(あなた)たちのこと、カノープス様に言いつけてやるーー!!」」


 アリエッタが飛翔(フライ)の魔法を使い、マリエッタと一緒にちょうど目の前にあった階段へと飛び込んでいく。それは奇しくもカノープスが転移した9階層へと続く下り(・・)階段であった。


「リリーナさん、まずいですわよ!? あの娘たち下層へ行くつもりですわ!」

「ちょ……ちょっと、あなたたち待ちなさい!? そっちは駄目よっ!」


 そして、リリーナとマリアも魔導少女(マジカルスター)たちの後を追い、慌てて9階層へと向かうのだった。


 ――8階層の戦い アリエッタ、マリエッタの両名、敵前逃亡につき敗北。勝者、リリーナ、マリアンヌ


 そして戦いは9階層へと続く。



本日もデビダンを最後まで読んでいただき誠にありがとうございます^ ^

感想、ご指摘、ブックマーク、評価、誤字報告をいただきました読者の皆様。心より御礼申し上げます。

明日も更新です。


次回、ブチ切れ勇者&ゴブリダ達の戦いです。よろしくお願い致します。

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