第62話 天忍 パケロ・シュレーゲル
「誰だ、てめぇ?」
「……ケロ」
「またそれかよ? いい加減聞き飽きたぜ。それにその雌を斬り損なっただろうが!」
イザークがそう言って地面を蹴ると、一足で間合いを詰めパケロへと斬りかかった。
パケロを完全に捉えた一撃。双剣が交差し一瞬でパケロの首を刎ね飛ばした。あまりの呆気なさにイザークが悪態を吐く。
「ちっ……まさかの雑魚かよ!? 期待させんじゃねぇよ。ゴミが」
イザークが落胆し後ろを振り向くと、正面にケロカをお姫様だっこしたパケロがゆっくりと歩いていた。
「………は?」
イザークは自身の目を疑った。間違いなく剣は奴の首を捉えて刎ねたはず。それなのになぜやつは生きている!?
イザークがパケロの死体を確認すると、そこには『ハズレ』と書かれ、真っ二つにされた丸太が転がっていた。
「ザコが調子にのりやがって。……殺す」
格下の魔族ごときに馬鹿にされた。
これ以上ないほど自身のプライドを傷つけられ、怒りでイザークの身体が小刻みに震える。その両手に持つ二本の剣には恐ろしいほどの闘気が集まっていった。
パケロは忍衆のもとへとケロカを運ぶと、ゆっくりと慈しむようにケロカを託した。
そして一声「ケロ」っと鳴いて、その場を離れると、イザークの前に立ち塞がる。
「おい、クソガエル? てめぇ、覚悟はできてんだろうな?」
パケロは再び卍傘を開くと、そのまま肩でクルクルと回し始める。
その挑発的な態度がイザークをさらにイラつかせた。イザークはその右手に持つ剣でパケロに向けて斬撃を放つと、パケロはそれを防ぐこともなく、スルッ……と自身の影へと潜ってしまった。
――影移動。
イザークはパケロのスキルを瞬時に見抜き自身の影へと目を向ける。珍しいスキルだが知っていれば対処も可能。影からパケロが出てきたところを、カウンターで迎撃しようとイザークは剣を構えた。
そしてその読み通りにパケロの頭が影から出てくると、それをニヤリと笑みを浮かべ剣で薙ぎ払う。
――殺った!!
まさに一瞬。パケロの首が胴体から綺麗に離れると、そのまま地面へとボトリと落ちた。
「ひゃーはっはっはー!! クソガエルがっ!! 魔族の分際で人間様にたてつくんじゃねぇーよ!!」
憂さ晴らしをするかのようにイザークは、パケロの頭を高笑いしながらグリグリと足で踏みつけ始める。しかし……。
「……ケロっ」
不意に蛙の鳴き声が周囲に響き渡る。
イザークは高笑いをやめて、すぐに辺りを見渡すが誰もいなかった。
いや、いなくなっていた。先程まで瀕死で倒れていた忍衆の面々までもがこの場から消えていたのだ。
なんだこれは? 何が起きている?
イザークは一呼吸置き心を落ち着かせた。
感情にまかせて冷静さを失うことは、いくら勇者の守護者とはいえ致命的である。
まずは落ち着いて状況を整理しようと試みたのだが、イザークの踏みつけていたパケロの頭はまたして丸太に変わっていた。
そしてその丸太にはこう書かれていた……『マヌケ』と。
――ブチッ!!
一瞬で頭に血が上りイザークはキレた。
そして手当たり次第に斬撃を放ち、周囲を破壊し始めたのだ。
まるで子供の癇癪のような行動。それでもその威力は凄まじく轟音と共に沼地の地形は変わっていった。
「クソガエルぅぅぅ!! どこだぁぁぁぁ!? 早く出てこい!! ブッ殺してやる!!」
怒り狂い奇声を発するイザーク。
そしてそれをあざ笑うかのように、パケロはイザークの頭上に現れ、卍傘で頭を打ち下ろした。
――スパァァァァァーーーン!!
イザークはそのまま勢いよく顔から泥地へと突っ込む。パケロは跳ねた泥をピョンピョンと上手に躱し距離をとると、右手の人差し指と中指を立てて印を結んだ。
「ケロケロケケロケロ」
倒れているイザークの周りに大きなシャボン玉が次々と出現する。それは1メートルほどはある巨大なシャボン玉。表面の油が七色に輝き、その中央部には魔力の渦が巻いている。
イザークはすぐさま起き上がるが、その巨大なシャボン玉に身体が触れてしまい、内包されている魔力が一気に爆ぜていく!!
次々と爆発するシャボン玉。轟音と爆風が辺りに広がり、最後は大きな爆発となって粉塵を上げる。
――ズダダダダァァァーーーーン!!
シャボン玉が全て弾けると、大地は抉れ10メートルほどのクレーターの底に、イザークが大の字になって泥を被っていた。意識もないのかピクリともイザークは動かない。その着ていた鎧は爆発で砕かれ、二本の剣も遠くへと飛ばされてしまった。イザークのダメージは深刻である。
……終わった。
そう思ったパケロがその場を去ろうとすると、突如イザークの目が大きく見開きパケロへと襲い掛かかった。
息を殺し、気配を消してパケロの不意を衝く。もう格下とも思わない、慢心もしない。イザークはパケロから攻撃を受けたことにより冷静さを取り戻していた。
パケロも違和感を感じ取り、振り返るが時すでに遅し。イザークは既に攻撃体勢に入っていた。咄嗟に防御を試みるも、双剣舞士特有の舞のような体術にパケロは翻弄される。そしてイザークの闘気を纏った拳はついにパケロを捉えた。
……手応え有り!!
思わずイザークに笑みが浮かぶ。そして今までの鬱憤を晴らすように、パケロに次々と拳を叩き込んでいった。
嵐のようなイザークの連撃。さすがのパケロも体勢を崩されてしまうと、防御に専念するしかなかった。卍傘でイザークの攻撃を捌いていくが、その変則的な体術は徐々にパケロを追い詰めていく。
圧倒的なリーチの差。押し切れると思ったのかイザークの顔が狂気に歪む。勢いづいたイザークの攻撃は留まることを知らず、蹴りで卍傘を弾き飛ばすとパケロに最大の隙ができた。
イザークの足刀がパケロのガラ空きの胴を捉えたのだ。そしてそのまま顎を蹴り上げ、上空へ舞いがったパケロに追撃のサマーソルトを。最後に振り下ろし気味の蹴りを放ちパケロははるか後方へと吹き飛んでいった。
「ケっ……ケロ……!!」
パケロが咳き込み吐血する。
イザークは落ちていた二本の剣を拾い上げ、パケロにトドメを刺そうと距離を詰めた。もう油断はしない。今度こそ確実に殺す。
イザークは必殺の斬撃を繰り出そうと闘気を練るが、パケロが印を結ぶ方が早かった。そしてそのまま印を結んだ指を真横へと薙ぎ払う。
――斬撃かっ!?
そう警戒してイザークはすぐさま防御体勢をとる。が、しかし、何も発生せずにパケロのそれは空振りに終わった。
――またフェイクかっ!?
再び騙されたと思いイザークの怒りのボルテージが瞬時に上がる。
「こっ……の……クソガエルがぁぁぁ!!」
そしてイザークが距離を詰めて剣を振りかぶった次の瞬間……。
――ゴキュっ!!!
雷のような速さでパケロの卍傘がイザークの顎に直撃した。防御すらできない死角からの攻撃。しかも会心の威力だ。思わずイザークはたたらを踏み、足をガクガクと震わせた。
「ケロケロケケロケロ」
パケロが再び印を結び指を真横に薙ぎ払うと、それに合わせて卍傘が流星のように階層内を飛び回り始めた。そして、何度も何度も容赦なくイザークに攻撃を浴びせかける。そして倒れることも許されずに棒立ちのままイザークはパケロの術を喰らい続けた。
もはやボロ雑巾状態のイザーク。卍傘がイザークの顔面を捉えようとしたその時、ポロっと自分でも予想だにしない言葉が漏れた。
「たっ、たしゅ……け……て……」
すると卍傘がイザークの目の前でビタっ……と止まる。
イザークは「はぁー、はぁー」と荒い息遣いで全身に脂汗を浮かべていた。
卍傘がゆっくりとパケロの手元へと戻るとパケロが一言こう伝えた。
「……ケケロケロ」
パケロはくるっと振り返りイザークに背を向け歩き出した。
言葉は通じないかもしれないが、この行動だけでわかるだろうと思いパケロはその場から去って行った。
見逃された……?
イザークの頭の中にその言葉がよぎる。
自身が差別の対象にしていた相手からのまさかの情け。不意に出た言葉とはいえ、これは許されることなのか? もちろんイザークの出した答えはノーだ。
許せない……いや、許さない!! 魔族如きが俺様を見下すんじゃねぇ!! そんな言葉がイザークを支配する。
静かに剣を拾いパケロを睨む。今まで魔族相手に無敗を誇っていたイザーク。自身のプライドを守るために、これからも勇者の守護者であり続けるためにイザークはパケロに斬りかかった。
「……ケロケケロケロケロケロロ」
パケロが卍傘からもの凄い速さで抜刀し、イザークの両腕を斬り飛ばした。その抜刀術はまさに神速。そのあまりの切れ味に、イザークは斬られたことにさえ気付かず、そのまま腕を振り下ろした。
「死ねぇぇぇーー!!」
当然の如く、その腕は見事に空を切る。そこでイザークは初めて自分の腕がないことに気が付いた。そしてその過ちにも……。
「……おっ、俺の腕ぇぇぇーー!?」
「ケオケロ……」
パケロは再び納刀し構えをとると、イザークの顔は恐怖に歪んだ。生まれて初めて感じる死の恐怖。それにイザークの心は耐えれなかった。
「ひっ……ひぃぃぃぃーーー!? たっ……助けてぇぇぇぇーーー!!」
「ケオケロロケロ!!」
閃光が辺りを光で包み白い世界が広がる。そして世界が色づき始めると、その地面には扇状に大きく七つに裂けた跡が残った。
「ケロケロロロケロロロケロ。ケロケロケロケロケケロロ」
パチンっ……と卍傘へ納刀するとイザークの身体は綺麗に七つに分かれ地面へと倒れた。
「……ケロロロ!!」
そしてパケロは一切振り返らずそのまま7階層を後にした。4階層で戦うゴブリダと合流するために。
――7階層 勝者 パケロ・シュレーゲル
そして戦いは8階層へと続く。
本日もデビダンを最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。
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次回 激闘の魔法少女!!




