第61話 パケロの想い
『みんな、なんとしてもパケロ様がいらっしゃるまで持ち堪えるわよ‼』
『あぁ! くノ一のケロカだけに格好つけさせるわけにもいかんしな』
『そうそう、お頭の進化さえ終わればこんな奴あっという間に……』
「ケロケロ、ケロケロと、お前らうっとーしいんだよっ! うらぁ、双牙斬空‼」
イザークが剣を交差し斬撃を放つと、二つの斬撃が半月の弧を描くように地面を抉る。ケロカたち忍衆も必死で避けようとするが、躱すことも叶わず斬撃の余波で吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がっていく。
『みっ……みんな……大丈夫!?』
『なっ……なんとかな。あと数発くらいなら……たっ、耐えられる‼』
『くそ、遊ばれてやがる。悔しいぜ……。それよりもケロカ、お前は俺たちよりも後ろにいろ。お前を死なせたら、お頭に面目が立たない』
『ちょ、ちょっと! こんな時に何を言ってるんですか!?』
『照れるな、照れるな。お頭も、我らが殿と同じように鈍感だ』
『そうそう。ケロカもちゃんと思いを伝えないと、リリーナ様のようにはなれないぞ?』
「んだよ。まだ元気そうじゃねーか……。お前らの鳴き声いらつくんだよ‼」
イザークが数十メートルもあった距離を一気に詰め、ケロカの腹をボールのように蹴り抜いた。
ケロカは地面を何回も跳ねゴロゴロと転がっていく。
『『『ケロカっ!?』』』
「ひゃっはっはっはっー‼ ボールじゃねーんだからそんなに転がるなよ‼」
周りにいた忍衆がブチキレ、怒りに任せイザークに襲い掛かっていく。
が、しかし……。
悲しいほどあるその実力差に、為す術もなく一人、また一人とケロカのように蹴り飛ばされていった。
「おいおい……なんだよ? お前らにも怒りや悲しみっつー感情があるのか? 勘弁してくれよ雑魚モンスターどもが」
そしてイザークは、周りの忍衆をあらかた蹴り飛ばすと、一番はじめに蹴り飛ばしたケロカのもとへと歩いていく。
『ケロ……カ……、にっ……逃げろ……』
『た……立て……逃げ……るんだっ』
『みっ……みんな……きゃっ!?』
イザークは、ケロカの腰まである長いポニーテールを掴み剣を構えた。
「んっ? よく見たらお前……雌か? あぁー……なるほど。だからさっき雑魚どもがキレやがったのか。よし、いいこと思いついた」
イザークがそう言うと、そのまま瀕死状態のケロカの髪を持ち、引き摺りながら忍衆のもとへ歩いていった。
「おい、雑魚ども。顔を上げろ。これ……なぁーんだ?」
イザークが嬉しそうに、引き摺っていたケロカを髪ごと持ち上げ忍衆の前へと晒す。
「お前ら、早く立たねえとこの雌カエル細切れにすんぞ? ほら?」
イザークはそう言うと、掴んでいたポニーテールをスパンっと真横に斬り裂く。髪を切られたケロカは、そのまま顔から地面へと崩れ落ちる。
『ケロ……カ……』
『げっ……外道めっ‼』
忍衆たちは既に全員が限界に達していた。しかし、それでも身体を震わせながらケロカを助けるためにゆっくりと立ち上がる。
イザークにとってあまりに期待外れな忍衆たち。興が醒めたのか、イザークは立ち上がった忍衆たちを再び蹴り飛ばした。
「はぁ……怒らしたらもう少し遊べると思ったんだがな。こんなもんか。……つまらん」
『みんな……ごめんね。わ……私のせいで』
自分の不甲斐なさ、何もできない悔しさ、思わずケロカの頬に涙がつたる。
すると口元に邪悪な笑みを浮かべたイザークに、ケロカは頭をグリグリと踏まれた。
「ほぉ……なんだ。魔族でも泣くのか!? ひゃっはっはっはっー‼ これは面白ぇ‼」
イザークはケロカの頭を右手で鷲掴みにして、地面で横になる忍衆の面々に晒した。
「おい、お前ら見ろよ? この雌カエル泣いちゃってるぜ? お前らがしっかり戦わねぇーからだろ!? しょーがねーから俺様が最後にお前らにやる気出させてやるよ‼ しっかりと見とけよ‼」
イザークはそのまま力任せにケロカを上空へと投げ放った。そして二本の愛刀に闘気を纏わせ斬撃を放つ。
「二天斬衝破ぁーー‼」
イザークが放ったのは音速の抜刀術。真空の刃で全てを切り裂く必殺の一撃だ。それが無情にもケロカに襲いかかる。
死を覚悟したケロカが口にしたのは、悲鳴でも恐怖でもなく、主であるパケロへの謝罪だった。
『……パケロ様、……ごめ゛ん゛な゛ざい゛』
――ズドォォォォォォォーーーン‼
ダンジョンに悲痛な叫びが木霊した……。
⌘
拙者は弱いでござる。
魔王の息子パケロ・シュレーゲルとして生を受けたにもかかわらず、何故こうも弱いのでござろうか?
父上が勇者に討たれ、ダンジョンを受け継いだのだが、持ち掛けられたダンジョンバトルでファマトに負けてしまい、ダンジョンも眷属も全て奪われてしまったのでござる。情けない……。これも全て拙者が弱いのが悪いのでござる。
現に勇者対策会議にて、我が殿ヨルシア様が勇者の守護者の相手を拙者に任せることを躊躇ったのでござる。
正直ショックでござった……。拙者は殿に信用されていないのでござろうか? 殿のためならいくらでもこの命を差し出す覚悟はあるでござるよ‼
それに殿は拙者のために、ファマトと戦い、ダンジョンも眷属も全て取り戻してくれたではないか‼ その恩義に報いるためなら、拙者はどんなこともするでござる‼
その想いを胸に拙者は殿に頭を下げた。
殿は再び躊躇ったが、拙者の想いが伝わったのか、勇者の守護者を一人任せていただけた。相手は格上でござる。それでも負けることは許されない。もはや相打ち覚悟で挑むしかあるまいな。この命、殿のためなら惜しくない。
拙者はそう決意し、会議室を後にした。
⌘
翌日、殿は拙者のために、父上より受け継いだ和傘の錬金強化をしてくれることになった。なんと光栄なことでござろうか。強化に失敗しても殿がやったのなら悔いはないでござる。
そんな拙者の想いとは裏腹に、殿は見事に錬金強化をやってみせた。
そして完成したのがこの【卍傘 天蛙】。なんと不思議な傘でござろう。殿だけではなく父上や、先代の使い手たちの魔力の波動が拙者に伝わってくる。これならば拙者も……。
拙者は早速、三階層の谷底にある魔獣の巣窟へと出向いたござる。そこの主と対決するためだ。
相手は拙者と同じCランクである剛鬼熊。
鉄より硬いその皮膚は、ありとあらゆる物理攻撃を簡単に弾いてしまう強敵でござる。こやつを簡単に倒せねば、勇者の守護者を倒すなんて到底無理でござろう。以前の拙者ならば苦戦は必至。しかし、この殿より授かりし卍傘天蛙さえあれば、熊の一匹や二匹楽勝でござる‼
こうして剛鬼熊との戦いが始まった
⌘
結果は……拙者の惨敗。
この卍傘を全然使いこなせなかったでござるよ。傘に魔力を込めようとしても、色んな魔力が邪魔をして、拙者の魔力が傘に伝わらなかったでござる。未熟者もいいとこでござるな……。拙者はこれほど己を呪った日はない。
どうすれば拙者は強くなれるのでござろうか? もう勇者たちは明日にはやってくるというのに……。己の無力さに涙も出ぬでござるよ……。
武家屋敷にある蓮の池の前で、独りポツンとそんなことを考えていると後ろから手で目隠しをされる。このようなことをするのは一人しかいない。
「……ケロカ。やめぬか?」
「えへへへ! パケロ様? 何を考えているんですか?」
くのいちであるケロカは幼い頃から一緒に育ち、拙者にとっては妹のような存在でござる。
「明日のことでござるよ。相手は格上の勇者の守護者でござる。なんとしても殿のために負けるわけにはいかぬ。それが相打ちになろうともな」
「はぁ……。またそんなこと言って。そんなこと言ったら殿に怒られますよ?」
「殿に怒られる……でござるか?」
「当たり前です! 殿は我々を守りたいがために必勝の布陣を必死で考えているんじゃないですか! それなのにパケロ様が死んじゃうなんて言ったら間違いなく怒られますよ‼」
「……殿はなぜ拙者らを守ろうと思ってるのでござろうなぁ。普通は逆ではござらぬか?」
「仲間だからだと思います。殿は我らを何よりも大切に思ってくれていますから」
「仲間か……。本当は拙者が殿を守らねばならぬのに……。守られるとはなんとも不甲斐ない仲間でござるな。これも拙者が弱いの……」
「何を言ってるんですかっ‼ 違いますっ‼ パケロ様は勘違いをされてます」
ケロカが声を荒げて、拙者の言葉を遮った。
「殿はよく我らの階層へ遊びにこられますよね? 私は殿が遊びにくるたびに、よくお話を聞いてたのですがパケロ様は知ってますか? 殿が以前、最下級悪魔の下級悪魔だったことを?」
なんと!? 殿は拙者よりも弱い下級悪魔でござったのか……。
「それでも殿はパケロ様のようにご自身の弱さを否定したりしておりません‼ いえ、逆に殿は自らの弱さを受け入れておられるようにも思いました‼」
「自分の弱さを受け入れる……で、ござるか?」
「弱さを知るから、強くもなれる。自分の欠点なんて誰もが認めたくないものです。ですが、殿はそれを理解した上で前に進んでいたのだと思います‼ 全てを受け入れる器の広さ……それが殿の強さなんだと思います。だからパケロ様も自分を否定しないで下さい‼」
ケロカの言葉が拙者の心に響く。己を受け入れるか……拙者は間違っていたのでござるな。
「それに誰かを守りたいっていう気持ちがあるパケロ様ならきっと強くなりますよ!! 殿からいただいた傘もあるではありませんか‼ 勇者の守護者にだって負けるとは思えません!!」
拙者は何のために強くなろうとしていたのでござるか? 己のため? 皆のため?
「パケロ様? だから約束してください。殿のために絶対死なないと。私もパケロ様のために死にませんから!」
……皆を守りたい。
もう二度と失くしてはいけないでござる!!
だから守れるだけの力がほしい。殿のために……ケロカや眷属たちみんなのために。
ケロカが拙者に大切なことに気付かせてくれたでござる。
ありがとうケロカ。
拙者は自分の弱さも、ケロカたちの想いも、殿のように全てを受け入れて前に進むでござる‼
すると突如、卍傘が輝き始めた。先ほどまで拙者の魔力を拒絶していた番傘から、色んな魔力が拙者に流れ込んでくる。殿や父上、それに歴代の傘の使い手たち。
そうか、拙者が邪魔だと思っていた魔力は、拙者に力を貸そうとしていたのでござるな。
……本当に拙者は己しか見えておらんかったのだな。
これも気付かせてくれたケロカのお陰でござる。
卍傘よ……拙者はお主を受け入れるっ‼
だからお主も拙者を受け入れてくれっ‼
「パっ……パケロ様っ!? お身体が!?」
すると周辺に魔素の嵐が吹き荒れ、拙者の身体が金色に輝き始めた。
これは……進化の光?
卍傘が拙者を受け入れてくれたのか……。
父上……。拙者は父上のように最後の最後まで皆を守りきれる強い忍になりたいでご……ざ……る。
そして拙者はそのまま武家屋敷で意識を手放した。
⌘
「二天斬衝破ぁーー‼」
――ズドォォォォォォォーーーン‼‼‼
「ひゃぁーはっはっはっー‼ マジで弱すぎんだろ!? 手応えがなさすぎるぞ‼ いや、俺が強すぎんのか? ひゃっはは………んっ? 紫色の傘?」
イザークの斬撃がケロカに直撃したかのように見えたが、煙がはれるとそこには親骨の開いた藤色の傘がクルクルと回っていた。
紺と白の陣羽織。緑青色の肩口まで伸びた長い髪をハーフアップにまとめ、目元こそカエルっぽさを残してはいるが、容姿は美丈夫。腕には傷ついて弱りきったケロカを抱いていた。
『これが勇者の守護者とやらがやることなのでござろうか?』
――かつて自分の弱さに絶望し、自分を呪った忍がいた。
『人々に羨望される者がする行いなのでござろうか?』
――もがき苦しみながらも、その忍はあることに気付く。
『この世を照らす光がお主たちというのであれば』
――誰かを守るということの大切さを。
『拙者はこの世を斬る影となろう』
――その想いの強さが力となる
『外道覆滅……。天忍パケロ・シュレーゲル、いざ参る‼
パケロが【天忍】へと進化を果たした。
本日もデビダンを最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。
ブックマーク、評価、感想、誤字訂正をご指摘いただいた皆様。心より御礼申し上げます。
次回、パケロ無双!!




