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第60話 ダンジョンの死神

「……お主、何者じゃ?」


 ――完全に背後をとられる。


 歴戦の猛者であるヴィクターは、今まで自分の背後などとられたことなどなく、これが生まれて初めての経験だった。だからおのずと相手の名前も聞きたくなる。驚きはしたが畏怖することはなく、むしろ敬意すら払っていた。


「押ーー忍!! 自分は、このダンジョンの死天王をやってるアーヴァインと申します!! 押忍っ!!」

「がはははは!! こりゃ愉快! 魔族のくせに男気があるではないか。しかし何故さっき儂に攻撃を仕掛けてこなかったのだ? 隙だらけだっただろうに」

「自分は貴殿に真正面から正々堂々勝ちたいであります!! 押忍っ!!」

「がーはっはっはっは!! 益々気に入ったぞ!! 儂はヴィクター。こう見えても今まで魔族相手に負けたことがなくてな。全力でお主の相手させてもらおう」

「ではヴィクター殿、自分も最初から全力でいかせてもらいます!! いざ……尋常に勝負っ!!」


 そう言うとアーヴァインが先手を仕掛ける。

 手を掲げ風塵魔法を唱えた。


「押忍っ!! 【風神嵐槍(エアリアルランサー)】」


 数十個の圧縮された風の塊がアーヴァインの周りを取り囲み、それが一斉にヴィクターに向かって撃ち出された。

 風の弾丸は白い尾を引き、まるで長槍のようになりヴィクターへと襲い掛かる。


「ぬぅん!!」


 ヴィクターは両手に持つ片手斧(ハンドアックス)の柄頭と柄頭を繋ぎ合わせ、一本の両手斧(バトルアックス)へと形成する。そしてそれを、片手で風車のようにグルグルと回転させ、風の槍を全て打ち払った。


 轟音と共に打ち消された衝撃波が円状に広がる。


「がっはっはっ!! 上級魔法まで使いよるか。面白い……相手にとって不足なしっ!! おりゃあ!!」


 ヴィクターは両手斧(バトルアックス)を円を描くように振り回しながらアーヴァインへと襲いかかった。


 アーヴァインはそれを柳の如くスラスラと躱していく。スキル【無音】の効果もあり、音もなく躱し、すり抜ける身のこなしはまるで亡霊。

 ヴィクターはアーヴァインの異様な雰囲気に戦慄を覚える……。目の前にいるのにもかかわらず、まったく存在感を感じることができないのだ。


 相手の動きが読めない。


 そう思ったヴィクターはすぐさま攻め手を切り替えた。


「ふん!! 『個』の攻撃が躱されるなら『全』の攻撃に切り替えるまで。【双斧連天撃(そうふれんてんげき)】!!」


 ヴィクターは頭上で両手斧(バトルアックス)を回転させると巨大な旋風を巻き起こした。すると巻き起こした風が無数の斬撃となってアーヴァインへと襲い掛かる。

 

「……っ!?」


 アーヴァインも堪らずスウェーやバックステップを駆使して避けていくが、あまりの攻撃密度に次第に被弾していく。そして最後の一撃は、アーヴァインの胸にクリーンヒットし、横一文字に鮮血が飛び散った。


「くっ……やるでありますな!!」

「どーしたどした? これで終わりじゃないよな? とっておきがあるのなら早く出した方がいいぞ。じゃねえとトドメ刺しちまうぜ?」


 相手を見くびっていたわけではない。

 

 ただアーヴァインの予想以上に相手は強かっただけ。自身と同等……もしくは少し上の相手と切り替えアーヴァインも攻め手を変える。


 アーヴァインは右手を前に突き出し、掌を地面へと向けた。すると足下に魔法陣が出現し、一本の銀の大鎌が姿をあらわした。


「押忍!! 使わさせていただきます!! 【殺戮の大鎌(デスサイズ・レイダー)】」


 アーヴァインは大鎌をヒュン……と一回転させ構えをとる。


「ほう、お主も長物か!! 面白い。儂の斧が上か、お主の鎌が上か勝負じゃっ!!」


 ヴィクターは両手斧(バトルアックス)に闘気を纏わせ、再びアーヴァインに斬りかかった。嵐のような斬撃。アーヴァインは躱すたびに、風圧で身体ごと持っていかれそうになる。そしてアッパーカット気味の斬撃がアーヴァインを捉えた。


 しかし……。


 アーヴァインは、その切り上げの斬撃を正面から受けとめず、峰の部分でスルッと受け流した。そしてそのままテコの原理で、柄頭をヴィクターの顎にヒットさせ下から上へと突き上げる。まさに会心のカウンター攻撃。


 ヴィクターは勢いよく吹き飛ばされ、受け身をとることもなくダンジョンの壁へと激突する。だが、すぐさまヴィクターは何事もなかったように、崩れた瓦礫をガラガラとどけて立ち上がった。そして口の中の血だまりを吐き捨て、アーヴァインへと話しかける。


「ブッ……、良い攻撃じゃった! 相手の力を利用してのカウンター。実に見事」

「押忍っ! ありがとうございます!!」

「だが、軽い(・・)。こっからは儂も本気でいくとする」


 ヴィクターが両手斧を片手斧に切り替える。そして闘気を纏ってアーヴァインへと突進していく。恐ろしい速さの二本の戦斧が、アーヴァインへと襲いかかった。



「喰らうがいい、斧零苨(フレイディ)彗星爆破(・マーキュリー)!!」



 冗談かと思うほど凄まじく圧縮された闘気。密度も非常に濃く、ヴィクターの挙動が残像となり残る。

 アーヴァインも必死で躱していくが、斧を避けても衝撃波が発生し、その先にある壁や地面が爆裂していく。

 ヴィクターのこの乱舞技は相手にヒットしなくても、その衝撃波だけで相手の体力を削りとるまさに剛の技。アーヴァインの肌はスリ切れ、避けるたびにジワリと血が滲んでいく。そして連撃のすえ、ついにヴィクターの戦斧がアーヴァインを捉えた!!


「もらったぁぁーーー!!」



「……【隠者の庵(ハーミットワールド)】」



 ヴィクターの回避不能攻撃。アーヴァインを完璧に捉えた一撃だったが、それをあざ笑うかのように、アーヴァインは闇に飲み込まれて戦斧を回避した。一瞬にしてアーヴァインが、その場から消えた(・・・)のだ。



 ――ズドォォォォォォォン!!



 空振りした戦斧は、そのまま地面を砕き、まるで爆心地のように波状に広がっていた。

 通常では考えられないような回避行動。ヴィクターは予期せぬ空振りによって、右手の骨が砕け使い物にならなくなってしまった。あまりの激痛にヴィクターは顔を歪める。


「押忍!! ヴィクター殿、この対決は自分の負けです! 文句なしの完敗です!! しかーーし、ヨルシア団長のため勝負には勝たせていただきます!! 押忍!!」

「ぐぅ……、まさか躱されるとはな。しかし気配もなければ魔力も感じぬ。お主、近くにおるんじゃろう? これもそのスキルの影響か?」

「押忍!! 自分の【隠者の庵(ハーミットワールド)】は、亜空間へと出入りが可能な能力であります! 卑怯な手段となりますが、自分はヨルシア団長のためにもヴィクター殿に勝たなければいけません! 押忍!!」

「ふん……右手一本封じただけで、儂に勝てると思うなよ?」

「押忍!! もちろんです! では、まいります!!」


 そうアーヴァインが叫ぶと、ヴィクターの右肩から左腰にかけて銀色の大鎌の刃がピタリと添えられていた。そして背後に出現したアーヴァインはそのまま鎌を引き、逆袈裟のような形でヴィクターを鎧ごと斬り裂いた。 


 ヴィクターの血が地面へと飛び散ったが、そんなことも関係なしと言わんばかりに、左手に持つ戦斧を裏拳のように振り回した。これもカウンター気味にアーヴァインを捉えるが、再びアーヴァインは一瞬で闇の中へと消えていく。そしてヴィクターの戦斧はまたしても空を切った。


「なんちゅー厄介な能力じゃ!! 近接物理特化の儂では相性が悪すぎる!!」


 ヴィクターが泣き言をいうのも頷ける。どれだけ冷静に判断しても、アーヴァインに攻撃を当てる手立てが思いつかないのだ。

 近接攻撃範囲、攻撃回数、速度は自分の方が間違いなく上。しかし反射神経、判断能力はアーヴァインの方が上なのだ。


 そして、なによりも厄介なのがアーヴァインの零距離攻撃。超反応が可能な勇者クラスでないと、もはや打つ手がない。

 ただ、それでもヴィクターは諦めなかった。アーヴァインの出現に合わせてカウンターを叩き込もうと身構える。


 しかし……。



「【亡霊が斬(ファントム)り刻む協奏曲(ディスコード)】」



 突如として聞こえるアーヴァインの声に、ヴィクターはすぐ反応するが、周囲を見渡してもアーヴァインの姿は見当たらない。


 はっ……と思い、天井を見上げると、すぐ目の前まで無数の斬撃が迫っていた。

 アーヴァインは天井へと張り付き攻撃を放っていたのだ。ヴィクターは近接攻撃(・・・・)を意識し過ぎてしまった。


 完全なる死角からの回避不能な多段攻撃。

 ヴィクターに避ける術はなくアーヴァインの必殺の一撃をノーガードで喰らってしまった。



 ――ズダダダダダダダーーン!!!



 轟音と共に地面は斬撃に沿って大きく裂け、ヴィクターの身体には幾多の傷が刻み込まれた。

 そしてブッシュ……と音を立てて鮮血が飛び散り、そのままヴィクターは地面へと倒れ込んだ。


「ヴィクター殿!! ヨルシア団長が話ができそうな奴がいたら、連れてきていいとのことでしたので、拘束させていただきます!! ありがとうございましたぁーー!! 押忍っ!!」


 周囲に広がる水の轟音をかき消すほどの声が、6階層に響き渡った。


 ――6階層 勝者 アーヴァイン。





《7階層》


「ひゃはははぁー!! おいおい、お前ら冗談だろ? そんな実力で俺様に挑んできたのかよ? おら、もっと必死に避けろよ! じゃないとそろそろ殺しちゃうぜ?」


 7階層に転移した双剣舞士(デュアルダンサー)のイザークの前には、すでに息も絶え絶えになった忍衆の面々が地面へと転がっていた。死者こそまだ出てはいないが、忍衆たちの傷は深い。


「ケっ……ケロ……」


「ケロケロ、ケロケロと、お前らうっとーしいんだよっ!! うらぁ、双牙斬空!!」


 イザークの放った斬撃は横たわっている忍衆たち目がけて容赦なく放たれる。イザークは急所をワザと狙わず、足に狙いを定めて忍衆の動きを封じていく。


 忍衆たちは攻撃を躱すこともできず、ただ一方的にイザークから攻撃を受けるが、誰一人その眼はあきらめていなかった。


 頭のパケロのためにも7階層を守護しなければ。

 その思いだけで、格上イザークからの攻撃を死に物狂いで捌いていた。


 そう……、この7階層に肝心のパケロの姿はなかった。





本日もデビダンを読んでいただき誠にありがとうございます。

明日は少し長めとなります。ケロ君回2連続です。

どうぞよろしくお願い致します(;´∀`)


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