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第59話 芭蕉羅漢十八衝

「バーナルド、ハイポーションだ。悪いが鎧の上からかけるぞ?」

「あぁ、すまない。……痛っ。それにしても驚いたな。あの白牛の奴、俺の防御障壁を難なくぶった斬ったぞ?」

「確かに。あれには俺も驚いた。まさか、あんなスキルがあるとはな」


 バーナルドの傷が白煙を上げながらみるみると塞がれていく。しかし、ポーションは傷を治すが体力までは回復しない。万が一、これであの二匹を倒せていなければ泥試合となってしまう。もう、こちら側には相手を仕留めきれる技は撃てないのだ。それほどまでに体力の消耗の激しい技を二人は放ってしまった。


 しかし、世の中というものは悪い予感ほど的中する。まだ舞い上がる粉塵の中に、二体の大きな巨躯の影が映った。


「おいおい……。あれを喰らって立ち上がるとか反則じゃないか?」

「嘆くなバーナルド。立ち上がるなら、再び叩き潰すまでだ。やるぞっ!!」


 二人は再び武器を構えると、粉塵から血だらけになった二体のミノタウロスが姿を見せた。ピースは胴体の真ん中が大きく捻じれた跡が残り、ラブに至っては顔は腫れあがり流血し、上腕二本がおかしな方向を向いている。


「ちょっと、やぁーだー。ラブちゃん、あんたひどいブスよ? どしたの? 整形でも失敗したの? ねぇ、大丈夫? ほんと、まごうことなきブスよ?」

「ひっどーい。ピースちゃん、それひっどーい。アタシ、ショックで寝込みそう。もうマジ卍」

「ラブちゃん、何いってんのよ。それでもニコニコしてた方がブスは緩和されるわ!」

「それもそうね! てゆーか、アタシさっき本気で死にかけたんですけどー!?」

「あんた、何言ってんの? オカマは死なないわよっ!! バーのママ()も言ってたもの。……オカマは最強って。それよりも、やられたんならやり返すわよ!!」


 ミノタウロスの種族スキル【不屈】。

 文字通り不屈なわけであり、二匹の心が折れない限り、どんな怪我を負っても立ち上がるという根性スキルが発動していた。実はこの二匹、既に体力がギリギリなのだ。それほどまでに、先程の聖十字騎士(クルセイダー)たちの攻撃は凄まじかった。


「ちょっと、あんたたち!! マジで死にかけたんだから! もぉー怒ったわよ! ……牛だけに! それよりも名前教えなさいよぉ!」

「そうよ、名乗りなさい! すべからく名乗るべきなのよっ!!」

「ふん、いいだろう。俺たちの名前を刻み込んでから地獄へ行くがいい。俺は、勇者の守護者である聖十字騎士(クルセイダー)のオズワード・ベイリー」

「同じく、聖十字騎士(クルセイダー)のバーナルド・ビルソン! お前たちを屠る者の名だ!」


 人族の名乗りという文化は様式美のようなもので、名乗れといわれたら名乗らずにはいられない。たとえ、それが罠だとしても……。


「はいはい、オズワードちゃんにバーナルドちゃんね。 わかったわ! じゃあ、……刻みなさい【芭蕉宝印扇(ばしょうほういんせん)】!!」


 ラブが手に持つ、全長が2メートルほどもある黒の軍配に金色の文字でオズワードとバーナルドの名が刻みこまれる。すると軍配が赤黒い魔力を纏い始めた。


「お・バ・カ・さ・ん!! さっきはよくも避けてくれたわねぇぇ!! 乙女の顔を傷つけた罪は重いわよ!! くらいなさい!!」


 ラブが軍配を一振りすると、二つの赤黒い斬撃が地面を抉りながら、聖十字騎士(クルセイダー)の二人に襲いかかる。二人はそれをサイドステップで躱し、カウンターを狙おうとする。


 ……が、しかし。


 その斬撃はありえない角度で急に曲がり二人を直撃する。盾で捌くのも間に合わず、ほぼノーガードの状態で攻撃を受けてしまった。爆音と共に二人が吹き飛ばされる。


「がはっ、がはっ!! ……バ、バカなっ!?」

「ざっ……斬撃が急に曲がるなんてありかよ」


 二人の鎧も肩当や小手などが破壊され、その威力のほどがうかがい知れる。


「うふふふ……、この素敵扇のスキルはね、名前を刻んだ対象に確実に攻撃を当てるものなの。 残念ながら回避不能よ?」

「あっ、ラブちゃんずるーい! あたしも語りたいのにぃ。 いい? アタシの【五祈刀(ごきとう)】はね……「聖光(レイ)!!」」


 オズワードの右手から、詠唱破棄で唱えられた聖なる閃光が放たれる。

 それがラブとピースの顔面に直撃した。


「ぶはっ、あいたぁぁぁぁぁーーー!?」

「ちょ……ちょっとぉぉ!! まだ人が話してる途中じゃないっ!! あぁ、もう髪型が台無しっ!」


 詠唱破棄とはいえ、極光魔法の【聖光(レイ)】はDランク魔物(モンスター)であれば瞬殺するほどの威力がある。オズワードとバーナルドは二体のタフさに若干呆れつつも、最後の攻撃に移ろうとしていた。


「おい、相棒(バーナルド)

「なんだ相棒(オズワード)?」

「正直、攻撃に関しては詰んだな。あのバケモノを倒す手立てが思いつかん」

「……そうだな。じゃ、やることは一つじゃねえか。囮役はまかせとけ」

「……頼む!!」


 ラブの持つ軍配が再び赤黒い力を纏う。しかし、それは先程の比ではない。ボフン、という音と共に大きく魔力が膨れ上がる。


「これで終わりよ筋肉ボーイたち!! 喰らいなさい!! 【芭蕉羅漢(ばしょうらかん)十八衝(じゅうはっしょう)】!!」


 ラブが放った赤黒い十八もの巨大な斬撃。


 これがすべて追尾するのだ。二人の逃げ場などはない。すると盾を構えたバーナルドが一歩前へと出る。


「……神よ、悪しき者から我々を守り給え、神金(オリハルコン)防御幕(・プロテクション)!!」

 

 バーナルドたちの前に七色に輝く防御障壁がオーロラのように出現する。

 それを見たピースも大鉈を振りかぶった。


「無駄よ!! 穢レ給ヘ汚レ給へ……、ソノ障壁ヲ……、穢レ壊シ給へ……【五祈刀(ごきとう)】」


 すべての攻撃を弾く防御障壁も、ピースの対魔法(ディスペル)スキル【五祈刀(ごきとう)】によって、すぐさま解除されてしまった。


 斬撃がオズワードとバーナルドを捉える。


「あぁ、読んでたさ……、魔光反射鏡(カバンリフレクト)!!」


 二人の前に聖なる光でできた大きな鏡が出現し、ラブが放った斬撃をことごとくはね返していった。

 自分たちの技で倒せないなら、相手の技で倒せばいい。この逆境をはねのける渾身のカウンター魔法。思わずオズワードの口元に笑みが浮かぶ。

 

 そして全ての攻撃をはじき返すと、鏡は大きな音を立てて粉々に砕け散った。


「ふふっ……勝ったと思ったでしょう? 甘いわね。勝負は最後の最後まで諦めないオカマが勝つもんよ!! 吸いなさい!! 【黒葫蘆(くろひさご)】!!」


 ラブが左手に持つ黒い瓢箪(ひょうたん)にはね返した斬撃が次々と吸い込まれていく。

 この【黒葫蘆(くろひさご)】は魔法や闘気といった放出系の技を吸収反射するカウンタースキル。


 そして次の瞬間……。


「はい、プレゼント♪」


 ラブの一言で、瓢箪の中の斬撃は吐き出され再び二人を襲う。それを大盾を構え防御を試みるが、それもむなしく、被弾する斬撃の嵐に飲み込まれていく。その身を守る鎧は粉々に砕かれ、二人は地面へと崩れ落ちた。


「ふぅ……。あんたたちマジで強かったわ。いい勝負だったわよ?」

「だから安心しなさい。命までは取らないわ。……でもね」




「「……悪戯(いたずら)はさせてもらうわよ!!」」




 二匹の獣の「大漁、大漁!!」の掛け声と共に2階層の激戦は幕を閉じた。







 所変わって、6階層……。


「くそ、飛ばされおったか!? まさか転移トラップとはな。ぬかったわ」


 この6階層に転移させられたのは、勇者の守護者であるドワーフのヴィクター。

 聖十字騎士(クルセイダー)の二人が勇者の盾であれば、このヴィクターと7階層へ転移したイザークは勇者の矛。


 その職業も【重装剛戦士(ホプライト)】と呼ばれるものだ。


「それにしても、ここの階層は水の音がうるさいのお!!」


 ヴィクターが階層を歩いていくと三匹の鬼牛蛙(オーガ・トード)が道を塞ぐ。


「ほう、これはこれは。角付き(・・・)か。それにしても大きいな。酒のツマミに合いそうじゃわい」


 ヴィクターが腰にある二本の片手斧(ハンドアックス)を手に取り、鬼牛蛙(オーガ・トード)に斬りかかろうとすると、いきなり後方から無数の舌が伸び、ヴィクターの身体を拘束した。


「こりゃ凄い。魔蝦蟇(ギガン・トード)もおるんか!!」


 後方より現れたのは魔蝦蟇(ギガン・トード)五匹。舌でヴィクターの強靭な身体を拘束し、鬼牛蛙(オーガ・トード)が自慢の角でヴィクターを突き刺そうと突進を始めた。


「ふぅぅんぬぅぅぅ!!」


 するとヴィクターの筋肉がさらに隆起し、両手で魔蝦蟇(ギガン・トード)の舌をかき集める。そして背負い投げの要領で鬼牛蛙(オーガ・トード)目がけて放り投げた。


「おいしょぉぉぉ!!」


 そのまま魔蝦蟇(ギガン・トード)鬼牛蛙(オーガ・トード)と一緒に壁へと激突する。


「トドメじゃ。……斧魔鷹(トマホーク)!!」


 ヴィクターの片手斧(ハンドアックス)が、回転しながら蝦蟇たちに飛んでいき、一瞬でその身体を斬り刻んだ。蝦蟇たちを斬り刻むと回転しながら斧はヴィクターのもとへと戻り、それをシュパと見事に受け取った。


「ふん……、他愛もない」

「押ーー忍!! 実にお見事ですっ!! 押忍っ!!」


 ヴィクターが振り返るとすぐ背後に、手を後ろに組んだ白髪の男が立っていた。

 気配すら感じさせぬ男にヴィクターは驚嘆し、すぐさま距離をとる。


 そして、ヴィクターは冷や汗をかきながらこう思った。「儂、気配感じなかったのになんで攻撃しなかったの?」と。


 理由は実に簡単である……。












――この男、ド真面目なり!!!!




 こうしてド真面目熱血野郎VS髭もじゃおっさんドワーフの戦いが始まった。


本日もデビダンを最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

ブックマーク、評価、感想、誤字訂正をご指摘いただいた皆様。心より御礼申し上げます。

明日もデビダンをヒッソリ読んでいただけますと幸いです。

どうぞよろしくお願い致します。

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