第57話 乙女VS少女
「きゃははは!! みんな痺れちゃえぇ~界紫電!!」
3階層上空にアリエッタの放った雷撃が轟音と共に迸る。
直撃したDランク魔物のガルラホーク数十体が丸焦げになり谷底へと落ちていった。
「おいアリエッタ、そんなに遊ぶな。次の階層からが本番なのだぞ? オズワード、騎士団はどうなっている?」
「はっ、カノープス様。感知水晶を見る限り2階層にまだ留まっております。まだ下に降りてくる気配はありません」
「……ふん。所詮はザコの集団か。もう待つ必要もあるまい。当初の予定通り、我々だけで4階層へと潜るぞ!!」
ダンジョンへと突入後、勇者たちは襲いかかる魔物を次々と薙ぎ払っていく。その戦闘能力は凄まじく、並みの魔物では相手にならなかった。圧倒的な強さで1・2階層を駆け抜け、あっという間にこの3階層まで踏破してしまった。恐ろしく驚異的なスピードである。
そして休憩がてら騎士団の到着を下り階段前で待っていたのだが、待てど暮らせど騎士団は到着しなかった。だが、それも仕方がない。勇者たちは少数精鋭で動けるのに対して、騎士たちは大集団。そのスピード差は明白だ。しかしカノープスは、単純に遅いという理由だけで騎士団を足手まといとした。
「我々の目的は、あの高位悪魔将の首だ。ザコは無視でいい。いくぞっ!!」
「「「おう!」」」
こうして勇者の侵攻が始まった。
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「ゴブリダ、聞こえるか? さっき指示した通り勇者たちは迎撃しなくていい。 全員、集落で待機だ。奴らが集落を狙うようであれば、こちらから陽動をかける。ゴブリダたちは聖騎士、騎士団戦にのみ集中してくれ」
「はっ!! 必ずや主様のご期待に添えてみせます!」
さて、こちらの思惑通り勇者たちが集団戦無視の八名で動いてくれた。あくまでも騎士団を足手まといと思っているようだ。
つか、こいつ本当に典型的な俺様主義だな。どんだけ俺様なの? 天上天下俺が独尊なの? まぁ、勝手に戦力分断してくれたから、こちらとしては有難いがね。
――ドカァァァァーーン!!
すると突如、四階層で爆発音が響き渡る。
あぁっ!? こいつら小部屋を破壊して進みやがった!? 中を警戒する手間さえ省くのか!?
なんて迷惑な奴らなのだろう。誰が後片付けすると思ってんだよ? ゴブリンさんだぞ? あのクソ勇者、一直線でボス部屋まで行く気だ。このままだとものの数分でボス部屋までたどり着くな。やれやれ。
「リリーナ、作戦開始だ!! 各自、迎撃階へと転移するぞ。いいか? 二人とも無理はするなよ?」
「マスター? それはこっちのセリフです。何度も言いますが絶対に死なないでください。じゃないと、マスターの後をついて逝く者がここに二人いますから」
「ヨルシア様……ご武運を。わたくしたちが何があろうとも、貴方様をお守り致しますわ」
おいおい……これじゃあ簡単に負けらんねーじゃないの。まぁ、負ける気なんてさらさらないが。
しかし、二人とも大丈夫だ。俺にはミッチーがついて……。
「爆発しろぉぉ! 爆発しろぉぉぉ!! 爆発しろぉぉぉぉ!!」
彼はさっきから何を叫んでいるのだろう?
以前にもあったような気が……。
それに魔法が全然発動していないぞ?
ミッチー大丈夫か? もしかして絶不調?? これはマズいな……俺の頼みの綱はミッチーなのに。
しかし、それでもやるしかない。
俺は一抹の不安を抱えながらミッチーと9階層へと転移した。
⌘
「カノープス様ぁー。ボス部屋でございますぅー」
「ふん、小癪にもボス部屋があるのか。マリエッタ、そこをどけ。ここも俺が吹き飛ばしてやろう」
「はいですぅー」
「お言葉ですが、カノープス様よろしいので? この部屋の形状ですと天井が崩落する恐れがございます。我々はよいのですが、騎士団がこの先へ進めなくなる恐れがありますが?」
聖十字騎士のバーナルドが、カノープスの機嫌が損なわないように進言をすると、カノープスは呆れた様子でこう告げた。
「どうせ使い捨ての駒だ。構わんさ」
「……御意」
カノープスは背負っている『神聖剣アスカロン』を、スっ……と引き抜いた。
それは絵になるほど美しい大剣で、柄や鍔に神聖文字と精巧な意匠が刻まれていた唯一無二の聖剣である。そして柄頭にはレグナードの象徴でもある守護神【聖竜】も彫り込まれ、その巨大な刀身はガラスかと思うくらい透き通った美しい刃を持つ。
一振りすれば山を断ち、二振りすれば海を斬る。
そんな巨大な力を持つ聖剣を、カノープスが振りかぶり闘気を込め始めた。
「お前たち離れていろ。聖剣技……竜刃烈破っ!!」
――ドカァァァァァァァァァン!!
聖なる一筋の巨大な斬撃がボス部屋を直撃する。
辺りは土埃に包まれ、前面にあったボス部屋の壁は吹き飛ばされていた。
ガラガラと天井からも瓦礫が崩れ落ちてくる。
すると、その瓦礫の音を打ち消すかのように大きな声が部屋に響き渡った。
「ちょっと、何これー!? 信じらんなぁーい! 私たちの服が埃だらけなんですけどぉー!?」
「あっ、ラブちゃん!! あんた左手のネイル全部とれてるわよ? やーだぁー、ちょっと笑わせないでよぉ、もーう!!」
「えぇー、うっそー!? ヨルちゃんに見せるためにネイル頑張ったのにぃー。てゆーかぁー、このファビュラスな瓢箪に攻撃を全部吸収できなかったんですけど!? ねぇ、ピースちゃん、ちょっとあんた何か言ったげてよぉー!!」
「ちょっと、あんたたちっ!! 部屋に入る時は必ずノックするものよ!! そんなマナーも習わなかったのかしらっ? もう、このスケベ!!」
土埃が晴れていくと、そこには大きな黒い瓢箪を構えながら、部屋を守る二体のミノタウロスが現れた。その姿は見るものを畏怖させるかの如く存在感があり、丸太ほどある太い四本の腕、八個に割れた見事な腹筋、濃い体毛が下半身を包み、まさに化け物と呼べる様相をしていた。
そして勇者たち八人をさらに驚愕させたのは、その二体が身に着けているフリル付きのピンクのミニスカート。しかし、それはもうミニスカートとは呼べないかもしれない。ニ体の恐ろしく発達した腰まわりの筋肉がスカートを上へ上へと押し上げ、それはもう腹巻と同一の位置にまで達しようとしていた。
そう、隠されていないのだ……。
これはスカートなのか? むしろ、スカートの定義ってなんだっけ? そんな勇者たちの疑問もラブの一言でかき消される。
「あっらーー、この子たち可愛いじゃなの!? ピースちゃん、イケメン選び放題よ!!」
「ねぇ、ラブちゃんは誰がいいの? 誰がいいの? きゃーー(裏声)、そそり立つぅ!!!(太い声)」
「ちょっとー、あんた落ち着きなさいよ。欲望が溶岩の如く流れ出てるわよ?」
「あらやだ、アタシとしたことが。で、ラブちゃんは誰にする?」
「んーーー……みんなイケメンだ・け・ど、やっぱりよく見たら、どれもヨルちゃんには遠く及ばないわね? タイプじゃないわ」
「そうね。ラブちゃんの言う通りつまみ食いにもならないわね……ってことで、ボン? アソンデヤルカラ、カカッテコイヤァァァ!!(太い声)」
「そうよ。乙女の身体傷つけたことを、末代マデ後悔サセテヤルワァァァ!!(太い声)」
二匹の牛面乙女が戦闘モードに入ると、アリエッタとマリエッタが口を開いた。
「ねぇ、ちょっと!! あんたたちさっきからほんとにキモいんだけどっ!? もう死ねば? カノープス様を馬鹿にするなんて許さないんだから!!」
「あーちゃんの言う通りですぅ。あなたたちのような醜い生物は絶滅するべきだと思いますぅー。死んで?」
「「……黙れブサイク」」
この牛面乙女たちの一言が、アリエッタの逆鱗へと触れた。
「……こっ……の!! 腐れチン「はいはーーい!! そこまでよ? その先のセリフは女の子が言っちゃダぁーメっ! んもう、はしたないんだから。お仕置きが必要ね?」」
アリエッタが詠唱破棄で雷撃を乙女二匹に浴びせかけようとすると、ラブが手に持っていた瓢箪の栓を抜き、それを勇者たちへと向けた。
「「お・か・え・し」」
黒い瓢箪から、先ほど勇者が放った斬撃と同じ衝撃波がアリエッタを襲う!!
「アリエッタ! ふせろっ!!」「きゃっ……」
オズワードとバーナルドが大盾を構えてアリエッタの前へと出る。
「「聖護防壁盾」」
――ズドォォォォォォォォン!!!
前衛二人が繰り出した防壁に阻まれ、その衝撃波は部屋の中で轟音と共に霧散した。
パラパラと、衝撃で崩れた天井のかけらが部屋中に落ちてくる。
「あっらーーん、ラブちゃん、ふさがれちゃったわよ?」
「やるわねぇ。ちょっと、あんたたち!! ちゃんとくーらーいーなーさーいーよぉー」
カノープスが聖剣をギュッと握りしめ前へと出る。
前衛二人は張っていた聖なる防壁を慌てて解除した。
「下郎が。覚悟はできてるんだろうな?」
自身の技を跳ね返された。勇者の怒りを買うのには十分過ぎる理由だ。
アスカロンを構え、鬼の形相で乙女二匹に斬りかかろうとした刹那……、部屋全体に立体複合魔法陣が発動する。
そう、警戒心も高く、ついでにプライドも高い勇者。その勇者自らが転移トラップに引っ掛かってしまったのだ。
普段の状態であれば、ありえないようなミス。勇者の顔はみるみる赤くなっていった。そして牛面乙女がそれに拍車をかける。
「ふふふふ……、ボン? まだまだ青いわね? イクの、は・や・す・ぎぃー!!」
「私たちを口説きたいなら、ちゃんと漢になってからいらっしゃい? 童貞ボーイに私たちはまだ早いわよ?」
そして、カノープスの中で何かがキレた。
転移魔法陣に身体半分埋まりながらも、ラブとピースに攻撃しようと激しくもがきながら叫んだ。
「貴様らぁぁぁぁ!! 必ず、必ず殺してやるからなぁぁぁぁぁーー!! いいなぁぁぁーー!? 殺してやるから覚えてろぉぉぉぉーー!!」
目を大きく見開きカノープスは力の限りそう叫ぶ。そしてブチギレ状態のままで9階層へと送られるのであった。
「ラブちゃん、私、こわーーい……」
「ピースちゃん、大丈夫よ? ヨルちゃんがちゃーんと葬ってくれるから私たちは2階層で大暴れしましょ?」
「きゃーーー、素敵!! そうよね! ヨルちゃんなら、余裕よね? じゃ、2階層へGOよ!! ヨルちゃん………ごめんね。テヘペロ」
そして転移魔法陣が発動し、それぞれが別々の階層へと飛ばされた。
ブチギレの勇者と共に……。
いつもデビダンを読んでいただき誠にありがとうございますm(_ _)m 誤字訂正をしていただける神々の皆様。本当に感謝しております。
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これからもヒッソリとデビダンを読んでいただけましたら幸いです。また明日もよろしくお願い致します!




