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第56話 勇者の守護者

「カノープス様、準備が整いました」

「全体配置完了です」


 そう声を掛けたのは、勇者の守護者である聖十字騎士(クルセイダー)のオズワードとバーナルドだ。同い年の二人は、幼いころから競い合うように切磋琢磨し、勇者の守護者までになった元アダマンタイト級の冒険者。2メートル近い巨躯に、その身が隠れるほど大きな盾。齢三十を境として冒険者を引退し、文字通り勇者の盾となった二人だ。


 ダンジョン前に綺麗に整列した騎士団と聖騎士隊。ダンジョンを踏破するというよりは、ダンジョンを破壊するのを目的としているような出で立ちをしている者が多い。今回、ダンジョンへと侵攻してくるカノープスの本気度が窺い知れる。


 そして、一つ息をつくとカノープスが声を上げた。


「皆の者、よく聞けぇぇー!! このダンジョンは悪魔が住む凶悪なダンジョンだ! この地の領主は利益を得るという理由だけで、それを黙認していた!!」


 兵たちも士気が高いのか、辺りを歓声が包む。


「このダンジョンのせいで幾人もの命が失われているのだ!! それでも利益のためなら、その事実に目を瞑るのか!? 否っっ!! それは正義に反する行為だ!! だから私はここに【勇者優先勅令】を宣言するっ!!」


 勇者たるもの見返りを求めてはいけない。まさに勇者の鑑といえるカノープスの演説は兵たちの心を掴むのに十分だった。


「この私に力を貸してくれる本物の勇者たちよ!! ともにこの凶悪なダンジョンを潰そうぞ! 諸君らの活躍に期待している! いざ、ともに行かん! この栄光の道を!!」


「「「おぉぉぉぉーーーー!!」」」


 一際、大きな歓声が響くと、兵士たちの身体がポァッ……と輝いた。


 これは自身の持つ勇者スキルの一つ【超突猛身(オーヴァー・アップ)】の効果である。士気を上げ、自身の演説を聞いた者の力を引き出す【勇者(ブレイヴ)スキル】。ただしデメリットもあり、力を引き出し過ぎると使用者の身体が耐えられなくなるという諸刃の剣だ。


 カノープスは、これを聖騎士隊、騎士団にのみ使用し、限界以上に力を引き出した。兵たちは力が湧き出てくるのを実感し、さらに歓喜の渦に沸く。


 しかし、部隊を指揮する者の反応は違った。この得体の知れない力に恐怖したのだ。


「カノープス殿、一つよろしいか? 貴殿は我々に何かスキルを使われたのであろうか?」

「部下たちも突然付与された力に歓喜しておりますが、使いようによっては非常に危険です。どうか、ご説明いただけますでしょうか?」


 聖騎士隊長のポールと、騎士隊長のコーニールがカノープスに対して進言をしてくると、それを遮るように守護者の一人、魔導少女(マジカルスター)のアリエッタが叫ぶようにして二人に言い放つ。


「あんたたち、馬っ鹿じゃないの!? カノープス様はゴブリンにも負けるあんたたちに力を与えただけじゃない!! それに文句言うなんて頭悪すぎるでしょ? 頭ん中にウジでも湧いてんの!?」


 口を全開きにし、唖然としている中年二人……。アリエッタと同じく魔導少女(マジカルスター)で、双子の妹であるマリエッタが二人にトドメを刺した。


「あーちゃん? そんな汚い言い方はダメよー。もっと丁寧に教えて差し上げないとぉー。おじ様? 頭の中にハエ目短角亜目・環縫短角群に属する昆虫が住んでますわよ?」

  

 二人の言葉にポールとコーニールは、ただただ茫然とするしかなかった。


 見た目は麗しき双子の少女でも、レグナード王国魔導学院をわずか一年で卒業した神童だ。最年少で勇者守護者として選ばれた猛者である。自分たちの娘よりも若く、それでいて自分たちよりも強い。この理不尽な世界のルールに二人のおっさんは打ちひしがれた。


「おいおい、嬢ちゃんら言い過ぎだぜ。なぁ、おっさん? その力はカノープス様の加護の力と思えばいい。思う存分に戦ってくれて大丈夫だ。だから、そんな怯えた顔をすんなよぉ~……楽しもうぜ! ……なっ?」


 悪い笑みを浮かべながらおっさん二人にそう告げるのは、双剣舞士(デュアルダンサー)のイザーク。戦場の殺し屋の二つ名を持つ剣士だ。性格に難ありだが、カノープスが強いからという理由だけで勇者の守護者に任命した経歴を持つ男である。


「イザーク!! 殺気全開のお前がそんなことをゆうても説得力はないぞ? お前はここで留守番じゃな?」


 イザークを嗜めたのは、髭もじゃドワーフのヴィクター。両手に片手斧(ハンドアクス)を握りしめ、竜巻のように敵を斬り刻む戦鬼だ。


「んだよー、ヴィクターの旦那。そりゃねーぜ!?  久しぶりに暴れられるってのによぉ。ここでおあずけなんてくらったら俺、あっちで遊んじまうぜぇ~~!!」

 

 そう言ってクイッと顎を騎士団の方へと向け、イザークは再びニヤリと笑う。


「イザーク……、もうよせ。悪魔を斬る前に、仲間(・・)を俺に斬らせる気か?」

 

 カノープスが真顔になり、イザークにそう言い放った。殺気もなく闘気も纏わず言った一言だったが、イザークにはそれで十分なほどの恐怖を与えた。頬には冷や汗が伝い、顔も蒼白になる。守護者たちはカノープスがそれをやる男だと認識しているからだ。


「かっ……カノープス様、申し訳ありません。久々の戦闘でしたもので。どうか、お慈悲を……」

「…………イザーク。次はないぞ」

「は……ははっ!!」


 アリエッタは小声で「馬っ鹿じゃないの?」と呟き、マリエッタに至っては「死ねばいいのに……」と呟いていた。


 このやり取りを間近で見ていた、ポールとコーニールはこれ以上勇者に言及はしなかった。いや、できなかったと言った方が正しい。それは勇者の闇を垣間見てしまったからである。

 自分たちを見る勇者は、あまりにも無関心で、まるで自分たちの言葉は興味のないただの雑音。きっと勇者は、兵たちのことも、ただの消耗品くらいにしか思っていないのだろう。


 そして、二人はそのまま後ろに控えていった……。不敵に笑う勇者に不信感を持ちながら。







「マスター、敵本隊ダンジョン前に布陣いたしました」

「んっ、わかった」


 そういって謁見の間に集まるのは、リリーナ、エリー、マリアンヌ、ミッチーの四人だ。ラブ、ピース、アーヴァイン、ケロ君は既にそれぞれの階層にスタンバっている。


 作戦はこうだ。4階層のボス部屋にいる牛面二匹に勇者のお出迎えをしてもらい、そのまま転移トラップに嵌める。


 牛面二人は戦士二人と2階層へと跳んでもらいそのまま戦闘。相手を倒せたら4階層へと向い、攻め込んでくる騎士団と聖騎士隊を後方から潰しにかかる。


 次に6階層には、アーヴァインを待機させ戦士を一人あてがう。7階層にいるケロ君にも戦士を一人。そして8階層にはリリーナとマリアに、あの魔女っ娘二人の相手をしてもらう。そして、9階層で俺とミッチーがあのクソ勇者とおばさん魔導士を相手にする算段だ。


 できるだけ俺のスキル【怠惰者(ナマケモノ)】の恩恵を、リリーナたちに渡してあげたかったが、一日しかサボれなかったため、正直なところ効果は薄い。


 それに、この【怠惰者(ナマケモノ)】はどうやら保有魔力量の少ない者が優遇されやすく、リリーナやマリアなどのBランク魔族たちの上昇率は非常に少ない。きっと一年引き篭もって一割上がればいい方だろう。俺についても同じだ。

 それでもゴブリンたちの上昇率は高く、一日でも二倍は上がるはずだ。以前、試しに三日間サボった時は、ゴブリンたちの魔力量が数倍にもなった。あの何もしない時間は天国だったなぁ……。おっと、いかんいかん。トリップしかけた。


 とにかくゴブリダたちには、俺たちが勇者や守護者たちを倒しきるまで、なんとか凌いでもらうしかない。


「リリーナ、マリア。もう一度言うが、俺が危なくなったら、すぐにエリーを連れてダンジョンから逃げろ。いいな?」

「………絶っっっ対、嫌です!! 意地でもマスターは助けます! 次、そんなこと言ったらぶちますよっ!?」

「ヨルシア様、わたくしも反対ですわ。リリーナさんの言う通りです。それにヨルシア様を置いて逃げるくらいなら、死んで相手を呪い殺してやります」

「そうじゃぞヨルシア! 妾の祝福を持っている奴がそう簡単にそのようなことを口にするでない! 妾の加護があるのじゃ! 負けたら………、わかっておるじゃろうな?」


 ウチの女性陣三人が恐ろしいことを言ってるんですけど……。俺、君らの身の安全を気にしただけですよ? なんでそんなプレッシャーを受けなければいけないのだろうか。


 んっ? ミッチーが何か呟いている。


 ……えっ? リア充爆発しろ?


 どういう意味だ? なぜ血の涙を流す!?

 ミッチー……よくわからんが元気出せよ。俺の頼みの綱はミッチーなんだから。


「マスター、シャーリーから勇者が動き始めたと報告が入りました」


 よし。さぁーて、いっちょやりますか!

 何がなんでもここは守るっ!! 


 こうしてダンジョン防衛戦の幕が上がった。




【怠惰者】

サボれば、サボるほど眷属と自身の能力アップ。


弱い魔物ほど恩恵が大きく能力アップ。

E〜Gランクの魔物で最大10倍。(10日で到達)

C〜Dランクの魔物で最大2倍。(1ヶ月で到達)

Bランク以上で1.1倍。(1年で到達)


今日もデビダンを読んでいただきありがとうございます^ ^



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