第55話 夢の10階層
勇者襲撃まで後一日となった。
ウィンクードの街には騎士団や聖騎士隊が到着し、慌ただしくもダンジョンへの侵攻準備が行われている。そしてそのウィンクードの領主であるミチオ・T・ウィンクードもその余波を受けることとなった。
――バンっ!!
「だから、何故あのダンジョンマスターの討伐許可をいただけないのですか!?」
そう激昂し机を叩くのは、勇者の守護者である天才大魔導師カタリナ・シーウェル。御年42歳の独身魔導師だ。
「あの、カタリナさん? 先日からずっと言ってますけど、あのダンジョンはウィンクード、果てはレグナード王国発展のための採掘ダンジョンです。国にとって有益なダンジョンにもかかわらず、何故ダンジョンマスターの討伐許可を出さなければいけないのですか? 現に今もダンジョン自体は落ち着いており討伐の必要はありません」
領主であるミチオはカタリナに諭すように話しかける。王国管理下に置かれているダンジョンの迷宮主を討伐するには、管理をしている土地の領主の認可が必要となる。なぜなら、迷宮主を討伐してしまうとダンジョンの資源も枯渇してしまうからだ。
迷宮主が死ぬ=ダンジョンも死ぬ。
これが人族たちの常識である。
だが人族たちは知るよしもない。ダンジョンが譲渡可能なことを。仮に迷宮主が死んでしまっても、副迷宮主を設定してあるダンジョンであれば、そのダンジョンの引継ぎが行える。まぁ、余談ではあるが。
ただカタリナは、その迷宮主討伐の認可を得るためにミチオを説得し続けていた。
「ミチオ様。有益ならば人々の安全を無視しても良いとお考えなのですか? あのダンジョンには凶悪な高位悪魔将が住んでいるのですよ? さらに言えば、聖騎士のシリウス様が亡くなっておられます。これがどれだけ危険なことかわかっておられるのですか!?」
「はい、重々承知の上です。もちろん危険なダンジョンですが、これほどまでに収益を上げられるダンジョンがこの国にあるでしょうか? 何度も言いますがダンジョンへの侵攻を許可することはできません。それに私にはカノープス殿が私情でダンジョンに侵攻をしようとしてるとしか思えないのです」
「くっ……いい加減にしな……」
カタリナがミチオに激しく詰め寄ろうとすると、背後のドアからカノープスが部屋の中へと入ってきた。
「カタリナ、もういい。領主のミチオ殿は民よりも金を選ぶ残念な御方だ。これ以上、わかっていただく必要はない」
「しかし、カノープス様よろしいので?」
「あぁ、例の物が届いた。もう問題ない」
なぜか余裕のカノープスを見て、思わずミチオは聞き返す。
「問題ない? カノープス殿、どういうことですか?」
いくら勇者と言えども、国の法を犯すのであればそれは罪となる。ただ勇者には国を守る使命があり、その任務に支障をきたす場合に発令できる特別処置法がある。
それが【勇者優先勅令】だ。
勇者が国家に危険を及ぼすと判断したダンジョンや砦などの資源地、防衛設備を、管理下に置いている領主の認可なしで、討伐や破壊ができる特別処置法案がある。発動するのに国王の承認がいるが、通信水晶のやり取りで済むため、召喚士がパーティに居れば簡単に書状が手に入る。
「ミチオ殿。こちらとしてもこんな物使いたくなかったが、貴殿の認可が取れないのであれば仕方あるまい。【勇者優先勅令】に基づき、あのダンジョンの迷宮主は討伐させてもらうぞ? もうあきらめろ」
そう言ってミチオの返事も聞かずに、カノープスとカタリナは部屋を出ていってしまった。
「………やっぱ、そうくるよなぁ」
ミチオはそう呟き、軽い溜息を吐いてからヨルシアへと報告を入れるのだった。
⌘
「ミッチー大丈夫だ。勇者相手に喧嘩売らせて悪かったな。こっちはこっちで既に迎撃準備は完了している。また、勇者たちが出立したら教えてくれ!」
「ヨルシアさん、わかったっす!」
ミッチーに勇者への嫌がらせを頼んだが、さすがは勇者。一筋縄ではいかない。上手く躱してきたな。街に騎士団や聖騎士隊が集まってきたことにより、商人たちも早々に引き上げ準備をしていた。
どうやら一般市民の皆様は、ダンジョンマスタがは討伐され、ダンジョン資源が枯渇すると読んでいるようだ。まっ、そりゃそーか。ダンジョンにくるのが勇者だもんなー。
しかーーし、残念ながらそう簡単にはいきませんよ!! 何故ならば、俺がいるからねっ!!
とりあえず勇者たちの迎撃準備を整えダンジョンの階層も増やした。
■1階層:巨大戦闘用フィールド
■2階層:自然来住型魔物用フィールド
■3階層:自然来住型魔物用フィールド
■4階層:ゴブリン迷宮(NEW! ボス部屋に転移魔法陣)
■5階層:地底湖迷宮
■6階層:地下水脈迷宮
■7階層:沼地フールド
■8階層:邪紫梅林フィールド(NEW! 全長1km 月夜)
■9階層:辺獄フィールド(NEW! 全長3km)
■10階層:地底魔城フィールド
夢の10階層ダンジョン!!
そして、フィールド設定の階層が七階層もあるというセレブダンジョンである。
まさか自分のダンジョンが、こんな他のダンジョンマスターたちが羨むような仕様にできるとは思わなかったな。
だからこそ……だからこそ、ここを失うわけにはいかない。
俺の眷属たちが魔素不足を感じず、安心して暮らせるこの地を失ってたまるか!! そして何よりこの俺が念願のニートになるために、絶対に勇者を返り討ちにしてやる!!
とりあえず、まずは新しく作った階層を見に行こうかな。8階層はリリーナとマリアの戦闘階層になるし二人も誘うか。それにきっと連れてかないと、後でキレられそうだしね。
そして俺はリリーナとマリア(お姫様形態)を連れて8階層へと降り立った。
⌘
8階層……。
そこは月灯りに照らされた、紫色の絨毯が一面に広がる華と月の階層。
入った瞬間、鼻孔をくすぐる甘い梅の香り。まるで腕利きの造園技師が作ったかのような見事なまでの花園。息を呑むほど美しい絶景が目の前に広がっていた。そして邪紫梅から発生する瘴気が月灯りに照らされキラキラと青く輝く。とても幻想的な階層だ。
この階層に咲き乱れる邪紫梅とはモレネティアのように瘴気を吐き出す植物の一種である。少量の瘴気と、人族に幻覚効果のあるガスを発生させる魔界植物。我々魔族にとっては、非常に良い香りのする梅林だが、耐性のない人族にとっては幻覚を誘う死の花園と化すだろう。
空から階層を眺めていると、うっとりとしたマリアが話しかけてくる。
「ヨルシア様、ここは心が癒されますわ……。とても素敵な場所ですね」
いつもの濃いメイクを取り、ナチュラルメイクをしているマリアはまるで違う生き物になる。お淑やかすぎて扱いに困るほどだ。くそっ、可憐すぎる!! つか化粧で性格が180度変わるってどういうこと!? 高飛車女王様から清楚なお姫様だぜ? ギャップがエグイ。
俺が返答に悩んでいるとリリーナが口を挟む。
「マリア、ダメよ。マスターにそんな感性はないわ。きっと今も早く終わらせて次の9階層にでも行こうかなと考えてるはずよ」
ずばりその通り!! さすがはリリーナ。付き合いが長いだけはある。
「そうでしょうか? きっとヨルシア様はリリーナさんと一緒に梅の花を見たいと思ってますよ? 私に構わず、お二人で散歩していらしたらどうです?」
「そ、そそそう!? でも二人なんてダメよ!! マリアも一緒じゃないと。だってマリアはマスターの第二夫人なんだから」
「うふふ……。リリーナさんはいつもお優しいですね♪ では三人で仲良く散歩でもしましょうか」
なんの会話をしているのだろうか? あの、リリーナさん? マリアに俺の第二夫人って肩書きが勝手についてんだけど? どういうことっすか??
それにしてもリリーナって、お姫様モードのマリアとは仲が良いんだよなぁ。マリアがあのメイクさえしていなければの話だけど。
「なぁ、マリア? なんでメイクするとリリーナと仲が悪くなるんだ?」
「ヨルシア様そんなことありませんよ? わたくしはいつだってリリーナさんと仲良くさせていただいてるつもりですが?」
「そうですよ、マスター。私たちは本音で言い合える仲なんです。仲が悪いわけではありません!」
は? そうなの?
昨日だって紅茶を飲む時に、俺の隣にどちらが座るかで喧嘩してたよね? 散々言い合いをした挙句に、真っ二つにハーフアンドハーフにしようってサイコなことを二人して言ってたやん!? 俺のそん時の恐怖がわかるか? 怖すぎて最高位の多重結界を張ってたんだぜ? レディースセットのパスタじゃねぇーんだからいい加減にしてほしい。
そして俺はリリーナとマリアに挟まれながら9階層へと降りていった。
⌘
絢爛な8階層とは打って変わり、この9階層は地獄の階層の一つ【辺獄】をフィールド階層として作成した。
血のように真っ赤な空に黒く重い雲。大地は白くヒビ割れ、枯れ果てて折れてしまった木や草などの植物。生命活動すらできない過酷な階層。それがこの【辺獄】である。
「マスター、よくこんな階層を思いつきましたね? 普通、地獄の階層をダンジョンに作るなんてしませんよ?」
「そうですわ。それにこの階層、我々の普段から纏っている魔力をも徐々に吸収しますわね。障壁が脆くなっているような気がします。……失礼致します」
するとマリアが爆炎魔法の一つ【紅蓮豪炎柱】を唱えると地面から炎の柱が轟々と立ち昇った。
だが、最初こそ勢いよく燃え盛ったが、急速に炎の柱は勢いを失い、最後はプスンっとガス欠したかのように消えてしまった。まるで大地に魔素を吸い取られてしまったかのように……。
「この地はウチのダンジョンであってダンジョンに非ず。つまりこの階層だけ別空間だ」
「なるほど。マスターは混沌地であるメリットを捨てて亜空間にダンジョンを切り拓いたのですね」
「リリーナ、その通りだ。どうせ勇者に加護や強力な障壁があるのなら、少しでも攻撃が通りやすいようにしてやろうと思ってさ」
「しかし、これではヨルシア様の方にも影響がございます! この地はありとあらゆる物から魔素を奪いとる地です! 魔力燃費が悪く、防御障壁も脆くなります! このような地で戦うのはおやめくださいませ!!」
「うーん……しかしなぁ。マリアが言うことは尤もなんだけど相手はあの勇者だ。守りに入った時点で気持ちが負ける。それだけはさけたいんだよね。それにこの辺獄なら相手の方がデメリットでかいだろ? 人族の方が魔力吸収率高いし。ノーガードで撃ち合うならメリットが少しでもある方に俺は賭ける!! つか、二人とも心配し過ぎだって!! 前もこんなようなことあったけど大丈夫だったろ? なっ?」
「……ヨルシア様」
マリアが心配そうに両手をギュッと胸の前で握り俺を見上げてきた。くそ、なんだこれは……。何度も言うがマリアが可憐すぎるっ!!
「ほらー。マスターが変なこと言うから、マリアが心配しちゃってるじゃないですか。いいですか? ぜっったい勇者になんて負けないでくださいね? 絶対、絶対、ぜぇ~~~たい勝ってください!! 約束ですよ? だから……、だからちゃんと無事に私たちのところに帰ってきてくださいね?」
きっとこいつが一番心配してるはずなのに、何故か俺の前だと無理に強がるんだよな……。
「マスター、返事は!?」
「わかってるって! そう何度も言うなよ」
しかし、本当に負けらんねぇな……。
相手がどんなに強くても、俺はこいつらを守る!!
やってやんよクソ勇者!!
次回、勇者の守護者(*´Д`)
本日も最後までデビダンを読んでいただきありがとうございました!
明日もよろしくお願い致します。




