第54話 ルルの錬金室
「ルルー、そこの魔鉱石取ってー」
「はい、ご主人様!!」
今日はケロ君の魔具を作成するために、久しぶりに錬金室へとやってきた。
この錬金室には、ルルのほかに以前眷属面接して雇ったケット・シーの男女八名が働いている。彼らは日々、武具の開発や鉱石の合成、ポーションなどの薬剤の精製をしているのだ。特にポーションといった回復薬が常備してあるお陰で、ゴブリンたちの生存率が天と地ほども違う。
まさに我がダンジョンの要的な存在。それがルルたち錬金術士だ。
しかし妖精族は基本的に身長が低いため、みんな白衣を着た子供に見えてしまう。そして、その頭より生えている愛らしい猫耳が相まって部屋にいるだけで非常に癒されるのだ。
そう、現在この錬金室は究極の癒し空間と化している。
……ほんの一部を除いて。
「なぁ、ルル?」
「はい! ご主人様どうかなされましたか?」
「さっきから見ないようにしてたんだけど、さすがにもう我慢の限界だ!! あの端っこで磔になってるゴブリンは何だっ!?」
実は錬金室の隅にある怪しい実験器具の一つにゴブリンが手足を拘束されて磔になっているのだ。
しかも、ブツブツとうわ言のように『あはぁあ〜 いひぃ気持ちだは〜〜 ちにゃ、、』と、かなりトリップしている危ない奴。
正直、俺が関わりたくないランキングトップ10に軽くランクインしてんだけど?
……くそっ!!
ルルが……あの可愛いルルが……、マッドサイエンティストルートを爆走してやがる。なんてこったぁ!! お父さんはとてもショックです!!
「ちっ……、違うんですっ!! ご主人様、これはあのゴブリンさんに頼まれて仕方なく……」
「いや、頼まれたっていってもなぁ。あのゴブリンかなりヤバい方向へ突っ走ってるぞ? だってもう目がいっちゃってるし。絶対ヤバいって!! もう手遅れ感が半端ないもん」
「ヨルシア陛下。お言葉を返すようですが、ルル室長は本当にあのゴブリンに頼まれてこのような実験をしているんです」
ケット・シーの一人、猫耳イケメンメガネボーイがルルを庇いに前に出た。
キリっとしてるが、なぜか微笑ましい。灰色の髪に白のアッシュが、このメガネボーイの可愛らしさを際立たせる。
「そ……そうか。 ところで君は?」
「ヨルシア陛下、申し遅れました。ルル室長のサポートをさせていただいていております『ミロ』と申します。どうぞお見知りおきを」
「おう、ミロ君な! よろしく頼む。で、詳しい事情を聴きたいんだが、あのゴブリン何やってんの? 特に理由がないならすぐ消毒するけど?」
するとルルがモジモジしながら答えた。
「それがですね……あのゴブリンさんなんですが……えーっと……痛いのがとても気持ちいいらしく、どこまで痛いのを我慢できるのかを現在挑戦中なのですぅ……」
ルルからまさかのカミングアウトをされる。
はい、ゴブリンアウト―。
「おいっ、ただの馬鹿じゃねぇかっ!! 中止、中止!! ルル、そんな変な遊びをしちゃダメだ!! それ、あのゴブリンのただの性嗜好だから!」
あ・の・ク・ソ・ゴ・ブ・リ・ン!!
うちのルルを変な道へと巻き込みやがって!! 許さんっ!! ちょっときついお仕置きが必要だな。
「ヨルシア陛下!! お待ちください!! これには深いわけがございます」
するとまたもやミロ君が止めに入る。
この子はなぜここまでゴブリン贔屓なのだろう? もしかして洗脳でもされているのだろうか?
「あの磔になっているゴブリンバーサーカーの鎧にご注目ください。あれはルル室長が開発した、ダークシルバー製の呪いの鎧になります。着ている者にとてつもない力を与えますが、それに伴い耐え難い痛みを与えます。ゴブリンバーサーカーたちは魔具の力で進化致しました。更に呪いの二重掛けをした魔具を与えたら、どのような進化をもたらすか彼が進んで協力を持ち掛けてくれたのです。かっ……彼は、ダ……ダンジョンのために、ぎ……犠牲になってくれたのです……ふにゃぁぁぁー!!」
何故かミロ君が大号泣し始めると、ルルを始め、他のケット・シーたちも大号泣し始めた。
え?
ちょ……ちょっと待って!? あのゴブリンが如何にもダンジョンのために身体張ってるような物言いだけど、あいつの顔よく見てみろよ? 快楽に顔が歪んでるぜ? 絶対、ただの趣味だって!! みんな騙されてるって!!
しかし、この状況でこんなことが言えるのだろうか?
……否、無理だ。
「みんな落ち着けって! わかったから! わかったからそう泣くな!! じゃあ、ルルにミロ。実験頑張ってくれ。もし万が一だけど進化するようなら教えてくれよ。……まぁ、ないと思うけど」
渋々、ゴブリンの実験を認めると二人は、パァっ……と笑顔になり元気に返事をする。
「「はいっ!!」」
はぁ……、なんか疲れちゃったな。俺が疲れない日がないような気がする。それもコレもあのゴブリンのせいだ。まっ、気を取り直して錬金をしていこう。
ただ、ケロ君に渡す魔具がどれもイマイチで中々いいのが作れない。
スランプなのだろうか?
ゴブリダのように武器系の魔具を渡してやりたいんだけど、錬金ベースで作った剣やナイフ、槍、弓といった武器がどれもパッとしない。全然ケロ君には合わないんだよなぁ……。
やはりケロ君には、あの和傘と仕込み刀が一番似合う気がする。だがしかし、俺にあんなお洒落武器を作る才能はない。作業工程が多すぎる。どーすっかなー。
「あの、ご主人様? 先ほどから何を悩んでるんですか?」
悩んでいる俺を見かねたのかルルが話しかけてきた。
あらやだ、優しい娘。
「いやー、実はケロ君に渡す魔具がどれもイマイチでさ。ケロ君の持ってる和傘のような武器を作りたいんだけど、さすがにレシピもなしにそんなもん作るの無理じゃん? だからどうしようかなと思ってさ」
「それであれば、パケロ様の和傘をそのまま錬金素材にすればいいのではないでしょうか?」
それだぁぁぁーー!!
あの変態ゴブリンのせいで簡単なことを見落としていた。そうだよ、一から作んなくてもケロ君の和傘を媒体に装備強化すればいいじゃん。
よし、早速ケロ君とリリーナを呼ぼう。
⌘
「で、マスター? あの変態はなんですか?」
「ケっ……ケロロロォ……」
錬金室まで二人が来てくれたのだが、案の定あの変態ゴブリンが気になるようだ。
「リリーナ、ケロ君。あれはよき変態なんだ。見なかったことにしてやってくれ……」
俺が遠い目をしながらそう語ると、とりあえず二人は察してくれた。
もうそっとしてやってくれ。関わると碌なことがないから。さて、気を取り直して本題へと入りますか。
「実はケロ君の錬金装備を作ろうと頑張ってたんだけど上手くいかなくてさ。そしたらルルが錬金強化はどうかって進言してくれたんだ」
「えっ? マスター錬金強化なんてできるんですか?」
「当たり前だろっ!! 俺を誰だと思ってんだ? 元錬金釜ぶち込み同好会の会長だぞ?」
自分で言ってて意味がわかんなかったが、なぜかルルたちケット・シーは『ほぇぇ~』っと、羨望の眼差しで俺を見つめてくれた。ちょっと照れるんですけど。
「……はいはい。それでマスターはパケロさんの和傘を強化するんですね?」
「ああ。俺の作った錬金装備よりも、ケロ君が使ってる和傘を強化した方がいいんじゃないかと思ってさ。ケロ君さえ良ければ、その和傘を錬金強化しないか?」
するとケロ君がいきなり興奮し、身振り手振りで語り始めた。
「ケロぉ~~ケロ!! ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロ…………」
ぐはぁ……、久しぶりのゲシュタルト崩壊。
俺が頭を抱えて悩んでいるとリリーナさんが同時通訳してくれた。
おぉ……、さすがは一級秘書官。
「マスター、どうやらパケロさんの和傘は亡きお父様より受け継いだシュレーゲル家の家宝だそうです。もう三百年近く使かわれている由緒ある傘みたいですね」
「えっ、マジか!? それってめっちゃ大切なヤツじゃん!? つか、錬金強化するのまずくね?」
そう、錬金強化にはリスクが伴う。
錬金に失敗すれば素材が全て消えて無くなってしまうのだ。
もし、そんな大事な和傘を失敗してなくしたりしたらシャレにならん。
「ケロっ!! ケロロ、ケロケロケロケロ!!」
ケロ君がなにやら必死で俺に語り出す。うん、リリーナ早く通訳を……。
「あのマスター? パケロさんはそれでも錬金強化をお願いしたいそうですよ?」
「でも、それってとーちゃんの形見なんだろ? 失くしちゃうとダメなんじゃないのか?」
「ケロぉ、ケロケロケロぉ!!」
ケロ君がそんなことないですって感じで手をブンブンと横に振る。
え? 本当にいいの? いや、まいったな。
「マスター? 前にも話ましたけどマスターから何かを貰えるってことは眷属からしてみれば、とても嬉しいことなんですよ? パケロさんのために頑張って作って差し上げたらどうです?」
俺がケロ君の方を見ると静かに首を縦に降る。そして俺の目をジーっと力強く見ていた。
「……おいおい。そんな目で見るなよ。これ絶対失敗できねーヤツじゃん。それにこんなところでとーちゃんの形見の品を錬金で失くすわけにはいかねーよな。……仕方ない、やるか。ルル、希少鉱石ありったけ持ってきてくれ」
「はいっ!!」
少しでも錬金成功率を上げるために、ルルには希少鉱石を持ってきてもらった。
目の前に置かれたのはスターシルバー、メテオストーンといった超希少鉱石の数々。ゴブリダたちいつの間にこんなレアなもん採掘してんだよ。特にメテオストーンなんて属性付きの魔石よりも希少な鉱石じゃねーか。片手で握れるほどの量しかないが錬金強化するには十分だ。
俺は錬金窯に、このメテオストーンやスターシルバー、ミスリル鉱石、魔鉱石を次々と入れ、最後にケロ君の和傘と俺の魔力を投入した。
――オラァァァァァ‼
すると錬金窯が今までと違う反応を起こし始めた。
いつもであれば魔力注入後、窯が輝き武器が出来上がるのだが、今回は窯が光ったままの状態で止まっている。魔力を抜くと失敗してしまうので、俺は窯に魔力を入れ続けた。これが、またしんどい。
ぐぬぬぬぬぬ……。なんだコレ?
マジでいつもと違うぞ?
なんと……いうか……魔力が……超固い!!
クッソーー、混ざらねぇー!?
俺が錬金に四苦八苦していると、ふとあることに気が付いた。釜の中身が混ざらないということは、単純に俺の魔力が不足しているということ。ただの実力不足である……。
よーし、いいだろう。その挑戦受け取った! 俺の本気見せてやる!!
一気に魔力を全開にすると、以前のように背中に一対の黒翼が顕現した。
室内に凄まじい魔素の嵐が吹き荒れる。そのまま俺は窯に自身の魔力をありったけ注ぎ込んでいった。
コレでダメなら仕方ない。
コナクソぉーー、混ざれぇぇー!!
――ピカァァァァァァーーーーー……ボボンッ!!
【卍傘 天蛙 仕込み忍刀 七星 が完成しました】
錬金窯から出てきたのは、胴が藤色の和傘だった。
傘の節が黒色のため、見た目以上に暗色に見える。
傘を開くと、その一駒一駒に描かれる今にも動き出しそうな流星模様。とても綺麗だ。
俺は傘の柄竹をおもむろに引き抜く。
すると目に入るのは総毛立つような白刃の光。
これはすごい……溜息が出るほど綺麗な刀身だな。見ているだけでも魂が吸い込まれそうだ……。自分で言うのもアレだが、これきっと名刀の類だ。今まで見てきたものとはレベルが違う。さすが俺が全力で作っただけはある。
「待たせたな。これがケロ君の新しい武器だ。使ってくれ」
「ケッ……ケロォォーー!!」
ケロ君があまりの嬉しさに涙を流しながら跪き、恭しく新しい傘を受け取った。どうやらとても喜んでくれてるようだ。
いやぁー、それにしても失敗しなくてマジで良かった。ほんっと、ギリギリだったわ。あそこで全力出してなかったら、きっと失敗していただろうな。
ふと辺りを見渡すと、テーブルに置いてあった試験管やフラスコなどは、机ごと全て吹き飛び、研究資料なども水浸しになっていた。
恐る恐る後ろを振り返ると、ルルや部屋にいるケット・シー全員の目に涙が溜まっていた。
あ、やっば……。
「「「「ふにゃぁぁぁぁぁぁーー!!」」」」
この後、ルルやミロたちの機嫌をとるのに三時間を要した。
うん、難しい錬金をやる時は外でやろう。俺はそう心に固く誓った。
次回、勇者きたる!!(´・ω・`)
毎日、ヒッソリと読んでいただけて嬉しいです^ ^
明日もよろしくお願いしますm(_ _)m




