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第53話 勇者カノープス

「ヨルシア、おかえりなのじゃ! ちゃんとお土産は買ってきたであろうな?」


 城に帰ってきて早々、マスタールームでエリーにそう催促されたので、白目になりながらも空間収納からりんご飴を一つ取り出した。


「ぬぉー、なんじゃこれは!? ほんとに食べ物なのか? 凄く輝いておるの! どれ一口………んんっ!? 甘い、甘いのじゃー!! なんじゃこの食べ物は!?」


 エリーが非常に騒がしい。人の気持ちも知らないで……。でも後でルルにもあげなきゃな、りんご飴。


「エリー様、少しよろしいでしょうか? すぐにご報告しなければいけない案件がございます」


 リリーナが神妙な面持ちでエリーにそう語りかけた。


 さっきまでのポンコツモードはどこにいったのだろうか? リリーナさん、知ってる? 俺ね、さっきまであんたがポンコツ過ぎて大変だったのよ? 


「エリー様、三日後に勇者がこのダンジョンへと攻めてまいります」

「なっ……なんじゃとーー!? どういうことなのじゃ? 詳しく申してみよ!!」


 エリー……。そんな神妙な顔してもりんご飴片手じゃあ格好つかないぞ?


 そしてリリーナが、ウィンクードで起きたことをエリーにこと細かに説明した。

 自身のポンコツモードを除いて……。





「それにしても、かなり厄介な奴がこのような僻地へとやってきたな。レグナード王国の勇者カノープスと言えば神具(アーティファクト)の一つ【神聖剣 アスカロン】の所持者じゃからのう」

「なんだエリー。知ってんのか?」

「当たり前じゃろ! 勇者に関してはある程度情報を掴んでおる。しかもカノープスに至っては魔界でも【魔人殺し】としても有名じゃからな」

「そっ……そんな奴がウチにくんの?」


 え? 何その二つ名。俺への嫌がらせか? しかも魔人殺しって……だったら、あの変態単眼魔人のダンジョンにでも行けつーの!! ウチにくんなや。


「マスター、やってくるのは何も勇者だけではありません。勇者を守る七人の守護者たちもいるのですよ?」


 マジかよ……頭痛いんだけど? 七人の守護者だ? いい加減にしてほしい。名前からして強そうだもん。


「なぁ、エリー。そのカノープスって奴、やっぱり強いのか?」

「……うむ、残念ながら強いのう。聞いた話じゃが、こやつどうやら竜の加護を持っておるようじゃ。有名なとこで言えば魔王ダンダリオンもカノープスに討伐されておるな」

「ダンダリオン様がですか!?」

「リリーナ、知ってんのか?」

「当たり前です!! 国落としで有名な魔人ダンダリオン様じゃないですかっ!! 逆になんでマスターは知らないんですか!? これは想像以上にマズいですよ!!」

「……そうみたいだな。でも考え方を変えたら、俺たちは運が良かったかもしれん。勇者がダンジョンにくるってことが、早い段階で知ることができたのはラッキーだぞ? 少なくとも三日は対策を練る猶予ができた。さて、後は迎撃方法をどーすっかなー……」


 するとマスタールームにミッチーからの緊急通信が入った。


「ヨルシアさん!! た、たたた大変です! ウィンクードに勇者がやってきました!!」


 ……もう知ってるよ。今、その話題で持ちきりだから。





 そして、その日の夜……。


 急遽、リリーナによって第二回ダンジョン会議が執り行われることとなった。


 参加者はリリーナ、エリー、マリア、ゴブリダ、ケロ君、ルル、アーヴァイン、ミッチーの八人だ。牛面二匹も呼ぼうかと声を掛けたら、いきなり変な世界へトリップし始めたのでもうシカトすることにした。だってあいつらの妄想が止まらないからねっ!! 


「さて、皆さんもご存知の通り、三日後にこのダンジョンへと勇者たちがやってきます。今回はその対策会議です」


 リリーナが口火を切って話し始めた。おぉ、さすが学級委員長。進行役が恐ろしく似合うぜ。


「現在、予想される勇者の戦力ですがアダマンタイト級の戦士が四人、魔道士が二人、オリハルコン級の魔道士が一人、そして最後に勇者の八人となります。我々が戦ったことのない領域の人族ばかりです」


 するとミッチーも口を開く。


「リリーナさん、オレからもいいですか? それに加えてレグナード王国第8騎士団320名、聖騎士隊50名もダンジョンへと侵攻してきます。まだその騎士団はウィンクードに到着してませんが、文官より報告があったので間違いないかと。一応、ダンジョンマスターの討伐はオレの許可が必要なので、なんとかゴネてみますが。でもあまり期待しないでくださいね」


 クッソ……マジで人族の奴らウチのダンジョンを潰そうとしてやがるな。このままでは俺たちの楽園が潰されてしまう。


「うーむ……リリーナよ。今、使えるDPはいくつあるのじゃ?」

「エリー様、現在使用可能なDPは132,530Pとなります」

「なるほどの。ヨルシアよ、迎撃用に罠専門の階層を作ったらどうじゃ? 高ランクの奴らには効果は薄いかもしれんが何もしないよりはマシじゃろう。勇者たちについてくる騎士団の雑魚処理には役立つと思うがの」

「エリーが言うことも一理ある。しかし、それは騎士団の奴らが先陣を切って突入してきた場合のみに有効だ。きっと今回はカノープスって奴は自ら先陣をきって突入してくるぞ? しかも罠を破壊しながらな」

「ヨルシア様? 何故そんな風にお思いになられるんですの?」


 マリアが首を傾げて聞いてきた。


「ああいう自信家な俺様野郎は、人の忠告なんて聞きゃあしねーよ。特に自分が最強と思っている奴だしな。そんな奴が人の後ろを歩くと思うか? それにあの話しぶりからして、俺は奴をかなり自己中な奴とみた。きっとまわりを振り回す。付け入る隙があるならそこかな?」

「ヨルシアさん、だったら部隊を階層ごとに分断して迎撃していくのはどうです?」

「マスター、私もミチオさんの意見に賛成です。相手が勇者ならば闇雲に手を出しても被害が広がる一方かと。仕留めるのであれば個々に相手をした方が今回は無難ですね」

「なるほどな。じゃあ、後はどういう風に割り振るかだが、……悩むな」


 俺が勇者、ミッチーがオリハルコン級、リリーナ、マリア、アーヴァイン、牛面二匹でアダマンタイト級を抑えてほしいのだが、後一人足りない。


 ゴブリダには騎士団と聖騎士隊の牽制を頼みたいから、やはりケロ君に頑張ってもらうしかないが格上相手となる。正直キツいかもしれん。ケロ君の実力はミスリル級と互角だからな……。


「……ケロっ」


 ケロ君が何かを決意したかのように一鳴きし俺に会釈をした。

 俺に任せろってか? ……泣かせるねぇ。不利を承知で格上に挑むか。でも、現実これしかないんだよなぁ。


「……わかった。じゃあ、ケロ君一人頼んだぞ」


 ケロ君には明日にでも魔力強化のために何か武具でも作るか。俺にできるのはそれくらいだからな。


「ヨルシア様? ただ、分断と申されてもどのように戦力を分散させますか? アダマンタイト以上の実力者がトラップ用の転移魔法陣や落とし穴などに引っかかるとも思えません。かつてわたくしもダンジョントラップには特に気を付けておりましたわ」


 だよなー。ウチのダンジョンにもトラップはあることはあるのだが、引っかかるのは頭の悪い冒険者くらいなものだ。罠発見のスキル持ちが居た時点でゴミと化す。


「リリーナ? 例えばさ、その転移魔法陣って単体トラップじゃん? それを部屋ごと魔法陣として設置はできないのか?」

「できないこともないのですがDPを三万Pは消費しますよ? そこまでして設置しなくてもよいかと思いますが?」

「確かに考えれば他にもたくさん敵戦力を分散させる方法はあるかもしれない。けど、今回は確実に戦力を分散させる必要がある。どんなことをしてもな」


 中途半端に仕上げて失敗するくらいなら、完璧に仕上げて確実性を取った方がいい。それが大量にDPが必要でもな。


「マスター、了解しました。では転移魔法陣を部屋ごと用意いたします。それでこちらの戦闘配置はどうしますか?」

「そうだな……、ケロ君は自分の階層でそのまま迎撃してもらい、アーヴァインは一つ上の6階層で頼む」

「ケロ!」「押忍っ!!!」

「ちなみに転移魔法陣は4階層のボス部屋に仕掛ける予定だから、牛面二匹はアダマンタイト級二人と共に2階層へと転移してもらいそのまま押さえてもらう」

「ヨルシア様? わたくしはどこで迎え討てばよろしくて?」

「マリアとリリーナには、ケロ君の階層の下に、新たに戦闘用の階層を用意するからアダマンタイト級二人を相手にしてほしい。そして更にその下にもう一階層追加して、俺とミッチーのペアで勇者とオリハルコン級を相手にしようと思って」

「おっ……オレもっすかーー!?」


 ミッチー、もう諦めろ。俺たち二人じゃないと、きっと勇者たちは押さえられん。


「そして最後にゴブリダだが、騎士団と聖騎士隊を押さえるという一番苦しい場面を任せることになる。各自、敵を殲滅後、直ちに4階層のゴブリダの救援に向かってくれ」

「「はいっ!!(ケロっ! 押忍っ!)」」


 そして会議は深夜にまで及び、細かい打ち合わせが行われた。


 ちっ、こんな時間まで俺を働かせるなんて……勇者のヤロー覚えてろ。

 俺はサービス残業や休日返上といった言葉が大っ嫌いなんだよ!!

 こんな時間まで作戦会議をしたんだ。


 俺は勇者をぜってー倒す!!



本日分です(´ω`*)

明日は久しぶりのネコミミ様の登場です。

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