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第52話 この世界の勇者

「いいぞー!」「やれ、殴れっ!!」

「早くしろっ!」「ピュー、ピュー」


 周りの野次馬どもの煽りがうるせぇ。

 マジでイラっとする。どーしてこーなった!?


 俺と相対するのはチンピラ冒険者三人組。ダンジョン内であれば迷わず瞬殺するのだが、こんな街中でこいつらを殺したら大問題になる。


 いや殺さないにしろ、こいつらが高ランク冒険者であればあるほど、倒した時の注目度が増してしまうという爆弾も厄介だ。どーすっかなー。


「おいおい、にーちゃん? もしかしてビビってんのか? そのねーちゃん置いて逃げてもいいんだせ? ワシらがたっぷり可愛がってやるからよぉ」

「兄貴ぃー、後で俺にも使わさせてくださいよ!」

「おっ……俺も使いたいでやんす!」


 お前ら勝手なこと言いやがって!!


 もうなんか考えるの面倒さくなってきたからもうやっちゃおうかなー。


 いや、あかんあかん。ここは我慢だ。こんなところで俺がキレたらミッチーに迷惑が掛か……

 

「おら、ねーちゃんこっちこいよ!! そんな男の後ろにいないで兄貴の側にいくんだよ!!」

「きゃっ……」


 いきなりハゲがリリーナの腕を掴み、自身の方にへと引っ張る。


 おいおい……くそハゲ。それはセクハラだぜ?

 というか、かなりイラっとするんだけど?


 俺はついついハゲの腕をグッ……と掴み、その場でスパァーーンっと勢いよく投げ飛ばしてしまった。やっべ、力加減間違えた……テヘペロ。


 するとハゲは面白いくらいに、その場でクルクルと10回転ほどして地面へと叩きつけられる。


 なぜか煽っていた野次馬どもの目が点となり、辺りを静寂が包んだ。


「か……はっ……」


 あっちゃー、思わずやってしまった。ハゲ大丈夫かな? 死んでないよね?


 ハゲの顔を覗き込んでみると、ピクピクと泡吹いて痙攣していた。


 うん、やりすぎたかもしれん。次はもっと上手くやろう。


「なっ……なんてことするでやんすかーー!!」


 そう言いながら出っ歯が俺に殴りかかってきた。

 最早やられ役に徹しているとしか思えないそのザコキャラ感。よくわからないプロ根性を感じた。


 俺はスッ……と避け際に、恐ろしく速い手刀を一発首筋に叩き込んでやる。

 出っ歯はそのまま悲鳴も上げることもなく『ぐるんっ……』と白目になり、崩れるようにして地面へと倒れ込んでいった。


 ふふっ……今度は上手くできた。きっと野次馬たちには俺が何をしたか見えなかったはず。


「て、て、てててめー!? 二人に何しやがった!? おかしな術を使いやがってっ!! もう許さねぇぞ!!」


 そうおっさんが叫ぶと腰の剣を抜いた。 


 おいおい……マジでか?


 たかが喧嘩で殺し合いまでに発展するなんてどーかしてるぞ? なんて血の気の多い種族なんだろうか。つか、誰か止めてくれたりしないかな?


 しかし残念なことに俺の希望は叶わず、顔を真っ赤にしたおっさんが俺に斬りかかってきた。


 すると、周りの女性たちから「キャー」という悲鳴が上がる。

 そして一番謎なのが、俺の後ろでリリーナも同じような悲鳴を上げているのだ。

 

 リリーナさん? そろそろ黙ろうか?


 袈裟斬り気味の斬撃。よけてもいいのだが、町娘ごっこをしている今のリリーナはマジでポンコツだ。万が一、リリーナに擦りでもしたら、このおっさんは氷漬けとなり即死するだろう。

 さすがにたかが喧嘩で死人を出すのはマズい。


 俺は斬りかかってくるおっさんの剣を、右手の指三本で掴み受け止めた。


「何ぃぃ!! ……くっ、この、……がっ!! クソっ、どうなってやがる!? 動かねぇ!!」


 おっさんが剣を抜こうと必死にもがいていると、野次馬どもから歓声が上がった。

 

 くっ……これまた目立ってるのか?


 俺が剣を離そうとした瞬間、おっさんが無理やり引き抜こうとしたために剣が根元から真っ二つに折れてしまった。さらに野次馬たちから歓声が上がる。


「わっ……わしの剣が……。クソ、クソ、クソぉぉぉ!!」


 半狂乱になったおっさんが、俺目掛けて殴り掛かってくる。

 もうやけくそだな。おっさんそれでいいのか?


 俺はカウンター気味に、軽めの右ストレートをおっさんの顔面に叩き込んでやった。

 すると思いのほかおっさんは吹っ飛んでしまい、背後にいた野次馬目掛けて突っ込んでいく。


 あっ、これはいかん!?


 おっさんに巻き込まれて野次馬に怪我人がでそうだ。野次馬どもに怪我人まで出ると責任問題になりかねん。

 仕方ないのでぶっ飛んでるおっさんの後ろに一瞬で回り込み、その背中を支える形で受け止めてやった。


 よし、なんとかギリギリ間に合ったな。


 辺りは一瞬静寂に包まれたが、爆発したかのような大きな歓声が湧き上がってしまった。

 さらに「にーちゃん!」コールまでもが沸き起こる。


 こっ……これはマズい!? これでは収拾がつかなくなる。お前ら騒ぎ過ぎだって!! つか、衛兵きてんじゃん!? もう知らん。逃げるべ!!


 俺はポンコツになってるリリーナを脇に抱え、群衆の波を掻き分けるようにして、その場から逃げ出した。何故か逃げる際、衛兵ではない数人の男が俺を追ってきたが、人混みに紛れ、街の路地裏にひっそりと身を潜めた。


 やれやれ……。もうお祭りどころじゃねーな。まだ冒険者らしき奴らが俺のこと探してるし。あのおっさんの仲間か? でも、見た目が強そうなので仲間って感じはしないんだけどな。しばらくここで待機するか。


 はぁ……しかしめっちゃ疲れたな。俺は壁を背にしてその場に座り込む。


 ふとリリーナの方を見ると目がめっちゃハートマークになっていた。しかも小声で何かブツブツと言っている。


 どしたー? リリーナ戻ってこーい? もしかしてそれなんか変な病気かー?


 そしてよく聞くと「マスターが私のために……」を呪文のように連呼し続けている。


 もう怖すぎるんだけど? どうしよう? これ治るのだろうか?


 とりあえず再起動してみるか。電源ボタンはどこだろう?


 するとリリーナの様子が更におかしくなった。

 両手をニギニギしながら俺に近寄ってくるのだ。


 あっ……あれ?


 おかしいな。なんかリリーナさんの目が肉食獣なんですけど?

 りっ……リリーナさん? ここは外っすよ? そっ、それはマズいって!!


 ちょ……ちょっ待っ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー!!!


 俺の心の悲鳴が路地裏に木霊した。







 一時間後……。


 頬がゲッソリ痩せ細った俺は、肌がツヤツヤになったリリーナと一緒に路地裏から出た。

 まさか昼間からこんなことになるなんて……。


「まっ……マスター? ほら、元気出しましょうよ! きっとそろそろ広場も落ち着いてますし、またお祭りに行きましょう! ね?」


 俺は力無くゆっくりとコクンと頷く。


 しかし大賢者タイムに陥り、もはや祭りどころではない。

 うん、もう帰ろう。

 俺はやはりダンジョンで引き篭もってる方が性に合うようだ。


「はぁはぁ……やっと見つけたぞ」


 声がしたので振り返ると、金髪オールバックの白い鎧を着込んだ騎士風の男がそこにいた。


 あっ、さっき俺を追いかけてた男だ。おっさんの仕返しにでも来たのか?


「おい、お前。さっきよりも痩せ細っていないか? そこの広場で冒険者(クズ)に絡まれてたヤツだよな?」


 大賢者タイムの俺は力無くコクンと頷く。

 つか、クズって……。おっさんの仲間ってわけではなさそうだな。


「どっ……どうした? まるで精気を吸い取られたように抜け殻になってるぞ?」


 放っておいてくれ。文字通り吸い取られたんだよ。つか、なんだこいつ? 早く用件言えや。


「まぁ、いい。俺はレグナード王国の聖女より、この世界の勇者(・・・・・・・)の一人として選ばれたカノープス・マッキンドールだ。さっきのお前の戦いぶりを見せてもらったぞ?」



 ……ん? ゆうしゃ? は? ゆ、ゆゆゆ勇者ぁーー!?



「単刀直入に言う。お前、俺の仲間にならないか? 投げ技、打撃、身のこなし、その若さで全てが一級品だ。どうだ? 勇者パーティの一員になれるのだ。お前にとっても悪い話ではあるまい?」


 やばい、俺の脳内で軽いショートが起きている。


 リリーナに襲われ大賢者タイムになったと思いきや、今度は勇者が目の前に現れるという大ピンチ。脳内処理が追いつかない。ははっ……。脳ミソがもう一個あればいいのに……。


「なんだ? あまり乗り気じゃなさそうだな? 俺のことを知らないわけでもあるまい? レグナード王国にいる三勇者の一人だぞ? あんな異世界人のような仮初めの勇者ではなく、この世界で育った真なる勇者だ。その俺がお前を仲間に誘ってるのだ。しっかり答えたらどうなのだ?」


 【勇者に仲間に誘われました。仲間になりますか?】

→はい

 いいえ



「……………………」



 いや、無理だろぉぉぉーー!?

 [はい]の選択肢は無理だって!!

 勇者、戦士、賢者、悪魔のパーティ構成なんて聞いたことねぇーし!

 この勇者バカなの!? ねぇ、バカなの?

 何かしらのスキル使って俺の正体とか見破ったりしないわけ!?


 ヤバい、マジでこの場面を打開できる方法が思いつかん。リリーナは既に町娘モードになって使い物にならねーし。マジどうしよう……。


「ふんっ。何も答えぬとは。俺の見込み違いだったか? まぁ、いい。返事は三日後まで待つ。仲間になりたければ三日後の午前八時に街の北門まで来い」


 おっ、勝手に解釈して去ってくれそうだ。

 ラッキー! つか、早く帰れ! そして国へ帰れ!! 勇者がこんなド田舎に来るんじゃねーよ!!


 すると去り際に、勇者は苦虫を噛み潰したような顔になりながらこう呟いた。


「三日後、俺はあの高位悪魔将(アークデーモン)のダンジョンに討ち入る!! あの悪魔は絶対許さねぇ!! 弟の仇なんだ。手を貸してくれ。頼んだぞ」



「……………………」




 えぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー!?




 どうやらウチのダンジョンに勇者が来るらしい。


ブックマーク、感想、評価をいただきました皆様方。応援してくださり誠にありがとうございます。これからもヒッソリと更新してまいります。休憩時間にヒッソリと読んでいただけますと幸いです。これからもよろしくお願い致します(*´з`)

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