第51話 これデートですやん?
城門へと近づくと、朝から大勢の人が縦に並び長蛇の列を作っていた。どうやら全員審査待ちのようだ。
げっ!? まさかの待ちなの?
マジか……。つか、俺の一番ストレスになること知ってるか? 待つことなんだぞ?
若干、イラッてしてるとミッチーが話しかけてきた。
「じゃあ、ヨシュアさん。あっちの衛兵所でパパッと審査終わらしちゃいましょう」
おぉっ、さすが領主様!! 特別扱いか。いいねぇー!!
俺たちは城門の脇にある衛兵の待機所に行くと、中から数人の衛兵が現れて綺麗な敬礼をビシッと決める。心なしか背中に感じる視線が痛い。
「ミチオ様! 朝早くから見回りお疲れ様です!」
「あぁ、君たちもご苦労様。外に出たらちょうど顔見知りがニ人いてね。先に審査して中へ入れてやってくれないか?」
「「はっ!!」」
そう言って衛兵が俺たちの冒険者カードをサラッと見て「異常なーし!!」と元気に指差呼称をする。
ミッチーのおかげですんなりと街の中へと入れた。他の奴らは手荷物チェックから来た目的を聞かれているというのに……。うん、視線が痛い。しかし街へと無事に入れたのだ。良しとしよう。
「じゃあ、ヨシュアさんオレはここで……。後はお二人でお祭りを楽しんでください」
「ミッ……チオ様。ありがとうな。じゃあ、せっかくだから楽しんでくるわ」
そう言ってミッチーは城の方へと帰っていった。
ちなみにミッチーの居城は城門付近からでもよく見える。街の中にある建造物の中で一番大きいからね。
しかし、あんな立派な城を自分で作ったのか……。すげぇな!
街並みもとても良い。全体的に建物が新しいこともあり非常に綺麗に見えた。この大通りに等間隔に植樹されている木々もセンスが良い。ミッチーやるな。
「あの、まっ……まままマスター? そろそろ行きませんか?」
いかん、いかん。ミッチーの街を見てぼーっとしてたらリリーナが痺れを切らした。つか、なんでそんな緊張してんの?
俺が石畳の道を歩き出すと不意に服の裾を引っ張られる。
なんだよ? 行かねえのかよ。
「あの、て、て、て、手を……」
手? 手がどうかしのだろうか?
リリーナが顔を真っ赤にしながら右手を前に出してきたので、俺も右手を出してリリーナの手を握った。するとリリーナが何故かプリプリし始める。
「違います!! これじゃあ、ただの握手じゃないですか! 逆です逆! 左手を出してください!」
やれやれ、ならば最初からそう言ってくれたらいいのに……。
俺は左手でリリーナの右手を握り歩き始めた。すると、すれ違う人族(雄)たちが何故か俺を睨む。
……なんだ? どこかおかしかったのだろうか? 完璧に人族に化けられたと思ったのに……。ふとショーウィンドウに映った自分とリリーナの姿を見て置かれている状況に気付いてしまった。
…………これデートですやん。
あれ? おかしいな……。俺はただお祭りを見にきただけなのに、なぜリリーナと手を繋いで街を歩いているのだろうか?
リリーナの方を見ると顔を赤くし、一人ヘラヘラ笑っていた。
あっ、いつの間にかポンコツモードになってる。なるほど。リリーナは最初からこれが目的だったのか。嵌められた感が半端ない。しかし、いま彼女の手を離せるのだろうか?
――否!!
きっと手を離したら間違いなくリリーナの機嫌が地の底まで落ちるだろう。そうなればお祭りを体験することもできなくなるかもしれない。うむ、致し方なし。このまま行こう。
さて、お祭りをやっている中央広場を目指すか! もう広場は目と鼻の先だ。
⌘
中央広場へ到着すると、恐ろしい数の人族で溢れかえっていた。
人口密度ヤバっ!! 何これ!?
広場には多種多様な露店が出され、人々がそれに群がっていた。広場にある女神像の周りには弦楽器や打楽器などを持った楽団と大道芸人らしき連中が催し物をしている。
おぉ……。こっ、これが人族のお祭りという奴か!? 聞いてたよりもずっと賑やかそうだな。
ん? なんだあれ? ネズミの着ぐるみ? 雄と雌がいるのか。
めっちゃキャピキャピしてる!! なんかわからんがキャピキャピしてる!!
そしてよくわからんが俺もテンションも上がるんだけど?
なんとアヒルもいるのか!? 祭りすげぇー!!
広場も花や旗などで飾り付けがされてとても華やかである。ちなみにこの露店の食べ物は全て無料だそうだ。今回の経費は全てミッチーが負担するらしい。なんというリッチな奴!! ……不死者だけに。つか、ミッチーの奴儲けてんなー。
街にはミスリルウォークからやってきた者や、その近隣の村や町からも多くの人々が集まってきており、ウィンクードの街は予想以上の賑わいを見せていた。
リリーナと露店を物色していると、ルビーのように真っ赤に煌めくアメを発見した。
その名も『りんご飴』。
なんだこれは? 食べ物なのか?
俺がマジマジ見ていると露店のおっちゃんが話しかけてきた。
「おう、にいちゃん! そっちのねーちゃんと一緒に一本どうだい? 領主のミチオ様が作った飴だぞ?」
何? ミッチーが作った飴だと!? よし、試しに一本もらおうか。
早速ペロリと一舐めしてみる。
………あっま!!
めっちゃ甘い!! なにこれ? しかも旨いな! 味オンチの俺でもわかるぞ!?
リリーナに食べさせてやろうかと思い隣を見ると、まだヘラヘラと笑っていた。
おいおい……、さっきからマジでポンコツになってんな……。
どーした? もはや再起動不可なのか?
仕方ないので無理やりリリーナの口にリンゴ飴を丸ごと突っ込んでやった。
そして前後に動かすとチュパチュパとした音が鳴り響く。
あれ? なんか、こう……、音がねぇ……。
おかしいな……。なんかめっちゃエロいんだけど?
これ、もしかして昼間からやってはいかんヤツだった?
すると目の前でリリーナを見ていた10円ハゲの坊主や、洟垂れ坊主たちが、股間を押さえながら次々と地面に崩れ落ちていった。
一撃ノックダウンだと!? リリーナの破壊力が半端ない。
そんなアホなことをやっていると、リリーナもやっと我に返った。
「いっ……いいいきなり何するんですかっ!?」
「いや、さっきからリリーナが、ずっと心ここに在らず状態だったからアメを食べさせてみただけだ」
「そっ……そうですけど、何も無理矢理食べさせなくても……」
――ドンっ!!
すれ違いざまにリリーナが歩いていたおっさんとぶつかり、おっさんが手に持っていた焼き鳥が地面へポトリと落ちてしまった。
すると、そのおっさんが血相を変えて怒鳴ってきた。
「おい、ワレェェ!! どこ見て歩いてんじゃあ!? おぉぉぉん!? ワシの焼き鳥が落ちてしまったじゃねーか? どう落とし前つけてくれるんじゃい!?」
おいおい、おっさんマジか? ベタすぎて全然笑えないんだけど?
つか、お前リリーナさんに喧嘩売るなんて正気か?
おっさん殺されるぞ? 俺が押さえておくから今のうちに早く逃げろ!! 早くっ!!
ふと隣を見ると、なぜかリリーナさんが嬉しそうだ。
するとリリーナは俺の後ろへとスルっと隠れるという謎の行動をし始めた。
あっ……あれ?
小声で「怖ーい」とか言っているが、そんなことを言うリリーナさんの方が怖いんだけど?
え? ちょっとリリーナさん?
後ろでそんな背中をグイグイ押さないでくれます?
は? 行けと? 俺が?
えぇぇぇー!? ……リリーナさん、そりゃないっすよ……。
「なんだにーちゃん? そのねーちゃんの彼氏か? なんか文句でもあんのか? あぁん!? こっちはそのねーちゃんのせいで食ってた焼き鳥落としたんだよ!! だから、落とし前としてそのねーちゃんを少し貸してもらうぜぇ。なーに、ちょっと溜まってるもん発散させてもらうだけだ。それに、そのねーちゃんエロそうだしお互いにいいってもんよ! なっ、にーちゃん心配すんな。後でちゃんと返してやるからよ。ワシの後だけどな! がっはっはっは!!」
うわー……クズだぁー……。近年稀にみるクズだぁー……。
それにこいつ冒険者じゃねーか。つか、冒険者って碌なのいねぇな。
超めんどくせぇー。マジめんどくせぇ。ほんとめんどくせぇ。
あまりの面倒さに、めんどくせぇの三段活用しちまった。
「きゃー‥…、こわぁーい」(裏声)
お前マジか!? どうした? 脳ミソ腐ったのか!?
マジでいい加減にしろよ? つか、リリーナもめんどくせぇー。
後ろからまたグイグイ押してくるんだけど?
あの……、何を期待してんの?
もう無視だ! 無視でいこう! 付き合ってられんわ!!
「なぁ、おっさん悪かったよ。落ちた焼き鳥もう一本も貰ってくるからそれで勘弁な」
そう言って、その場を立ち去ろうとすると、おっさんの取り巻きと思える出っ歯とハゲのチンピラ二人が俺たちの前に立ち塞がった。
「おいおい、あんちゃん。俺たちから逃げられると思うなよ?」
「そうでやんす! 大人しくそっちのねーちゃんを俺らに渡した方が身のためでやんすよ?」
なっ……何が起こってるんだ!?
人が密集してるはずの広場なのに、俺たち五人を囲うようにしてスペースができ上がっている。
そして野次馬どもが俺たちを煽り始めた。
やっば……めっちゃ目立ってる。リリーナさん、これマズイって!!
リリーナの方を見ると何かのスイッチが入ったかのように何かブツブツと呟いている。
おい、リリーナ!! しっかりしろっ!! 戻ってこぉーい!!
こうして俺のお祭りデビューはいきなり波乱を迎えることとなった。




