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第50話 女の闘い

 ダンジョン内転移と空間魔法の転移の違いですが、ダンジョン内転移は使用者が思い浮かべた場所(ダンジョン内限定)へ瞬時に移動できるのに対し、空間魔法転移はポイント座標指定などの細かい設定が必要でヨルシアはあまり多用しません。

「あいたたたた……。おい、リリーナ! 少しは手加減してくれてもいいじゃねぇか!」

「マスターが馬鹿なことばっかり言っているからじゃないですか!」


 プリプリしながらもリリーナは【月の抱擁(ライフオブディアナ)】という回復スキルを俺にかけてくれた。さすが保有魔力量10万超え。治りも早い。


「はぁー、お祭り行きたかったなー……」

「駄目にきまってるじゃないですか!! もしバレたらどうするんですか!? それに傍でずっと幻術をかけ続けないといけないんですよ!?」

「じゃあ、リリーナも一緒に行けばいいじゃん」

「えっ? ………一緒にですか?」


 ん? リリーナの様子がおかしい……。


 モジモジして顔が赤くなったり、惚けてみたりとなにかブツブツ言っている。妄想の世界へとトリップしたのだろうか? おっ……おい、リリーナ? 大丈夫なのか?


「………マスター!! お祭りにいきましょう!!」

「えぇーーー!? いいのか!?」


 恐ろしいほどの掌返し……。


 しかし、お祭りに行けるのなら言葉を飲み込む。あのダメージは無駄ではなかった。


「では早速ミチオさんに事情を話して市民証もしくは冒険者カードの発行をお願いしてきますね」

「え? 何それ? 街に入るのにそんなのいるの?」

「ウィンクードの街には東西南北に城門がありますが、どの城門も衛兵が常駐し街に入る人々をチェックしています。市民証や冒険者カードがないと街へは入れないのです」

「へぇー、そうだったんだ。なんでそんな面倒くさいことしてんだ?」

「ミチオさんの命令で勇者やオリハルコンクラスの冒険者がきたかをチェックさせています。だから仮に勇者が来たとしても迎撃もしやすいんですよ? これも全てマスターの為ですからね」

「やるじゃんミッチー。じゃあ、とりあえず俺とリリーナの身分証明書の用意を頼むわ」


「……ちょっと待て!! 妾も行くのじゃ!!」


 両手を腰に当ててふんぞり返る暗黒幼女が突如として現れやがった……。


 クソ、こんな時に。タイミング悪いな。せっかくリリーナの許可がとれたのに、これではフリダシに戻るかもしれん。それだけはなんとか阻止しなければ!!


「いや、エリー? あんたはさすがにマズいっしょ? 神様と地上を歩くなんて、もしバレたら本部に言い訳立たねぇし。それに悪い奴に誘拐でもされたらどーすんの?」

「そっ……そうですよー! すごく危険ですのでエリー様はお留守番しましょうね? ねっ?」


 おっ、意外にもリリーナが俺の味方をしてくれてる! 珍しいな。頼む、なんとかエリーを説得してくれ!!


「嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃあー!! 妾もお祭りに行ーきーたーいーのーじゃー!! 連れてってほしいのじゃぁー!!」

「まぁ、エリー様。ヨルシア様、お祭りに行かれるんですの? ならば、わたくしもご一緒したいですわ!」


 ちっ……マリアも来やがったか。これまためんどくせー。どうやって断るかな。エリーも駄々っ子モードへと突入したし。早くリリーナさんの気が変わらないうちになんとかしなければ!!


「だっ……駄目ぇぇーー!! 絶っっ対駄目っ!! 今回だけは本当に駄目ですっ!」


 おぉー!! リリーナさんがめっちゃ頑張ってくれた。しかし急に小学生のような物言い。どした? いつもに増してポンコツじゃないか。


「あなたね、ヨルシア様を一人占めにしよーたってそうはいかないわよ?」

「そうじゃぞリリーナ! ここは公平に一緒に行こうではないか!」

「駄・目・で・す!! いいですか? まずマリアは既に街では死んだことになっているのよ? 幻術かけたとしても元の人族の容姿に戻るだけだから、あなたは絶対連れていけないの! 次にエリー様は地上に出たら聖女の神託に引っかかる恐れがあります。存在力だけでも相当なものですから絶対に地上へは連れていけません! 二人ともわかりましたか?」


  リリーナの正論で二人とも押し黙ってしまった。嫌がらせで言っていないだけに二人とも無理を言えないようだ。


「……そういうことでしたら仕方ありませんわね。でも、ヨルシア様。いつか私ともデートしてくださいまし。その日まで楽しみにとっておきます」

「ぬぅ……。マリアが諦めたとなると妾も無理は言えんのぉ……。仕方あるまい。今回は諦めるのじゃ! その代わりちゃんと土産を買ってくるのじゃぞ?」


 その時、俺は見てしまった。


 リリーナが二人から見えない角度で小さくガッツポーズしたところを……。女の闘いって怖いなぁ……。


 その日の夜、なぜかリリーナは控えめだった。三人で何か密約でも交わしたのだろうか?


 



 翌日……。


 朝早くにミッチーが転移魔法で城へとやってきた。例の身分証明証の件だ。ミッチー仕事早いな。


「おはよーっス。ヨルシアさん、これ言ってたやつです。市民証にすると役所の奴らが住居の確認に行ったりと、面倒だったので冒険者カードにしておきました。ギルマスにちゃちゃっと作ってもらったっス! ちなみに二人とも偽名にしたんで悪しからず」

「おぉー、ミッチーあんがとな」

「さすがミチオさんです! 早速、見てもよろしいですか?」


 リリーナがミッチーから冒険者カードを受け取ると、カードにはこう表記されていた。


□ □ □ □ □ □ □

名前:ヨシュア(ヨルシアの偽名)

年齢:19歳

出身地:ミスリルウォーク

ギルドランク:シルバープレート

□ □ □ □ □ □ □


□ □ □ □ □ □ □

名前:リリー(リリーナの偽名)

年齢:19歳

出身:ミスリルウォーク

ギルドランク:シルバープレート

□ □ □ □ □ □



「出身地はミスリルウォークにしときました。まだできて間もないウィンクードだと怪しまれるので」

「わかったよミッチー。手間かけて悪かったな。さて、リリーナ。準備もできたし街へと行くか!」

「はい! じゃあ、幻術をかけますね」


 そう言ってリリーナが幻術魔法を使用すると俺たちは人族の姿へと変身した。そしてミッチーの隠蔽魔法で巨大な魔力も抑えられる。これでどっからどう見てもただのニンゲンだ! 


 ちなみに俺は黒髪から藍色のような髪へと変わり頭の角は無くなった。服装も革の胸当てを装備した剣士風。


 おぉー、なんかいつもの自分じゃないみたいでちょっとテンションが上がってしまう。いいなコレ。自分で幻術が掛けられないのが残念だ。


 隣を見るとリリーナの装いもかなり変わっている。


 その美しかった金髪は、町娘のような栗色の髪へと変色した。服装もいつもの露出の高い服ではなく、魔法使い用の黒っぽいローブを着ている。よっぽどのことがない限りバレないだろう。


「ヨルシアさん、よかったら街の入口まで案内しますよ? オレが一緒にいた方が、入る時もすんなり入れると思いますし。………そ、そっからは別行動で!」


 リリーナがよく分からない殺気を放ち、強制的にミッチーに空気を読ませたようだ。すまんね。


「あと街についたら、その……あの……、オレ一応領主なので……」


 あぁ、そっか、そっか! 立場が逆転するのか。まぁ、何も問題はない。


「わかったよ。 ミチオサマ(・・)。俺たちのことも呼び捨てでいい。じゃ、行ってみますか! いざ、ウィンクードへ」







 そして俺たち三人はミッチーの転移魔法でウィンクード近くの森まで転移した。10分ほど歩くと森を抜け、目の前に堅固な城壁に囲まれたウィンクードの街が現れる。


「うぉー、ここがウィンクードかー!! モニターで見るよりもずっと大きいんだな」

「めっちゃ頑張りましたからね! もう魔術チートをフルで使ってこれっすよ? ヨルシ……じゃなかった。ヨシュアさんみたいにオレもDP制が良かったなー」

「あぁー、確かにな。でも、ありがたみはミッチ……じゃなかった、ミチオ様のようにちゃんと手作りした方が強いぞ?」

「そうですね。我々のようなダンジョン魔族はそういうことに関して言えば意識が薄いのが現実です。何かを大切にしようと思うダンジョンマスターなんてウチのマスターくらいじゃないでしょうか?」

「価値観が違うんっすね。でも褒められて嬉しいです! じゃあ、さっそく城門まで案内しますね!」


 そうして俺たちは城門を目指して歩いていった。

 

 やっと……やっとお祭りを体験できるっ!!


 


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