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第43話 チートはある!

「イセカイジンよ。手荒な真似をして悪かったな。こうでもしないとお前と話ができないと思ったのでな。ケロ君、縄を外してやってくれ」

「ケロっ!」


 結局、彼のことを無難にイセカイジンと呼ぶことにした。後で、リリーナに名前を確認しておこう。


「さて、縄は解いてやった。これで自由に話せるだろう。抵抗してもいいが、それが何を意味するかは分かっているよな?」

「はっ……は、はははいっ!!」


 よし。さすがイセカイジン。物分かりがいい。

 彼が抵抗したら、きっとリリーナさんがジャキン(爪を伸ばす)するからな。あれ、俺も恐怖がフラッシュバックするからやめてほしいのだ。マジでガクブルだぜ。


「物分かりが良くて助かる。さて、イセカイジンよ。お前はあの町で領主をやっていると聞いた。何故、この地へとやってきた? 理由はなんだ?」


 すると何故かイセカイジンは黙って俯いてしまった。


 何か難しいことを聞いただろうか? この地に来た理由を聞いてるだけなんですけど? それか、もしかしてまたガン無視してるのか!?  この野郎!! ぶっ飛ば……、いや、待て。もしかして罠かもしれん。イセカイジンは頭が良いってリリーナが言っていた。俺に殴られ、他の勇者のヘイトを俺に向けようとする裏工作かもしれん。


 なんて奴だ!? 無言でここまで俺に心理的プレッシャーを与えるなんて……。


「あの、マスター? 冷や汗垂らしてますけど、マスターが考えてることなんて一切ありませんからね? 彼、ただマスターが怖くて話せないだけですよ?」


 リリーナが耳打ちでツッコミを入れてきた。

 一切喋っていないのに俺にツッコミを入れるなんてリリーナのツッコミは神の領域まで届いたというのだろうか!?


 そんなバカなことを考えているイセカイジンがボソッと一言呟いた。



「………復讐」



「復讐? 冒険者たちの仇か? それとも騎士団のか?」


 口を開いたと思ったら、なんかとんでもないこと言い出したんですけど!? こいつサイコなのか? そんなナリしてサイコなのか!?


「違います。国に対してのです」

「国? 意味がわからん。説明してくれ」


イセカイジンが今までの顛末、愚痴、嘆きなど、溜まっていたすべての物を吐き出すように俺へと話してきた。つか、俺に言うなよな。そんな愚痴を言われても「そうか、大変だったな」としか言えないだろ?


 しかし辺境を発展させて国に対抗できる迷宮都市を作るってか。イセカイジンは考えることが違うねぇー。俺なら死なない程度に引き籠るけどな。


 それにしてもおかしなもんだ。同じイセカイジンと言えども能力がなければすぐにポイ。能力があれば勇者として人々から羨望され、なければ使い捨ての駒とはなんとも悲しいな。そして本人もそれをよく理解している。


「ということは、お前は何かしらの【力】が欲しいのか?」


 俺がふとポツリとこんなセリフを言うと思いのほか彼はくいついてきた。


「【力】!? もしかしてチートがあるんですかっ!?」


 チート? チートって何よ?


 リリーナの方を見るが、顔が?マークだ。なんだとっ!? リリーナも知らない単語なのか!? やっべぇ……。知らないって言ったら空気悪くなりそうだし、とりあえずここは肯定しておくか。


「……チートはあるっ!!」


 リリーナとエリーが、なんでそんなこと言ったの?って顔で、ソッコー俺を睨んできた。だって、仕方ないじゃん!! ここでないって言ったら、へっ、こいつチートすら持ってねーのかよって思われるでしょ!?


 イセカイジンを見ると、何やらブツブツと独り言を呟き始めていた。


  ……怖っ!! めっちゃ怖っ!? えっ、何? それチートのせいなの!? 俺があるって言っちゃったからなの? まじ、ごめん。今から訂正し……。


「【力】を……俺にチートをください!! お願いしますっ!! 何だってしますから!! 他の奴らを見返せるだけの【力】を俺にください!! 貴方に魂を渡したってもいい!! だからお願いします!!」


 はい、無理でしたー。


 これでもう彼の言うチート渡すしかないな。あんなこと言わなければ良かった……。今更ながら後悔するという。

 それにしてもイセカイジン必死過ぎないか? そんなにチートとやらが欲しいのだろうか? しかし、今の話だと力=チートってことっぽいよな?


 うーん……。とりあえず呪いの腕輪を渡してみるか? 魔族に転生すりゃあ、それなりに力は得るだろう? でも、転生してから、これチートじゃねーじゃん話が違うって言われても困るしな。

 まぁ、しかしこんなこと俺が悩んでも仕方ない。

 よし、ここはもう本人に聞いて選んでもらおう。


「イセカイジンよ。ここに魔族へと転生できる腕輪がある。もし、本当に力を手にしたいのなら、この腕輪を嵌めるがいい。だが、お前の覚悟が足りなければチートは得られぬと思え。だが、万が一チートを得なくても我がダンジョンはお前を受け入れると誓おう。王国のような扱いもしない。お前を一人の立派な魔族として認めよう」


 これ、なかなか上手く逃げられたんじゃね?

 チートなくてもうちのダンジョンで面倒見ますよーって感じだし。

 それにこのイセカイジンはきっと召喚されてから、この世界に居場所がなかったんじゃないのか? 駒のように扱われて誰からも認められないのが辛かったのではとさえ思ってしまう。だから他者に認めてもらえるだけの力が欲しいんだろうな。


 俺は呪いの腕輪をイセカイジンに投げ渡した。さて、どう出るイセカイジン?


 するとイセカイジンは、その真っ青だった顔も、チワワのように震えていた身体も嘘かのような力強い眼差しを俺へと向ける。何かを決意した男の目だ。


 ……おいおい、いきなりそんな眼で俺を見るなよ。これでチートがついてなかったらマジで申し訳ないだろう? そんな俺の気持ちもつゆ知らず、イセカイジンはスッ……と呪いの腕輪を嵌めた。


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 轟音と共に魔素を乗せた風が部屋の中に吹き荒れる。そして夥しい量の魔素がイセカイジンへと集まっていった。黒い魔素が身体を包み、その眼は血のように真っ赤に染まる。そして激痛がイセカイジンを襲うのか悲鳴を上げ床をのたうち回っていた。身体が進化に耐えられないのか、肉が切れ血が噴き出す。


 うわぁ……、めっちゃ痛そうだ。俺が進化した時より酷くね!?

 ちょ……ちょっと君、大丈夫? 死なないよね? ねぇってば!! マジで不安になるんですけど?


 そして、イセカイジンは身体中を真っ黒な魔素に包まれると、パタリと力尽き全く動かなくなってしまった。

 おや? マジで死んだ? いやいやいや……嘘でしょ?


「のう、ヨルシアよ。……あれは死んだのではないか? あのような濃い魔素なぞ、人族にとっては猛毒じゃぞ?」

「……マスターが知ったかぶりしたせいですよ?」


 二人がジト目で俺を睨む。


 おっ……俺のせいなの? だって、死のリスクあるって聞いてないし! これはしょうがなくね? でもイセカイジンよ、すまんかった。まさかこんな事になるとは……。城の外に墓は作ってやろう。安らかに眠りたま……。



――ボコォっ!!!



 ひぃぃぃ!?


 俺が手を合わせて拝もうとすると、イセカイジンを包んだ黒い魔素の塊から白骨化した手がいきなり生えた。


 めっちゃビビったじゃん!! 驚かすなよ……。

 つか、ナニコレ? えっ? もしかして魔族転生成功した? スケルトンかなんかに転生したのか?? するとイセカイジンはおもむろに起き上がり、その身を包んでた魔素も同時に剥がれ落ちた。



 その姿は身体から全ての肉は削がれ白骨化し、髑髏から覗くその赤い眼は憎しみに満ちた灯火のようだった。



 ……すまん。イセカイジン。まさか、スケルトンになるとは思わなかった。君はうちでちゃんと面倒を見るから許してね。俺がそんなことを考えてると、イセカイジンを見たエリーが口を開く。



「まさか、このような奴がこの世に蘇るとはのう……。億千万死の魔王……【告死の不死王(レヴェナント・リッチ)】」

 



次回、億千万死の魔王(。-`ω-)


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