第34話 堕天使降臨
変態が隙だらけでグダグダと話していたので顔面に一発キツイのを叩き込んでやった。
ノックアウトになってくれと心の中で祈るが、その願いも空しく変態は瓦礫を押しのけスッと立ち上がった。あらら? ダメージなし?
しかし、よく見ると変態の両方の鼻の穴からはダラダラと大量の血が流れている。そしてその大きな単眼は俺を射殺さんとばかりに殺気に満ちた目で俺を睨んでいた。うん、怒らせちゃったっぽいな。
「……何故、貴方には私の魔眼が効かないのですか?」
んっ? こいつ魔眼所持者同士の瞳力無効化のことを知らないのか? いや、違う。俺が魔眼持ちってことを知らないだけか。ふふっ……ザマァ。
「さぁ……? なんでだろうな?」
「……貴方、ムカつきますねっ!!」
そう言うと変態の足下の地面が爆ぜ、猛スピードで俺へと突進してくる。
そして、その両拳に禍々しい黒いオーラを纏い俺へと殴り掛かってきた。小石が黒いオーラに触れると塵と化す。
げっ、当たると痛いヤツだ!!
恐ろしい速さの拳撃。それを同じく拳に魔力を纏い防御していくが拳撃の圧力で俺の足下の地面が凹む。
この変態……、確かに強いな。リリーナのように洗練された技だ。……速いし重い。
しかも、身体捌きが変則的すぎて動きが読めない。手首が蛇のようにしなり俺に襲い掛かってくるのだ。体捌きも直立状態から地面ギリギリまで深く潜り込んだりと揺さぶりをかけてくるのがウザい。一撃防ぐ毎に、パシンっ、パシンとキレのある音がコロシアムに響き渡る。
それにしてもこれって魔人拳法だな。昔、少し憧れてかじった程度だが、変態のように極めるとここまでの体術に昇華されるのか。これは素直に凄いと思う。
変態が穿掌を放つと、衝撃波で地面が大きく抉れた。
……おいおい、ノーモーションでそんな技撃ってくんじゃねーよ。ビックリするだろ!?
「クフフフ、やりますね。私の邪鬼蛇拳をここまで躱すとは。しかし、困りましたね。この私が新人如きに苦戦してるなんて世間にバレますと恥もいいところです。ここからは本気でやらせていただきますよ? しかし……、私は慈悲深いのです。貴方が私の前に平伏し慈悲を請い降伏するというなら見逃して差し上げないこともないですが。クフフフ……」
こいつあくまでも上から目線なんだな。なんかムカついてきた!!
「お前まだ俺に一撃も入れてないのによくそんなことが言えるな? 逆に聞くが、今なら見逃してやるがどうする?」
「こっ……この青二才が! ほざくなぁぁ!! もう許しませんよぉぉぉ!!」
どうやら変態の逆鱗に触れたようだ。頭に血が上りすぎて、頭の血管が大変なことになっている。そのうち切れてピューピュー血が噴き出るのではないだろうか?
「私のエレガントな魔法に慄きなさいっ!! 【魔影幻実分身】!!」
あっ、やっべ。変態の血管見てたら、こいつ魔法を使いやがった。そっか、殴り合うだけだと思ってたけど別に魔法禁止じゃないじゃん。
変態の魔法が発動し、複数の黒い影がコロシアムに浮かび上がる。するとその影から変態のそっくりさんが次々と出現した。
キモっ! みんな同じ顔っ!! えっ? 何人いんの? これちょっとしたホラーだぞ!?
「クフフ……、貴方に残念なお知らせがあります。これは幻術ではありません。全て実体です。魔力こそ本体の五割程度になりますが私の技、パワーは全てそのままです。全1000体。貴方に【格】の違いを教えてあげましょう」
それにしても1000体かぁ……。ちょっと多くね? 辺りを見ると一つ眼ばかりの変態で埋め尽くされている。マジでキモい。死ねばいいに……。
にしてもめんどくせー。疲れるからやりたくなかったけど本気出すか。
実は進化してから毎日、嫌々リリーナさんの地獄の特訓に付き合わされていた。付き合わないとリリーナさん機嫌悪くなるからね!
戦闘経験や技術は圧倒的にリリーナの方が上だが、魔力値が全然違うため、力を抑えないと俺の魔力でリリーナを傷付けてしまうのだ。
そうしてるうちに自ずと魔力を相手に合わせる癖が付いてしまった。今回もそうだ。自然と相手に魔力を合わせてしまって戦っていた。ちなみに変態の魔力はリリーナの倍くらいだと思う。
だから、俺は進化してから今まで魔力を全力で解き放ったことがない。
今日は自分の本来の実力を知る良い機会だ。こいつには悪いが実験台になってもらおう。
「クフフ……、随分余裕ですが、この私の術を破る秘策でもあるのでしょうか? しかし、またここで残念なご報告があります」
変態全員が同じ動きをして、懐から一つの石を取り出した。
「魔封石です。今回、貴方はアイテムの持ち込み制限をしませんでした。これで貴方の魔法は私には効果はありません。クフフ、恨むなら貴方の頭の無さを恨みなさい。そしてわたくしを怒らせたことを後悔するといい!! それでは、そろそろ終わりにしましょう。覚悟はできましたでしょうか?」
あっちゃー……。アイテムの持ち込み制限とかできたんだ。確か魔封石ってある一定量の魔力を吸収する石だよな? 対魔法使い用の魔法石。めっちゃ希少な魔法石の一つって聞いたことあるけど、こいつどうやって手に入れたんだ?
しかし、ここにリリーナが居なくて良かったな。マジで怒り狂ってただろう。主に俺に対して。ふふっ……めっちゃ想像できる。ウケるんですけど?
「……貴方、何を笑ってるんですか? 気でも触れましたか?」
しまった。またやってしまった。すぐ表情に出るのは俺の悪い癖だな。気をつけよう。
「あぁ、悪い悪い。ちょっとウチの秘書のこと考えてた。……さて、やるか」
俺はグッと拳を握り、丹田の辺りから魔力を徐々に解放していく。すると濃縮な黒い魔力の塊が身体から勢いよく飛び出していった。どんどん魔力を解放していくと、コロシアムに地響きが起き始める。
——ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
まだだ。まだ解放できる! さらに魔力を練り上げると青い稲妻が身体を迸っていく。
俺を中心に凄まじい魔力の奔流が起き、爆発音とともにさらにコロシアムが大きく揺れた。
——ズドォォォォォォォォンン!!
はは……、まじか。これでまだ9割くらいかよ。これ全開にしたらコロシアム壊れるんじゃねーか? まっ、もう所々壊れてるし気にしなくてもいっか! 俺ん家じゃねーし。
「オラァァァァーー!!」
俺は最後に大きく咆哮を上げ、自身の魔力を臨界点まで上げきった。黒い閃光が辺りを包む。
すると俺の身体に変化が起きた。背中から1対の魔力で形成された黒い翼が顕現したのだ。
なっ……なにこれ? 魔力を解放すると羽が生えるなんて聞いてないんですけど!? やだ、なんかめっちゃ恥ずかしい……。
半透明の黒翼はまるで、燃え盛る炎のように魔力の火の粉を上空に飛ばしていた。触ってみるが感触はない。かっ、身体に害はないよね? 内心かなり不安なんですけど?
とりあえず準備が整ったので、変態の方を見ると驚愕の表情でこちらを見ていた。
「……あっ、ああああ貴方はいったい何者なんですか?」
どういうことだろう? 元々は何だったの? という意味だろうか? 仕方ない。殴る前に答えてやるか。
「元下級悪魔です」
そう言って俺は大地を蹴ると、あまりの速度に軽く変態を通り越し、コロシアムの壁に激突してしまった。
——ドカァァァァァァァァーーン!!!!
あいたたたたっ……しまった、しまった。失敗したわ。力の加減が全然わからん。俺テヘペロ。しかも壁に激突したせいでかなりの土埃が舞い上ってしまった。
見にくいな。そう思った矢先、俺の黒翼が羽ばたくような仕草を見せると、辺りに魔力の奔流が広がりあっという間に土埃を消し飛ばしてしまった。
おぉーー。すげー便利だなコレ。無意識に動くのか。ふと、後ろを振り向くとコロシアムの4分の1が円を描くように破壊されていた。
うわぁ……、隕石が衝突したみたいになってる。これ俺ん家でやらなくてマジでよかったー。ダンジョン壊れてリリーナがガチキレするとこだったじゃん。
増殖した変態たちを見ると全員顔が引き攣っている。まぁ、仕方ないだろう。なんせ俺が動いただけでこいつらの3分の1が吹き飛んだからな。
「「「「きっ…きぃえぇぇーーー!!!」」」」
変態数十体が変な鳴き声を上げて飛びかかってきた。まるで胴体を蹴ってくださいと言わんばかりに飛んでくるので、リクエストに応えてやることにする。
俺はそれぞれに上段まわし蹴りで衝撃波を叩き込んでいくと、変態たちは胴体の中心から粉々に弾け飛んだ。肉片グロっ!! その内、例のセリフを叫びそうだ。
しかし、まだまだ変態たちはたくさんいる。他の奴らも次々と奇声を上げながら津波のように襲い掛かってきた。
正直、キモいので俺に近づく前に蹴りの衝撃波で始末した。轟音と共に変態どもがバラバラになって弾け飛ぶ。マジで汚ねぇ花火だ。
ちなみにこれ、リリーナさん仕込みの上段回し蹴りです。毎日喰らってたらできるようになりました! 反復練習大事!
俺が蹴りを入れると一体が派手にぶっ飛び、その背後にいる数十体も巻き添えになり弾け飛ぶ。
ナニコレ? 超楽しいんだけど? 数だけ多いのも考えもんだな。旋風脚の要領で次々と蹴りを放つ。
ただ途中から飽きてきたので蹴りの威力を下げ、コロシアムの壁に変態を叩きつける遊びをした。よし、客席にオブジェを作ろう!!
はい、旋風脚ぅー、旋風脚ぅー、旋風脚ぅーっと!!
変態たちはドカーン、ドカーンと爆撃に似たような轟音とともに勢いよく壁や客席に突き刺さり謎のオブジェが次々と完成する。さっきのヨガのポーズで突き刺さってる奴もいる。どーしてそーなった!?
五分くらい謎の遊びを続けていると、周りに変態がいないことに気付いた。あれ? もう終わり? 意外と早かったな。
あっという間に1000体居た変態たちは、あの叫び声と共に全て消え去り、顔面蒼白状態の本体のみが残された。
つか、コロシアムも既に半壊状態だ。やり過ぎた……。これ、試合が終わったら請求書とか回されないよね? めっちゃ怖い。最悪、あの変態がやったことにしよう。うん、そーしよう!
そんなことを考えてると、変態が呪文詠唱をしていた。やっべ……、また気を抜き過ぎてた。
「きっ……消え去れっ!! クソ悪魔ぁぁ!! 【煉獄曼珠沙華】!!」
俺の足下に大型の魔法陣が浮かび上がり、地面から出現した黒い鉄鎖が俺の手足に巻きついた。
やっべぇぇぇ!!
「クっ……クフフフ、隙ありですよ! 地獄の炎で焼き尽くされなさいっ!! くらぇぇぇぇ!!」
そして魔法陣から青黒い炎が空に向け舞い上がった。




