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第33話 美しき魔人ファマト

「ふわぁぁぁぁーーあ、なんか久しぶりによく寝たなぁー」


 俺が目を覚ますとリリーナとエリーに身体をホールドされていた。もはや慣れっこだ。もう気にしないことにした。つか、最近こいつら俺より起きるの遅いんですけど? 夜更かしでもしてんのか? 困った奴らだ。

 

 俺が起き上がろうと布団を捲ると、リリーナの可愛いおケツがポロンと露わになる。

 あれ? なんでこいつパンツ履いてねーの? あっ、しかもタイミング悪くリリーナも起きやがった。

 ははっ……まじかよ。これって朝から死ぬパターン? 起きたら勝手に地雷が設置されてるってどういうこと? 地雷の呪いにでも掛かっているのだろうか? リリーナの奴、まだ目をゴシゴシしているからパンツ履いてないの気付いてないな。よし、今のうちに退避しよう。


 スタコラッサッサーっと。





 DB(ダンジョンバトル)まで一時間を切った。意外に緊張感とかはない。マスタールームで鼻くそをほじりながらモニターを見ていると一階席から金髪ショートボブのサキュバスさんが紅茶を持ってきてくれた。

 おぉ、気が利くな!! つか、この子も乳がデカい!! もう巨乳はサキュバスさんの種族スキルなのか!?


「ヨルシア様、お茶をどうぞ」

「えっと、君は……?」

「はい! シャーリーと申します。リリーナとは秘書科で一緒でした。同級生です!」

「そっか。シャーリーね。よろしく。あと、お茶あんがとね!」

「はい! ヨルシア様、あの、えーっと、その……、今日のダンジョンバトル頑張ってください!! モニターの前で一生懸命応援してますっ!!」


 そう言ってシャーリーは1階席の方へ走り去っていってしまった。

 なんかええ子やな。誰かさんと違って癒し系ふんわり女子だ。シャーリーって言うのか。うん、覚えておこう!


「マスター? シャーリーに何かしたんですか?」


 ビクッと振り返ると、そこにはちょっと不機嫌そうなリリーナさんが居た。

 うっわー……。超気まずい。まだ心の準備できてないんすけど? とりあえずあのパンツを履いてなかった件には触れない方がいいな。よし、スルーだ。スルー。


「いやー、なんか激励ついでに紅茶入れてくれてさ。シャーリーいい子だよねー」

「そうですか。シャーリーは昔からいい子でしたよ。あの、ところでマスター……その、見ましたか?」


 おいおい、リリーナさんや。わざと知らんプリしたのよ俺? ケツだけに。それなのになぜ自分から地雷に飛び込む? そんなに俺に死んでほしいのだろうか?


「……いや、なんのことでしょうか?」

「見ましたよね? 絶っっ対、見ましたよね!?」


 なんだこいつ!? 見ましたよね? とか俺に聞くんじゃねぇ!! 肯定したら100%デスじゃねーか!!


「いえ、本当に見てませんから」

「嘘!! だって履いてなかったもん! ……もうお嫁に行けないっ!!」


 そう言ってリリーナが両手で顔を覆い俯いてしまった。

 いや、お嫁に行けないも何も、俺既にあんたの裸みてんすけど? つかリリーナさん今更なにを言ってんだろうか? マジで壊れてんのか?


  めんどくせー、めんどくせー、めんどくせーと心の中で連呼していると、マスタールームにアラーム音が響き渡る。


【ダンジョンバトル10分前になりました。対象者はコロシアムに入場して下さい】


 よかった! 天の助けだ。さっさとコロシアムに行こう。俺は二階テラス席に出現したコロシアムへと続く扉に向かおうとすると、後ろから服の裾を引っ張られた。


 リリーナさん? あの……、DVだけはやめてくださいね。俺、今から戦いに行くので。


「……マスター、危ないと思ったらギブアップしていいですからね。負けても怒らないですから」


 おっ、当初と言ってることが変わってんな。一応こいつなりに心配してくれてるみたいだ。無理をするつもりはないが負けるつもりも毛頭ない。


「リリーナ!」

「はいっ!」


  急に強く名前を呼ばれたので、リリーナが驚いて俺の服から手を離す。


「そう心配すんなって。きっと大丈夫だからさ。じゃ、いってくるわ!」


  最後まで心配そうな顔をしているリリーナに見送られ俺はマスタールームを後にした。

 そういえばエリーのヤツ起きてすらこなかったな。あんにゃろう爆睡かよっ!! うらやまっ!!





 コロシアムに到着すると、そこは何層もの座席のある楕円型のスタジアムであった。ただし、観客などはいないので恐ろしく静かだった。足下は砂地なので風が吹くと砂埃が舞い上がる。


 俺はコロシアムの階段を下りていくと、中央に何かが見えた。


 ん? オブジェか? いや、闘技場の真ん中にオブジェなんてあるわけないか。

 近づいてみると一つ目の魔人がコロシアムの真ん中で目を閉じてホットヨガをやっていた。しかもカラスのポーズだ。このポーズまぁまぁ難しいんだよな。


 つか、何やってんのこの人? これからココで俺ら戦うんですけど? そもそもさ、なんでコロシアムでホットヨガやってんの? 家でやれやぁ!!


 いや……もしかしてこいつツッコミ待ちなのか? 俺がどうツッコミを入れるかを試してんのか!? くそ、リリーナさんを連れてこればよかったな。


 俺がどうツッコミをしようか考えていると、一つ目の魔人も俺の存在に気が付いたようでお互いの目が合った。互いの頬に冷や汗がつたる。


 こいつ、本当に普通にヨガやってただけだ……。ボケてすらいなかった。ただの馬鹿じゃねぇか!!


 すると一つ目魔人が手に付いた砂をパンパンと払い立ち上がった。その出で立ちはスキンヘッドに、上品な光沢が光るカーディナル・レッドのタキシード。胸ポケットには一輪の真っ赤な薔薇の花が。そして額には単眼魔人族(アーリアマン)特有の小さなコブ角がニ本生えていた。うん、俺の直感が言っている。こいつきっと真性の変態だ。じゃないと、こんな色のタキシードなんてオーダーしないだろ。


「クフフ……、貴方が巷で噂の新人ダンジョンマスターのヨルシア様ですね」


 そう言うと一つ目魔人が上着の裾の両端を持ち、カーテシーのようなお辞儀をしてきた。

 キモっ!! マジキモっ!! それにこいつ、さっきのをなかったことにしようとしてやがる!! あえてのスルーか。


「おやおや? どうされましたか? あまりの(わたくし)の美しさに声が出ませんか? おっと、申し遅れました。(わたくし)はファマト。人呼んで【美しき魔人のファマト】でございます。どうぞ、お見知りおきを」


 へっ……変態だっ!? 自分で自分を美しいとか言っちゃってる。ヤバイ、めっちゃ帰りたい。どうしよう?


 するとコロシアムにアナウンスが響く。


【ダンジョンバトル開始まで残り一分となりました。戦闘準備を開始してください。勝利条件は相手の降伏、又は相手をノックアウトにする以上の二点です。なお、相手を死亡させた場合は負けとなります】


 おぉ、そうだったのか。殺したら駄目なのね。OK、OK。負けても俺死なない。でも負けて帰ったらリリーナさんにトドメ刺される。だからどのみち負けたら死ぬ。……よし、久しぶりに頑張ろう!! オレマダシニタクナイ。


「クフフ……、貴方も酔狂な御方だ。苦労して手に入れた地底魔城と、たった数階層を賭けるなんてどうかしています。貴方はパケロ・シュレーゲルとは昔からの友人なのですか?」

「いや、昨日雇ったばかりの眷属だ」

「クハハハハハ!! 昨日会ったばかりの下僕のために地底魔城を賭けるというのですか!! とんだお馬鹿さんですねぇ。Bランク悪魔というから警戒しておりましたが、その必要もなくなりましたよ」

「そりゃどーも。それ、うちの秘書にもよく言われるわ。でもな、訂正しろ。ケロ君は下僕ではなく俺の眷属だ!!」


 ケロ君を馬鹿にされた感じがしたので、目力を入れギンっと睨む。

 

「どちらも同じことではありませんか。眷属とはただの使い捨ての駒に過ぎません。それともなんですか? 貴方はお友達とでも思ってるのですか? あーいやだ、いやだ。本当に青臭いですね。そんな青臭い童貞臭がする悪魔にあの地底魔城は相応しくありません!! 私が有効活用してあげますよ!!」


【ダンジョンバトル開始まで5秒前……、4・3・2・1……バトル開始(スタート)!!】


「クフフフ……、このダンジョンバトルを受けたことを後悔しなさいっ!! 一瞬で終わらせますよぉぉ!! 【催眠の魔眼(スリーピー・ホロウズ)】!!」


 ファマトの大きな単眼が深碧色に光り、魔力の波動が俺の身体を包み込む。なるほど、これが魔眼か。


「クフフフ、掛かりましたね。では悪魔ヨルシアよ。全裸になり美しき私の前に跪き許しを請いなさい!! この美しきファマ……」




——バチコォォォォォォォーーン!!!




「ぶべらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!!」



 ファマ……なんだっけ? うん、もう変態でいいや。

 隙だらけだったのでとりあえず顔面にキツイのを一発叩き込んでやった。変態は水切りの石のように飛び跳ねてコロシアムの壁へと激突する。そして、ぶつかった衝撃で壁が砕け散り周囲を粉塵が包んだ。

 これで終わってくんねーかなー? もう俺はこれ以上こいつに関わりたくない。


 眠れっ、変態!!


 




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