第32話 1 対 1
「ふむ、なるほどのう。此奴のためにDBをするのか」
「ケっ……ケロケロケローー!?」
マスタールームでエリーに事情を話していると、ケロ君の顔色がどんどん青くなっていき、しまいにはなぜかキレイな土下座をし始めた。どうしたのだろうか?
「マスター! ちゃんとエリー様のこと、パケロさんに説明しないと駄目じゃないですか!」
あっ、忘れてた。面接者たちにエリーを見られるのはマズいと思って、エリーにはここ数日マスタールームに引き籠ってもらっていたのだ。羨ましい限りだ。いや、ほんとに。
「ケロ君。エリーは神様だけど、今はうちに居候してるだけだから、そんなに平伏しなくてもいいぞ? とりあえず、まずはうちの環境に慣れろ。ここにいる限りエリーは神ではない。ただの居候だからな!」
「かっかっかっ! そうじゃぞ、パケロとやら。妾のことは気軽にエリーと呼ぶがいい」
「ケっ、ケロォォー?? ケロケロケロッピ」
リリーナによると、今のは「マジっすか? 兄貴パネェー」という意味だそうだ。
「リリーナ、とりあえず今来てるDBの申請依頼を全部モニターに映し出してくれ」
「了解しました」
リリーナがヘッドマイクで一階オペレーター席にいるサキュバスさんたちに指示を送ると、膨大な数のDB依頼がモニターに映し出される。そういえば、一階席のサキュバスさんたちに挨拶とか全くしてねーや。名前とかわかんねー。
「マスター、モニター表示完了しました」
「おぉ、ありがとう。にしても多過ぎね?」
DBの申し込みは優に1000件を超え、表示された申請書には迷宮主の画像付きで賭ける階層や眷属などが記載されていた。どうやらDBに勝てばそこに住む配下も頂けるようだ。
つか、仲間を賭けるなんて信じらんねーな。物かよ!? どれだけDPが厳しくても俺は絶対仲間をかけることはしたくない。おっ、いま俺いいこと言った気がする!
そして申請書を見続けること10分……。
おいおい……、マジで内容が酷すぎるぞ。俺の地底魔城に釣り合う内容の物が何一つとしてない。
まず通路が一本だけの一階層だったり、ため池のみの階層とかありえないだろこれ? この賭け金で誰が勝負受けるの?? 迷宮主が馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたがコレは馬鹿すぎる。賭けにすらなっていない。俺が半場諦めモードで迷宮主の画像をスライドし続けているとケロ君が突如叫び声を上げた。
「ケロケロ!! ケロット、ケロット!! ケロケロケロケロォ!!」
……ケロ君、すまない。君の言葉がわからないんだ。必死にジェスチャーをしてくれてはいるが、俺にはそれが変な踊りにしか見えない。今、君のやってるドジョウ掬いには、本当に何か意味があるのだろうか?? 俺はリリーナに目を配ると、リリーナも俺の意図を理解したのか説明をし始めた。
「マスター、その迷宮主なんですが、どうやらパケロさんのダンジョンを奪い取った魔族だそうです」
「んっ? どういうこと? ケロ君ってダンジョンマスターだったの? 親が元魔王ってことは聞いていたけど」
「ケロっ! ケロケロケロケロケロケロケロオロケロロン……」
再び、ケロ君が語りだす。『ケロ』でまたもゲシュタルト崩壊しそうになり以下省略。リリーナに訳してもらい俺なりにまとめるとこうだ。
親がダンジョンマスター兼魔王➝やってきた勇者に倒される➝ダンジョンコアを持って家を脱出➝配下と共に新たな場所でダンジョンを作成➝しかし中々上手くいかない➝DBをやる➝相手にハメられる➝ダンジョンと配下全て取られる➝孤独➝俺を知る➝面接すると、いうのが詳しい事情のようだ。ダンジョンが無くなったのは自分自身が招いたことだったので、面接の時には話さなかったようだ。しかしDBでハメるとか、相手も中々の悪だな。
「ちなみ、ケロ君はどういう風にハメられたの?」
「ケっ……ケロォーケ……ロケロケロケロ……」
くっ、何度ゲシュタルト崩壊をさせれば気が済むんだ!! ケロ君に悪気はないんだろうが、さすがにこれはきついぞ!! するとリリーナが同時通訳をし始めた。やだ、この子優秀!!
「マスター。パケロさんとはDBの中でも異例のマスター同士の一騎打ちで勝敗を決めたそうです。相手は格上のランクでしたが、ハンデ戦を持ちかけ武器、魔法使用なしの条件でパケロさんに勝利したようです」
「マジで? それは相手がスゲーじゃん! ハンデ戦に勝つとかめっちゃ強いし」
「いえ、そうではありません。相手は催眠の魔眼持ちでした。相手をハンデ戦という餌に上手くのせ、勝てるかもと思わせておいてから初見殺しの魔眼発動。すごく卑怯な戦法です」
「なぁ、リリーナ。催眠の魔眼って何? 寝るの?」
あっ、リリーナがめっちゃイラってしてる。今日はいつもより青筋が太い。
ふふっ、絶好調で地雷踏むな俺。もう笑っちゃうぜ。すると見かねたエリーが説明をしてくれた。
「ヨルシア、催眠の魔眼というのは相手に強力な暗示を掛けることができる魔眼じゃ。非常に強力なスキルの一つじゃの。だがしかし、魔眼持ち同士は力が反発し合ってその効力を打ち消す。お主には効果がないのう」
「へぇー、そうなんだ。リリーナ、相手のデータはあるか?」
「はい。相手は単眼魔人族のファマト。位階ランクはマスターと同じBランクとなります」
「ほう、中々強そうだな」
「そうですね。相手はマスターよりも場数を踏んでますし、その悪辣な手段が有名なダンジョンマスターです。DBは辞めた方が無難ですね」
「ケロォォ~」
ケロ君の残念そうな声がマスタールームに響き渡る。うーん……。
「なぁ、リリーナ。俺がそいつと戦ったら負けると思うか?」
「いえ、全然思いません。しかし、相手は卑怯を形にしたような魔族です。私としてはマスターとは戦ってほしくはありません」
「ふーん……」
俺は賭け内容を変えてDBの申し込みボタンをクリックする。
「ちょっとマスタぁぁぁー!?」
「いや……、だってリリーナが負けないって……」
「言いましたけど、戦ってほしくないって言いましたよね!?」
「まぁまぁ、リリーナ落ち着くのじゃ。すぐに取り消しをすれば、まだ間に合うぞ?」
【ダンジョンバトル申し込みが受理されました。あなたが挑戦者となります。相手が条件を決めています。………ダンジョンバトル『1対1』が選択されました。ダンジョンバトルは明日AM10:00開始です】
「「「……………………」」」
「おっ、明日10時だってさ。早ぇーな! 俺、起きれっかなぁー?」
「な、なっな……なななな何考えてるんですかぁぁーー!?」
「ヨルシア、お主ちょっと頭のネジが五、六本飛んでおらぬか!?」
「ケっ……ケロン! ケロン! ケロロン!!」
反応は三者三様だった。リリーナは相変わらずプリプリしてるし、エリーはめっちゃ心配してる。ケロ君に至ってはきっと謝っているのだろう。しかし俺に後悔はない。
「しかも、挑戦者になってるじゃないですか!! ちなみにマスター、何賭けたんですか?」
「んっ? 地底魔城」
「相手には?」
「ケロ君から奪った階層とそこにいる配下」
「……もういいです」
「ケッ……ケロォケロォー」
ケロ君がなぜか涙していた。泣きながら変な舞を踊っている。しかし残念ながら彼のボディランゲージは何一つ俺に伝わらない。あっ、またドジョウ掬いしてる!! それなんなの? めっちゃ気になる。
ふと、リリーナの方に目をやると、彼女は腕を組んでそっぽ向いていた。あれ?
「りっ、リリーナさんもしかして怒ってる?」
「怒ってません!! 怒ってません……けど、一つだけ約束してください!」
「約束? なんの?」
「…………絶対に死なないでください」
リリーナさんが泣きそうになっていた。ちょっと待て。ダンジョンバトルって命の危険もあるんっすか? 先に言ってほしかったっス。
そもそも俺ってそんなに弱そうに見えるのだろうか? 俺普段はやる気ないけどやる時はやるよ? とりあえずリリーナの頭をポンポンっと優しく撫でた。
「リリーナ、大丈夫だって。心配すんな。絶対勝ってケロ君のダンジョン取り戻してくるから」
「……わかりました。でも約束は絶対に守ってくださいね?」
「おう、任せろ!」
「じゃあ、精一杯マスターを応援します。その代わり万が一負けたら……」
「えっ? 負けたら?」
は? 負けた時の条件なんてあんの? リリーナさん、後出しはよくないと思うよ? しかし万が一負けたとしても半殺しくらいで済むよね? ……す、済む……よね?
「マスターが負けたら針を一千万本飲んで、地獄の窯に100年浸かり、刀輪処をスキルなしで50年過ごしてくださいね。約束です」(早口)
済まなかったぁーー!?
しかもリリーナの顔がマジだ。負けたら本気でやるつもりだ。
つか、その内容だと負けて生き残っても俺死ぬよね?
えっ? 意味わかんない。死なないでくださいはどこ行った?
とにかく、これは負けらんねぇ!! 頑張れ俺!!




