第30話 ダンジョン眷属面接開始!
「次の方、どうぞー」
リリーナの高らかな声が謁見の間に響く。
謁見の間の扉を開けて入ってきたのは人狼のヒャッハーな感じの奴だった。鬣がいい感じで世紀末ってる。服も袖なしジージャンだ。つか、これ自分で袖を引き千切ったのだろうか? 残念ながらもう見た目で減点である。
「おう、あんたがこのダンジョンの主か! 俺は強い奴にしか従わねぇ!! 俺を従わせたいのなら俺を……「お帰りください」」
「はっ?」
俺の言葉に人狼の眼が点になっていた。理解してないようなので、もう一度言ってやる。
「どうぞお帰りください」
面接を始めて早一週間。俺はもう疲れきってる。……心が。面接を開始したのはよかったのだが、来る奴、来る奴、みんな脳筋かゲスかの二択なのだ。そのヒャッハー狼のように俺を従わさせたければーとか、あまりのゲスっぷりに他のダンジョンを追い出された奴とかばかりだ。
今も玉座に座りながら、敵対心剥き出しのこの馬鹿に、どうやって穏便に済ませて帰ってもらおうか考えている最中である。それなのに、この馬鹿は待ってくれない。
「この人狼の俺じゃあ、力不足だってのか!? そんなに高位悪魔将が偉いのかよ!! 馬鹿にしやがって!! ふざけんなよクソ悪魔!!」
——ジャキン!!
へぇ、こいつもリリーナのようにジャキンできるのか。しかし、残念ながらリリーナのような怖さはない。リリーナの爪剣がエクスカリバーなら、この馬鹿の爪は孫の手のようなもの。鼻で笑ってしまう。じいさんの背中でもボリボリ掻いていればいいものを。
リリーナが止めに入ろうと動くが、俺が片手で大丈夫だと指示を出す。
「くらえっ!! 狼牙爪!!」
俺は飛びかかってくる馬鹿にカウンターで顔面パンチを叩き込んでやった。つか、殴ってくださいとしか言ってないように思える。
——バチコォーーン!!
ヒャッハー狼は、面白いように飛び跳ねそのまま勢いよく扉から出ていった。そのまま転移陣にて魔界へと強制送還だ。二度とくるな!!
ちなみにコレ本日三発目である。一発目は脳筋キザケンタウロス、二発目はゲスオーク、三発目のヒャッハー狼だ。何故か三匹とも激昂し俺に挑んできやがった。面倒くさい限りだ。
「マスター、中々いい人材が来ませんね」
「そうだな。リリーナの知り合いや、ルルの同族、シルキーたちまでは順調だったんだけどなぁ」
そう、ダンジョン面接募集とは別にリリーナやルルの知り合いにウチに来ないかと声を掛けてもらったのだ。すると意外にもリリーナの方には実家からフリーターのサキュバスが近所に数名いるから雇ってほしいとの連絡が入ったり、ルルにも同族が運営する錬金術士協会の方から腕の良い子が数名いるから雇ってほしいと立て続けに申請が入った。
俺は軽くいいんじゃね?と返事をすると、翌日にはサキュバス10名とケット・シー8名が新たに俺の眷属へと加わった。段取り早すぎるだろう……。こっちの受け入れ態勢全然整ってないんですけど?
面倒くさかったので、速攻でリリーナとルルの部下にして後は任せることにした。所謂丸投げである。ルルはかなり恐縮していたが問答無用で押し切った。若干涙目であったが致し方なし。ルルすまんな。俺は統括をしたくないんだ。というわけでルルには錬金室長という立派な役職を付けてあげた。ちなみにリリーナは既に副迷宮主だ。なぜか俺の次に偉い。いや、もしかすると俺より……。
そして最後に一番多くの面接依頼が届いたシルキーたちだ。シルキーたちが所属する、メイド派遣協会では俺のダンジョン紹介文が新人魔王有望株、聖騎士キラー、現最年少の地底魔城保有主と、聞くだけならかなりのやり手っぷりで紹介されていた。どこのエリート魔族なのだろう? ちなみに紹介文を作成したのはリリーナだ。理想と現実のギャップが酷くないか? 幻滅されても俺は知らない。
しかし、それも相まって大量に面接希望依頼が届いたのだ。もう面接するのも面倒くせっと思い面接希望者160名全員を雇ってやった。部屋もあるしいいだろう。好きにやってくれ。魔族の給料である魔素も恐ろしく有り余っている。問題ないだろう。
城に多数のシルキーがやってきたことにより城内が一気に賑やかになった。キャハハ、ウフフである。つか、女しかいねぇな!!
ダンジョンの運営、サポート面は少しずつ強化されていっているが、防衛面ではゴブリダやスライムさんに任せっきりだ。早くもっと種族のバリエーションを増やさなくてはな。
⌘
「次の方どうぞー」
リリーナが次の面接希望者を呼ぶ。
本日最後の面接希望者だ。今日も碌な奴がいなかった。辺境のダンジョンだと来る奴もこんなもんなのかねぇ。まぁ、とりあえずこれで最後だ。早く終わらして風呂に行こう!
「………ケロッ」
そうやって一礼して入ってきたのは、顔が人族寄りのアマガエルの魔族だった。もちろん二足歩行である。うむ、なかなか礼儀正しいね。とりあえず評価プラス10点。そういえば今まで来た野郎共は誰一人、俺に頭下げんかったな。ちょっとイラっとする。面接の練習くらいせーや!
カエル魔族の背丈はゴブリンたちと同じくらいで、その緑青色の髪はアシメントリーに切りそろえられていた。服は水色のマフラーに紺と白を基調にした膝まである陣羽織。羽織の中には甚平を着ている。そして背中には大きな和傘を背負っている独特な佇まいだ。
「……ケロッ」
再び、カエル君?が俺の前に来て綺麗なお辞儀をする。そして真っ直ぐ俺の方を見てきた。いきなり真面目な子が来たせいで、何も話していないのに彼が良く見えてしまう。馬や豚や狼どもがいかに酷かったのかがよくわかった。しかもカエル君?は育ちが良いのか清潔感があってとてもよい。うむ、評価プラス30点。
そしてこのカエル君?と目が合うこと五分……。
まだ俺は一言も発してない。沈黙が部屋を包んでいた。カエル君はその間ずっと目を逸らさず俺の方を見ている。ただその額には汗が滲んでいた。もしかして部屋暑かったのだろうか?
しかし、なんて純真な瞳なんだろう。こう、なんていうか、そう俺頑張ります的な。今まで来た奴のような腐った目ではない! ピュア感があるのだ。うむ、ピュア点として評価プラス50点。
それにしてもいいねー! このカエル君いいよ! 掘出し物かもしれん。よし、掘り出し物点として評価プラス10点だ。
んっ? あれ? これを足すと……既に100点じゃん!! おぉ……彼、満点やん!! これもう合格っしょ!!
そして俺はカエル君?に、こう告げた。
「君、採用!!」
「「えぇーーーーー!!!」」
リリーナとカエル君の声が謁見の間に木霊した。
⌘
「あの、マスター? これ面接なんですよ? 何も聞かなくてもいいんですか?」
俺のあまりの暴挙っぷりにリリーナの待ったが入る。
えー、面ー倒ーくーさーい。もういいじゃん。
そう口に出し掛けたら、リリーナさんの目の奥が光ったので、言葉をすぐに飲み込んだ。さて、少し面接でもするか。
「えー、はじめまして。俺がこのダンジョンの主をやってるヨルシアだ。君を雇いたいとは思うんだけど、少し君のことを教えてくれないか?」
「ケロッ、ケロケロケロ、ケロケーロ」
……俺の額から汗がどっと吹き出した。
あれ? もしかして今日も地雷踏んだ? ねえカエル君? 君は言葉通じないんっすか?? これめっちゃ不味くね? もう採用って言っちゃったし。今更、言葉通じないんで不採用ですって言ったら、俺ならキレる。
「………。マスター、もしかして蛙言語わからないんですか??」
俺はリリーナの問いに対し、微笑みながら静かに頷いた。
「だから言ったじゃないですか!! あれほど面接は慎重にと言いましたよね!? バカなんですか!!」
「だって、仕方ないじゃん!! 第一印象がめっちゃよかったんだもの!! 言葉が通じないなんて夢にも思わんわっ!!」
「ゲッ、ゲロゲロゲロケロッケロ!!」
俺とリリーナが言い争っていると、カエル君?が止めに入ってきた。なんて優しい子なんだろう。きっと、僕のことで二人が争わないでくださいとでも言っているのだろう。空気を読む子は好きです。
「はぁ……、ほんと仕方ありませんね。では、パケロさんの言葉は私が通訳しますのでマスターはそのまま話してください。」
「えっ? リリーナ蛙言語わかんの?」
「マスター、私これでも魔学の秘書科を首席で卒業してるんですよ? これくらいできて当然です!」
おぉーー、さすがリリーナ様だ。できるんなら最初に言ってよ! それならいくらでもディスられるのに! いやー、めっちゃ頼もしい!! まじで見直した!!
つか、カエル君?の名前はパケロって言うのか。最初のケロケロ言ってたのは自己紹介してたのね。
「でも、俺の言葉をパケロ君はわかるのか?」
「大丈夫です。蛙人族の声帯は少し特殊で、我々の言葉を発声できないだけであって、言葉の意味はしっかりと理解されているはずです」
「ケロッ!」
パケロ君が大丈夫ですと言わんばかりに綺麗な敬礼をする。なるほど、言葉は通じなくてもなんとかなりそうだ。急いては事を仕損じると言うが、まさにこのことだったな。
さてと、パケロ君にこのダンジョンに来た理由くらい聞いておくか。まずは彼とコミュニケーションを取らないと。つか、リリーナの奴、俺に蛙言語を覚えろとか言わないよな? 一抹の不安を覚えつつ、面接は続くのであった。




