第28話 迷宮の城主
新たにできた地底魔城を見るために俺達はニ階層の階段を降りていく。
するとそこには巨大な苔むした木々が鬱蒼と茂る森が広がっていた。葉の隙間から差し込む陽光が光の柱となって俺たちを包み込む。
マジでここがダンジョンなのか!? 信じられん!! 精霊が木々に宿るという、あの有名な【精霊の森】の雰囲気に近いんだけど……。
「マスター、どうやら森林型フィールドのようですね。天井や壁にも天候投影や景色投影がされています。マップを確認しながら城を目指しましょう」
「そうだな。それにしても思ってた以上に広いというかデカイというか。とんでもねぇなここは。よし、みんな行くぞ」
マップがなければ迷ってしまうような天然の迷路。道無き道を歩いていくため、それこそ方向感覚を狂わせるだろう。マップがあってマジで良かった……。ダンジョンマスターがダンジョンで迷子になるんて伝説になるくらいの笑い種だ。
そしてマップを頼りに城を探すこと30分。森を抜けると目の前に大きな湖が出現し、その中央には黒い城壁に囲まれた巨大な城が現れた。
「すっげぇぇぇぇー!?」
年甲斐もなく、はしゃいでしまった。恥っ! だがそれも仕方がなし。それほど俺は感動したのだ。
隣を見るとリリーナはあまりの嬉しさにウルウル涙を流している。おいおいおい……リリーナさんマジか? あのリリーナさんが泣くなんて。
「おっ……おい、リリーナ。何も泣かなくても……」
「だってぇ……、だってぇ……」
「ヨルシア、こういう時に包み込んでやるのが男というものじゃぞ?」
「お姉様ハンカチどうぞ!」
ルルは気がきくな。優しさが眩しいぜ! ジト目でリリーナがこちらを見ているが見なかったことにしよう。だって城を見たいからね!
そのまま湖岸を歩き、城に唯一入れる架け橋へと目指す。この城って魔界昔話に出てくるホグ◯◯ツ城みたいなんだよな。城壁の角に建てられた4基の尖塔には青いタペストリーが吊り下げられていて、どれも俺の考えた紋章が刻まれていた。おぉ……ナイスセンス!
そして俺たちは正面にある大きな門を潜り城内へと入る。
するとまず目にするのは、天井から吊り下がり何層にも重なる巨大なシャンデリア。そして足下には美しい波紋の広がる大理石の床。壁沿いには豪華な調度品の数々。恐ろしいほど広く綺麗なロビーだった。
ナニコレ? えっ? マジで? ここが俺ん家なの? つか、家の定義ってなんだっけ? というか靴はどこから脱ぐのだろう? やっべぇぇ……なんだろこの場違い感。逆に引くわー。
驚いていても仕方ないので、とりあえずみんなで手分けして城の一階を捜索した。
まずこの広いロビーを有する宮殿部分には大広間や多目的ホールがあった。ちょっとしたパーティなどを開催できるほどの広さがあるが、面倒くさがりな俺がそんなレッツパーリー的なことをするとは思えないので開かずの間になるだろう。非常にもったいない気がするが仕方ない。パーティやりたくないもの。
次に宮殿の奥にある渡り廊下を通り過ぎると、客室や使うことがあるのかわからない巨大なキッチン、各種作業部屋、そして使用人たち専用と思しき部屋の数々があった。おそらくここが居館なのだろう。一階を調べるだけでニ時間も要した。広すぎだろ。
「凄すぎて広いとしか言葉が出てこんな。ここまで凄いとは思わんかった……」
「ヨルシアよ、よかったではないか。妾が見た中でも中の上、もしくは上の下くらいの大きさの城じゃぞ? お主もこれで一歩魔王に近づいたのう」
「いや、エリー。俺は魔王になんてならねぇから。眷属が増えたら仕事をそいつらに丸投げして俺はさっさと隠居するし」
「マ・ス・タぁー!?」
あっ、リリーナさんの殺気がやべぇ。つい口がスベッてしまった。話題を、話題をそらさなければ!
「ご主人様ぁー! みなさーん!!」
通路の奥からルルの声が響き渡る。天の声!! 助かった!!
リリーナのジト目が痛いが、気にせずルルのもとへと向かう。
「ルルー、どうかしたかー?」
「錬金室を見つけましたー! 部屋も凄いことになってますぅー」
ルルが興奮気味に話すので、俺たちも錬金室へと入ると部屋は以前のニ倍ほどの広さになっており、使用意図がよくわからない謎の実験器具なども増えていた。ここでは言えないような怪しい実験ができそうだ。さらに錬金釜も三種類あり、作りたい物によって釜を選べるのが嬉しい。
「ルル、よかったじゃないか! 錬金室もパワーアップしたし、これで作れる物が増えるな!」
「はいっ! ご主人様ありがとうございます! ますます錬金が楽しみになりました!」
うん、ルルがさらにやる気になってくれた! これからも頑張って色んな物を作ってもらおう。
⌘
探索はまだまだ続き俺たちは城のニ階へと上がった。そこでまず始めに目に付いたのは宮殿部分にある豪華な謁見の間だった。
ステンドグラスから差し込む鮮やかな光の数々。玉座まで伸びる赤い絨毯。高い天井には黒翼の堕天使たちが描かれており、神々しささえ感じた。
「ヨルシア! 見よっ! 玉座の後ろに妾を模った巨大な像が飾られておるぞ!」
エリーが興奮気味にそう言うと、確かにエリーによく似た女神像が鎮座していた。なんでこんなもんがあるのだろうか?
が、しかしその女神像はエリーに比べてかなり大人っぽい。というかバリバリの大人だ。胸なんか盛られすぎじゃね? Gはあるぞ? 増し増しじゃん。
しかし本人は非常に満足気だ。水を差すのもアレだな。これは触れないでおこう。
「おっ……おう。エリー、立派な銅像があって良かったな!!」
「うむ! ヨルシアよ、これからも妾を讃えるのじゃぞ?」
「おっ……おう?」
その他にニ階には、会議室や居館への連絡通路、来賓用の部屋、図書館などがあった。これ掃除や管理する魔族を雇わないとヤバいな。自分でやるとなると、あまりの広さに死にたくなる。後でリリーナに相談でもするか。
そして最後はマスタールームのあった城の三階だ。
ダンジョンマップ表記だとマスタールームのある宮殿部分は三階となるが、この宮殿部分は一階毎が非常に縦長のため、三階にある連絡通路から居館へと移動すると五階へと繋がる。(居館は全六階建てだ)
そしてこの三階には例のマスタールームと、俺の寝室、リリーナやエリー、ルル専用の部屋があった。リリーナたちの部屋は通常の部屋に比べると、非常に広く部屋数なども多い。ちなみに4LDKだ。まぁ、キッチンなどは使用しないため、きっとオブジェと化すだろう。
まだ他にも個室部屋はあるが、今は住人がいないのでスルーだ。それにしても何故か自室ができていたことによりリリーナの機嫌がめっちゃ悪い。……解せぬ。
そして、何よりも楽しみな俺の部屋……。
そう、念願の個室だ!! これほど嬉しいことはあるのだろうか。これでやっと……やっとゆっくり寝れる。重厚感があるドアを開けると、そこは魔界にある高級ホテルのロイヤルスイートより豪華な部屋だった。
まず部屋の数だけで10室はある。どうしろと?
寝室も三部屋。どれもベッドが前のよりもデカい。どうしろと?
そして風呂もニつ。大理石風呂と檜風呂。大浴場が消えて残念だが、まぁ許容範囲内だ。仕方ないだろう。
これで一通り城内の探索が終わった。疲れたので俺の部屋にあるソファーで、紅茶を飲みながらみんなで寛いでいると、俺の中で一つの懸念が生まれる。
もしかして俺の部屋、こいつらのたまり場になるんじゃね?
いかんっ、いかんよコレぇぇ!! これだけは阻止しなければ!! せっかくの個室が無と化す!!
「さて、これで一通り確認し終わったわけだが、お前ら勝手にお……」
俺が一言、こいつらに物申そうと思ったらエリーが口を挟んできた。
「ヨルシア、何を言っておる? 地下にある極大浴場は見に行かんのか??」
俺はエリーの言葉に驚愕する。極大浴場だと!? 慌ててダンジョンマップを確認すると地下に極大浴場と記載されている施設が確かにあった。
これは物申している場合ではないな……。完全に見落としていた。風呂マニアの俺としたことがなんたる失態!! 確認しに行かねばっ!!
あぁ……、神よ。これほどあなたに感謝した日はない。しかし、この場合の神ってエリーだよな? 今更だけど、この人はこんな場所に居ていいのだろうか? でもまぁ、とりあえず拝んでおこう。
「ヨっ……ヨルシア!? いきなりどうしたのじゃ!! 何か気持ち悪いぞっ!!」
エリーに祈りを捧げただけなのになぜかディスられた。……解せぬ。
⌘
そして地下にある極大浴場へと移動すると、まず始めに目に入ったのは紫色の暖簾だった。暖簾には【魔界乃湯】と表記されている。
おぉ……、まさしくこれは魔界にある高級温泉旅館の佇まい。俺は胸の高鳴りを抑えながら暖簾を潜った。
中へ入りまず驚いたのは、微かに香るお香の匂い。これはポイントが高い! この匂いを嗅ぐだけでなぜか癒される。つか、まじで温泉旅館じゃん!! お出迎えなどがないのが残念だが、そのうち従業員(眷属)を雇おう。
正面に【魔男】【魔女】と書いてある暖簾が目に入る。
うむ、混浴でないところが嬉しい。実は最近、俺が風呂に入っているとエリーとリリーナに襲撃され落ち着いて風呂に入れなかったのだ。リリーナは恥ずかしがる割に混浴をしたがる。壊れているのだろうか?
浴場へと入ると風呂の種類も増え、滝風呂や砂風呂といった魔界にある津々浦々の温泉が揃えられていた。中には溶岩風呂や超塩酸風呂などもあったが、さすがに命と引き換えに入るのは勇気がいる。
しかし庭園露天風呂や、ミストサウナなど俺好みの新しい風呂やサウナがあったのは嬉しい。これで毎日のストレスが癒されるはずだ。
せっかくなので、みんなで風呂に入ることにする。念のため、覗くなよと言うとリリーナに「逆だから!」と、突っ込まれた。……解せぬ。
⌘
そしてそのまま二時間ほど風呂を堪能した。予想以上に長風呂をしてしまったな。それでもまだ半分も堪能していない。あぁ……、素晴らしきかな風呂人生。風呂を開発したという昔のイセカイジンには感謝だな。
しかしそろそろ部屋へと戻るか。風呂も最高だったが部屋のあのベッドも最高なはずだ。軽く10日は寝れる。(邪魔が入らなければ)それに実はすでに寝るベッドは決めているのだ。俺が一番落ち着くと思った部屋だ。
ふふ……、楽しみだぜ!! どうせなら結界張ってゆっくりと寝てみるか? いや、しかしそれをやればリリーナの逆鱗に触れるかもしれん。悩むな……。そんなことを考えながら俺は寝室のドアをガチャリと開ける。
するとそこには既にベッドでくーくーと寝息を立てているリリーナとエリーがいた。
俺はそのままゆっくりドアを閉め、隣の部屋で床へと就いた。
本当に一言言ってもいいですか??
……解せぬっ!!(白目)




