第26話 遅延の魔眼
「ふわぁぁぁぁあ……、あーぁ、今日もよく寝れなかったな……」
最近、俺には悩みがある。まずはこのベッドを見てほしい。
俺の左にはリリーナが。右にはエリーがそれぞれ寝ている。しかもニ人は俺に絡みついて寝てくるのだ。暑苦しくて仕方がない。俺は抱き枕かっつーの!
ちなみに今日でルルがダンジョンに来てからニ週間が経つ。一向に俺の仕事はちっとも楽にならねぇ。なぜならリリーナがどんどん仕事を回してくるからだ。何かがおかしい。こんなはずではなかったのに。
それにしても職場だけではなく、プライベートまで一緒となると俺の心休まる時間がない。
だからそれぞれに部屋を作ろうと言い出したが、リリーナにDPが勿体ないので今のままでよいと言われた。しかも、かなりキレ気味に。マジで怖かった……。
ただ、ルルに関しては個室を作ってあげることになり、錬金室の隣に黒猫のネームタグが付いたルル部屋が完成している。マジで羨ましい……。
――独りになりたい……。そして願わくば個室が欲しい。
これが今の俺の願望だ。まぁ個室は無理かもしれないが、せめてたまには独りになりたい。
そうだ、外へ出てみるか? いや、バレた時リリーナがガチキレする確率が高い……。やっぱ、やめるか? リリーナ怖いもんね……。
……いや、待て。逃げちゃダメだ。ここで恐怖に屈したら何もできなくなる。
よし、気分転換に外へ行こう!! 二人が寝ている今がチャンスだ。自由が俺を呼んでいるぜ!!
そして俺はダンジョン内転移で入口付近へと転移した。
⌘
ふっふっふっ……有言実行。普段サボりがちな俺でもこういうことに関しては行動力はあるのだ。さて、見つかる前に外に出……。
「おぉ!! 主様!! こんな朝早くからどちらへ行かれるのですか!?」
背後から声を掛けられたので振り向くと、そこには完全武装したゴブリダが立っていた。
おいおいおいおい、いきなり見つかったし。あかんやん。外に出れんやん。つかゴブリダの奴なんでこんなとこにいんの??
「ゴブリダこそこんなに朝早くどうしたんだ?」
「実は、ここ最近人族たちがダンジョン前で何やらやっておるのです。侵入こそしてきませんが、どうも気になりまして。ですので人族が寝ている時間にこうして偵察を行っておりました。ご報告が遅れて申し訳ございません」
ふーん……、偵察ねぇ……。うん、言い訳には最適だな! よし外へ出る口実をゲットだぜ! ゴブリダサンキュー!!
「とりあえず、そういうことなら俺がパパッと外を見てくるわ!」
「いけません! 主様! 外は危険にございます」
「だぁーーいじょぶ、大丈夫!! ゴブリダ心配しすぎ。じゃ、行ってくるからよろしく!」
そう言って俺は入り口を目指し走り出した。
「なっ……何てことだ……主様が危ない! リリーナ様に報告しなければ!!」
そんなゴブリダの爆弾発言などツユ知らず、俺は数か月ぶりにダンジョンの外へと出た。
しかし…………。
そこはすでに俺が知ってる森ではなかった。
ダンジョンを隠すように生い茂っていた木々は綺麗に伐採され、目の前には石畳の立派な道ができていた。しかもダンジョンの入口がなぜか石造りの神殿のような形となっており両脇に女神像が立てられている。
んーー……、教科書で見たことあるようなないような……。
あぁ!? もしかして、これ結界か!?
試しに触ってみると、ジュッ……という音と共に指先が焦げた。あっつぅ!!!
これって魔物がダンジョンから出ないようにするための結界だよな?
つか、魔物の集団暴走を防ぐための魔封じの神殿じゃねーか!!
なんでこんなもん建ててんだよ! バカかっ!? 魔族にとっては神殿=墓だぜ? 人ん家にこんなもん作んなや!! お前らだって家の前に墓地ができたら嫌だろうがっ!!
あまりにムカついたので俺は深淵魔法の一つ【暗黒破壊波動砲】を唱えた。
使ったことねーけど、ランクアップした時に覚えた魔法の一つだ。見た感じかなり強固な結界だが、この魔法ならぶっ壊せるだろう。死にさらせ結界がぁぁぁ!!
両手を突き出すような形で魔法を発射する。オラァァ!! 轟音と共に黒い閃光が解き放たれる……。
——ドゴォォォォオォォーーーーーーン!!
案の定ダンジョンを包む結界は粉々に砕け散ったが、俺の想像以上に強力な魔法だったようでキロ先にあった大きな岩山は【暗黒破壊波動砲】によって半月の形に変わっていた。
おいおい……、地形変わってんじゃん。
うわぁぁぁ……、ひくわー。なにこの威力? 町くらいなら簡単に吹き飛ばせるんじゃね? やらねーけどさ。
しかし、これでやっと外へ出れる。
俺は空へと飛び上がりダンジョン周辺を見ると、数百メートル先に木の塀で囲ってある小さな集落を発見した。
うわぁぁ……。やっぱり集落できてるじゃん。
しかもさっき俺が放った魔法のせいで、宿屋のような建物からワラワラと人が出てきてるんですけど? ……しまった。やり過ぎた感が半端ない。ざっと80人くらいいるな。アレ全員冒険者なのだろうか?
「おい、なんだあれは?」
冒険者が俺に気付き指をさしていた。
やっべ……、バレた!?
こいつらとは戦う気はないので、その場を立ち去ろうとすると、逃げる間もなく魔法や弓矢が俺目掛けて飛んできた。だから敵意ないってば!!
よし、そうだ。あいつらに友好の証として、このアメちゃんをやろう。このアメちゃんは凄いぞ? なんたってあの恥ずかしがり屋のルルとはこれで打ち解けれたのだ。
俺がポケットをゴソゴソ漁っていると、一発の岩石弾が顔面にクリーンヒットする。
あいたっーー!? ……おいおい、こんにゃろう(怒)。これはあまりにも理不尽ではないか?
すると岩石弾が俺に効くと勘違いしたのか、恐ろしい数の石つぶてが飛んできた。
こいつらマジでいい加減しろよ。俺は空間魔法の【空間反転】を使い、空間ごと攻撃軌道を変え全て跳ね返えした。
「うわぁぁぁ、跳ね返しただと!? おい、あの悪魔空間魔法を使うぞ! 上位種だ! 聖騎士様を呼んでこい! 俺たちじゃ無理だ!!」
どうやら集落の正面に見える大きな建物が騎士団らしき奴らの駐屯所のようだ。まさか家の前にこんなものを作られてるなんて。だから冒険者たちがドンドン来てたのか。面倒くさいが、とりあえず追っ払っておこう。
「【四天乾坤圏】!!」
これも深淵魔法の1つで、4つの黒い円刃が俺の視線誘導に従って相手を切り裂く。とりあえず建物は全て破壊させてもらおう。こんなもんあるからいけないのだ。撤収撤収!!
「ひぃぃぃぃーーー!! 逃げろぉー!!」
「あの黒い刃に触ると、一瞬でミンチにされる……ごぼぉ……」
建物だけ壊そうと思ったのに、なぜか冒険者たちが自らすすんで円刃に当たりに行っている。バカなの?
別にお前らを殺そうと思っていないのに……。それでも迫りくる円刃を壊そうと、冒険者たちが斬りかかってくるが、剣ごと真っ二つになって瞬殺されていく。何気に【四天乾坤圏】強いな。
——ヒュンッ!!
突如、閃光が俺に向けて放たれたのでそれを半身ずらして躱す。……あっぶねえな。
が、頬を少し掠ったようで一筋の血が垂れていた。撃ったのは正面にいるあいつか。あの白い全身鎧やるな。俺は親指で血を拭うと自己再生の力で傷は瞬時に治る。
そして良く聞くと白い全身鎧がなにやら叫んでいた。
んっ? 降りてこい? はっ? 嫌に決まってんだろ!? あいつ絶対俺と戦う気やん! そんな面倒なことしたくないし!! よし、やっぱ逃げよう!
——ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!
おいっ! あっぶね!! こいつあっぶね!! サイコか!? 滅茶苦茶好戦的じゃん!!
つか斬撃が邪魔で逃げれねーし。背中見せたらソッコー斬られそうだ。
あー、くっそ、やるしかないのか。……超めんどくせー。
どうやら逃がしてくれそうにもないので、俺は渋々地上へと降り立った。
「悪魔め! やっと降りてきたな!! 私はレグナード聖騎士隊 三番隊隊長 シリウス・マッキンドール!! いざ尋常に勝負せよ!!」
うわー、名乗りとか引くってば。つか聖騎士ってお互い相性最悪やん。しかもなんで聖騎士なんかがこんな辺境に来てんだよ。もっと有名な悪魔でも討伐に行ってこいや!
シリウスって奴が名乗りをあげると、ワラワラ部下らしき奴らも集まってきた。皆、同じような鎧を着ているから間違いない。
「はぁー……、マジでやるしかないのか」
「おい、上級悪魔!! 名を名乗れ!!」
シリウスが大剣を俺に向けて叫んだ。まじ、こいつなんなの? KY? しかも俺、上級悪魔じゃねーし。そりゃ、確かにちょっと前まで下級悪魔だったけどさ。まっ、自己紹介くらいしてやるか。
「おい、キザ男。俺は上級悪魔じゃない。高位悪魔将だ。名はヨルシア。これで、いいのか?」
「なっ!? 高位悪魔将だと!? ……馬鹿なっ!? こんな所に出てきていい奴じゃないぞ!! なにが起きてるんだ? 魔王軍が攻めてくるとでも言うのか!?」
なぜか辺り一帯騒めき始めた。中には悲鳴を上げ逃げ出す者、腰を抜かし失禁する者様々だ。
「おい、ここは私が食い止める!! お前たち、全員撤退しろっ!!」
「隊長、無茶です! お一人で高位悪魔将に立ち向かうなんて!!」
おっ、部下の一人が止めに入ってくれてる! いーね、いーね。そのままいなくなってくれ。俺からもお願いしよう。
「いや、なんなら全員逃げていいぞ。手を出さないから。マジで」
「くっ! バカにしやがって。俺たちなんて嬲り殺しで十分だって言うのか!?」
なぜ、言葉の解釈がここまで違うのだろうか? 逃してやるって言ってんのに……。
「聖騎士の名のもとに、貴様を死んでも討つ!!」
いや、意味わかんねーし。死んでも殺すってどういうこと!?
シリウスが白いオーラに身を包みヨルシアに向けて突撃すると、足元の大地は爆ぜ、一瞬で懐まで飛び込んだ。そして等身大ほどある聖なる大剣をヨルシアに向けて振り下ろす。
おおっ、こいつとんでもなく速いな。しかし、避けられないスピードでもない。
一撃、二撃と躱していくが、シリウスがさらに闘気を練ると状況は一変した。
「聖剣技 竜破連刃!!」
シリウスから放たれる、聖なる斬撃の嵐が俺を捉える。が……しかし、それを紙一重で躱し続けた。……本当にギリギリで。
うぉぉぉぉ、やっべ!? こいつリリーナより速ぇぇ!! これ喰らったら痛いヤツだ! しかも思ってたよりも強いっ!!
どうすっかなー。下手に斬りかかればカウンターもらいそうだしな。
……仕方ない。疲れるからあまり使いたくないんだけど、攻撃を喰らうよりはマシか。
——【遅延の魔眼】!!
ヨルシアの眼が妖しく紫色に輝く。瞳孔には悪魔の紋章が浮かび上がり、その魔力がシリウスを包み込む。
すると、恐ろしい速さで斬撃を繰り出していたシリウスに異変が起きた。そのスピードが通常の半分ほどに激減したのだ。
「なっ……動きがっ!? きっ、貴様っ、何をした!!」
「さぁ? なんだろうな?」
俺の両手に2本の黒く輝く剣が出現する。そして剣を振りかぶりシリウスに斬りかかった。黒い閃光のような一撃。シリウスは長年の勘だけでヨルシアの一撃目を防いだ。
「へぇー、やっぱり強いな」
スピードが制限され、ハンデを負った状態で俺の攻撃を受け止めたが、二撃、三撃目と続きシリウスはあっという間に追い込まれてしまった。
「くそぉぉぉ!! 悪魔めぇーー!!!」
シリウスが守りは不利と思い、攻撃に転じようとした刹那、俺はその剣を交差してシリウスの首を綺麗に刎ねた。首はゆっくりと宙を舞い、部下たちの前へに落ちる。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
一瞬でこの場所も阿鼻叫喚の渦に包まれる。
きっとこのシリウスが彼らの精神的支柱だったのであろう。それが、相手にダメージも与えられず、あっけなく首を刎ねられたのだ。恐怖しないわけがない。ある者は必死に逃げ、ある者は死を覚悟に俺にへと向かっていった。
「シリウス様の仇ぃぃぃーー!!」
ガタイの良い騎士がハルバードを振りかぶり突撃してきた。
やれやれ、敵討ちか。こういうの好きじゃないんだよね。
俺は剣を構え薙ぎ払おうとした次の瞬間、その騎士は一瞬にして氷漬けとなった。
——ピキィィィィィィーーン!!
凍てつく白い冷気が辺りを包む。そして一撃で騎士の命を刈り取った。
さっぶ!! つか、こんなことができるやつは俺のまわりに一人しかいない……。
俺の頬に冷や汗がつたる。やっべ、これはマズい……。
振り返ると白い猫さんパジャマに身を包んだ金髪セクシーお姉さんが両腕を組んで立っていた。やっぱりねっ!!
「マ・ス・タァー!! こんな所で何をしているんですか!?」
俺がダラダラ聖騎士と戦っていたら、お母さんが来てしまった。
これ、あかんやつだな!! しっ、叱られる……俺、ピンチ!!




