第22話 高位悪魔将 見参!!
「マスター! それなら私が行きます!!」
「いや、リリーナには別に頼みたいことがあるし、今回は自分の能力チェックを含め、非常に不本意だがあいつらの相手をしてくるわ」
そう、リリーナには幻術を使ってもらい、あのパーティを誘導して大部屋へと誘い込んでもらいたいのだ。陽動大事!
「かっかっか! あの冒険者たちも可哀想じゃのう。ゴブリンのダンジョンと思うてみたら高位悪魔将が出るのじゃから」
「んっ? そんなに変なのか?」
「冒険者としたら有り得ないじゃろうな。のう、ヨルシア? 悪魔族から多くの魔王が出る理由を知っておるか?」
「知らぬっ!!」
「自信を持って言うなぁぁー!!」
「……本人が自覚しておらぬとはのう。よいか、ヨルシア? 悪魔族は魔族の中でも位階ランクの【格】が違うのじゃ。」
「格?」
「そうじゃ。悪魔族のランクアップは非常に難しいのじゃが、それと比例して強さも馬鹿みたいに上がるのじゃ」
「つか、エリーの加護与えりゃ俺みたいに簡単にランクアップするじゃん!」
「ほぼ死ぬがのう! かっかっかっか!」
「笑いごとじゃねーし!!」
「特にCランクの上級悪魔からその差が顕著に表れるのぉ。同ランクのリリーナやクリアスライムを見てみるとわかるように種族としての差は歴然じゃ」
「そうなのか? リリーナ、お前のステータスとスライムさんのステータスモニターに表示してくれ」
「うー……嫌だけど、話の流れ的に断れない……」
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名前:リリーナ・アシュレイ
称号:一級秘書官/副迷宮主
種族:妖魔族
位階:女夢魔(Cランク)
保有魔力量:28900
固有スキル
迷宮魔法(限定)
種族スキル
吸精
スキル
魔爪斬術/魔舞闘/飛行
魔法素質
水氷/氷精召喚/誘惑/幻術/鑑定/生活
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名前:スライムさん
称号:なし
種族:妖粘族
位階:クリアスライム(Cランク)
保有魔力量:8860
種族スキル
分裂/吸収
スキル
擬態/強酸/触手/物理攻撃無効/自己再生
魔法素質
なし
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「本当だ。強さが全然違う」
「うぅ……恥ずかしい……」
「特にリリーナは魔王分家の出身じゃから、それも強さに関係しておる。これが所謂『種族の壁』じゃ」
「なるほど! エリー、ありがとう。よくわかった! とにかく、俺はまぁまぁ強いってことだな!」
「まぁまぁどころか、恐ろしく強いと思うぞ? しかも、お主の場合は妾の祝福まで持って進化しておるからの。同じ高位悪魔将の中でも頭1つ抜き出ておる」
「そうか。あまり気にしてなかったわ!」
「既に魔王級の魔力は所持しておるのじゃが……。まったく気にしておらぬのだな」
「つかさ、そんなことよりも、問題なのがリリーナに付いてた称号のプロバー……ボヘェェアァァアーー!!!」
——ズドォォォォォーーン!!!
リリーナの渾身のかかと落としがヨルシアの頭頂部へとクリーンヒットし、ヨルシアの身体は床へとめり込んだ。
「のう? リリーナ、あやつこれから戦いにいくのじゃが……」
「知りませんっ!!」
「……疑問に思っただけなのに。……理不尽」
⌘
「団長、魔剣持ちどころかゴブリンすらいませんね」
「そうだな。前回、狩り過ぎたのが原因か? だが、バロック、ダジル気を抜くなよ?」
「「了解!」」
チーム【フォレストウルフ】団長のライアンを筆頭に警戒しながら二階層階段付近の捜索をしていた。戦士のライアン、狩人のバロック、魔法使いのダジルの三人組だ。
やはりベテランチームというべきか、他の2チームと比べその足取りは安定していた。周囲の警戒を怠らず、奥へ奥へと向かって行く。すると最後尾を歩くダジルが異変に気付いた。
「……!? 団長、今悲鳴みたいな声聞こえませんでした?」
「いや、俺には聞こえなかったが? バロックはどうだ?」
「俺も聞こえませんでした。しかし、どうしますか? 様子見に引き返します?」
「うーむ、あいつらのことだ。ふざけてるということも考えられるが……。だが、万が一のこともあるな。引き返……」
ライアンが引き返えそうと言い出しかけた時、通路先のT字路をゴブリダが左から右へと通過していった。
「団長! 魔剣持ちですっ!」
「ああ! 俺も見た!! ……ちっ、仕方ない。あいつらは後だ! 先に魔剣持ちをやるぞ!」
「「おう!!」」
ライアンたちがゴブリダを追いかけ通路を曲がると、ゴブリダもその先の通路を曲がり、ゴブリダとライアンたちの距離はいっこうに埋まらなかった。それが三回ほど続き、ダジルが違和感を覚える。
「団長、もしかしてコレ誘われてます?」
「……だな。バロック、この先は二階層に続く階段だっけか?」
「はい。クリアスライムがいた場所です」
「そうか。では、とりあえずこのまま魔剣持ちを追うぞ。そして擬態をするクリアスライムには気を付けろ! 一階層まで出てきてるかもしれん」
「「おう!」」
そして三人はある部屋の前へとたどり着く。そこの壁だけ石造りの外観に鉄の大扉、異様な雰囲気に三人も冷静になるしかなかった。
「団長。マッピングによると以前はこんな部屋ありませんでしたよ?」
「間違いなくボス部屋でしょうね。新たにできたようです」
「だが、所詮一階層だぞ? 出たとしてもゴブリンウォーリアー程度じゃないのか?」
「そうですが、一応皆を呼びますか?」
「皆を招集する間に魔剣持ちを逃したくはないな。お前らはどうだ?」
「同じく」
「私は呼ぶ方が無難かと」
「ダジル、悪いな。2対1だ。行くぞ!」
そして彼らは鉄の大扉を開いた。これが悪夢の始まりとも知らずに。
——ギギギィィーー……バタンッ!!!
三人が部屋へと入ると真っ暗だった部屋が、壁に備え付けてある燭台に青い火が流れるように着火し、瞬時に明るくなった。
「団長っ!!」
「わーってる!! お前ら来るぞっ!!」
そして部屋の中央で三人が背中合わせに辺りを警戒していると正面から一人の男が気怠そうに歩いてきた。
「なっ、嘘だろっ……。あの男……、団長っ!! あいつ悪魔だっ!!」
バロックが叫ぶ。
「おいおい。こんな低階層で出てきたらダメな奴だろっ!? お前ら、出し惜しみはなしだ!! 一気にやるぞ! ダメならソッコー逃げる!!」
「「了解っ!!」」
三人はそれぞれが放てる最大級の技を繰り出した。
「はぁぁぁ、烈風飛燕斬っ!!」
「くらえっ!! 紅蓮弓っ!!」
「……天より舞い降りし雷の化身よ、その力を以って我が敵を薙ぎ払えっ……サンダァーブレーーイドォ!!」
——ドゴォオォォォーーン!!!
粉塵が辺りを包む。彼らが出せる最高の剣技、弓技、魔法だった。実際、これで葬った悪魔がいるのも事実である。
……しかし、彼らが相対しているのは悪魔はもちろん、上級悪魔よりも上位の存在、高位悪魔将。まさに異次元の存在だ。彼らの渾身の攻撃もヨルシアにはダメージすら与えることはできなかった。
「あーぁ、服が汚れたじゃねーか。挨拶もなしで撃ってきやがって。人族は話をせずに、いきなり殺し合いを好む種族なのか?」
「お前ら!! 引くっ……ぞっ……」
ライアンが撤退を指示しようとした、刹那、バロックとダジルがライアンの方を振り向くと、そこには首から上のないライアンの死体があった。
「ひぃっ……!!」
ダジルが小さな悲鳴を上げた。まばたきほどの瞬間に仲間が死んでいたのだ。一瞬にして恐怖が二人を包む。
そして振り返ると、そこにはライアンの頭を右手で掴む、ヨルシアが立っていた。
「っと、まだ慣れないな。ほらっ、返すぞ」
ヨルシアは、右手に持っていたライアンの頭をダジルたちの足下へと投げると、二人がギリギリで保っていた理性は決壊した。
「うわぁぁぁぁーー!!」
「ひぃぃぃぃーーー!!」
今まで戦ってきたどの魔族とも違う。逃げなければ死ぬ。二人の頭の中にはそんな警鐘が鳴り響く。しかし、この悪魔は待ってくれない。
ダジルがバロックに言葉をかけようと振り向くと、すでにバロックの眉間には黒く煌めく刃が突き刺さり、その切先からは赤い雫が滴り落ちていた。そして、黒い刃が引き抜かれると、そのままバロックはゆっくりと膝から崩れ落ち横たわる。床には赤い血の花が綺麗に花開いた。
ダジルの心の中に絶望が広がった。これまで何度も命の危機を切り抜けてきたが、目の前のそれは常軌を逸していた。まるで花を摘むかのように二人の命を刈り取られたのだ。するといつの間にか、ダジルの目の前まで移動していたヨルシアが口を開く。
「うわー、暗黒剣もすげーカッコ良くなってんな。なんじゃこりゃ?」
死の恐怖で緊迫した場面を崩すような言葉の数々。しかし、それがこの悪魔を余計に不気味にさせた。この悪魔の底が測れない。そしてダジルはある一言をポツリと口にする。
「……上級悪魔」
下級や悪魔などとは比べ物にならないほどの強さを持つ悪魔だ。しかし、この悪魔はダジルをさらに失意のどん底に叩き落とす。
「んっ? それ俺のことを言ってるのか? そしたら違うぞ。なんか俺、高位悪魔将ってのらしーんだわ」
「あっ……ああああり得ない。そんな、魔王の側近のような奴がなんでこんなところに……。あはっ……あはははははは!!」
あまりに酷い現実にダジルの心は壊れた。戦うことも逃げることもできない。そんな理不尽な実力差に抗う術はなく、彼の心は壊れ、笑いながらその人生の幕を閉じた。




