第21話 炎の魔剣使い
「ギル、部屋の様子はどうだった?」
「ニール、大丈夫だ。モンスターはいない。とりあえずここを拠点にして捜索を始めるか」
この小隊を任せられている戦士のニールのもとに、斥候に出ていた狩人のギルが報告に戻ってきた。
「そうだな。ダスとオルドもそれでいいか?」
「「ああ」」
そして同じく戦士のダス、魔法使いのオルドもその指示に従った。ダンジョン探索をするうえで安全に休めるセーフティーポイントを作ることは何よりも重要なことだ。
「よし、じゃあ団長やガルドたちより先に魔剣持ちを狩るぞ!!」
「「「おおっ!!」」」
⌘
「マスター、拠点2へと冒険者たちが入室しました」
「よし、では作戦に移るぞ」
「ヨルシアよ、相手はそこそこのベテランパーティじゃが、ゴブリンたちだけで仕留められるのか? そちも出た方がよいのではないか?」
「エリーの言う通り、正攻法で挑んだらゴブリダでもやられるだろうな」
「では、どうするのじゃ?」
「実力では圧倒的にこちらの不利だが、地の利はこちらにある。相手の陣形を崩し、隙さえ作れば実力が劣っていようが勝てる確率は格段と上がるんだよね。だからその隙が作れるように、陽動をかけ十字路まで誘い込み囲んで仕留めるつもりだ」
「なぁ、ヨルシアよ。なぜ、そんなに頭の回転が良いのじゃ? 本当に変じゃぞ?」
「確かに。やる時はやると思いましたが、戦術に関しては病気かと思うほど頭が回りますね」
なぜかエリーとリリーナに心配された。つか、ディスられてる? マジで失敬な奴らだ。
「俺って、マジで働く気ないだろ? 仕事は全部他の奴らに押し付けたいんだよね。だから、こういう戦術系の科目は特に勉強したのよ。これはいかに効率よく自分が働かないかを考えた結果に過ぎない」
「理由がクズじゃのう」
「クズですね」
二人からやはりディスられた。頑張ったのに酷くね!? とりあえず冒険者の彼らも早々に散ってもらうとしますか。
⌘
「しっかし、ゴブリンが魔剣を所持してるってどういうことなんですかね?」
「さぁーな。だが、もしかしてこのダンジョン地下へ進むほど、お宝も凄い物があるのかもな」
「うひゃー、やる気上がるな!」
「おいっ! みんな見ろっ! なんだあの光は?」
冒険者たちの前方に松明のような炎が浮かび上がった。
「……炎? おい!! 魔剣持ちだっ! 通路の先に魔剣持ちがいるぞっ!!」
するとゴブリダが炎の魔剣を振りかぶり、炎の斬撃を前方にいるニールたちへと飛ばした。
炎の斬撃は通路の真ん中を切り裂き、斬撃跡に沿って地面が燃え上がる。
ニールたちはそれを左右に分かれ斬撃を躱した。
「あっ……ぶねぇ。あの魔剣、斬撃を飛ばすことができるのか。おい、ダス! 俺とお前で距離を詰めて魔剣持ちの攻撃を封じるぞ! 遠距離から撃たれなきゃあんなの怖くねぇ!」
「おう! ギルとオルドは援護を頼むっ!」
「任せろ!」
「ふん、俺の魔法の餌食にしてやるっ!!」
前衛二人が距離を詰めるために、ゴブリダに向かって猛チャージするが、ゴブリダはすぐさま後方へと撤退してしまった。
「なっ……逃げただとっ!? ちっ……お前ら、追いかけるぞ!!」
ゴブリダが撤退したことにより、冒険者パーティは慌てて追いかけることとなった。しかし後衛二人にとって、前衛二人のとった行動は、警戒を疎かにしている最悪の悪手とも言える行為だ。同じようには追いかけられない。
「ニール、ダス待て!! くそっ、あいつら魔剣のことしか頭にないのかよ。オルド、俺たちも追いかけるぞ!」
「……仕方ないな」
前衛がゴブリダを全力で追いかけたために、後衛との距離がかなり空いてしまった。後衛二人の警戒虚しく、前衛二人は目の前の魔剣持ちを追いかけるのに必死だった。
「へへっ、魔剣持ちの奴、このまま真っ直ぐ逃げてくれれば行き止まりだ」
「そこで倒せるな。ダス、抜かるなよ!!」
そして十字路に差し掛かり、前衛二人が十字路を真っ直ぐに走り去ったところで事は起きた。
「あいつら、連携ってもん完全に無視してやがるな!」
「仕方ないとはいえ、問題行動だな。ギル、とにかく追い付こ……ぐぁぁぁぁ!!」
ギルがオルドの方を見ると、鉄の短槍がオルドの太腿に深々と突き刺さっていた。
「なっ……オルド!? 槍っ!? うわぁぁぁぁ!!」
二人が十字路を抜けようとした瞬間に、左右からゴブリンたちによる槍の投擲を受けたのだ。全くの無防備状態からのゴブリンたちによる奇襲攻撃。二人は為す術もなく、あっという間にゴブリンたちの槍の餌食となった。そして多数のゴブリンたちがナイフ片手に息も絶え絶えの二人へと襲い掛かる。確実に息の根を止めるために。
そして後方から上がったギルの悲鳴に前衛二人は自分たちの悪手にやっと気が付いた。
「うわぁぁぁぁーー!!」
「……!? ダス、今の声聞いたか?」
「あぁ、ギルの声だった。ニール、戻るか?」
「クソっ、仕方ない後ろの二人と合流するぞ」
追う者、追われる者の立場は簡単に覆る。
そしてニールたちがそれに気付くのに、そうたいして時間は掛からなかった。
――ズシァァァーー!!
「ぐぁぁぁぁー!!!」
「ニールっ!!」
ゴブリダが放った炎の斬撃がニールの背中へと直撃する。その威力は鉄の鎧すら切り裂き、斬撃の跡に沿って傷口が燃え上がっていた。ダスは鞄からポーションを取り出し、素早く傷口へと振りかける。
「くそっ、振り向いた瞬間にこれかよ!? 狙ってやがったのか? ニール、走れるか!?」
「くっ……、思ったよりダメージが大きい。走れたとしても奴に追い付かれるな。ダス、お前はオルドたちと合流してくれ。俺は何とかここで奴を食い止める!! 守り重視でいけば、お前らの戻ってくる時間くらい稼げるさ」
「……わかった。必ず戻る!! 絶対、生きてろよ!!」
「ふん、言われるまでもない。行けっ!」
そう言い残し、ダスはニールのもとを去っていった。そしてこれが二人の永遠の別れになるとも知らずに。
ゴブリダが右手に炎の魔剣を構えながら静かに歩いてくる。ニールにとってそれは死の足音。逃げれないと悟ったニールは剣を抜き、ゴブリダに向けて渾身の斬撃を放った。
しかしゴブリダはそれを軽々と受け止め、ニールに斬り返しの斬撃を浴びせる。炎の魔剣はニールの身体半分まで埋まり、そのまま激しく燃え上がった。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ニールの断末魔の悲鳴は合流に向かったダスにまで届いたがダスは振り向かなかった。後衛二人と合流しニールの仇を取ると決意したからだ。
だが、そんなダスの決意はほどなくして崩れる。ゴブリンに囲まれ、槍衾になってる後衛2人の無残な姿を見てしまったからだ。
「おかしい……、おかしいぞ!! ギっ……ギルとオルドがやられるなんて……。なんで、なんでゴブリンがこんなに強いんだよぉぉ!!」
悲痛な叫びと共に、彼もその場で冒険者人生の幕を閉じることとなった。
⌘
「冒険者パーティの撃破を確認。被害は戦士に斬られたゴブリン三体です」
「よしっ! 上手くいった。しかし多少被害が出てしまったな」
「最後に残った戦士の攻撃は予想外じゃったが、ゴブリダがトドメを刺して被害を最小限に留めたのが良かったのう。それにしてもお主のモンスター共、少し強すぎぬか? 普通、ゴブリンがあのレベルの冒険者を仕留めるなどそうはないぞ?」
「ああ、それ? 多分、俺のスキルのせいだわ。進化してからリリーナに調べてもらったんだけど、俺の【怠惰者】ってスキルさ、俺がサボればサボるほど、自身の能力と眷属の能力が上がるんだってさ! 笑っちゃうだろ? 俺が戦わなくて部下が戦闘してるから、それもサボってると判断されるみたいなんだ。まぁ、制限もあるようだが」
「ふむ、素晴らしいスキルなのじゃが、お主を見ていると何かクズスキルに見えてくるのう」
「なんでぇ!? 俺、頑張ってんじゃん!!」
「……何を頑張っておるのじゃ?」
「マスターの根っこにあるクズさが、全てを台無しにしてるんですよ?」
「めっちゃ酷くねっ!?」
「そんなことどうでもいいんですが、最後のパーティどうしますか? さすがにゴブリンたちじゃ太刀打ちできないレベルです」
「うむ、ちとゴブリダとやらにも荷が重いのう」
「そうなんだよなー。二人の言う通り、ゴブリダやスライムさんたちに任せても被害が半端なく出そうだ。頭をフル回転させたけど、サボれそうにないから不本意ながら俺が行くわ」
「「えっ!?」」
それは何の「えっ?」なの? 真面目に働こうとするとコレだもんな。理不尽だぜ。
次回、ヨルシア発進!!(*´ω`*)




