第20話 ゴブリン無双
リリーナの指輪を作ってから十日が過ぎた。リリーナは余程気に入ったのか、暇さえあれば指輪を見ている。そんな面白いもんなのかね? まぁ、気に入ってるならいいけどさ。
ちなみにエリーにもなぜか指輪を催促され、初めは素材がないから無理と断ったら、翌日持ち込みで持ってきやがった。まぁ、作りましたけどね。それよりも問題なのが、暗黒幼女が家に帰らねーんだよな。
「ふぁぁ、おはようなのじゃ」
「いやいや、おはようなのじゃ、じゃねーよ! つか、マジでそろそろ帰れよ。そして俺より遅く起きるんじゃねぇ!!」
「リリーナ、ヨルシアがいじめるのじゃ。助けてたもう」
「ちょっとマスター、エリー様をいじめないでください!! 少し寝過ぎただけじゃないですか」
「いや、ちょっとどころかもう昼っすよ? リリーナさん俺が昼まで寝てたらどーすんの?」
「殴ります。あっ、すみません間違いました。コンボ決めますね」
「訂正しても酷くね?」
「仕方ないじゃないですか! 立場が違うんですから! それよりも、ほら今日も仕事しますよ!」
人使い、いや悪魔使いが荒い奴だ。仕方ないので、ダンジョンのモニターをチェックする。
冒険者の襲撃から減ってしまったゴブリンたちも倍以上に増え、今ではさらなるダンジョン拡張に精を出している。ちなみに彼らはニ階層の拡張にも手を出し始めた。階段を降りてすぐの地底湖と階段の間にDPを使用して300メートルほどの通路を増設したので、一階層のように円状に広げてもらう予定だ。
今後のニ階層について、リリーナとエリーとミーティングをしていると突如アラームが鳴り始めた。
——ビー、ビー、ビー!!
【侵入者です。速やかに排除してください。侵入者です。速やかに排除してください】
ついに来たか。
「マスター! 冒険者です!」
「よし、敵戦力の解析及び、防衛準備の開始。ゴブリダたちに念話リンクを接続しろ」
「了解。念話リンク開始……接続。ダンジョン各員に告ぐ。侵入者が現れました。各員、持ち場に付き戦闘準備を開始してください」
さて、意外と来るのが遅かったな。まっ、今回は前回のようにはいかないぞ冒険者諸君。このダンジョンの入場料は君たちの命だ。心して掛かってくるがいい。
⌘
「団長、着きましたね!!」
「そうだな。しかしジョルジ、お前今回が初ダンジョンだからって、あまり気合い入れすぎるなよ? 空回りするぞ?」
そう言って新米冒険者に注意を嗜めるのは、ベテラン冒険者パーティ【フォレストウルフ】のリーダー、ライアンだ。
「しかし団長。あの魔剣持ちいますかね?」
「ガルド大丈夫だ。あのクリアスライムのせいで新規ダンジョンと言えど、他の奴らが警戒して手を出さねぇから今があの魔剣持ちをやるチャンスだ。お前ら雑魚は無視だ。まずはあの魔剣持ちを探すぞ! いいなっ!!」
「「「「おうっ!!!」」」」
⌘
「マスター、敵戦力の解析が完了しました。今回、侵入者数は戦士が5、狩人が3、魔法使いが3、計11名となります」
「やはり人員を増やしてきたか」
「ダンジョン内にて4-4-3の3パーティに分かれ、進んできております」
「どのパーティが一番レベルが高いんだ?」
「3人編成のチームです。1番高くて戦士の46。つぎに狩人の41、魔法使いの43となります」
「初級ジョブとは言え、まぁまぁ強いな。相性がよけりゃ、Dランクの魔物も十分討伐できる奴らか。確かにこれではゴブリンたちでは手に余る。一番レベルの低いのはどれだ?」
「はい、東の拠点3を目指しているパーティたちです。戦士レベル8がいます。その他も平均してレベル20といったところです」
「よし、そいつらからやろう。狙うなら弱い奴からだ。ソルジャーたちを拠点で待機させ、ゴブリンたちで追い込んで仕留めろ」
「了解」
さてと、まずは相手のお手並み拝見。
⌘
「うわっ、蜘蛛!!」
「おいおい、ジョルジ。勘弁してくれ。蜘蛛ぐらいでそんなに驚くなよ」
「いやー、ガウラ先輩すんません」
またも怒られるのは新米戦士のジョルジ。先輩戦士兼小隊リーダーのガウラは、冒険者としても新人のジョルジに注意を促しながらダンジョンを進む。ここは以前、彼らがマッピングを行なった場所だ。
「おい、新米! 蜘蛛くらいならいいが、ゴブリンが現れたらしっかり仕事しろよ?」
「だな。ヤーマンの言う通りだ。武器持ちとは言え、所詮ゴブリンだ。落ち着いて対処すれば問題ない。それに俺の弓、ヤーマンの魔法のサポート付きだ。まず死なねぇよ」
「はいっ! ありがとうございます、ヤーマン先輩、バルザ先輩!」
「とりあえず前回のマッピングによれば、この先に部屋が1つある。前回は魔物も出なかったからそこを拠点にした。今回もそこを拠点に魔剣持ちを探すぞ」
「「「おう!!」」」
ガウラパーティは前回マッピングした地図を頼りにダンジョンを進んでいった。そして進むこと20分……。目指す部屋が近づいてきた頃に突如、異変は起きた。
——ヒュッ
風切り音と共に、最後尾を歩く魔法使いヤーマンの頭に鈍い痛みが走った。
「……痛っ! っつ、なんだ? ……石?」
——ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!!
そして次々と、拳大の石が冒険者たちに襲い掛かる。
「おい! ゴブリンだ! 後ろから来てるぞ!?」
「ちっ……投石か。厄介だな。おい、部屋まで後少しだ。下がって仕留めるぞ!」
「「「おうっ!!」」」
ガウラたちはゴブリンにバックアタックされたことで、陣形を乱してしまった。脆弱な魔法使いが最後尾という形だ。万が一が有り得るため、ガウラは一度態勢を整えようと慌てて部屋へと向かう。そしてガウラが木の扉に手をかけた次の瞬間……。
——バリっ! ボキっ! ベリっ! バキッ!!
「早くはいぃぼぐふぁ……ブフッ……ゴフッ……」
「「ガウラ!!」」
部屋の扉ごとガウラの身体に、次々と槍が突き刺さった。槍はガウラの身体を貫通し、夥しい量の血が流れ出る。ガウラの身体の下に、あっという間に血だまりができた。誰の目から見ても最早ガウラは手遅れだ。
「嘘だろ……。ゴブリンが待ち伏せなんて……。くそっ!! ガウラはもうダメだ! ジョルジ、お前が代わりに前に出てタンク役をやるんだ!」
「がっ、ガウラ先輩が……」
「ジョルジ! 早くっ!!」
「ひぃぃぃ……」
「ちっ、ダメだ。ヤーマン魔法でサポートを頼む!」
「くそっ、前衛なしかよ!! ……炎の精霊よ、我が敵を穿て!! ……ファイアーボール!!」
ヤーマンが放った炎の火球は轟音を立てて、正面にいるゴブリンソルジャーたちに襲い掛かった。その威力はゴブリン程度であれば即死させるほどのものだ。
「よし、直撃だ! バルザ、崩すぞ!! ……って、なんだと!? 無傷なのかっ!?」
ファイアーボールが直撃し全身炎に包まれるが、それを物ともせず、黒い鎧を着たゴブリン2体が3人の前に立ち塞がる。
「なんだあの鎧! 魔法耐性でもついてるのか!?」
「バルぐへぇぇぁ……!!」
ゴブリンソルジャーの槍がヤーマンの腹を貫通した。それを切っ掛けに次々とゴブリンたちの槍がヤーマンに突き刺さる。ものの10秒ほどでヤーマンは蜂の巣と化した。
「こいつらっ……おい!! ジョルジ、立て!! ここはヤバイ! 逃げるぞ!」
「あっ……あっ……あっ」
「くそっ、ダメか!! ゴブリン共め!! 俺の弓を喰らいや……」
――ドシュっ!!
バルザが矢を射る前に、距離を詰めていたゴブリンソルジャーに槍で胸を一突きにされてしまった。多勢に無勢。押し寄せるゴブリンたちに気を取られ、近付いていたソルジャーを見落とすという致命的なミス。バルザは糸の切れた人形のように地面へと崩れ落ちた。
「ゴフッ……ば、馬鹿な……、なんでゴブリン共がこんなに強いんだ……。ジョルジ……にげ……ろっ……」
為す術も無く倒れていった先輩冒険者たち。目の前に広がる想像すらしていなかった惨劇。恐怖がジョルジを支配する。彼はただ力任せに剣を振り回すことしかできなかった。
「うわぁぁぁぁぁー!!! くるなっ! くるなぁぁーー!!」
そしてジョルジは半狂乱となりながら、ゴブリンたちが塞いでいる出口へと向かって走っていった。しかしそれが功を奏してか、彼は命からがらダンジョンを後にすることになる。片目、左腕を犠牲にして。
⌘
「マスター、戦士レベル8仕留めそこないました。かなりの深手を負っていますが、ダンジョン外へと退避。追跡致しますか?」
「いや、いい…。あの怪我じゃ、もう戦えないだろう。それより被害状況は?」
「はい、逃走時あの戦士に斬りつけられ数名が擦り傷程度の軽傷です。死者は0です」
「わかった。怪我を負った奴らは下がらせろ。では、拠点2にいる4名パーティにも仕掛けるぞ」
「了解!」
よし。とりあえず上手くいったな。次はレベルが30ほどあるベテランたちだ。こちらにはゴブリダを投入するか。俺が作戦を考えてると、エリーが呑気に話しかけてきた。
「……のう、ヨルシア」
「なんだ? どうかしたのかエリー?」
「お主、少し変わり過ぎではないか? 普段のダメキャラはどこいったのじゃ?」
「エリー、俺はダメキャラではないぞ? いつもはただ少し人よりやる気がないだけだ」
「それが俗に言うダメキャラなのじゃがな」
「エリー様! マスターはやる時はやる人なんです! だから邪魔しちゃダメですよ?」
「う……うむ! すまぬリリーナ!」
おお、珍しくリリーナまでも俺の味方をしてくれるとは!
こりゃ頑張るしかないね!!
次回、ゴブリダ発進!!(´∀`*)




