第16話 進化の試練
軽くボケる毎に、リリーナが恐ろしい突っ込みを入れてくるので、魔素で身体がやられる前に、俺はリリーナに殺られるかもしれん。リリーナさんパネぇからな。
「すっ……少しふざけてみただけじゃないっすか!」
「時と場所を選んでください!!」
「かっかっかっ! 本当に面白い奴じゃ! 妾をこうも笑わせてくれるとわの」
「あざーっす! でも自分特訓とかするくらいなら、死んでもいいんじゃね?って思うくらいの奴なんですが、そんな奴でも進化できますかね?」
「ほんっと、最っっ低!!」
「かっかっかっ! なぁーに、そんな難しいことはやらんよ。妾の加護をお主に授けるだけじゃ」
エリーのびっくり発言でリリーナが絶句していた。と言っても、俺も信じられん。でも加護くれるんなら素直に貰っておいた方が得だよな。
「エリーちゃんの加護もらえんの? あざーっす!!」
「エルアリリー様! こんな奴に加護を与えても良いんですか?」
「りっ……リリーナさん? こんな奴って……」
「うむ。もちろんじゃ! それに妾の眷属ともなれば加護の力によって強制的に進化が発動する。ただし、この渡す加護も厄介でな。受け取る側の者に資格なしと判断されれば力の奔流に耐えかねて身体が爆発してしまうのじゃ」
「エルアリリー様、その爆発ってどのくらいの確率でするのでしょうか?」
「そうじゃのぅ……数字にしたら大体九割九分九厘が爆発しておるかの」
「ほぼ十割じゃないですかっ!?」
リリーナのするどいツッコミが入る。こいつのツッコミに関しては相手が神でも関係ないようだ。
「えっ? いいじゃん! エリーちゃん俺やるわそれ!」
「軽っ!! ちょっ……ちょっと正気ですかっ!? ほぼマスター死ぬんですよ!? 化学の実験には失敗が付きものなんですよ!? わかってるんですか?」
「そんなダイジョ◯ブ博士でもあるまいし。でも、リリーナ? これだけはわかってほしい。俺が特訓して進化するよりも、エリーちゃんの加護を貰って進化する方が生き残る確率は高い気がするんだ。断言してもいい。きっと未来の俺は確実に特訓をサボるっ!! どうせ死ぬのなら楽な未来を選びたい!!」
「そんなこと自信を持って言うなやぁぁぁー!!」
「だからエリーちゃん! 加護を俺にくれないか?」
「かっかっかっ!! やはりヨルシア、妾はお主のことが気に入ったぞ! 加護の伝授は妾の話を聞くと大抵の奴が10年ほど悩むからの。こんなに早く決めたのはお主が初めてじゃ!」
「あざーっす!!」
「では、場所を変えるかの」
――パチンッ!
エルアリリーが指を鳴らすと何かの儀式を行う祭壇のような場所へと転移した。極めて荘厳な造りで奥には巨大な悪魔の像が立ち並び威圧感に満ちていた。
「ここは妾の居城、暗黒魔殿の最深部【パンドラの間】じゃ。普段は関係者以外立ち入り禁止じゃが今回は特別に立ち入りを許可する」
「えっ? ここがあの有名なパンドラの間なんですかっ!?」
「なんだリリーナ知ってんのか?」
「逆になんで知らないんですか!? ここはエルアリリー様が魔王襲名の儀に使う格式高い部屋なんですよ!!」
「へぇー、そうなのか! スゲーな!」
「本当に光栄なことなんですよ!! 私だって緊張するんですから、もっとしっかりしてください!!」
「まぁまぁ、そう固くなるではない。そんなに緊張すると成功するものも成功しなくなるぞ?」
「そうだぞリリーナ?」
「気が抜けすぎてるのも問題です!!」
「かっかっかっか!! 本当に仲が良いのぉ!」
「エルアリリー様っ!!」
「じゃっ、まぁ……、なんだ、あまり時間とっても悪いし、エリーちゃんパパッとやってくれよ!」
「うむ! いい覚悟じゃ!! ではヨルシアよ祭壇の中央へと立つのじゃ!」
「おう!」
俺は複雑な魔法陣の描かれた祭壇とやらの中心へと移動した。
「ではゆくぞ!!」
「死んだら承知しませんからね!! 絶対生きて帰ってきてください!!」
エリーちゃんが祝詞のような呪文詠唱を始めると、魔法陣からいくつもの魔力の糸が伸びてきた。それが俺の身体を繭のように包み込んだ。
慌てても仕方ないし寝るか。そして俺は目を閉じ深い闇へと身を委ねた……。
⌘
どれくらい時間が経っただろう。身体に違和感を感じ、俺は意識を取り戻した。
ぐはっ、苦しっ!! 寝起きからこれかよ!?
糸が俺の身体に巻き付きもの凄い力で締め付けてくる。
ぐぁぁぁぁぁ!! 痛いっ!! なんて力だ! 身体が裂けそうだっ!! これが加護の試練……俺はこれに耐えられるのか!?
俺が若干不安になってると繭に変化が起きた。
……んっ?? 待てよ……何か臭う。クンクン……。
――臭っ!!
繭、臭っ!! この繭臭いぞっ!? どういうことだ? 繭が臭いって!? オークの糞より臭いぞこれ!! なんだこの臭い!! 俺を殺す気かっ!?
しかし無情にも時間が経つにつれ、臭いは強烈になっていく。
やべぇぇぇ、くせぇぇぇぇぇぇ!!
つかさ、痛さよりも臭さが勝るってどんな状況!? 早く、早くここから出たいっ!! だせぇぇぇ!! 頼むぅぅぅ!!
俺が臭さで七転八倒しているとどこからともなく声が聞こえてきた。
『…………汝、力を求める者か?』
「あっ……あんた誰だ!?」
『我の質問に答えよ……汝、力を求める者か?』
「いや、力なんていらないんで早くここから出してくださいっ!! お願いしますっ!!」
『力を求めぬだと!? ……なぜだ? 我は絶対的な力を汝に与えることができるのだぞ?』
なんだこいつ? 俺が臭さに苦しんでいるというのに。
……もしかして!? この強烈な臭い、こいつが近くに来たからなのかっ!?
ぐぁぁ、クセーー!! さらに臭さが増したっ!! まじ無理っ!! ぐぁぁぁぁぁ!!
「おいっ!! 臭ぇーーんだよっ!? ま・じ・でっ!? 早くここから出してくれ!!」
『なっ……臭いだとっ!! そんなはずは……我は毎日、風呂を嗜んでおる!』
「じゃあ、これ絶対加齢臭だよっ!! あんたが気付いてないだけで、これかなりの悪臭をまき散らしてるぞっ!! 破壊力やばいもん!!」
『バカなっ!? 暗黒界では何も言われぬぞ!?』
「みんなお前に気ぃー使ってんだよ! 察しろっ!! ボケがぁ!!」
あまりの臭さに自然と悪態が出てしまう。これはもはや仕方がない。それだけ切羽詰まった状況なのだ。
『なっ……ハッキリと言いすぎではないか? 我も傷つくぞ?』
「バカかっ!! このまま臭いに気付かず過ごす方が、まわりを傷つけるだろうがっ!!」
こいつが何者かなんてわかんねーけど、この臭いの殺傷力はヤバい!! 魂持ってかれそうだ!!
『………………一つ、汝に聞きたい。どうしたらよいだろうか?』
俺が臭い、臭いと言っていたせいか、なぜか声の主に相談された。
つか、こんな時に相談するんじゃねーよ! イラっとする。
「とりあえずデオドランド商品買って身体をケアし続けろやぁぁ!! そして衣服もちゃんとクリーニング出せっ!! そして一刻も早く俺をここからだせぇぇ!!」
『……うむ。ならば汝の言う通りにしよう。』
「じゃあ、わかったのなら早くここから出してくれ!!」
『【力】はどうするのだ??』
つか、まじでさっきからなんなの? 【力】、【力】って。【力】なんていらねーし!! 早くここから出たいだけだしっ!!
「だから、加齢臭クセー【力】なんていらねーんだよっ!!! 何度も言わせんな! 早く出せやぁぁぁ!!」
『………酷いのぅ。一応、我は暗黒界の破壊神なのじゃが?』
「つか臭いの破壊神じゃねーか!! この狭い空間でこの加齢臭地獄は残酷だぞ? このままじゃ、俺の身体が爆発する前に鼻腔が爆発するわ!!」
『……それはすまぬ。だが汝が必要としなくても、我が力は受け取ってもらうぞ? どうやら娘が汝のことを気に入っているようなのでな。』
「はっ?? さっきから何言ってんだ?」
『……娘を頼む。』
その言葉を最後に俺の意識はブラックアウトした。クセー……でも、眠いー。
⌘
「エルアリリー様、もう三日も経ちますがマスターは大丈夫でしょうか?」
「リリーナよ。何度も言うが失敗する奴は初めの繭形成の時点で爆発しておる。何も問題ないぞ」
「はぁ……しかし進化が長すぎませんか?」
「なんじゃ、やはりリリーナはヨルシアのことを好いておるのか?」
「なっ……エルアリリー様! そっ……そんなお戯れはやめていただけますか!? 誰があんなクズ悪魔っ!!」
「かっかっか! そうムキにならんでもよいでないか!」
エリーがリリーナをからかっていると一際甲高い音が部屋の中に響き渡る。
「……んっ? リリーナそろそろ終わるぞ? 繭が割れそうじゃ」
「えっ?」
部屋の中央にある繭に一筋のヒビが入る。
――ビキビキビキビキっ……バキィィィィィーーーーン!!!
白く形成された巨大な繭が真っ二つに割れ中から種族進化したヨルシアが姿を見せた。その姿は頭から生えた短い角は捻じれて伸び、左手にはエルアリリーの加護の紋章が刻印してあった。
「おぉ……やはり成功なようじゃな!」
「マスター……」
そしてヨルシアはゆっくり目を開けた。
ふぅー、やっと出られた……。全く酷い目にあったな。
ん? おっ、リリーナとエリーじゃん。もしかして待っていてくれたのか? いいとこあるじゃん! とりあえず礼でも言っておくか。
「二人とも、待っててく……」
「「くっさっっ!!」」
酷いっ!!
次回、進化したヨルシアのステータス(*´Д`)




