第9話 堕落の奸計
ゴブリダとリリーナの顔合わせが終わり、俺たちは錬金室へと転移をした。するとリリーナがまた小言を言ってきた。
「ちょっと! まだゴブリダさんが話している途中だったじゃないですか!!」
「あいつ、ああなると長いからさ。大丈夫大丈夫! それよりもあいつらの装備作るぞ」
「えっ? もしかして錬金術使えるんですか?」
「まあ、ぼちぼちな。分量とかテキトーだけどそこそこ良いのできるんだぜ!」
「そんな適当に錬金ができるかぁぁーー!! いいですか? 錬金術っていうのは……」
——時は加速する……。
そうこれは過去にミノタウロス先生からの長時間お説教を受け続けた時に開発した俺の精神スキル。相手の一点を見つめ続け、心を無にすると時間が跳躍するという素晴らしい技だ(嘘)。君も先生に怒られたら使うといい! ポイントは腐った魚の目をするといいぞ!
「……だから錬金術は繊細な魔力コントロールが必要になりますから、おいそれと簡単にできないんです!! って、人の話聞いてるんですか!?」
「……はいっ!! わかりました!!」
ふふふ……、成功だ。ぜっっんぜん聞いてなかった。俺の精神スキルも磨きが掛かってきたな。さてと、やるか。
「じゃ、とりあえず作るから少し離れてて」
「私の話、全然聞いてないじゃないですか!!」
「まぁまぁ、落ち着けって」
俺はダンジョンインベントリーで素材を探す。ゴブリダたちが頑張ったせいか、インベントリーは素材で潤っていた。鉄鉱石はもちろん魔鉱石や魔石もあった。彼ら頑張るなー。
とりあえずテキトーに素材を選び錬金釜へといれる。
鉄鉱石にー、魔鉱石でしょ。おっ、この炎の魔石もいれるか。んっ? なんだこの結晶? まぁいいや入れちゃえ! こんなもんか?
後は俺の魔力をオラァァァァァ!!!!
——ピカァァァァァァーー……ボボンッ!!!
【炎の魔剣が完成しました。】
「ふぅ……。なっ? できたろ?」
「……嘘。嘘よ。こんな目に見えて適当な錬金で、そんなレアな武器ができるはずが……。はっ!? わかりました!! これはきっと錬金の神様がバグっちゃったせいですよ!? なんてことするんですか!!」
「バグってるのはお前だ!! いい加減にしろっ! とにかく、まだ作るから少し黙っていてくれ」
三時間ほど頑張って、ゴブリダたちの装備製作が終わった。ちなみに魔具が錬金できたのは始めに作った炎の魔剣だけだった。これはリーダーのゴブリダにやろう。
「本当によくそんな適当に錬金ができますね。ひょっとして素質があるんじゃないですか? 魔界にお店出したらやっていけますよ?」
「何度も言うが、俺は働きたくないの! これはゴブリダたちがランクアップしたからお祝いで作ってあげただけだから!」
「あっ、そうですか。でもこれからどんどん働いてもらいますから。あなたの意思は関係ありません」
うん。体良くサボろう。それしかない。
ちなみ今回錬金できた装備は炎の魔剣、鉄の槍20本、鉄の剣20本、鉄の鎧一式20セット、皮の鎧20セットだ。あいつらすぐ大きくなるから余分に装備を作っておいた。ちなみにヨルシアブランドの刻印もさせてもらった。人気出るといいなぁ。
それにしてもまじで久しぶりに仕事したな。さて、部屋に帰るか。
⌘
「あー、仕事したー。疲れたから、そろそろ風呂入って寝るかなー」
「またお風呂に入るんですか!? さっき入ったばかりじゃないですか!」
「いや、マジで気持ちいいんだって! リリーナも一回入ってみろよ!」
「はぁー!? なんで私があなたの入った後のお風呂に入らないといけないんですか!!」
「いや、本当に騙されたと思って入ってみろって! それに地上の温泉は美肌に良いらしいぞ(嘘)?」
「えっ!? そうなんですか!? ほんとに!?」
おっ、リリーナさんが美肌と聞いて迷ってらっしゃる。いけるか?
しかし、なぜ俺がリリーナに風呂を勧めるかというと、リリーナに大浴場を気に入ってもらって、俺が寝てる間に壊されないように仕向ける裏工作である。とりあえず入れちまえば、あの浴場は絶対に気にいるはず!
後、一息!!
「知らない土地に来たばかりだし、ストレスが溜まり続けると身体に悪いだろ? だから少し風呂にでも入ってゆっくりしてこいよ」
「うーー……わかりました。そのかわり、絶対覗かないでくださいよ?」
よしっ!! 作戦成功!!
「大丈夫! 絶対覗かないから! 覗いたらダンジョンマスター辞めてもいい!!」
「そんな簡単にダンジョンマスターの進退かけていいんですかっ!? あれほど嫌がったのに……。じゃあ、お風呂入ります。ほんと覗いたら辞めてもらいますからね?」
ふふふふ……、お風呂の呪いに掛かってこいっ!! 暖かいお風呂で身体中癒されるがいい!! はーーはっはっはっ!!
⌘
2時間経過……。
頭にバスタオルを巻いてパジャマに着替えたリリーナさんが部屋へと帰ってきた。ちなみに白い猫さんパジャマだ。それにしてもずいぶん長湯だったな。気に入ったのか?
「リリーナ、どうだった? 少しは楽になったか?」
「えっ? はっ、はい! かなり楽になりました」
「地上の風呂も悪くないだろ?」
「ええ、悪くないどころか凄く気持ちよかったです。あの壺みたいなお風呂好きかも。……って、何言わせるんですか!!」
——計画通り(ニヤリっ)
思わず、どこかで見たことがある悪い笑みを浮かべてしまった。
「じゃあ、俺も入ってくるから寝室のベッドで横にでもなってろよ」
「なっ……なななっ……いったい何を考えてるんですかー!? 私をサキュバスだと思って軽く見ないでください! 私はそんな誰にでも股を開くような女じゃありません!!」
「アホかっ! お前が考えてることなんてしねーよ!! ベッドで寝たくないなら、ソファーで横にでもなってろよ!!」
「うーー……」
あいつ本当に頭ん中お花畑なのだろうか? 困ったものだ。
ちなみに、これも寝室を壊されないようにするための布石。リリーナにあのベッドを気に入ってもらおうじゃないか!!
ふふふ……さぁて、ゆっくり風呂でも入ってくるかー。
リリーナよ、寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ……(呪詛)。
⌘
一時間経過……
ふぅー、やはり仕事終わりのサウナは最高ですな。身体中の毒素が全て出るというか、うん、よく寝れそう。さて、リリーナはどうなってるかな?
俺はいそいそと寝室へと移動し、ベッドでくーくー寝息を立てているリリーナを発見した。
——計画通り!!(ニヤリっ)
この布団の良さ、たまらんだろう? ふははは!! どんどん寝るがいい!! そしてお前の仕事欲を削ぎ落としてやろう!!
しかし、こいつがベッドの真ん中を占領しているせいで俺の寝るスペースが両端のどちらかしか空いていない。これはイカンな。申し訳ないが一度起きてもらうしかない。
「おい、リリーナ。起きろ。というか、そこをどけ! そこは俺のポジションだ!!」
リリーナの身体を横に揺するが、まったく起きる気配はない。……マジか。これは大問題だ。ベッドがあまりに良すぎる弊害がここで出てしまった。仕方ない、こいつを抱っこして強制的に移動してもらおう。
「うにゃぁ、ちょっとどこ触ってのよぉ……だーめぇーよぉー」
リリーナを抱っこしようとした瞬間、なぜかリリーナに抱きつかれ拘束されてしまった。柔らかい肉の塊が俺に押し付けてられる。
うむ、この状況はマズいな。彼女が起きたらきっと大惨事になるだろう。しかし、この状況は俺が悪いのだろうか?
……否!!
ここは俺の聖域だ。寝てもいいと言ったがセンターポジションで寝てもいいとは言ってない! そうだ! 俺は全然悪くないっっ!!
よしっ! 寝よう。困るのは未来の俺だ。今の俺が困らないならもういいや。おやすみっ!! ……あれ? でも待てよ。これって、死亡フラグじゃないよね?
些か不安になりながらも、俺はゆっくりと瞼を閉じた。




