第7話 住む場所
食事は、見た目はともかく、味はかなり美味しかった。
青いスープは、意外とスープカレーのような味だった。
紫色のソースはデミグラスソースのような風味で、むしろ日本で食べたものより味は濃厚で美味しかった。
斑点模様のトマトも、日本で食べたものより甘味が強く美味しかった。
ただ、トマトの場合、甘いのが苦手っていう人もいるから、こればかりは好き嫌いは分かれるかもしれない。
あとは、パンは本当にごく普通のパンだった。
少し塩気が強く感じたけれど。
「いやぁ、美味しかったねぇ」
どうやら異世界の食事はトップスリーも気に入った様子。
お腹を擦りながら言う不知火さんに、山吹さんが「そうだねぇ」と答える。
「どれも凄く美味しかったよね! 見た目はアレだったけど……」
「まぁ、ここは日本では無い別の国ですし、食事が舌に合っただけマシだと思いましょう」
風間さんの言葉に私は無言で頷いた。
というか、城で匿って貰えるだけ幸運だと思わなければならない。
私が読んだことのある異世界モノでは、ダンジョンの魔物に生まれたり仲間に裏切られてダンジョンの奈落の底に落とされたりしたせいで、しばらくの間食事が魔物の肉だった、なんて話もあるし。
こうして城に匿ってもらい美味しい食事を食べられるだけ、私達は運が良い。
そんな風に考えていると、私達を先導して歩いていた一人の使用人が立ち止まる。
現在、私達はこの使用人の案内で、これから生活する部屋に連れていかれているところだ。
王族と同じ部屋で生活するわけにもいかないし、ある程度の生活スペースはいる。
この時のためにすでにそういう場所は用意されていたらしく、そこに案内されたのだ。
「こちらです。お入り下さい」
そう言って扉の鍵を開け、扉を開ける使用人。名前は知らない。
私達はそれに会釈し、早速中に入る。
「おぉ……」
ついため息が出た。
そこは、マンションの一室……と言えば良いのだろうか。
やはり異世界だからか、部屋には靴のまま入れる。
使用人の人に促され、私達はリビングのような場所に入った。
リビングはシンプルで、革張りの高級そうなソファが二つと、間にテーブルが一つあった。
流石にこの世界にテレビなんて無いか。
あとは壁に棚があったり、窓があったりする。
窓からはちょうど城下町が見える。
「革張りのソファなんて校長室でしか見たことないよ~」
そう言ってソファに腰掛ける不知火さん。
するとソファが彼女の体を沈み込ませた。
不知火さんはそんなこと予想していなかったから、驚いて目を丸くした。
「おぉ!? フワフワ! すごいフワフワ!」
「このソファには高級性の皮を使っています。どうぞ皆さんも」
使用人の言葉に、私達もそれぞれ座ってみる。
不知火さんの隣に風間さんが座り、もう一方のソファに私と山吹さんが座った。
ソファは確かに物凄くフワフワしていて、座り心地が良かった。
気を抜いたらこのまま寝てしまいそう……と思いつつ隣を見てみると、すでに山吹さんがウトウトしていた。
「山吹さん! 寝ちゃダメ!」
「むにゃ……ハッ!」
慌てて起こすと、山吹さんはハッとした表情をした。
それから私を見てはにかんだ。
「ごめん。気持ち良くて……」
「気に入って頂けて何よりです。しかし、まだ案内する場所があるので、寝るのはその後で」
使用人が苦笑混じりに言った言葉に、山吹さんは顔を真っ赤にした。
それから私達はリビングにある扉から、キッチンに入った。
「こちらがキッチンです。とはいえ、食事は基本こちらで用意させて頂くので使う機会は無いと思いますが……まぁ、趣味で料理をしたりする人がいますから」
そんな説明を聞きながら、私はキッチンを見る。
広さは割と広め。
やはり設備も日本とは違うのか、不思議な道具が揃っている。
まぁ、私は料理なんてしないから、気にする必要は無いかな。
なんとなく、私はトップスリーの様子を伺う。
不知火さんはキラキラと好奇心に満ちた目でキッチンを見渡していて、風間さんは特に興味なさそうな様子でキッチンを一瞥している。
山吹さんは……と思い視線を動かすと、そこには、棚の中身や道具などを一つ一つ真剣に確認している山吹さんがいた。
え、山吹さん料理するの?
「えっと……次に行っても……?」
使用人がオズオズと尋ねると、山吹さんは何かに弾かれたように立ち上がり、コクコクと何度も頷いた。
それから私達はキッチンを出て、浴室や洗面台や便所などがある場所を案内された。
「入浴はこちらでお済ませ下さい」
「あれ? お城にもお風呂とかあるんじゃないの?」
「……一応大浴場がありますが、この部屋からは遠いので、手間が掛かるかと」
遠いとかあるのか……いや、円卓の間からここまでもかなり遠かったからなぁ。
しょうがないか。
私だけでなく、トップスリーも納得した様子の表情を浮かべた。
それに使用人は微笑み、一番近くにいた風間さんのアリマンビジュを指さした。
「では、入浴の際のアリマンビジュについて説明させて頂きます。こちらはアルトーム様の力により、外れないようになっています」
「え!?」
あっさりと説明された言葉に、私は素っ頓狂な、変な声をあげた。
それからアリマンビジュを外してみようと試みるが、どう頑張っても外れる雰囲気が無かった。
例えば、うなじの辺りにあるフックを外してみようとしても、外れる気配すらない。
じゃあ服を脱ぐような感じで取れるのでは、と鎖を持ち上げてみるが、顎くらいの高さになるとまるで何かに引っ張られるかの如く動かなくなるのだ。
「ちょっ、これ外れないよ!」
「……先ほどそう説明致しましたが?」
困惑したような表情で言う使用人に、不知火さんは悔しそうに唇を噤む。
どうやらトップスリーも私と同じように外そうとしたようだが、上手くいかなかったらしい。
そんな私達を見てから、使用人が「あの、説明しても?」と聞いてくる。
まぁ、説明を聞かないことには何も出来ないので、私達は頷いた。
「この通り、アリマンビジュを外すことは出来ません。しかし、邪魔にならないように、形を変えることは出来ます。このアリマンビジュが指輪になるようイメージをしてみてください」
その言葉に、私はアリマンビジュが指輪になるのを想像してみた。
するとアリマンビジュが光り輝き、その光が私の指に絡みつく。
光が無くなると、そこには、金のリングに緑色の宝石が付いた指輪があった。
「これで邪魔にはならないハズです。それから、浴室の中には魔法陣がありますので、アリマンビジュを付けた手で触れればそこからお湯が出る仕組みです」
魔法陣とは、これまたファンタジーな……。
そう少し驚きつつ、私はアリマンビジュを見る。
こんな便利な機能がある割に、外せないとか、わけがわからない。
とはいえ、邪魔にならない程度に工夫は出来るので、別に良いか。
そう思いながら、次の場所に案内する使用人に付いて行った。
次に連れていかれたのは、寝室だった。
二人部屋が二つずつ。
どちらも構造は同じで、ベッドや棚、机などがそれぞれ二つずつあった。
「本当は個室を用意すべきだとは思うのですが、こちらも部屋数が無いので……」
そうやって遜った態度を取られると困る。
不知火さんと風間さんが気にしなくても良いということを伝えると、使用人は安堵したような表情を浮かべた。
まぁ、そんな感じで大体の生活スペースの説明は終わった。