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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第3章 ソラーレ国編
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第62話 好きな人

「何もいないねー」

「……そうだね」


 アルス車の上で、背中合わせにして座りながら、私たちはそう会話をした。

 背中合わせで話すことで、死角を無くし、周りを見るのだ。

 私は焚火がある方向を担当している。明日香の方が、視力が良いので、彼女が暗い方を担当した方が良いと判断したからだ。


「夜だとさ、すっごく平和だよね」

「うん。昼間に敵や魔物に襲われたなんて信じられない」

「だね」


 明日香は短く返事をして、少し体を動かした。

 座りなおしたのだろうか。

 衣擦れの音が微かにして、少しくすぐったい。


「……あのさ、何か話さない?」

「何かって?」

「そうだなぁ……あ、葉月はさ、蜜柑とトネールさんならどっちが好き?」

「はいっ……!?」


 大きな声を出しそうになり、私はギリギリでなんとか堪えてそう聞いた。

 すると、明日香はクスクスと可笑しそうに笑った。


「冗談だよ。モテモテの葉月さん?」

「いや、蜜柑はともかく、トネールは違うから」

「どうだか?」

「もう……そう言う明日香はどうなの?」

「どうって?」

「だから、好きな人とか」

「アハハッ、残念ながら」

「なんだぁ」


 快活に笑う明日香に、私はガッカリする。

 まぁ、あすさお推しの私としては、変に男の名前出されたりした時にはしばらく寝込むだろうが。

 せめて女なら……んー。地雷カプになりかねん。


「……沙織はどうなのかな」


 ポツリと呟いた言葉に、私は「え?」と聞き返す。

 すると明日香はビクッと体を震わせた。


「え、あ、あれ? 僕何か言った?」

「……沙織はどうなのかなって……」

「あ、あー……えっと、変な意味は無いからね!? ちょっと気になったっていうか!」

「分かったから」


 慌てて弁解する明日香に、私は笑いながらそう答えた。

 まぁ、沙織の好きな人が気になるのは分かるかも。

 明日香の好きな人がいないという話が本当なら、魔法少女の中で恋愛感情が一番把握出来ていないのは沙織だけだ。

 だって蜜柑は……ホラ……バレバレだし……。


「まぁ確かに気になるかも。沙織って、結構自分の感情隠すの得意みたいだし」

「……だよね」

「んー……仮にいたとしても、あの態度じゃなぁ……」


 基本的に冷静沈着……だけど、グロテスクなシーンを見たり話で聞いたりすると、取り乱す。

 隠すのにも限度はあるだろうけど、その限度が分からない。

 案外、恋愛感情は隠せていたりして……。


「……沙織さ、今日フラムさんと一緒に帰ってきたら、なんでフラムさんと帰ってきたんだって、わざわざ聞いてきたんだ」

「えっ……」


 そういえば確かに、魔物を狩ってきたフラムさんと、薪を集めた明日香は一緒に帰って来ていた。

 私は、偶然出会って帰ってきたのかなーと思ったし、何よりその時も蜜柑に耳責めされていたのであまり気にする余裕が無かった。


「……沙織……フラムさんのこと好きなのかな……」

「……」


 若干低い声で言う明日香に、私は無言で俯いた。

 可能性はある。だって、フラムさんカッコいいもん。

 年上だし、落ち着いていて、頼りになる。

 沙織が好きになっても何らおかしいことではない。

 当たり前のようにフラさおを受け入れようとしていた時、私はとあることを思い出した。


「……いや、蜜柑がおかしいだけで、同性愛なんて普通無いから」


 私の言葉に、明日香は「え?」と聞き返してくる。

 少しして、「あぁ」と言った。


「そうだね。蜜柑のせいで、そういうの鈍っていたかも」

「まぁ分かるけどね。私も最近蜜柑の抱擁を当たり前に受け止めている節はある」

「……慣れって怖いね」


 苦笑気味に言った明日香の言葉に、私は無言で頷いた。

 危ない危ない。もう少しで、沙織をレズビアンだと勘違いするところだった。

 蜜柑で慣れていたのもあるが、日本にいた頃から百合作品に大量に触れていたから、尚更そういう感覚が狂っている。

 日本にいた頃は若菜とばかり話していたからなー。あまりそういうのも気にしていなかったし。


 ……そういえば、若菜と話していた時、上手く百合好き隠せていたかな?

 突然湧き上がった不安に、背中に寒気が走る。

 若菜とは何も考えずに話したりするから、テンションに任せて、変なことを口走っていた可能性が無きにしも非ず。


「……葉月はさ、そういう同性愛とかは、軽蔑しない感じ?」


 明日香に突然そう聞かれ、私はビクッと肩を震わせた。

 今更日本にいた頃のことを悔やんでも仕方がない。

 何より、若菜はずっと私と仲良くしてくれていたじゃないか!

 だから、多分大丈夫だ! ……多分!


「そ、そうだけど? なんで?」


 気を取り直して、私はそう返した。


「いや、なんていうかさ……そういう同性愛とかって、結構差別されるじゃん? 僕も、中学入るまでは割とそういうの、差別してたし……」

「中学入ってから何か変化があったの?」

「……幼馴染に好きな人が出来て……」

「……」


 そりゃあ変わるわな! 道理で蜜柑の事も当然のように受け入れるわけだ。

 さらに聞いたところ、幼馴染は同じ部活だった先輩に恋をしているらしい。

 だった、というのは、その先輩が今は高校一年生だから。

 ちなみに去年先輩が引退する時に告白して、なんと、今では付き合っているらしい。


 ……なん……だと……。

 私の知らない所で、そんな百合展開が行われていたとは……。

 いや、知らなかったのはしょうがない。ソフトボール部など、リア充部だ。明日香が所属するような部活だぞ。情報が入ってくるわけない。


「付き合う前は恋愛相談持ち掛けられて、付き合ってからは顔を合わせる度に先輩との惚気……幼馴染が突然同性愛者に目覚めたこっちの気持ちになって欲しいよ……」

「あはは……ご愁傷様です」

「うぅ……そういう葉月はどうなの?」

「私?」

「なんか他人事みたいな反応だけど、もしも仲が良い子が急にレズになったらどうすんのさ。……それこそ、若菜ちゃんとか」


 明日香の言葉に、私は脳内に若菜を浮かべてみる。

 若菜が、女の子を好きに、か……。

 ……人見知りの若菜だからなぁ……。

 とりあえず、無難に明日香で脳内再生を試みてみる。


『は、はーちゃん……実は、私、不知火さんのことが……』


「……娘はやらん」

「は?」


 つい零れた言葉に、明日香はそう返してきた。

 なんていうか、若菜にはもっとちゃんとした人生を送って欲しい。同性愛を差別するつもりは無いが、このご時世では苦労することも多いだろうし、そう言った苦労はあまりして欲しくない。

 ……とはいえ、もしも本当に若菜に好きな人が出来たら……?

 私は親でも何でも無いし、それを止めろという義理も無い。

 笑顔で応援することしか、出来ない。


 そう考えた時、少しだけ、胸が痛んだ。

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