表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第3章 ソラーレ国編
57/380

第53話 ありふれた旅路

 ソラーレ国に入っても、基本的に旅路は今までと変わらなかった。

 アルス車に揺られながら、私達は朝食にフラムさんが買ってくれたサンドイッチを頬張っていた。

 相変わらず食欲が湧かない見た目をしているが、味は最高だった。

 歯ごたえ的には、カツサンドのような感触だ。

 肉汁が溢れてきて、ソースの味も良く、中々美味い。

 これで肉の色が緑じゃなければなぁ……。


「フラムさん。このサンドイッチ凄く美味しいです」

「ははっ、そうか。喜んで貰えて嬉しいよ」


 私の言葉に、フラムさんはそう言って爽やかな笑顔を浮かべる。

 はー……イケメン。

 明日香とフラムさんは、真面目に生まれる性別を間違えたと思うんだ。

 百合的には美味しいですが。


「……あっ、葉月」

「ん?」


 トネールに名前を呼ばれ、私は彼女に顔を向ける。

 するとトネールは徐に私の顔に手を伸ばし、指で頬をなぞった。

 不思議に思っていると、トネールは私の顔から指を離す。

 その手には、サンドイッチのソースが付いていた。


「ソース。付いてたよ?」

「うわ、気付かなかった……ありがとう」


 羞恥心を隠しながらお礼を言うと、トネールは「いえいえ」と言って微笑み、指に付いたソースを舐め取る。

 それを見て、なぜかギンは嬉しそうに「キュイ!」と鳴いた。

 いや、別に喜ぶシーンでは無いと思うのだけれど。

 しかし、昨日の晩ご飯の時と言い、最近私の食事態度が乱れている気がする。

 なんだかさらに恥ずかしくなって、顔が熱くなる。


「……葉月ちゃん顔真っ赤」


 隣で私を見ていた蜜柑の指摘に、私は口元を隠して顔を背ける。

 すると蜜柑は、ポフッと私に体重を預けてきた。


「蜜柑?」

「……」


 私が名前を呼んでも応答せず、蜜柑は左手にサンドイッチを持ち、右手を私の左腕に絡めてきた。

 おーい、サンドイッチ食べにくいんだけど……。


「キュイィ……」


 そんな蜜柑に、なぜかギンが威嚇する。

 おい、お前はどうした。情緒不安定か。


「蜜柑、サンドイッチ食べにくい」

「んー……」

「くっ付くのは食事の後にして欲しいかなぁって」


 私の言葉に、蜜柑は頬を膨らませて私の腕を離した。

 何がしたかったんだか。

 そしてギンは満足そうにしているし、なんだか置いてけぼりを喰らったような気分だ。


「モテるって大変ですねー」

「葉月、頑張って下さい」

「……他人事だからって……」


 向かい側の席で暢気に応援してくる明日香と沙織に、こめかみの辺りがヒクヒクと疼いた。

 フラムさんは、そもそも恋愛感情などとは考えていないのか、微笑ましそうな目で私達のやり取りを見ていた。

 クソッ! ツッコミがいねぇ!


「……はぁ……」


 サンドイッチの最後の一欠片を口に入れ、私はため息をついた。

 すると私が食べ終わったのが分かったのか、蜜柑がすぐに先ほどと同じようにくっ付いてくる。

 体の左側が重いよ。


「蜜柑、何なの?」

「……」


 私の質問に、蜜柑は答えない。

 答えろ。


「キュイィィ」


 そんな蜜柑に、ますます苛立ちを募らせた様子のギン。

 もうお前マジで何なんだよ。


「ギン、何か怒っているみたい」

「さっきは喜んでたのに……なんでだろう?」


 私の言葉に、トネールは顎に手を当てた。

 すると、肩に手を置かれた。

 ……蜜柑……?


「みか……ひゃう!?」


 蜜柑の名前を呼ぼうとした時、突然耳を咥えられた。

 突然のことに私は変な声をあげてしまった。

 しかし、蜜柑はそんなことお構いなしで私の耳に舌を這わせる。


「や、ちょ……みか、ん……」

「葉月……どうしたの?」


 なんとか蜜柑を宥めようとする私に、トネールがそう言ってきた。

 そうか。蜜柑とトネールの間に私がいるから、蜜柑が今していることが見えないのか。

 とにかく現状を伝えて、助けてもらおう。


「トネ……ル……蜜柑、が……ひゃぁ!?」


 しかし、言葉にするよりも前に、蜜柑が私の耳を攻める。

 くすぐったくて、なんだか体がゾワゾワして、私は言葉を続けられない。


「蜜柑様が、どうかしたの?」

「だか、ら……蜜柑が……ぁッ……」

「……もしかして……」


 どうやら、トネールは蜜柑が何をしているのか察したらしい。

 良かった。これでなんとか助かる。

 しかし、その安堵は、すぐに裏切られることになる。


「……はむ……」


 突然、トネールが私の右耳を咥えたのだ。

 予想外の出来事に、私は体をビクつかせる。

 もう喋る余裕も無く、ただ口で浅い呼吸を繰り返すことしか出来なかった。


「……耳、弱いのね」


 耳を咥えながら、トネールは囁く。

 その口の動きと吐息だけで、体が勝手に跳ねる。

 すると蜜柑が私の耳を攻める勢いを弱め、言葉を紡ぐ。


「葉月ちゃんって、無防備だよね。もしかして、他に人がいるから何もしないと思った?」

「や……ぁ……」

「……まぁ、何もしないつもりだったんだけどさ……トネールさん相手にあんな顔するなんて、妬いちゃうじゃん」

「やめ……ぁ……」


 両耳を攻められ、私はいよいよ羞恥心の限界に達する。

 そもそもあんな顔って、まさか、赤面のことか? あれは羞恥心からだ!

 しかし、耳を攻められているせいで、反論できない。

 両腕もしっかりと拘束され、抵抗することすら許されない。


「……凄いなぁ」

「このようなこと、よく人前で出来ますね」


 あすさおの野郎! 暢気に鑑賞などしおって!

 私は最後の頼みであるフラムさんに視線を向けた。


「……冒険者時代を思い出すよ。よく同じパーティだった魔法使いと僧侶もこうして剣士に迫っていた」


 フラムさーん! 一人で感傷に浸らないで!

 しかし私の救難信号も、蜜柑とトネールに攻められているせいで言葉にすることが出来ない。

 結局、私が解放されたのは、しばらくして流石に同情した明日香と沙織により救出された頃だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ