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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第2章 旅路編
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第46話 二人きりで話を 中編

 アリマン/ビジュ

 Aliment Bijou

 食べ物 宝石


 そのノートに書かれていた文字に、私は「えっ」と声を漏らした。

 顔を上げると、そこには、真剣な表情で私を見ている沙織がいた。


「ねぇ……これって……」

「ご注文を頂きました。コフェルテとルジュフリュイです」


 私の言葉を遮るように店員がそう言って、私の前にはどす黒い緑色の液体が入ったコップを。沙織の前には、黒い液体が入った白いカップを置いた。

 ……この店には一番美味しい飲み物が二種類あるのか?


「ごゆっくりどうぞ」


 店員はそう言うと、去っていく。

 後ろ姿を見送ると、私は沙織の顔を見た。


「沙織……」

「……まさか、一番美味しい飲み物が二種類あるとは……」

「あ、そっち?」


 私の疑問に沙織は頷き、黒い飲み物を飲む。

 すると彼女の眼鏡が白く染まった。


「……はぁ」


 それに沙織はため息をつき、制服の胸ポケットからハンカチのようなものを取り出した。

 眼鏡を外し、レンズを拭く。

 ……こうして見ると、制服姿で眼鏡を外しているのは初めて見たかもしれない。

 なんだか新鮮だ。


「味はどう?」

「普通のコーヒーの味ですね。けど、とても美味しいです」

「へぇ……」


 私はそう返しながら、自分の飲み物をストローで飲む。

 相変わらず見た目はアレだが、味は甘酸っぱくて、フルーツミックスジュースのような味がした。


「ん……美味しい」

「それで、話は戻しますが」


 そう言って沙織は眼鏡を付ける。

 彼女の言葉に、私は姿勢を正した。


「……そのノートを見た感想は?」

「いや、感想と言われても……わけがわからないよ」


 私がつい本音を言うと、沙織は「あぁ」と呟いて目を逸らす。


「その二つの単語は、フランス語です」

「ふ、フランス語……?」

「えぇ。ビジュという単語が宝石を表すので、何か意味があるのではないかと思ってアリマンという単語も訳したら……その結果に」

「……でも、なんで急に?」


 なぜ急にこんなことを考えたのか。

 それが一番気になった。

 あとは……なぜ急に、私にそれを言ったのか。


「……前に葉月は、魔法少女に代償がいると言っていました」


 ……確かに言った。

 自分が変身してからはあまり考えないようにしていたが、確かに、私はその可能性は考慮した。

 確実にあるとは言えないが、可能性はゼロではない。


「魔法少女の代償として一番危険性が高いものは、このアリマンビジュ。これについて少しは考察をすべきだと判断したので、訳してみたのです」

「……沙織ってフランス語も出来るんだ」

「えぇ……一通りは」


 そう言って眼鏡の位置を正す沙織に、私は苦笑した。

 なんだこのハイスペック。


「でも、宝石は分かるけど、食べ物って……意味不明過ぎない?」

「えぇ、私もそう思います」


 彼女はそう言いながら眼鏡の位置を正す。


「……この旅では、奇妙な箇所が幾つかあります」


 続く言葉に、私は「え?」と聞き返した。

 すると沙織は顔を上げ、続けた。


「まず一つ目は、神を守らなければならない存在をそう易々と他国へ旅立たせるかということです」

「……はぁ……」

「神の御神体は、異世界から人を召喚して強引に戦わせてまで守らなければならない存在。……普通、それを守る存在である私達を、城から一度遠ざけますか?」

「いや、でも、生誕祭があるって……」

「私なら、城の騎士団をノールト国に向かわせ、その強大な敵を戦闘不能にした上で国に持ち帰らせ、魔法少女にトドメを刺させますね」


 沙織の言葉は、確かに正論だった。

 御神体の重要度は高い。

 なのに、その守護よりも、私達にノールト国へ向かわせた。

 城の兵士じゃ太刀打ち出来ないくらいの強さだったという可能性もあるが……。


「二つ目」


 考えていると、沙織が指をもう一本立てた。


「今日襲って来た敵です。……なぜ、奴は私達を襲って来たのか」

「えっと……」

「奴等の目的は、御神体の破壊。……なぜ、魔法少女である私達を襲ったのか」

「それは、たまたま目に付いたからじゃないかな……」

「三つ目」


 矢継ぎ早に話される内容に、私はいよいよついて行けなくなる。

 そんな私に沙織は少し間を置いてから、言った。


「アリマンビジュには……敵がある一定の範囲内に来ると、私達をその場に転移させる仕組みがありますね?」

「う、うん……」

「……では、騎士団が敵の相手をするとはいえ、私達の召喚に関しては何も言わなかったのは、なぜか。そして……今日、一切転移が行われていないのはなぜか」


 ……言われてみれば……。

 徐々に出てきた不安感に、私の頬を冷や汗が伝う。

 心臓が大きな音を立て、胃に痛みを感じる。


「……とはいえ、あくまでこれも、全て仮説の話ですが」


 沙織はそう言うと、黒い液体を少し飲む。

 私も口の中がカラカラに乾いていたので、ジュースを少し口に含んだ。


「……でも、なんでそれを私に……?」


 私がそう聞いてみると、沙織はキョトンとした後で口を開いた。


「前に、葉月が魔法少女に代償があるかもしれないと言いました。多分、この中では、葉月が一番そういう知識があると思います」

「……まぁ、詳しい方ではあるけどさ……」

「だから、ひとまず葉月には話しておくべきだと判断したのです。……葉月なら、何か分かるかもしれないので」

「そう言われてもなぁ……」


 私は困ったように呟きながら、ノートに視線を落とす。

 アリマンビジュ……食べ物の宝石?

 正直意味不明だ。サッパリ分からない。


「……大体さ、たまたまビジュに宝石って意味があっただけで、これが偶然フランス語に訳せただけって可能性もあるよね」

「……まぁ、それは……」

「そもそも、私も魔法少女の代償はあるかもしれないって言っただけで、絶対にあるって確証があるわけではないし……仮にあっても、今更気にしたところで、どうしようもないよ」


 私の言葉に、沙織はピクッと眉を潜めた。

 だから私は笑って続けた。


「もし代償があってもさ、もう変身しちゃったもん。……今更手遅れだよ」


 これは、私が変身してから自分を励ますために考えた建前だった。

 正直、あるかもしれない代償にずっと悩んでも、埒が明かない。

 だったら、一度そういうことを考えないようにした方が、少なくとも精神衛生上は良い。

 一時的な現実逃避でしか無いが。


「私には、そうやって割り切ることは出来ません」


 しかし、沙織はそれを否定した。

 彼女は微かに目を伏せ、続ける。


「……私は、まだ、両親に恩返しを出来ていません。だから、そのためにも……」

「両親、か……沙織はそんなに両親が大切?」


 私が聞くと、沙織は少し驚いた表情を浮かべた。

 しかし、すぐに頷き、眼鏡の位置を正した。


「はい。……厳しい両親ですが、それは全て私を思ってのことですから」

「あはは……私じゃ厳しい親は耐えられないや」

「……葉月の両親はどんな風なんですか?」


 少し興味津々と言った様子で、沙織が尋ねてくる。

 ……話が逸らせた。

 やはり、重い話より、もう少し緩い話をしていた方が気は楽だ。


「私の両親は……平凡」

「ハイ?」

「普通のどこにでもいる両親だったよ。お父さんはごく普通のサラリーマンで、野球観戦が趣味。お母さんは近所のスーパーでパートの仕事」

「……確かに、普通の家庭って感じですね」

「うん。そんな親に似て、私まで平凡になっちゃったけど」

「平凡な人は、普通異世界に召喚されたりしませんよ」


 沙織の言葉に私は少し驚いたが、「それもそうか」と言って笑った。

 そんな私の言葉に、沙織も笑う。


「でも、平凡だけど、良い親だよ」

「……良い……?」

「ん……ホラ、私って結構オタクだからさ。アニメとか見るしグッズとか漫画とかラノベとか、色々買うんだけど、娘の趣味にそこまで口出しとかしてこないの。平均並の成績を維持しておけば何しても良しみたいな」

「……寛容なんですね」

「うん。でも、放任ってわけではなくて、悪いことしたらしっかり叱ってくれるし……」


 そう説明していると、段々懐かしい気持ちになってくる。

 父は話が分かる人で、野球観戦好きではあったが、私が見たいアニメの時間になると何も言わずにチャンネルを譲ってくれた。

 母は、勝手に私の部屋の片づけをしたりはするが、仮に私の持っている同人誌などを見つけてもそれを見て見ぬフリをしてくれた。

 この世界に来たばかりの時は親よりアニメを優先したりしたけど、やはり両親も大切だ。

 ……会いたいな。


「……そういえば、葉月が魔法少女に代償があるかもしれないと言ったのは、魔法少女アニメに詳しいからでしたっけ」


 両親への想いを馳せていた時、沙織がそう言って来た。

 彼女の言葉に、私は頷く。


「うん。有名どころは」

「でしたら、折角ですし、そのことに関しても教えてくれませんか? 私はあまり、そういう媒体には触れてこなかったので」

「……語っても良いの?」


 私の言葉に、沙織は「えぇ」と頷いた。

 若菜以外に魔法少女について語るのは初めてだ。

 それに、徐々に私のテンションは上がっていく。


「それじゃあ、凄く有名な奴から……」


 それから私は、沙織がギブアップするまでの間、鬱系の魔法少女について語りまくった。

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