第41話 異常気象討伐依頼
あれから、魔法少女に変身した疲労感が抜けず、結局夜にフラムさんに会いに行くことは叶わなかった。
相変わらず遠退いて行くフラムさんとの再会。それが叶う日は来るのか。
そんなことを考えていた翌日。朝食を食べ終えると、使用人の人が、私達を呼び出しに来た。
何と、レオガルドさんが私達魔法少女を呼んでいるらしい。
「一体何の用なんだか……」
恐らく円卓の間に向かう道で、私は小さく呟いた。
すると、前を歩いていた明日香と沙織が振り向いた。
「何って……葉月が主な原因だと思うけど?」
「なんで!?」
「ずっと変身していなかった葉月がようやく変身しましたから……それ関係の所用である可能性は高いと思います」
「うぅ……でも、四人全員呼ぶ理由にはならなくない?」
「まぁ、用事の内容は分かりませんから、そこまでは」
そう言って肩を竦める沙織に、私は口を噤んだ。
すると隣を歩いていた蜜柑が苦笑いをした。
「そろそろ着きますので、雑談は控えて頂きたいのですが」
私達を先導していた使用人の言葉に、私達は表情を引き締め、口を真一文字に結んだ。
それから円卓の間に着くと、そこでは、レオガルドさんと王族の人達の姿があった。
いや、よく見ると、今回は赤い目の女の人はいない。
……サボり?
「魔法少女の皆様。この度はわざわざご足労いただき、誠にありがとうございます」
そう言って頭を下げるレオガルドさんに、釣られて私達も頭を下げる。
顔を上げ王族の人達の顔を一人ずつ見ると、ちょうどトネールと目が合った。
先に彼女が微笑むので、私も笑い返した。
「ご着席下さい」
レオガルドさんにそう言われ、私達は椅子に腰かける。
あ、そうだ。
「ギン。しばらく静かにしていてね」
「キュイ」
肩に乗っているギンにそう声を掛けると、ギンは頷いた。
それから姿勢を正し、レオガルドさんを見る。
ちなみに、今回の着席の仕方はこの世界に来たばかりの時に座った席順と同じだ。
赤い目の女の人がいないだけで。
「さて……まずは、昨日、葉月様が魔法少女になられたということで」
「あ……はぁ……」
レオガルドさんの言葉に、私は会釈で返す。
するとレオガルドさんは頷き、指を組んで私達の顔を一人ずつ見ていく。
「今回は、皆様にお願いしたいことがあって来て頂きました」
私の変身そこまで関係無いじゃん!
レオガルドさんの言葉に、私は沙織に視線を向け、無言の念を送る。
すると私の視線に気付いたのか、沙織はスッと顔を背けた。
こんにゃろ……!
「実は、先日から、同じ大陸内のノールト国で異常気象が続いておりまして」
「……異常気象?」
明日香が聞き返すと、レオガルドさんは頷いた。
すると沙織はスッとレオガルドさんに視線を向けた。
「具体的には、どんな?」
「……季節外れの大雪。それも、一時的なものではなく、ずっと降り続いているのです」
「でも、私達に天候を変える力なんて……」
蜜柑がそう零すと、レオガルドさんは頷いた。
「それは分かっています。その異常気象の原因は、すでに把握出来ています」
「それは一体……」
「……敵」
その言葉に、私達は言葉を失った。
敵。それは、即ち、私達がここ最近毎日戦っている化け物達のことだ。
しかし……。
「……天候を操る程に強大な敵など、今まで会ったことなど無いのですが」
沙織の言葉に、私はコクコクと頷く。
そう。今まで戦って来た敵は、天候を操る程に強力な敵はいなかった。
レオガルドさんも、この質問が来ることは想定内だったのだろう。
静かに一度頷き、彼は口を開く。
「敵の能力やパワーバランスは、ハッキリ言えばバラバラです。異様に強い者もいれば、異様に弱い者もいる。……今回皆様に討伐して欲しい敵は、正直、かなり強いです」
やはり討伐依頼か……。
大体想像はしていた。
この流れだと、結局承諾をしなければならないのは必至。
ただ、一つ気になることは……。
「……なぜ、他国のことに私達が?」
……そう。
この件は、私達がお世話になっているこのドゥンケルハルト王国の問題ではなく、あくまで他国の問題。
わざわざ私達に頼んでまで遂行すべきミッションなのか?
「……二ヶ月後に、神の生誕祭があるのです」
訝しんでいた時、グランネルさんがそう言った。
彼は指を組み直し、続ける。
「その生誕祭では、様々な国から代表者……主に国王が集まり、それぞれの国の郷土料理を持ち寄って神への捧げものとして、神の生誕を祝うのです。現在のノールト国の状況では、農作物が育たず、捧げものが用意できないのです」
あっ、宗教的な問題ですか。
敵が強いとはいえ、敵を殲滅することが私達の目的。
結局は倒さなければならない敵であると思うし、ここで断る理由にはならない。
ただ、もう一つ気がかりがあるとすれば……。
「私達がいない間の、その……神の御神体の保護は、誰がするんですか?」
蜜柑がオズオズと尋ねると、レオガルドさんは手で誰かを示した。
見ると、それは騎士のお兄さんだった。
「カインドルの率いる騎士団が対処します。魔法少女様のように完全に倒すことは出来ませんが、体を一度行動不能にすることは出来ます。……切り離した体を遠くに移動させれば、しばらくの時間稼ぎは出来ます」
「騎士団は人数もいますし、魔法少女様が危惧する必要は無いです」
騎士のお兄さんの名前ってカインドルって言うんだ。
なんか他二人に比べると少しダサいなぁ……あんま呼びたくないし、彼は騎士のお兄さんのままで良いや。
でも、これで私達が気になる点や懸念点は無くなった、か?
「……分かりました。では、お受け致しましょう」
沙織のその声が聴こえ、私は姿勢を正す。
彼女の言葉にレオガルドさんは「ありがとうございます」と言った。
その時、私は気になることが一つあり、手を挙げた。
「あ、あの!」
「……はい? 何でしょうか?」
笑顔でそう言って首を傾げるレオガルドさんに、私はアリマンビジュをネックレスの形にして宝石を持ち上げる。
昨日敵を二体倒した影響で、他三人よりは少ないが、私の物にも光は溜まっている。
「これ……敵を倒すと光が溜まっているんですけど、これってどういう光なんですか?」
「あぁ、それは……」
レオガルドさんはそこまで言うと、微かに視線を彷徨わせた後で、優しく笑った。
「……魔法少女様がどれだけ敵を倒したか示す、一種の数値のようなものです」
「……なんでそんなものが?」
「大体の目安ですよ。一人がどれだけ倒したかが目に見えて分かるだけのもの。……恐らく、アルトーム様の気まぐれでしょう」
レオガルドさんの言葉に、私達は顔を見合わせた。
この言葉を全て信じて良いものか、判別し難い部分がある。
「……分かりました。ありがとうございます」
でも、ここでこれ以上言及するのは憚られたので、私はそう答えておいた。
あくまで彼の言葉は、一つの仮説として捉えた方が良いだろう。
そう心の中で思いながら。




