第40話 林原葉月⑦
風が、若菜色に染まった髪を揺らす。
変身で染まった髪は、トップスリー同様、変身を解いても戻らなかった。
木漏れ日を受け、つい目を細めると、頭を撫でられた。
「葉月、大丈夫? まだ体動かない?」
「うん。まだ少しキツイかも」
私の言葉に、トネールはどこか悲しそうな表情をした。
現在、私は先ほどまで戦っていた森で、トネールに膝枕をされている。
なぜこんなことになったのか。
それは、少し前に遡る。
今まで、技を使って戦闘不能になった人は、基本的に明日香が運んでいた。
しかし、今回は二人。
流石の明日香でも二人も運ぶのは難しい。
蜜柑が変身して私を運ぶことを志願したが、小学生同様の見た目をした蜜柑に運ばれるのは罪悪感が半端なさそうだったので辞退した。
体格の差もあるし、何より、蜜柑には武器があるから持てないと思ったのだ。
そこで、トネールがここでしばらく私の看病をすると言った。
私が動けるようになるまでの間、ここで一緒にいて私を見ると。
じゃあ私も、と蜜柑が志願したが、他の魔法少女は早く城に行って休むべきだと私が提案した。
こんな地面より、城のソファとかベッドで休んだ方が絶対良いしね。
「……あの……ごめんなさい」
「え?」
突然謝られ、私はつい聞き返した。
するとトネールは視線を微かに彷徨わせた。
紫色の綺麗な目がキョロキョロと動き、長い睫毛が揺れる。
その微かな動き一つ一つが可憐で、私はしばらく見惚れた。
ぼんやりと彼女を見ていると、トネールはようやく私の目を見て、続けた。
「今日、私が勝手に、付いてきてしまったから……そのせいで、葉月が、魔法少女に……」
「いや、そんなの気にしてないよ」
私の言葉に、トネールは「でもっ」と言う。
それを遮るように、私は続けた。
「多分さ、今回トネールがいなくても、多分変身はしないといけなかったんだと思う。……今回のは不可抗力だったんだよ」
「……でも……」
「それに、結局いずれは魔法少女にならないといけなかった。今までは、その勇気が無かっただけ。むしろ、トネールは私に勇気をくれたんだよ。……ありがとう」
そう言って笑って見せると、トネールは悲しそうに口元を歪めた。
まぁ、勇気というか、魔法少女の代償が怖かっただけなんだけど。
でも、今回はトネールがいたから、それを割り切ることが出来た。
例え魔法少女に代償が必要だったとしても、私は、後悔しない。
もう……友達に守られてばかりは、嫌だから。
というか、なんか、少し微妙な空気になってしまった。
何か、話題変えた方が良いかな……?
私は少し考え、口を開く。
「ところで、なんで今私はトネールに膝枕されてんの?」
「……嫌なの?」
「え? や、嫌ではないけど……」
「なら良かった」
そう言って笑顔で私の頭を撫でるトネールに、頭の中に大量のクエスチョンマークが浮かぶ。
これは一体どういう状況っすか?
「キュイー!」
しかし、現状を理解しようとしていた時、召喚したドラゴンが無邪気に鳴きながらトネールの肩に乗った。
そういえば……。
「あのさ、この子ってなんでここにいるの? 体が触れていたトネールならまだしも」
「え? ……あぁ。召喚獣は召喚者とある一定以内の距離しか離れられないのよ。一応、その距離を広くすることも出来なくは無いけど」
「え、どうやるの?」
私が聞き返すと、トネールは目を細めて、ドラゴンの頭を撫でた。
「この子に名前を付けるの。実は今はまだ仮契約の状態で、名前を付けることでようやく正式に召喚獣と召喚者という関係になり、出来ることが増えるの」
「へぇ……名前、か……」
トネールの説明を受けて、私はドラゴンを見た。
ドラゴンはトネールの肩から私を見下ろしている。
名前……ねぇ……。
「……ドラゴンだし、ドラ〇もんとか……」
「えっ……?」
「ごめん何でもない」
引きつった笑みで聞き返すトネールに、途端に恥ずかしさが湧き上がってくる。
流石にこれはアウトか。著作権的な問題で。
「んー……そういうのよく分かんないや。トネールが決めてよ」
「へっ?」
「よく考えたら、この子を召喚出来たのはトネールのおかげだしね。トネールにも懐いてるし」
私の言葉に、トネールは「えっと……」と戸惑う素振りを見せる。
それから肩に乗っているドラゴンを見てしばらく考えると、「じゃあ……」と言いながら、ドラゴンを両手に乗せて自分の顔の前まで持って行く。
「……ギン」
「ん?」
「銀色だから、ギン」
どこか恥ずかしそうに言うトネール。
彼女が付けてくれた名前を、私は頭の中で反芻する。
ギン……ギン……。
「……うん、良いと思う! よし、じゃあ、お前の名前は今日からギンだ!」
「キュイ!」
私の言葉に、ギンは無邪気に鳴いた。
直後、突然頭の中に様々な情報が入って来る。
少ししてそれが落ち着くと、私は息をついてギンを見た。
まず分かったことは、召喚獣と召喚者の中には絶対の主従関係があり、命令さえすれば何でも従うらしい。
ギンが出来る行動範囲の方も、私が『行動範囲は五メートル以内』などの命令をすればそれに従う。
「キュイ! キュイ!」
どうやら、ギンは自分に与えられた名前が気に入った様子だ。
嬉しそうに無邪気に鳴きながら、私の頭上を跳び回っている。
それに、私もトネールもなんだか微笑ましくて笑っていた。
昨夜、この小説が百合小説の記事で纏められました。
サイトの訪問者の方が提供してくださったらしく、誠にありがたいです。
昨夜舐め回すようにその記事を何度も読んでいたら暗記しました。
読者の方からの、私の意志とはまた違った解釈が聞けて、新鮮でした。
まだまだこの作品は始まったばかりですので、これからもたくさんの方々に楽しんで読んで頂けるように精進していきたいと思います。
よろしくお願いします。




