第3話 騎士
「お怪我は無いですか? 魔法少女様」
そう言って微笑むロイヤルブロンドの青年。
鎧を着て剣を持っていることから、恐らく騎士だろうか。
顔が物凄く整っていて、確実にイケメンの部類に当てはまる。
マジか……こんなカッコいい人から守られるとか……。
しかし、不思議なことに、恋に落ちたりとかそういう感じは無かった。
もしこれが騎士と魔法少女のラブコメだったりしたら、今頃私は一瞬で恋に落ちていたんだろうなぁ。
「だ、大丈夫、です……」
咄嗟にそんな風に返事をする。
すると青年は安堵の表情を浮かべ、巨大虎に視線を向ける。
巨大虎は、仲間を真っ二つにされたことからか、怒りを露わにして騎士を睨む。
すると騎士はフッと不敵な笑みを浮かべ、剣を構える。
突然よく分からない森に来たと思ったら、巨大虎に出会い、トップスリーに助けられ、なぜか提げられていたネックレスに血液を吸わせたら魔法少女? に変身して、かと思えばイケメンの騎士が現れて、今はその騎士が巨大虎と対峙している。
ハッキリ言えば、わけがわからない。
私と同じく混乱しているのか、困惑した表情で巨大虎と騎士を見る三人。
先に動き出したのは、巨大虎の方だった。
騎士に向かって一気に駆け、前足を振りかぶる。
しかし騎士はその動きを見切り、振り下ろされた前足を紙一重で避ける。
そして剣を振って巨大虎の前足を切り落とした。
「ガァッ……!?」
困惑したような声をあげる巨大虎の腹に剣を突き刺し、スライドさせる。
すると巨大虎はその場所から上半身と下半身に分かれ、地面に倒れる。
私達は言葉を失い、その様子をただ見つめることしか出来ない。
「さぁ、今の内に逃げましょう」
騎士の言葉に、私は反射的に立ち上がる。
すると、不知火さんが困惑したような表情で地面に倒れる巨大虎や巨大鼠を見て、騎士を見た。
「あれ、死んだの?」
「……私の力ではトドメを刺すことは出来ません。……また動き出すより前に、早く」
静かだが、威圧的な声。
それに急かされ、私達は荷物とかを拾う暇も無くその場から離れさせられた。
騎士のお兄さんに連れていかれしばらく歩くと、多くの騎士らしき人達がいた。
そこで、私は未だに若菜と再会を出来ていないことに気付いた。
「あ、あの……若菜が……」
「え?」
「私の大事な友達なんです。あの、彼女は……」
私の言葉に、私達を助けてくれた騎士のお兄さんは、なぜか私達の数を目で数え始める。
何度か数えると、首を横に振った。
「その子は、ここにはいないよ」
「えっと……」
「説明することは色々ある。今は、付いてきてくれないか」
その言葉に、私は唇を噤んだ。
すると、次は風間さんが手を挙げた。
「何だい?」
「あ、あの……この服はどうやったら元に戻りますか?」
顔を赤らめながら言う風間さんに、騎士のお兄さんは目を丸くする。
彼女の言葉に、山吹さんはコクコクと大きく何度も頷いた。
あぁ、やっぱり恥ずかしいよね。ほとんどコスプレみたいな感じあるもんね。
「え、この服嫌なの? こんなにカッコいいのに~」
しかし、不知火さんはむしろ気に入っている様子。
トップスリーの会話を聞き、騎士のお兄さんはため息をついて口を開いた。
「アリマンビジュに触れてください。それで変身は解けます」
「「「「アリマンビジュ?」」」」
聞き慣れない単語に、私達は口を揃えてそう聞き返した。
すると、騎士のお兄さんは風間さんの手を取り、指ぬきグローブの手の甲に着いた宝石を指さす。
「これです。これが……アリマンビジュ」
「あ、わ、分かりました……ありがとうございます」
そう言って目を逸らす風間さん。
堕ちた? ねぇ、堕ちた?
内心そう茶化しつつ、私は自分のアリマンビジュ? を見つめた。
私は変身していないから、今回の件については関係ない。
でも、いずれは私も……これを使うことになるのだろうか?
もしそうなったとしたら、この魔法少女に、代償が必要ではないと良いのだが……。
そう考えている間にトップスリーは変身を解いた。
しかし、変身を解いても、元に戻らない部分があった。
「え……」
驚いたように声を漏らし、自分の髪を見つめる風間さん。
それもそのハズだ。
だって彼女達の髪色は……変身した時の髪色のままなのだから。
髪だけじゃなくて、目の色もそのままだ。
「あれ、髪……そのまま……?」
「え、や……なんで……!」
「二人の髪……ってことは、私のも……!?」
あまり驚いていない不知火さんに対し、他二人はかなり動揺している。
変身後の髪色が維持されている?
どういう原理で? ……いや、まだ分からないことだらけだ。
この髪色のこと以外にも、知らなければならない情報は多い。
「それでは、私達に付いてきてください」
そう言って私達を先導するように、騎士のお兄さんは歩き出す。
彼の言葉に私達は頷き、彼と他の騎士に挟まれるような形で付いて行く。
これから何が待っているのか、これから何が起こるのか。今、何が起きているのか。
彼等に付いていけば、それが分かるのだと信じて。