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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第1章 魔法少女編
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第35話 林原葉月②

 自己紹介を終えると、途端に話すことが無くなってしまう。

 なんだか気まずくなって、私は項の辺りを掻いて誤魔化す。

 これからどうしたものか……。


「ケホッ、ケホッ」


 私が会話のネタを探していた時、突然、トネールさんが激しく咳き込んだ。

 それだけなら普通のことかもしれないが、トネールさんの咳はかなり長く続き、只事ではないことを察する。

 私は慌ててトネールさんの傍に駆け寄り、彼女の背中を擦った。


「だ、大丈夫!?」

「ケホッ……すいません、ケホッ……あまり、体が丈夫では、ケホッ、無くて……」

「そうなんだ……少し休もうか」


 私はそう言いながらトネールさんの手を取り、背中を押して休む場所を探す。

 近くにベンチはあるけど、日光も避けた方が良いかもしれない。

 そうなると……あのイギリス庭園とかにありそうな建造物に入るか。


「トネールさん。あそこまで歩くよ」

「はぃ……」


 弱々しく、掠れた声で返事をするトネールさんを促し、私達はその建造物の中に入る。

 中は想像以上にしっかりしていて、ひとまず、木で出来た椅子に座らせる。

 すぐに私は隣に座って、彼女の背中を擦った。


「大丈夫? 飲み物とかもらってこようか?」

「い、いえ……ケホッ、大丈夫、です……大分、落ち着いたので……」

「でも……」


 心配する私を手で制し、トネールさんは無言で微笑んだ。

 彼女の笑顔に、私は何も言えなくて、口を噤む。

 するとトネールさんは自分の胸に手を当てた。


「私……生まれつき、病気なんです……小さい頃は本当に酷くて、今はむしろ落ち着いて……」

「そうなんだ……あ、そうだ!」


 私は唐突に閃き、つい声を発した。

 それから不思議そうにこちらを見ているトネールさんの肩を掴み、尋ねる。


「この世界ってさ、回復魔法とか無いの!? その魔法使ったら、その病気も……」

「……それで治るなら、とっくにやってますよ」


 トネールさんの言葉に、私は彼女の肩から手を離した。

 すると彼女はフッとどこか切ない笑みを浮かべ、目を逸らす。


「……カルティア症候群」


 突然放たれた聞き慣れない単語に、私は「へっ?」と間抜けな声で返した。

 するとトネールさんは目を細めて、私を見た。


「これが……私が患っている病気の名前です」

「……はぁ……?」

「えっと……この世界の魔力についてはご存知ですか?」


 その言葉に、私は首を横に振った。

 するとトネールさんは「そうですよね」と言う。

 なんか、私の考えていることがお見通しされているみたい。

 それから、トネールさんの口から、魔力とカルティア症候群について説明を受けた。


 まず、魔力というのは、例えるなら水のようなものらしい。

 どの人間の体内にも存在していて、一種の生命力のようなものだとか。

 その魔力で人は魔法を使ったり、人体強化を行ったり、生活を支えたりなどしているらしい。

 魔力とは、この世界の人々の生活に無くてはならないものらしい。


 この世界の人の体には、魔力の量を調節する二つの機能がある。

 自動生成と、自動排出だ。

 読んで字の如く、魔力を体内で生成する機能と、魔力を体外に排出する機能だ。

 ただ、トネールさんの場合、自動排出の機能が失われた状態らしい。

 人が溜め込める魔力にも限界がある。

 生成だけが行われた魔力は、その人間の体に異常をもたらす。

 症状は主に、発熱、咳、関節痛、筋肉痛、頭痛、倦怠感、食欲不振、鼻水、喉の痛み……その他諸々。


 回復魔法で治らないのにも、理由がある。

 そもそも回復魔法というのは、自分の魔力を相手の魔力に干渉させて魔力を増やし、自然治癒能力を上げるものらしい。

 まぁ簡単な話、トネールさんに回復魔法を行っても、彼女の膨大な魔力の流れを乱し、逆に体調を悪化してしまうらしい。


「私が初の発病者らしくて、他に病気になった人もいないし……だから、治療法はまだ見つかっていないの」

「そうなんだ……大変だね」

「そんなことないわ。もう慣れたし、最近は症状が出ることも少なくなってきたから」


 そう言って微笑むトネールさんの顔を見ていると、なんだか心が痛くなってくる。

 しかし、それより先に、少し気になる部分がある。


「ところで、トネールさん……なんか、話し方変わったね?」

「え?」

「フランクな感じになったというか……少し軽い感じになったというか」


 私の言葉に、トネールさんはサッと青ざめたような表情をした。

 それから慌てた様子で辺りを見渡したりして、オロオロし始める。

 でも、これは事実だ。最初は敬語で話していたのに、長く話している間に少しずつ敬語が抜けていったのだ。

 ……別に不快では無いが。


「ご、ごごごめんなさい! 魔法少女様に敬語を使わないなんて、そんな、そんな……!」

「あぁ、いや、気にしてないよ。てか、私も最初から敬語じゃなかったし……お互い様で」

「でも……」

「てか、トネールさんって同い年だよね? だったら友達にならない?」

「とも、だち……?」


 聞き返すトネールさんに、私は頷いた。


「うんっ。私、まだこの世界とか来たばかりだからさ、色々教えてくれたら嬉しい」

「で、でも……私、ずっと部屋にいたから、知っていることなんて……」

「あー、いや、教えてもらうことメインじゃなくて、普通に仲良くしたいの。……ダメ、かな?」


 徐々に不安になり、私はそう尋ねた。

 するとトネールさんは嬉しそうに笑って、頷いた。


「じゃあ、これからよろしくお願いします。葉月様」

「あ、様付けとかやめてやめて」


 私が慌てて遮ると、トネールさんはキョトンとした。

 その表情に笑い、私は続けた。


「友達なんだからさ、葉月、で良いよ。あ、私も呼び捨てして良い?」

「……うん。葉月」


 トネールはそう言って頷き、笑った。

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