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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
番外章3 蜜柑とギン編
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第24話 甘酸っぱい夏祭り①

 初めて夏祭りに行ったのは、いつだっただろうか。

 少なくとも……まだ、お父さんやお母さんが生きていた頃の話。

 毎年五人で夏祭りに行って、屋台を周ったり、花火を見たりしていたっけな。

 両親が死んでからはお姉ちゃんが保護者代わりに一緒にいてくれて……でも、入学式での一件があってからは、人ごみはどうにも苦手になってしまった。

 その頃から、檸檬は友達と夏祭りに行くようになった。

 お姉ちゃんは今まで花鈴さんや真凛さんから誘いを受けていたが、家族の面倒を見ないといけないからと断り続けていたらしい。

 しかし、私は人ごみが苦手で夏祭りに行くことが億劫になり、檸檬が友達と行くようになり、お姉ちゃんも二人と一緒に行くようになった。


 ……少し、話が逸れてしまったような気がする。

 何が言いたいかと言うと……夏祭りは、私にとっては別に、特別なことではなくなってしまったのだ。

 人ごみは苦手だし、屋台なんて普通に同じものを買うよりも割高だし。

 もう、純粋に夏祭りを楽しめる日は来ないと思っていた。

 悲しいけど、これが成長というものなんだろうと、どこか諦めの感情もあった。

 ……でも……――


「ぉ……ぉぉぉおおおおお……!」


 楷出神社の境内で行われる夏祭りを目の前に、隣で歓声を上げるギンちゃんを見て、私は苦笑した。

 ――彼女と一緒なら、昔みたいに、夏祭りを純粋に楽しめるような気がした。


「蜜柑! あれ! あれ何!? こ、これは! あぁあれは! あれ何!?」

「ギンちゃん落ち着いて。どうどう」


 ピョンピョンと軽く跳ねながらはしゃぐギンちゃんを、私はなんとか宥める。

 しかし、それでギンちゃんのハイテンションが治まることはなく、キョロキョロと忙しなく辺りを見渡していた。

 彼女の年相応な反応に、どこか微笑ましさを覚えつつ、私は続けた。


「この辺りにあるのは屋台って言って、お金を払うと食べ物を買えたり、ちょっとした遊びが出来る場所だよ」

「へぇー! じゃ、じゃああれは! あと、あれと、あれは……!」

「いっぺんに聞かないでよ~。えっとね……」


 好奇心旺盛な様子で様々な屋台を指さすギンちゃんに苦笑しつつ、私は一つずつ丁寧に説明していく。

 その度にギンちゃんは感嘆の溜息を漏らし、次々に他の屋台を指さしていく。

 一通り説明を終えると、ギンちゃんはようやく少しだけテンションを下げた。

 ……少しだけ。


「ギンちゃん、本当に夏祭り初めてなんだね」

「ん……知識はあったんだけど、来るのは初めて」

「そうなんだ」


 知識はあったのか、と、内心少し驚く。

 でもまぁ、アニメや漫画でも夏祭りに行く話なんかはよくあるし、その辺りで知ったのだろう。

 私はお姉ちゃんから貰った軍資金を確認しつつ、ギンちゃんを見た。


「まぁでも、貰ったお金には限りがあるし、全部回ったりとかは出来ないね」

「えっ、そうなの!?」

「うん。だから、行く屋台は選ばなくちゃね」


 私の言葉に、ギンちゃんはムーとしながらも、屋台を一つずつじっくり観察し始める。

 こういう姿を見ていると、やっぱりギンちゃんは小さい女の子なんだなぁ、と思う。

 今更なんだけど、なんか……たまに忘れそうになるんだよね。


「じゃあ……あれ食べてみたい」


 私の服を小さく摘まみながら、ギンちゃんはそう言ってとある屋台を指さした。

 視線を向けてみるとそこには、かき氷の屋台があった。


「……かき氷?」

「うん。なんか……カラフルで美味しそう」


 ジッとかき氷のシロップを見つめながら言うギンちゃんに、私は小さく笑った。

 子供らしい理由だと思いつつ、私はギンちゃんを連れて、かき氷の屋台の前に行った。


「いらっしゃい。何味にする?」

「えっと……」


 屋台のオジサンの言葉に、私はシロップの種類を見つめる。

 かき氷なんて久しぶりに食べるから、何味が好きだったかなんて覚えてないや。

 ギンちゃんも初めてだからか、かなり迷っているみたいだ。


「蜜柑、これ、何が美味しいの?」

「うーん……私も食べるのは久しぶりだからなぁ。味は気にしないで、見た目重視で選んでみるのも良いんじゃないかな?」

「見た目かぁ……」


 ギンちゃんはそう呟きながら、シロップをじっくり見つめる。

 ……まぁ、私もそんな感じで選んでみれば良いか。

 見た目……色……か……。

 一つずつシロップを見ていた時、ふと……メロン味のシロップに目が行った。


 ……緑色。

 その色に、何かが引っ掛かる。

 あの、大切な誰かの存在が……私の脳裏にちらつく。


「……よし、決めたっ! 蜜柑は?」

「え? ……あぁ。私も決めた」

「何にするんだい?」


 にこやかに微笑みながら聞いて来るオジサンに、私とギンちゃんはそれぞれ注文をした。

 ギンちゃんはレモン味で、私はメロン味。

 オジサンはすぐにかき氷を作ってくれて、あっという間に黄色と緑のかき氷を作ってしまった。

 私達はかき氷を受け取り、それらを食べるために一度屋台や人ごみがある場所から離れた。

 ちょうど屋台で買ったものを食べる為の場所が用意してあったので、そこの手近な場所に腰を下ろした。


「じゃ、いただきまーす!」


 ギンちゃんは早速そう言って、黄色のかき氷に、ストローで出来たスプーンを突き立てた。

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