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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
番外章2 明日香と沙織編
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第7話 県総体の日

 ついに県総体の日がやってきた。

 会場はちゃんとした球場とかではなく、とある高校のソフトボール場を使って行われる。

 と言っても、会場である大宮東高等学校は運動部の活動が盛んで、ソフトボール場だけでも三つくらいある程に広大な敷地だが。

 開催式を行った後は、ソフトボール場やその間に出来る空間などを使って各学校で練習を行う。

 僕達も例外ではなく、ソフトボール場とソフトボール場の間に出来た広い空間で練習を行っていた。


「じゃあティーバッティング一人五十本ずつやったら休憩して良いよー。明日香と明美(あけみ)はピッチング練習して肩慣らしといて」


 部長でありキャプテンでもある飯田(いいだ) 咲綾(さあや)先輩の言葉に、私達は「はい」と返事をする。

 ティーバッティングとは、カゴに入れたボールを次々に軽く投げ、ネットやフェンスに向かって打ち込む練習のことである。

 五十本はわざわざ数えなくても、カゴの中のボールの並べ方を揃えれば五十球入っている仕組みになっているので、それを全て投げ切れば良い。

 ティーバッティングをするべくバットを入れたケースの方に向かっていると、相方である今日子がパッと顔を上げた。


「明日香! 赤い奴が良い!」

「はいはい」


 今日子の言葉にそう答えながら、彼女が言ったであろう赤地に白色の英文字が書かれたバットを手に取る。

 バット、と言っても、メーカーなどによって一本一本違う。

 変わることと言えば主に重さで、人によって合うバットは千差万別だ。

 で、そんな違うバットを区別するのに、色やバットに書かれている文字などで呼び方が異なる。

 今日子が言った赤い奴っていうのは当然見た目からの呼び名だし、僕が愛用しているバットは同じ色のバットが別であるため、バットに書かれている文字でビヨンドって呼ばれてる。


 今日子と共に歩いて、ティーバッティングできる場所を見つけ、そこで早速ティーバッティングをすることになる。

 バットを持っている僕から先に打つことになったので、今日子がカゴのセッティングをしている間にバッティンググローブを手にはめる。

 ソフトボール部への入部をきっかけに、今日子と一緒に買いに行ったお揃いのバッティンググローブ。

 しかし、度重なる練習のせいか、親指の付け根辺りが少しボロボロになってきている。

 そろそろ新しいのを買わないとなぁ……。


「それじゃあ、明日香。行くよ」

「うん」


 今日子の言葉に、僕はバットを構えた。

 それから投げられたボールを、一球一球正確に打っていく。

 バットに当たったボールは、真っ直ぐに目の前のフェンスにぶつかっていく。

 カシャンッと響くフェンスが軋む音が、やけに心地良く感じた。


「ラストー」


 あっという間にボールは無くなり、最後の一球となる。

 今日子が気の抜けた声で言いながら放ったボールを、しっかりとフェンスに打ち込む。

 すると今日子は立ち上がり、カゴを片手にこちらに歩いて来る。

 僕もボールを打ち込んでいたフェンスに立てかけ、二人で地面に散乱するボールを拾い始めた。


 スパァンッ!


 その時、乾いた音が響き渡った。

 ハッと顔を上げると、フェンスの向こう側で別の学校が練習しているのが見えた。

 紺色を基調としたユニフォームに身を包む学校……昭栄中学校だ。

 参加する県内の中学校でもトップクラスの実力を誇っており、優勝候補でもある。

 そして……僕達が一回戦でぶつかる学校でも、ある。


「ナイボール!」


 キャッチャーであろう少女は、そう言ってボールを投げた少女に受け止めたボールを投げ返す。

 少女はそのボールをしっかりとキャッチして、胸の前で構える。

 ボールを持った手を後ろに振りかぶり、遠心力を付けて回転させ、キャッチャーに向かって投げる。

 手から離れたそれは、ヒュッと音を立て、一瞬でキャッチャーミットに吸い込まれた。

 スパァンッ! と、またもや乾いた音がする。


「……速っ……」


 それを呆然と眺めた僕は、小さく呟いた。

 すると、隣でボール拾いをしていた今日子が、ふと顔を上げた。


「何他所のピッチングに怖気づいてんの」

「いや……あれはかなり速いよね?」

「うーん……私的には明日香と同じくらいだと思うけど」

「そう?」


 僕のピッチングってあれくらい速いっけ?

 それなりに速度はある方だと自負してはいるけど、やはり客観的に見るのと主観的に見るのでは感じ方が変わるのだろうか。

 聞き返した僕の言葉に、今日子は「うんっ」と迷わず頷いた。


「長年受け続けてる私の眼を信じなさいな。明日香も充分速いし、それに鍛えられてる私達なら打てるから」

「……どうだか……」

「何なら、今までより速いボール投げても良いよ? 私が全部キャッチしてあげるから」


 ニカッと笑いながら言う今日子に、肩から力が抜けるのが分かった。

 まぁ、ここまで言うなら、そうなのかもしれないな。

 ひとまず、さっさとティーバッティングを終わらせて、ピッチング練習がしたかった。

 早く片付けようと近くに落ちているボールを拾おうとした時だった。


「……伊勢中学校のピッチャーの方、ですよね?」


 声を掛けられた。

 慌てて顔を上げると、そこには、先程ボールを投げていた少女が立っていた。

 彼女の言葉に、僕は慌てて立ち上がる。


「あ、はいっ。そうですけど……」

「やっぱり。カッコ良い見た目だから、印象に残っていて」


 そう言って、彼女は微笑む。

 笑うと両頬にえくぼが出来て、可愛らしい。

 ぼんやりと見ていると、彼女は僕を見て、続けて口を開いた。


「一回戦で戦えるの、凄く楽しみにしていたんです。お互い頑張りましょうね!」


 朗らかに笑いながら言う少女に、僕は少し面食らう。

 とはいえ、折角友好的に接してくれているのだから、こちらもそう接するべきだろう。

 僕は微笑み、頷いた。


「あぁ。僕も、君みたいな可愛い子と戦えることが凄く楽しみだよ」

「ッ……は、はい……!」


 僕の言葉に、少女は顔を赤らめて頷く。

 あれ……何か変なこと言ったかな……?

 自分の発言を思い返していると、後ろから襟首を掴まれた。


「目を離してる隙に何ナンパしてんの」

「な、ナンパ……!?」

「ホラ、次私が打つから、投げて」


 今日子の催促に、僕は少女に「それじゃあね」と一言挨拶をしてから、ティーバッティングの準備に取り掛かった。

次回から試合に入ります。

ソフトボールのルールに関する説明はあまり描写する予定では無いので、ルールが分からないという方は先に調べておいてもらえると有難いです。

基本的なルールやポジションは野球とほとんど変わりません。

ボールやバットの大きさが違うことと、ピッチャーがボールから手を離すまで塁から離れてはいけないくらいです。

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