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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
番外章2 明日香と沙織編
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第1話 長い夢を見ていたような

 フッ……と、一瞬意識が飛んだような感覚がした。

 部室から出るところだった僕は、それに少しよろめき、数歩蹈鞴を踏んだ。

 ……何だろう……今の感覚……。

 一瞬だけ意識が飛んでいたようで……物凄く長い夢を見ていたような感覚がする。

 頭に手を当てて、錯乱する意識を整えていた時だった。


「あーすかっ!」


 僕の名前を呼びながら、幼馴染の早乙女(さおとめ) 今日子(きょうこ)が背中をバンッと強く叩いて来る。

 それに驚き、僕は今日子に視線を向けた。

 すると、彼女はニカッと明るく笑った。


「どうした? 何か顔色悪いけど」

「えっ? いや、大丈夫……だと思うけど」

「思うけど……って、答え曖昧過ぎない?」


 ムッとしながら言う今日子に、僕は苦笑する。


「いや……さっきちょっと意識が飛びかけてさ。寝不足かなぁ」

「ちょっ……大丈夫? エースなんだから体調管理はちゃんとしてもらわないと困るよ?」

「あはは……大丈夫だと思うけどねぇ……」

「もぉ……そういえば、日和先輩も最近テスト前で寝不足だって言ってたなぁ……寝不足には何が効くのかな」


 真剣な表情でブツブツと呟く今日子に、僕は苦笑した。

 日和先輩とは、僕達が一年生だった時に三年生だった先輩だ。

 そして、今日子の彼女でもある。

 日和先輩は良い人だし、今日子が幸せなのは嬉しい限りなんだけど、毎日のように惚気られるのは流石に勘弁。


 それにしても、テストかぁ……そういえば、もうすぐ期末テストだ。

 終わったら、すぐに県総体がある。

 その為、今はかなり忙しいのだ。


 僕が所属している伊勢中学校ソフトボール部は、強いか弱いかで聞かれると、中間辺りだと思う。

 ソフトボールの大会は市総体、県総体を経て、全国大会に出場することが出来る。

 この学校はいつも市総体は勝ち上がれるのだが、県総体で負けることが多い。

 去年は県総体の決勝まで行くことは出来たけど、結局そこで負けてしまった。


 しかし、今年はそうは行かない。

 何たって、僕がピッチャーを務めるのだから。

 なんとしても県総体を勝ち上がり、先輩方を全国大会に連れて行くんだ。


「……それより先に、期末テストね」


 一人意気込んでいると、今日子が呆れたような笑みを浮かべながら言ってきた。

 彼女の言葉に、僕はギョッとした。


「えっ、もしかして僕の心を読んで……」

「そんな超能力無いし……全部声に出てたけど?」

「……」


 今日子の言葉になんだか恥ずかしくなって、僕は目を伏せた。

 顔が火照るのを感じながら、僕は数段程度の階段を上がり、生徒玄関に入る。

 それから自分の下駄箱を探し、蓋を開ける。

 次の瞬間、バサバサと数枚程度の封筒が落ちてきた。


「うわわわ……!」


 突然のことに驚きつつも、僕は慌てて封筒を拾う。

 どれもが綺麗な色合いと可愛らしいデザインの封筒で、一目でラブレターだと分かる。

 今日は……四枚か。いつもより少ないな。

 溜息をつきつつ封筒を整えていると、先に靴を履き替えた今日子が僕を見て苦笑を浮かべた。


「うーわ、またラブレター貰ったの」

「うん……困るなぁ。これでもう何枚目だろ」


 僕はそう言いながら、下駄箱から上靴を出す。

 そんな僕の言葉に、今日子はヒクッと頬を引きつらせた。


「数えきれないくらいってヤバいね……私なんて、人生でラブレター貰った数なんて両手の指で足りるよ」

「僕はそれが羨ましいよ」

「えー……あ、でも日和先輩から貰った愛の言葉を入れたら数えきれないかな。毎日LINEで言われてるから」

「あーはいはい」


 惚気が始まりそうだったので、適当に切り上げる。

 上靴を履いた僕は、下足を下駄箱に入れて、蓋を閉じる。


「……でも……僕は今日子が羨ましいよ」

「ほぇ? なんで?」

「だって……知らない人から告白されても、嬉しくも何とも無いよ。本当に好きな人から言われなくちゃ……」


 僕はそう言いながら、鞄を肩に掛け直す。

 その時、鞄の中でラブレターの封筒がカサッと音を立てたのが聴こえた。

 こんなもの貰っても、意味がない。

 興味無い人から向けられる好意ほど、鬱陶しいものはない。


「ふぅん……モテる人は言うことが違いますねぇ。流石はトップス……」


 今日子はそこまで言って、自分の口に手を当てた。

 ……トップス……?

 なんで急に服の種類を?

 不思議に思っていると、今日子は「んッんー」とわざとらしく咳をして、ジトッと僕を見た。


「でも、そこまで言うなら、好きな人がいるってことですかー?」

「えっ……いや、いないけど……」

「やっぱり……そこまで言うなら好きな人を作ってから言って欲しいね」


 呆れたように溜息をつきながら言う今日子に、僕は「ごもっとも」と頷いた。

 それから、ふと顔を上げた時だった。


「……あっ……」


 小さく、声を漏らした。

 ちょうど顔を上げた時、廊下を歩く沙織ちゃんを見たのだ。

 沙織ちゃんこと、風間沙織。

 二年生ながら生徒会長を務めている、すごく綺麗な女の子。

 彼女は黒くて艶やかな長髪を靡かせながら、廊下を大股で歩いて行く。

 つい見惚れていると、彼女は少し足を止め、こちらを見た。


「……」

「……」


 何とも言えない時間が流れる。

 偶然近くを通った同級生と、目が合っただけ。

 ただそれだけのはずなのに……目が離せない。

 とりあえず……朝の挨拶をするべきか……?

 そう思って、僕は口を開いた。


「ッ……」


 しかし、朝の挨拶をすることは出来なかった。

 なぜなら、沙織ちゃんが突然目から涙を流したからだ。

 一筋の雫が彼女の白い肌を伝い、床に落下していく。


「え……?」

「あっ……これはっ……」


 沙織ちゃんは流れた涙を慌てて拭う。

 しかし、彼女の涙はとめどなく流れ、拭いきれないみたいだ。

 突然のことに、僕は驚きつつも、鞄からハンカチを取り出した。


「沙織ちゃん。これ、ハンカチ……」

「ッ……!」


 僕の言葉に、彼女は涙で潤んだ目を見開く。

 それから僕とハンカチを交互に見て、顔を背けた。


「め、目にゴミが入ってしまっただけですから、大丈夫です」

「いや、でも……」

「ごきげんよう」


 短く言い、彼女は走り去る。

 お節介かもしれない。しかし、泣いている女の子を放っておくことなんて出来ない。


「今日子! これ教室持って行っといて!」

「え、ちょっと……!?」


 驚く今日子に鞄を押し付け、僕は沙織ちゃんが走っていった方向に向かって駆け出した。

というわけで、今回からは明日香×沙織編となります。

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