第11話 家族になろうよ
---現在---
<フラム視点>
「……そんなことが……」
「えぇ。大体、不自然だと思わなかったの? 三人共同じ苗字で、パーティ名に苗字を付けるなんて」
「いや、外の世界のこととかよく分からなかったし……そんなもんなのかと思ってたけど……」
尻すぼみになりながら、俺は呟いた。
苗字とかも、よく分かんねぇし……冒険者だって、見たことはあるけど、パーティ名なんて気にしたことは無い。
だから、アンジェリカ達に名前を名乗られ、パーティ名を告げられた時も、そんなものなんだと納得していた。
「なるほどね……無知な子は可愛いから、嫌いじゃないわ」
そう言いながら、別の布を裁断するルーフィ。
……何だよ。何か言いたげじゃないか。
つい不満を抱いていると、それが顔に出ていたのか、ルーフィは「何でもないわよ」と笑った。
それにさらにムッとしていた時、部屋の扉が開いた。
「ルーフィ。フラムの服は順調かい?」
「あら、アンジュちゃん。さっき採寸が終わって、ちょっとお喋りをしていたところよ」
「おっ、そうか。それで……大体どれくらいで出来る?」
「明日には出来るわよ~」
「流石、仕事が早いな。期待してるぞ」
「任せてっ」
アンジェリカとルーフィの会話を聞きながら、俺はぼんやりとアンジェリカを見ていた。
……ルーフィの話を聞いた後だと、なんか変な感じがするな。
元々は良いところのお嬢様で、今はこうして冒険者をしている。
今の姿からは、ルーフィから聞いた綺麗なお嬢様象が想像出来なくて、少し困惑してしまう。
すると、アンジェリカは俺を不思議そうな顔で見た。
「どうした? フラム。俺の顔に何か付いてるか?」
「えッ!? いやッ、そういうのじゃ、ねぇよ?」
「何だよ……ホラ、行くぞ。色々と買わないといけないものがあるからな」
アンジェリカはそう言って、俺の手を引いた。
それから二人でルーフィに礼を言って、店を後にした。
道路を歩きながら、アンジェリカは口を開く。
「良い武器屋を見つけたんだ。そこでリリィとユーリを待たせてるから、早く行くぞ」
「あ、あぁ……あのさ、アンジェリカ!」
「ん? 何だ?」
「……ルーフィに、お前の過去、聞いたんだけど……」
俺の言葉に、アンジェリカは武器屋に向かう足を止めた。
彼女に引っ張られる形で歩いていた俺も、必然的に足を止めることになる。
不審に思っていると、彼女は口を開いた。
「……全部……聞いたのか……?」
「あ、あぁ……良いところのお嬢様だったこととか……両親を……殺されたこと、だとか……」
「……そうか……」
俺の言葉に、アンジェリカは短く答える。
……言ったらダメだったのか……?
しかし、別に口止めされたわけでもないし、言っても問題無い気がした。
「……情けない過去だから、内緒にしたかったんだがなぁ……」
アンジェリカはそう言って、頭をボリボリと掻いた。
彼女の言葉に、俺は首を傾げた。
「情けない……のか……?」
「……情けねぇよ。だって……大事な家族を守れなかったんだからな」
そう言いながら、アンジェリカは拳を強く握り締め。
一度ゆっくりと呼吸をして、彼女は続けた。
「だから俺は……もう二度と、大事な家族を失わない。……もちろん、フラム。お前もな」
「……俺……?」
まさかの言葉に、俺はつい、聞き返した。
俺が……家族……? 何言ってんだコイツ?
呆けていると、彼女は俺の背中をバンバンと叩いた。
「当たり前だろ! お前ももう家族だ!」
「は!? 何を……」
「俺のパーティに入った奴は全員家族。全員でシュヴァリエだ。……そう決めた」
「無茶苦茶過ぎるだろ……」
アンジェリカの言葉に、俺はそう呟いた。
大体、家族ってそんな簡単に作れるものなのか?
……俺には家族なんていたことも無かったから、よく分かんねぇな。
「……そういえばさ、フラム」
「ん?」
「お前、いつまで俺のことアンジェリカって呼ぶつもりだ?」
「は?」
予想外の質問に、俺は聞き返す。
すると、アンジェリカは頬を膨らませた。
「俺、自分の名前嫌いなんだよなー。アンジェリカって、めっちゃお嬢様って感じしねぇ?」
「いや……分かんねぇ……」
「あぁ、そっか……でも、なげーしさ、普通にアンジュで良いよ」
「う……」
突然の提案に、俺は呻き声を漏らした。
……その呼び方には、少し抵抗感があった。
常識なんて欠片も知らない俺だが、そういう、あだ名みたいなので呼んだら……ソイツとの距離が縮むような気がする。
そうしたら……信用してしまうような気がする。
俺は……裏切られたくない。
裏切られることは、辛い。
身も心もズタズタにされる。
だから俺は、誰も信じない。
信じなければ、裏切られないから。
裏切られて傷付く必要が無いから。
「……ホラ、一回呼べよ、なっ」
しかし、アンジェリカは笑顔でそう言ってくる。
こんなの……断れる雰囲気じゃない。
俺は何度も口を開いては、閉じる。
アンジュ。
たった四文字の言葉を紡ぐことが出来ない。
……コイツを信用してしまうのが、怖い。
「……ぁ……」
喉から、掠れた声が漏れた。
信じたくない。裏切られたくない。そんな思考の奥に、一種の想いがある気がした。
……信じたい……。
「ア……ンジュ……」
その、微かな気持ちが、俺の口を動かした。
口にしてみると、意外とアッサリしていた気がする。
でも、同時に、アンジュの存在が……少しだけ、大きくなった気がした。
「ハハッ、言えるじゃんか。じゃ、早く行こうぜ」
アンジュはそう言って笑い、俺の手を引いた。
それに驚き、俺は「お、おい!」と怒鳴った。
しかし、彼女はそんなこと気にせず、歩いて行く。
……俺の手を握る彼女の手と、俺の前を歩く彼女の背中が、やけに大きく感じた。




