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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
番外章1 フラム・シュヴァリエ編
229/380

第11話 家族になろうよ

---現在---


<フラム視点>


「……そんなことが……」

「えぇ。大体、不自然だと思わなかったの? 三人共同じ苗字で、パーティ名に苗字を付けるなんて」

「いや、外の世界のこととかよく分からなかったし……そんなもんなのかと思ってたけど……」


 尻すぼみになりながら、俺は呟いた。

 苗字とかも、よく分かんねぇし……冒険者だって、見たことはあるけど、パーティ名なんて気にしたことは無い。

 だから、アンジェリカ達に名前を名乗られ、パーティ名を告げられた時も、そんなものなんだと納得していた。


「なるほどね……無知な子は可愛いから、嫌いじゃないわ」


 そう言いながら、別の布を裁断するルーフィ。

 ……何だよ。何か言いたげじゃないか。

 つい不満を抱いていると、それが顔に出ていたのか、ルーフィは「何でもないわよ」と笑った。

 それにさらにムッとしていた時、部屋の扉が開いた。


「ルーフィ。フラムの服は順調かい?」

「あら、アンジュちゃん。さっき採寸が終わって、ちょっとお喋りをしていたところよ」

「おっ、そうか。それで……大体どれくらいで出来る?」

「明日には出来るわよ~」

「流石、仕事が早いな。期待してるぞ」

「任せてっ」


 アンジェリカとルーフィの会話を聞きながら、俺はぼんやりとアンジェリカを見ていた。

 ……ルーフィの話を聞いた後だと、なんか変な感じがするな。

 元々は良いところのお嬢様で、今はこうして冒険者をしている。

 今の姿からは、ルーフィから聞いた綺麗なお嬢様象が想像出来なくて、少し困惑してしまう。

 すると、アンジェリカは俺を不思議そうな顔で見た。


「どうした? フラム。俺の顔に何か付いてるか?」

「えッ!? いやッ、そういうのじゃ、ねぇよ?」

「何だよ……ホラ、行くぞ。色々と買わないといけないものがあるからな」


 アンジェリカはそう言って、俺の手を引いた。

 それから二人でルーフィに礼を言って、店を後にした。

 道路を歩きながら、アンジェリカは口を開く。


「良い武器屋を見つけたんだ。そこでリリィとユーリを待たせてるから、早く行くぞ」

「あ、あぁ……あのさ、アンジェリカ!」

「ん? 何だ?」

「……ルーフィに、お前の過去、聞いたんだけど……」


 俺の言葉に、アンジェリカは武器屋に向かう足を止めた。

 彼女に引っ張られる形で歩いていた俺も、必然的に足を止めることになる。

 不審に思っていると、彼女は口を開いた。


「……全部……聞いたのか……?」

「あ、あぁ……良いところのお嬢様だったこととか……両親を……殺されたこと、だとか……」

「……そうか……」


 俺の言葉に、アンジェリカは短く答える。

 ……言ったらダメだったのか……?

 しかし、別に口止めされたわけでもないし、言っても問題無い気がした。


「……情けない過去だから、内緒にしたかったんだがなぁ……」


 アンジェリカはそう言って、頭をボリボリと掻いた。

 彼女の言葉に、俺は首を傾げた。


「情けない……のか……?」

「……情けねぇよ。だって……大事な家族を守れなかったんだからな」


 そう言いながら、アンジェリカは拳を強く握り締め。

 一度ゆっくりと呼吸をして、彼女は続けた。


「だから俺は……もう二度と、大事な家族を失わない。……もちろん、フラム。お前もな」

「……俺……?」


 まさかの言葉に、俺はつい、聞き返した。

 俺が……家族……? 何言ってんだコイツ?

 呆けていると、彼女は俺の背中をバンバンと叩いた。


「当たり前だろ! お前ももう家族だ!」

「は!? 何を……」

「俺のパーティに入った奴は全員家族。全員でシュヴァリエだ。……そう決めた」

「無茶苦茶過ぎるだろ……」


 アンジェリカの言葉に、俺はそう呟いた。

 大体、家族ってそんな簡単に作れるものなのか?

 ……俺には家族なんていたことも無かったから、よく分かんねぇな。


「……そういえばさ、フラム」

「ん?」

「お前、いつまで俺のことアンジェリカって呼ぶつもりだ?」

「は?」


 予想外の質問に、俺は聞き返す。

 すると、アンジェリカは頬を膨らませた。


「俺、自分の名前嫌いなんだよなー。アンジェリカって、めっちゃお嬢様って感じしねぇ?」

「いや……分かんねぇ……」

「あぁ、そっか……でも、なげーしさ、普通にアンジュで良いよ」

「う……」


 突然の提案に、俺は呻き声を漏らした。

 ……その呼び方には、少し抵抗感があった。

 常識なんて欠片も知らない俺だが、そういう、あだ名みたいなので呼んだら……ソイツとの距離が縮むような気がする。

 そうしたら……信用してしまうような気がする。


 俺は……裏切られたくない。

 裏切られることは、辛い。

 身も心もズタズタにされる。

 だから俺は、誰も信じない。

 信じなければ、裏切られないから。

 裏切られて傷付く必要が無いから。


「……ホラ、一回呼べよ、なっ」


 しかし、アンジェリカは笑顔でそう言ってくる。

 こんなの……断れる雰囲気じゃない。

 俺は何度も口を開いては、閉じる。

 アンジュ。

 たった四文字の言葉を紡ぐことが出来ない。

 ……コイツを信用してしまうのが、怖い。


「……ぁ……」


 喉から、掠れた声が漏れた。

 信じたくない。裏切られたくない。そんな思考の奥に、一種の想いがある気がした。


 ……信じたい……。


「ア……ンジュ……」


 その、微かな気持ちが、俺の口を動かした。

 口にしてみると、意外とアッサリしていた気がする。

 でも、同時に、アンジュの存在が……少しだけ、大きくなった気がした。


「ハハッ、言えるじゃんか。じゃ、早く行こうぜ」


 アンジュはそう言って笑い、俺の手を引いた。

 それに驚き、俺は「お、おい!」と怒鳴った。

 しかし、彼女はそんなこと気にせず、歩いて行く。

 ……俺の手を握る彼女の手と、俺の前を歩く彼女の背中が、やけに大きく感じた。

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