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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第11章:神殺し編
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第209話 無駄な反抗

「……なっ……」


 アルトームの言葉に、私は絶句した。

 寿命の話が……嘘……?

 言葉を失った私を見て、少女はクスクスと笑う。


「ぜーんぶ嘘だよー? 大体、神に寿命とか無いし」

「じゃあ……なんで、魔法少女の、魔力を……」

「んー……まぁ、娯楽、かな?」


 そう言って、少女は目を細め、舌なめずりをする。

 見た目にそぐわぬその動作に戸惑いつつも、私は「娯楽?」と聞き返した。

 すると、彼女は「うん」と嬉しそうに頷いた。


「ホラ、人間はいつもお菓子を食べるでしょう? あんな感じ」

「……どういう……」

「食べなくても死なないけどぉ、ストレス解消とかちょっとした娯楽でパクパク食べる感じ?」


 少女の言葉に、私はピクリと眉を潜めた。

 つまりコイツは……私達の魔力を取り込まなくても、死なない……?

 私達はただ……コイツの娯楽のために……!?


「じゃあ……例えば、私があの御神体を無事に破壊して、あの世界から脱出したら、あの世界は……」

「滅びもしないし、今まで通り何事も無く過ごせるよ」

「じゃあ、若菜は……」

「死なないし、トネールとしてこれからの生き続けられる」

「……何それ……」


 アルトームの言葉に、私は呆然とすることしか出来なかった。

 つまり、明日香の死も、フラムさんの決死の戦いも……全て無駄だったということ……?

 だったら、明日香は何のために死んだ? コイツの娯楽の為?

 フラムさんは何のために戦った? コイツの暇つぶしの為?

 グルグルと思考が巡り、徐々に状況を理解出来ていく。


 私達の異世界での生活は、全て……コイツの娯楽で殺されるためにあった……?


「神様ってさぁ、結構退屈なんだよー? 世界を統べると言っても、基本的には見守るだけで、流石にちょっとヤバいかなーって思ったら調節して……同じことの繰り返し。そんなこと何千年も何万年も繰り返してたら飽きちゃうって」

「……だから魔法少女を……?」

「そっ。我ながら良いアイデア思いついたなーって思うよ。異世界の人間の魔力ってさぁ、結構美味しいんだぁ。最初は暇つぶしで一回きりにするつもりだったんだけど、ハマっちゃって……魔力ってたくさんあって困るものでもないし、適当に理由付けて集めさせて……助かっちゃった」


 まるで、学校であった出来事を親に報告するような、無垢な表情で放たれる真実。

 一体この神の暇つぶしで、何人もの少女が犠牲になったというのだろうか。

 しかし、ここで怒りに身を任せて先程のように奇襲をかけても、奴に私の攻撃は通用しない。

 だから私は、服を強く握り締めることで、ジッと耐えていた。

 そんな私の感情を知ってか知らずか、アルトームは「あ、そうそう」と言いながら私をチラッと見てきた。


「でもね、葉月ちゃん。貴方が一番楽しませてくれたよ」

「……は……?」


 予想外の言葉に、私は呆ける。

 すると、アルトームはケラケラと笑った。


「まず若菜ちゃんが面白いよね! たまーに魔法少女の召喚に巻き込まれた人が記憶を持って転生ってこともあったけど、その子が召喚対象を助けようとするっていうのは初めてだったからさぁ。たかが人間一人にどうにか出来ることじゃないんだし、さっさと見捨てて花の異世界生活を楽しめばいいのに、一人で思い悩んじゃって……馬鹿だよねぇ!」

「……お前……」


 掠れた声で呟きながら、私は拳を強く握り締める。

 若菜を……若菜が私を想って費やした十四年間を馬鹿にすることだけは、許せなかった。

 そんな私を見て、少女はクスッと笑い、続けた。


「でも、やっぱり葉月ちゃんは最高だよ! 葉月ちゃんって、今までに無いくらい、魔力量も魔法少女の適性度も全てが平均並で……正直、なんで魔法少女に選ばれたのか不思議なくらい。でも、魔法少女に何か裏があるかもってヒント無しで気付いたのは葉月ちゃんが初だったよ。流石に真相までは辿り着けなかったけど、何のヒントも無しで気付くなんて凄いよねぇ」

「……な……」

「しかもまさか、最後は御神体を破壊するなんてさ。まっ、結局その作戦は失敗に終わったんだけどさ。でもさぁ、ここまで来た魔法少女は初めてだよ。すごいすごい」

「ふざけるなッ!」


 叫び、私は薙刀を掴み、アルトームに飛びかかる。

 頭の中の冷静な部分が、こんなことをしても意味が無いと、訴えかけてくる。

 しかし、考えている暇など無かった。

 薙刀を振るい、アルトームに刃を振り下ろす。

 だが、その刃が少女の柔肌を切り裂くことは無く、鉄を切ろうとしたかのように弾かれるのみだった。

 アルトームはそんな私を見て、クスクスと笑った。


「だからそんなことしても無駄だってば~。何なら、葉月ちゃんがここに来れた理由も説明しようか?」

「ッ……!」


 私は軽く舌打ちをして、何度も薙刀を振るう。

 何度も、何度も、力任せに薙刀をぶつける。

 しかし、そのどれもが少女の肌に弾かれる。

 そんな私を見て、彼女はクスクスと馬鹿にするように笑った。


「まずね、葉月ちゃんの薙刀には、切った相手の魔力を吸収して林魔法の回復魔法を促して、傷を回復する力があるんだ。これは、元々葉月ちゃんの力があまりにも平均並で可哀想だったから、私からのサービス」

「ッ……クッソがぁぁぁぁッ!」


 叫び、私は薙刀をぶつける。

 少女はそれに、何事もなかったかのように続ける。


「それでね、私の御神体には、私の魔力の一割くらいが詰まっていたの。そしてそれを、葉月ちゃんが薙刀で壊したもんだから、その魔力が全て葉月ちゃんに取り込まれて、見事神の領域に辿り着き、こうして私とお話する権利を手に入れました。拍手~」


 ペラペラと、饒舌に、少女は小さなその口で語る。

 私はそれを見ながら、薙刀を捨て、彼女の首を絞める。

 しかし、見た目は今にもへし折れそうな細い首をしているにも関わらず、まるで鋼鉄のような硬さだった。

 そんな私の攻撃を全て無視して、少女は続ける。


「つまり、今現在、君は神様の一人というわけです。まぁ、私の力の残骸を取り込んで神になったようなものだから、神様としてはまだまだ未熟だけどねぇ。まぁ、そういうわけなので……葉月ちゃん」


 そう言いながら、アルトームは自分の首を絞めている私の手にソッと触れ……強く握る。

 次の瞬間、痺れるような激痛が走った。

 私は彼女の首から手を離し、その場にへたり込む。

 握られたのは手首だけなのに……体中がズキズキと痛んだ。

 呆然としている私を見て、少女はクスッと小さく笑った。


「今、葉月ちゃんが使っている力は全て……元々は私のものです」

「……」

「つまり君は……私を傷つけることは出来ない」


 この意味が分かるかな? と。

 無垢な少女の姿をした神は、優しく微笑んだ。

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