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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第11章:神殺し編
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第208話 少女との邂逅

「――!」


 沈んだ意識は、とてつもない速度で覚醒する。

 目を開くとそこは、見たことない空間が広がっていた。

 私は椅子に座っていて、前には高級そうなテーブルがある。

 手元には紅茶が入ったカップが置いてあり、白い湯気を立てている。


「あっ、やっと起きた。もー、遅いよー」


 そう言ってクスクスと笑うのは、一人の少女だった。

 テーブル越しに、私と向かい合う形で座る女の子。

 ウェーブの掛かった白い長髪に、大きくて丸い黒い目をしている。

 ……誰……?


「フフッ……状況が分からないって顔してる」


 恐らく間抜けな顔をしているであろう私を見て、少女は悪戯っぽく笑いながら言う。

 それに、私は「はぁ……」と言いながら、自分の格好を見下ろした。

 私の服装は、魔法少女の服のままだった。

 ただ、やけに清潔になっている気がする。

 近くに置いてある薙刀も、新品同様かってくらい綺麗になっている。

 ……ここは一体……?


「あの……一体、何が……」

「あぁ、そっか分かんないよねー。うーん、どこから話そうかなー」


 私の質問に、少女はそう言って考え込む。

 しばらくして、少女は胸の前でポンッと手を打った。


「やっぱりまずは私のことを説明するね! それで良い?」

「え? うん……」


 少女の言葉に、私は反射的に頷く。

 すると、彼女は「やった」と小さく呟き、自分の胸に手を当てる。


「それじゃあ自己しょーかい! 初めまして……ってわけではないんだけど、葉月ちゃんからしたら初めましてかな?」

「……? それってどういう……」

「私の名前は、アルトーム。この世界を統べる、神です」


 少女の言葉に、私は目を見開く。

 アルトーム……! コイツのせいで、私達は……!

 私はすぐさま薙刀を握り締め、目の前に置いてあった紅茶を蹴散らし、テーブルに足を乗せて一気に身を乗り出す。

 遠心力を付けて、私は少女の首に薙刀を振るった。


「……な……に……」

「もう、ビックリするじゃない。折角淹れた紅茶も台無しだし、テーブルの上に乗るなんて行儀悪いよ」


 私の振るった薙刀が、少女の首を切り裂くことは無かった。

 というか、傷を付けることすら出来ない。

 薙刀の刃は少女の首に当たり、その動きを止めている。

 どれだけ力を込めても、まるで鉄を切ろうとしているかのように、刃はびくともしない。

 そんな私を見て、アルトームはクスクスと笑った。


「私に葉月ちゃんの攻撃は効かないよ。だって、今の葉月ちゃんの力は私の力の一部みたいなものだし」

「ッ……!」


 アルトームの言葉に、私はさらに薙刀に力を込める。

 しかし、やはり薙刀はびくともせず、むしろこのままでは刃の方が欠けてしまいそうだった。

 そんな私を、少女の見た目をした神は、どこか楽しむような目で見ていた。


「まぁ、私のことを恨む気持ちも分かるよ? でも、まずは話を聞いてよ。とりあえず椅子に座って」


 しばらく苦戦していた私に、少女は労いの言葉を掛けるようにそう言った。

 悔しいが、今は彼女の言葉に従うしかない。

 私は薙刀を下ろし、椅子に座り直した。


 蹴散らした紅茶が高級そうな絨毯に染みを作り、カップも割れて破片が散乱している。

 それを見たアルトームは小さく溜息をつき、軽く指を振った。

 すると、高速でカップが元の形に戻り、中の紅茶も元通りになる。

 しかし、一度この足で蹴散らした紅茶を飲む気にもなれないので、私は深呼吸をしてアルトームを見た。


「それで……なんで私は、神様と話しているの?」

「うーん……色々と複雑なんだよねぇ」


 アルトームはそう言いながら、自分の髪の毛の先を指で弄る。

 指先で自分の髪を弄びながら、彼女は続けた。


「ま、ず……葉月ちゃんは、私の御神体をその薙刀で割り砕いた。オーケイ?」

「お……オーケイ……」

「うむ。まぁ、理由は分かるよ。自分が殺されるかもしれないわけだし、私の御神体を破壊するという判断は良かった。実際、私はもう、あの世界に召喚された魔法少女の魔力を取り込むことは出来ない」


 穏やかな口調で放たれた言葉に、私は顔を上げた。

 じゃあ……沙織と蜜柑は助かったってこと!?

 恐らく私の顔から、私が考えていることが分かったのだろう。

 アルトームは私の顔を見て、小さく微笑んだ。


「君の期待通り、沙織ちゃんと蜜柑ちゃんは生きているよ。……このままじゃ、二人は元の世界に帰っちゃうなぁ」

「……良かった……」


 残念そうに言う少女に、私は小さく呟いた。

 私に一体何が起こったのかはよく分からないが、あの二人が生きられるなら良かった。


「……ま、次元の狭間に結界でも作っておけば、問題無いかなー」


 しかし、安心したのも束の間。

 アルトームが放った言葉に、私は目を見開いた。


「……え……?」

「後はあっちの世界にまた御神体を作って……そうしたら、御神体が魔力を取り込んで、私にやって来るね。一件落着」


 一人で納得するアルトームに、私はこめかみの辺りが疼くような感覚がした。

 強く拳を握り締め、私は込み上げてくる怒りを必死に押さえる。

 ここで私がキレても仕方が無い……もしかしたら、説得すれば、何とかなるかもしれない。

 小さく深呼吸をして、私は口を開く。


「そんなに……自分の命が大事……?」

「自分達の命のために、世界を一つ滅ぼそうとする誰かさんには、言われたく無いかなー」


 アルトームの返しに、私は目を伏せる。

 まぁ、彼女の言うことは正しい。

 彼女が今殺そうとしている人間は二人。それに比べて、私達が殺そうとしていた人間は……数えきれない。

 答えられずにいると、アルトームは腕を組み、椅子の背凭れに体重を預けた。


「でも、そういえばそうだねぇ。私の寿命を引き延ばすために、魔法少女の魔力を必要としているっていう設定・・だったね」

「……せってい……?」


 アルトームの言葉の中で、聞き逃せない単語があった。

 私がつい聞き返すと、アルトームは少しキョトンとした表情を浮かべた。

 それから、「あぁ」と呟き、その目を細める。

 綺麗な唇がゆっくりと動き、続く言葉を紡ぐ。


「だって、あの話……嘘だもん」

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