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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第11章:神殺し編
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第204話 フラムVS葉月③

 私が振るった薙刀を、フラムさんは悉く躱す。

 やはり、正攻法ではダメだ。

 少し考えて、私は横に跳び、そのままフラムさんに背を向けて走り出す。


「フンッ……逃げられると思うなよッ!」


 フラムさんはそう言って、追いかけてくる。

 それに私は、必死に足を動かし、フラムさんから逃げる。

 せめて一瞬の隙を作ることが出来れば……!

 考えながら、必死に逃げる。

 剣が無い分、リーチはこちらが圧倒的に有利……だが、彼女の身体能力の前では、そんな分析は無意味だ。

 魔法少女より強いとか……最早化け物だろ……!


「ちょこまかと……逃げるなぁぁぁぁぁッ!」


 叫び、フラムさんは強く地面に踏み込む。

 数瞬後、私に飛びかかって来た。


「ぐッ……!?」


 私は咄嗟に床を強く蹴り、フラムさんの一撃を躱す。

 その際に、背中に固い感触があった。

 これは……扉!?


「るぁッ!」


 叫び、フラムさんは殴りかかって来る。

 反射的に私は、扉を開け、中に入った扉を閉め、鍵を掛ける。

 なんとか、一撃は扉に遮られ、私には届かない。

 しかし、その一撃で扉の蝶番が歪み、鍵を閉めていなくても扉が開かなくなった。

 これは……持って二、三発くらいか……!


 私は軽く後ろに跳び、どうにかならないか考える。

 このままでは、扉が破られて、逃げ場が無いこの部屋に追い込まれてしまう。

 何か対抗する術は無いか……と、辺りを見渡したところで、ここが私と蜜柑の部屋であることに気付く。


 ……なんとか壁を破って、明日香と沙織の部屋に移れないかな?

 そうすれば、向こう側の扉から出て、背後から不意打ちを喰らわせることが出来るかもしれない。

 私はすぐにその壁に近付き、蹴りを放った。

 魔法少女としての力で強化されているため、一撃でもかなりの攻撃力を誇る。

 一度蹴っただけで、壁がかなりへこみ、そこを中心に大きなヒビが入る。

 私は急いでもう一撃放ち、壁を破壊する。

 なんとか壁が崩れ落ちる中、私はすぐにその穴を抜け、明日香と沙織の部屋を抜ける。


 ……あの二人にとっては、この部屋は、思い出が詰まっている愛の巣だろう。

 きっともう戻って来ることは無いだろうが……無闇に破壊してごめんよ。

 この場にいない沙織と明日香に心の中で謝りつつ、私は部屋を飛び出した。

 それと同時に、扉を完全に破壊する音がした。

 私はすぐに廊下を駆けて、もう一度私と蜜柑の部屋に入る。

 するとそこには、部屋の中に立ち尽くしているフラムさんがいた。


「ッ……!」


 私はすぐに床を強く蹴り、フラムさんに距離を詰める。

 チャンスは今しか無い……!

 薙刀を大きく振りかぶり、私はフラムさんの背中に斬りかかった。


「がッ……!?」


 彼女は呻き声を上げながら、ゆっくりと倒れ伏せる。

 ……やった……のか……?

 そう一瞬考えた時、私は、床に落ちている本に目が行った。

 これは……若菜の為に書いてきた……フラムさんに貰った日記帳……。


「……まさか、昔の情で……背中を、取られるとはな……」


 ポツリと、フラムさんが呟く。

 背中に作った傷から、徐々に血が流れだしていく。

 壁が破壊された為、明日香と沙織の部屋にも少し、血が漏れ出ている。

 私達四人の思い出が詰まった部屋が、血で汚れて行く。

 偽りの幸せの記憶が……血で染まっていく。


「……私、フラムさんのこと……カッコよくて、素敵な人だと思っています」


 私は、小さく呟いた。

 過去形などではない。

 フラムさんはカッコいい、素敵な女性だ。

 旅に行っていた間は、彼女の存在に何度助けられただろう。

 出会った当初から、今まで……この瞬間まで、一度も彼女を、カッコ悪いと思ったことなど無い。


「……そうか……」

「だから……本当は戦いたくないんです。でも……それ以上に私は、生きたい」


 小さく、それでもハッキリと、私は言う。

 生きたい。

 最も原始的で、単純な理由。

 彼女を倒し、その屍を踏み越えてでも、私は生きたいんだ。


「……そりゃあ……そうだよなぁ……」


 小さく笑いながら、フラムさんは言った。

 そして、彼女はゆっくりと寝返り、仰向けになる。

 火傷だらけのボロボロの体。何箇所かは、すでに皮膚が白く変色している。

 右頬の神経等が火傷で死んでいるのか、彼女は左側の口角だけ上げて……笑った。


「じゃあ……私を、殺すのか?」

「……えぇ」


 小さく呟き、私は薙刀を握り直す。

 すると、彼女は小さく息をついた。

 それから突然、体を起こし始めた。

 突然のことに、私は薙刀を構える。


「大丈夫……もう、反抗する気も起きん……」


 そう言いながら、彼女はその場に……跪いた。

 予想外の出来事に、私は面食らった。

 するとフラムさんは私を見て、微笑んだ。


「……覚えてるか……? 最初に出会った、時のこと……」

「……そういえばフラムさん……あの時も、こんな風に挨拶していましたっけ……」


 私の言葉に、フラムさんは「あぁ」と言った。


「魔法少女……私より高貴な人に初めて挨拶をする時は、こうして挨拶をするようにと……トネールに教えられたんだ」

「……若菜に……」

「あぁ……本来の名は、そう言うんだったな……」


 青ざめた表情で、フラムさんは言う。

 かなりの量の血が流れていた。

 もう……長くはないだろう……。

 自分でやったことなのに、なぜか、他人事のようにそう感じた。

 口から血を流し、彼女は続けた。


「自分でも、分かるんだ……もう、長くは無いと……」

「……」

「だから、最後に……伝言を……頼みたい……」

「……伝言?」


 私が聞くと、フラムさんは小さく頷き、口を開いた。


「トネールに……若菜に、言っておいてくれ……三年間、ありがとう……と」

「……必ず」


 小さく呟き、私は薙刀を振り上げた。

 大切な幼馴染の、大切な友達を殺すなど……私は本当に、最低な人間だな……と思った。

 しかし、彼女を殺した後、私はさらに残酷な行為をしなければならない。

 下手すれば、この世界の人間を皆殺しにしかねない……身勝手な殺戮を。


 だからこれは、その為の一歩なんだと思う。

 私は薙刀を強く握り締め、フラムさんに刃を翳す。

 彼女はそれに、抵抗しない。


「フラムさん……ありがとうございました」


 小さく言い、私は薙刀を振り下ろした。

 赤い鮮血が飛び散り、私と、私の日記を、赤く汚した。

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