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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第11章:神殺し編
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第202話 フラムVS葉月①

 ガキィンッ! と金属音を立てて、フラムさんが振り下ろした剣は止まる。

 咄嗟に魔法少女に変身し、薙刀で剣を受け止めることで、なんとかなった。

 しかし、こちらは魔法少女になっているというのに、フラムさんの剣は止まらない。

 力技で徐々に押し込まれていくのを、魔法少女としての力だけで堪える。

 だが、元々上手く身構えていなかったため、力で押されてソファに倒れ込んだ。

 ふかふかのソファに背中を預けながら、私はフラムさんの剣に耐える。


「葉月、何の騒ぎですか!?」


 そんな声が聴こえ、私は視線を向ける。

 するとそこには、私達の乱闘音を聞いて駆けつけた沙織達がいた。

 彼女等は困惑した様子で、私とフラムさんを交互に見ていた。


「葉月ちゃん! これはどういう状況!?」

「説明は後で若菜に聞いて! 若菜は二人を連れてすぐにアルトームの御神体がある所に! ギンは若菜達の援護を!」

「わ、分かった!」

「うん!」


 若菜とギンは頷くと、沙織と蜜柑を促して部屋を出て行く。

 よし……これで、誰かを巻き込むこともないし、ギンがいるから安全面でも問題は無いだろう。


「させるかっ……!」


 その時、フラムさんが立ち上がり、四人を追おうとする。

 私はそれをさせまいと、彼女の腰に足を絡め、固定した。


「ぐッ……!? 貴様……!」

「絶対……行かせない!」


 私はそう言いながら薙刀を手放し、フラムさんの首に両手を絡めてさらに動きにくくする。

 すると、彼女は顔をしかめ、私を見た。

 まずは、四人がこの場から離れるまで時間稼ぎだ。

 フラムさんが起き上がろうとする力は異様に強いが、必死に腕に力を込め、彼女の動きを止める。


「その……程度で……封じれたと思うなよ……!」


 しかし、フラムさんはなんと、私の体ごと起き上がってみせた。

 嘘だろ……これは予想外……!

 私は小さく舌打ちをして、彼女の体を蹴り、ソファに転がる。

 すぐに薙刀を拾い、テーブルの上に立つ形で体勢を整える。


「甘いッ!」


 叫ぶと同時に、彼女は剣を振るった。

 すると、私が足場にしていたテーブルが粉砕し、一気に体勢が崩れる。

 咄嗟に立て直そうとするが、フラムさんがその隙を逃すハズが無い。

 すぐさま剣を構え、私の首を狙って、剣を横薙ぎに振るってきた。


「くッ……!?」


 私は咄嗟に薙刀を構え、柄で剣を受け止めようとする。

 しかし、ほぼ宙に浮いたような状態で受け止めきれるはずが無く、薙刀ごと私の体は吹き飛ばされた。

 対面にあったソファの背凭れにぶつかり、ソファごと後ろに倒れる。


「ぐっ……!」


 私はすぐに立ち上がり、後ずさる。

 すると、背中がキッチンの扉に当たった。

 しまった……!


「はぁッ!」


 フラムさんは声を上げ、私の腹を蹴る。

 すると、私の体ごと扉が蹴り砕かれる。

 どれだけ強い力なんだ……と、遠退きそうな意識の中で考える。

 吹き飛ばされた私の体は、キッチンの中にあるテーブルの上を転がり、床に落下する。

 フラムさんはそのテーブルに拳を振り下ろし、破壊する。

 粉々になったテーブルに、私は息を呑んだ。


 そういえば……と、心のどこかで考える。

 このキッチンでは、蜜柑とクッキーを作ったことがあったな。

 まだ、彼女からの好意に気付いていなかった時期。

 一緒にクッキーを作って、仲良くなったんだったっけ……。


 まるで現実逃避のように、そんなことを考える。

 確か蜜柑は、ここで何度かお菓子を作ったりしていたはずだ。

 そう思っていた時、ふと、一つの案を思いついた。


 視線を動かすと、近くに小麦粉の袋が落ちているのを見つけた。

 ……棚に入っていたのが落ちたのか、テーブルに乗っていたものが落ちたのか。

 どちらにせよ、今の私には好都合だ。

 私はその袋を握り締め、手元に手繰り寄せる。

 それを見て、フラムさんは眉を潜めた。


「何をするつもりだ?」

「……悪あがき、かな!」


 私はそう叫びながら、小麦粉の袋をフラムさんに向かって投げつけた。

 すると、彼女は咄嗟に、剣で斬りつける。

 予想通りの反射神経だ……!

 小麦粉がキッチン内に充満し、目の前が黒一色へと変わる。

 私は痛む体で無理矢理立ち上がり、一気にキッチンの出口に向かって突っ走る。

 視界が効かないのは私も一緒。転ばないように用心しながらも、なんとか出口を見つけ出し、キッチンから飛び出した。


「クッ……どこ行った!」


 フラムさんがそう怒鳴るのが聴こえた。

 私はそれに振り向き、小麦粉が充満するキッチンに手を向けた。

 旅やダンジョンのことが落ち着いた後、若菜と話したりしていた時に、いくつか役に立ちそうな詠唱を教えてもらってて良かった!

 心の底からそう思いつつ、私は叫んだ。


「火の生命よ! 我に従い、小さき球を成してこの者に攻撃し給え! ファイアボール!」


 そう叫んだ瞬間、小さな火の球が出来、キッチンの中に進んでいく。

 数瞬後、轟音と共に、キッチンの中が炎に包みこまれた。

 小麦粉での粉塵爆発だ。

 私は爆風で煽られ、その場に尻餅をつく。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 呼吸が荒い。

 なんとかフラフラと立ち上がり、私は薙刀を握り締め、炎に包みこまれたキッチンを見つめる。

 しかし、どれだけ待っても、フラムさんが現れることは無い。

 ……やったか……?

 一瞬、そんな風に考えた。


「……全く……とんでもないことを考え付くものだな……」


 しかし、その直後、低い声がした。

 それに、私は頬を引きつらせる。

 まさか、あの爆発の中で生き残るなんて……。


「フラムさん……本当に人間ですか? 普通、あの爆発から生き残るとか無理なハズなんですけど」

「フッ……生憎、私もここで死ぬわけにはいかないのでね」


 そう言って笑い、その身に炎を纏いながら、彼女はキッチンから出てくる。

 鎧を着ているとはいえ、全くの無傷というわけではない。――そもそも、彼女の鎧は、騎士団のものよりは軽いデザインだ。

 鎧で守られていない腕や足は燃えて、赤い肉が剥き出しになっている箇所もある。

 顔に付いた炎は消したのか、炎自体は残っていない。しかし、右頬に、大きな火傷の痕があった。

 長い赤髪も、端から燃え始めている。

 すると、フラムさんは剣で燃える髪を切り落とす。

 そして、その剣の切っ先を私に向けた。


「さぁ……まだまだこれからだ」


 そう言うフラムさんの目には、背後の炎に負けんばかりの闘志が燃えていた。

 しかし、それに怯んでいたら始まらない。

 私は薙刀の柄を強く握り締め、フラムさんに向けた。


「……私もここで死ぬつもりなんて、無いですから」


 さて……第二ラウンド開始か……。

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