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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第10章:トネール・ビアン・ドゥンケルハルト編
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第174話 変わりない好意

「ひゃ!?」


 可愛らしい悲鳴をあげながら、はーちゃんは魔法陣から指を離す。

 しかし、直後、小さなドラゴンがはーちゃんの顔にへばりついた。

 彼女は慌てた様子で、両手で引っ張り剥がす。

 すると、掌サイズのドラゴンははーちゃんを見て「キュイー!」と無邪気に鳴いた。

 彼女はそれを手に乗せて、マジマジと観察する。

 銀色の毛で体は覆われており、トカゲっぽい尻尾が犬の尻尾のように大きく振れている。

 目は大きくて、丸くて青い。そして、無垢な光を宿している。


「えっと……気に入ってもらえた、かな……?」


 恐る恐る、尋ねる。

 彼女の要望は叶えたつもりだけど、気に入らなかったらどうしよう……。

 もしかしたら、もっと小動物みたいな見た目が良かったかもしれないし。

 ドラゴンなんかより、そういう小さい動物の方が可愛いもんね……。

 不安になっていると、はーちゃんは、今まで見たこと無いくらいその表情を崩した。


「……マジきゃわたん……」

「……きゃわたん……?」


 聞き慣れない単語に、つい聞き返す。

 余談だけど、アリマンビジュの力によって、彼女等の言葉はこの世界の言葉に翻訳されてこちらに伝わる仕組みになっている。

 しかし、私自身は日本語が分かるからか、一応日本語のままで聴こえているのだ。

 だから、一応日本語が聴こえているハズなんだけど……この世界の言葉に慣れ過ぎて、日本語が分からなくなった?

 困惑していると、はーちゃんはバッと顔を上げ、私の手を握って「ありがとう!」と言ってきた。

 突然の接近に、私は動揺する。


「凄いよ! 本当に召喚出来るなんて! もうなんていうか……ホント、ありがとう! トネール!」


 嬉しそうにお礼を言うはーちゃんに、なんだか気恥ずかしくなる。

 オマケに、顔が近い。呼吸が掛かるくらいの距離だ。

 握られている手が、熱くなったのが分かった。

 彼女の顔を間近で見ることができなくて、私は顔を背けた。


「は、葉月に喜んでもらえて……私も、嬉しい」


 ひとまずそう言って、彼女の目を見て微笑んで見せる。

 あ、やっぱり無理。近い。

 また目を逸らそうとしていると、はーちゃんが私の顔をジッと見ていることに気付いた。

 どうしたんだろう……?


「……綺麗……」


 直接訪ねようかと思っていた時、突然、彼女はそう呟いた。

 あまりに唐突だったものだから、私は驚いて、言葉を続けられなかった。

 ……綺麗って……私が……!?

 いや、今の体は確かに美人で、綺麗な自覚はあるけど……急に、そんな……。


 動揺していた時、はーちゃんは、さらに信じられない行動に出た。

 掌に乗せていたドラゴンをテーブルに置き、その手を、私の頬に添えたのだ。

 彼女の目は、真っ直ぐに私を捉え、離さない。

 こんなの……まるで、キスする直前みたいじゃないか……?

 そう思った瞬間、自分で言って、さらに恥ずかしくなった。


「……葉月……」


 小さく、名前を呼んだ。その声は思いのほか弱々しくて、掠れていた。

 そんな私の声に、はーちゃんは僅かに目を細めた。

 瞼の動きに合わせて、彼女の睫毛が微かに揺れる。

 動作一つ一つが、間近で見える。近いから、全てを視界に収めてしまう。

 近くで彼女の目を見るのが段々恥ずかしくなって、私は目を瞑った。


 ……って……こんなの、キスを期待しているみたいじゃない……。

 そう思ったが、今更目を開くことなんて出来ない。

 ……はーちゃんとのキス……。

 私にとっては、願ったり叶ったりな状況だと言うのに、胸が凄く痛かった。

 少し考えて、その理由が分かった。


 この体は、私のものではない。トネールのものだ。

 それに、仮にはーちゃんが私を好きなのだとしても、それはトネールであって私ではない。

 美しい見た目の、病弱な、この国の第二王女。

 冴えない見た目で、はーちゃんに守られてばかりの、加藤若菜ではない。


 しかし、私に抵抗する術など無い。そもそも、彼女に逆らうという気すら起きない。

 目を瞑り、彼女の行為に身を委ねることしか出来ない。

 何より……彼女が好きなのが私ではないと分かっていても、彼女が好きなことは変わりないから。

 歪んでいるとしても、私は、欲望に身を委ねたかった。


「え……」


 しかしその時、はーちゃんの微かな声がした。

 同時に、彼女の手が離れる。

 何事かと思って目を開くと、はーちゃんのアリマンビジュが強く光り輝いていた。

 これは……確か、敵が来た知らせ……。

 同時に、魔法少女を敵の元に転移させるための、召喚魔法の前兆でもある。


 反射的に、私は、彼女の手を握っていた。

 彼女を戦場に行かせたくなかったのもある。

 でも、一番は……さっきの続きをしてほしかったという欲が、一瞬出たのだ。


「ちょっ、トネ……」


 慌てて振り払おうとするはーちゃんの目を、私は見つめ返す。

 このままでは、彼女の転移に巻き込まれてしまうことも分かっている。

 でも、彼女を一人で戦場に行かせるのは嫌だった。

 せめて私が……守りたい。


 その気持ちを伝えるように、彼女の目をジッと見つめた。

 直後、アリマンビジュの光が強くなる。

 そして、私達はその光に包み込まれた。

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