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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第9章:異世界転生編
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第163話 縛りつけるための首輪

 私は、鏡が嫌いだ。

 というより、それに映る自分の顔が嫌い。

 全身が映る姿見の前に立ち、私は自分の体を観察する。


 綺麗なロイヤルブロンド。部屋の灯りを反射させてキラキラ光って気持ちが悪い。

 紫色の大きな目。毒々しい色で気色悪い。

 雪のように白い肌。病人のようで吐き気がする。

 人形のように整った顔。作り物みたいで胡散臭い。

 細く華奢な体。誰かに守られなければ生きていけない弱い体。

 豪奢なドレス。歩きづらいし、動きにくくて、ひたすら邪魔。


 前世の頃よりも整った顔立ちであり、綺麗な体であることには変わりない。

 カルティア症候群のことも、自分の魔力残量に意識を配れば、大事に至ることは無い。

 王族に生まれたことで、家の経済力は言うまでも無く高い。

 だが、前世より優れていれば良いというわけではない。


『私は若菜の全部が好きだよ。若菜の声も、顔も、髪も、手も、足も……全部が好き』


 はーちゃんの言葉が蘇る。

 私は自分の胸に手を当て、口を開き、声を発した。


「……あー……」


 喉から零れたのは、鈴の音のような可愛らしい声。

 骨伝導というもので、自分が聞いている声と人が聞いている声は違うとよく言う。

 しかし、それでも、前世よりも格段に声は綺麗になっていると思う。


 ……声も、顔も、髪も、手も、足も……何もかも、はーちゃんが好きだと言ってくれたものとは変わっている。

 鏡を見る度に、それを嫌でも実感させられる。

 私は加藤若菜では無く、トネール・ビアン・ドゥンケルハルトなのだと。


 そして今日。もう一つ嫌いなものが増えた。

 私は胸に当てていた手をゆっくりと上げて、喉に触れる。

 指先に固い感触が当たるのが分かって、私は目を細めた。


 黒い革に、青い宝石の付いたチョーカー。


 これは、これ以上、私が魔法少女システムを乱さないために作られた魔道具だ。

 鏡をよく覗き込んでみて分かるのだが、青い宝石の内部には、複雑な魔法陣が刻み込まれている。

 この宝石には、複数の魔法が一つの魔法陣で記されていた。


 一つは、私が話した言葉を判別し、魔法少女システムに関することを話そうとしたら声をかき消す仕組み。

 風魔法で私の発する声をかき消すらしい。

 一度使用人を相手にやってみたが、確かに、声は消された。


 もう一つは、風魔法を使って魔法少女システムについて教えようとした時の対処法。

 これに関しては、私が風魔法を使った時にその魔力を相殺する力があるみたいだ。

 連絡などは魔道具を使えば良い話だし、王族である以上、私が戦う必要も無い。

 つまり、風魔法など、基本的に使う必要は無い。


 ただ、色々試してみた結果、単純な攻撃魔法であれば使えるみたいだ。

 と言っても、そよ風を吹かせてみたり、小さな風の球を飛ばしたりする程度だが。

 ただ、それ以外に関しては何も出来なかったので、あまり意味は無い。

 恐らく、複雑な詠唱などを使う魔法になると不可能ということだろう。


 ……まるで、首輪みたいだな。

 心の中でそう呟き、自嘲する。

 私を縛りつける首輪。私を飼い殺すための首輪。

 むしろ、これだけで済んでいることを喜ぶべきなのかもしれない。

 私が王族じゃなくて使用人の一人だったりしたら、最悪……殺されていたかもしれない。

 仮にも王族だから、この程度の処罰で許されたようなものだ。


 ……もう……何もしようが無い……。

 これ以上行動しても、さらに行動し辛くなるだけだ。

 私は部屋で一人、枕を抱きしめて泣いた。


「はーちゃん……ごめん……ごめんなさい……」


 謝っても仕方が無いことは分かっている。

 しかし、謝るしか無かった。

 私は結局、彼女に守られることしか出来ない人間だ。

 彼女を守るなんて大層なこと……出来るわけが無かったんだ。

 零れ落ちる涙を何度も拭い、唇を噛みしめ、枕に染みを作る。


 もう、私に出来ることは何も無い。

 せめて……いずれこの世界に来る彼女に、もう一度再会しよう。

 今更彼女に合わせる顔なんて無いし、そんなことは分かっているけれど……でも……。


「……会いたいよ……はぁちゃん……」


 呟いた声は、涙で濡れていた。

 久々に呟いた幼馴染の名前は、掠れて、震えていた。

 もう、私の心は限界だった。

 ずっと一人でい続けて、唯一信じられると思った人は死んだ。

 唯一の生きる道標だった、はーちゃんを救うという目標も、達成できそうにない。


 だったらせめて……はーちゃんに会うことを望んだら、ダメかな……?

 はーちゃんに会えなかったら、私、死んでも死にきれないよ。

 せめて、一度会って、告白を……いや、流石に告白なんて望みすぎか……。

 一目見るだけで良い。彼女の顔を見て、声を聴いて、話して、触れて、それから、それから……。


 ……それから……?

 どうなるって言うの?

 例えはーちゃんに会えても、結局彼女は……死ぬじゃないか……。

 幸せな終わりなんて、迎えられないじゃないか……。

 でも、それじゃあ、私は、何を、目標にすれば、良いの?

 グルグルと頭の中で巡る思考に嫌気が差し、私は顔を枕に埋めた。


「……誰か……助けて……」


 掠れた声が、一人きりの部屋に、虚しく響いた。

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