第120話 ダンジョンのヌシVS魔法少女+銀龍②
巨大馬の突破口が分からないまま、戦いは続く。
強力な瞬発力と攻撃力から繰り出される攻撃を必死に躱しながら、明日香が叫ぶ。
「このままじゃ埒が明かないよ! どうする!?」
「どうするって言われても……!」
困った様子で言いながら、蜜柑が攻撃を躱す。
地面は巨大馬の攻撃でクレーターだらけだ。
足場がデコボコしていて、動きにくい。
オマケに、集中して攻撃を躱さなければいけないため、反撃の方法を考える暇が無い。
「……蜜柑! なんとか足止めしてください!」
その時、沙織の指示が響き渡った。
「え!? が、頑張ってみる!」
「葉月は、蜜柑が足止めをしている間に、技を!」
「でも、あの防御力には……!」
「動きを止めるだけで良いので! お願いします!」
沙織の言葉に、私は薙刀を構える。
力を込め、いつでも技を使える準備をする。
その間に、蜜柑が大槌を振り上げ、巨大馬の元へと駆ける。
「でりゃあああああッ!」
叫び、巨大馬の横腹に大槌をぶつける。
金属音を響かせ、巨大馬の体が吹き飛ぶ。
そのまま壁にぶつかり、ズルズルと落下していく。
今だ……!
私は薙刀に力を込め、巨大馬の攻撃により表面が脆くなった岩に薙刀を突き刺す。
手を地中に生やし、巨大馬に向かって突き進む。
……ここだ……!
さらに力を込め、巨大馬を拘束する。
植物の蔦に掴まれ、巨大馬は若干狼狽えた様子の反応をした。
しかし、そのままトドメを刺そうと試みるも、強固な体のせいで出来ない。
せいぜい、拘束を強くする程度だ。
「クッ……! 沙織……!」
「明日香!」
「うん!」
沙織の合図に、すぐに明日香が駆け寄る。
そして、二人の合体技の構えを取る。
早く……! もう、魔力が……!
心の中で急かしていた次の瞬間、沙織の弓矢が、一丁の銃に変わる。
銃口を巨大馬に向け、引き金を引いた。
赤い閃光が炸裂し、巨大馬を襲う。
炎の竜巻が巻き起こり、巨大馬の体を焼き払う。
「やったか……?」
明日香が小さく呟くのを聴きながら、私は前のめりに倒れた。
すると、ギンが私の体を抱き止めた。
やはり前のドラゴンに比べれば楽勝か……なんて、考えたのは一瞬だった。
「ママ……」
「……何……?」
「明日香と沙織が使ったのって、一番強い、必殺技だよね?」
不安そうに尋ねるギンに、嫌な予感が脳内を駆け巡る。
私はギンの服を掴み、なんとか顔を上げた。
そして、ゾッとした。
「嘘……でしょ……」
明日香の声がしたので、私は顔を向けた。
そこでは、蜜柑がなんとか二人を支えていた。
支えられながら、明日香が引きつった笑みで巨大馬を見ている。
「……これでは本当に……万策尽きましたね……」
暗く言う沙織に、私はソッと巨大馬を見た。
まぁ簡単に言えば、巨大馬は生きていたのだ。
燃え盛る炎の中、四本の足で地面を踏みしめ、立っている。
とはいえ、全くの無傷では無い。
毛皮の所々が禿げて、肉が剥き出しになっている。
その肉は焼け焦げ、焦げたニオイがこちらまで漂ってくる。
しかし絶望的なのが、その火傷が、かなりの速度で回復しているのだ。
火傷が治り、その肉に毛皮が覆う。
「ギン」
「何? ママ」
「すぐに……回復魔法を……」
「え、でも、詠唱知らない……」
「教えるから!」
私はすぐに、ギンに詠唱を教えた。
ギンがぎこちなく詠唱を唱えると、魔力が回復する。
なんとか体勢を立て直し、私はギンを連れて三人の元に行く。
蜜柑が沙織に回復魔法を使っていたので、私は明日香に回復魔法を施す。
私達が回復している間に、巨大馬も完全に復活した。
炎が消え、完全に振り出しに戻る。
……違う。
振り出しなんかじゃない。
だって、私達は完全に……万策が尽きたのだ。
この中で一番強い二人の技ですら、巨大馬の致命傷にもならなかった。
もう私達には、奴を倒す手段など無い。
「ヒヒィィィィィンッ!」
大きく嘶き、巨大馬が強く踏ん張った。
完全に怒った……!
よく考えれば、奴の防御力は強力だから、今までまともな怪我をしたことなど無かったのだろう。
攻撃を受けても微動だにしない辺り、自分の防御力にかなりの自信を持っていたハズだ。
しかし、先ほど、傷を付けられた。
すぐに治ったとはいえ、負傷したことに変わりはない。
その事実が、巨大馬の闘争本能に火をつけた。
「ヒヒンッ!」
叫び、先ほどより速い突進を受ける。
それを咄嗟に躱そうとした時、巨大馬の攻撃で出来たクレーターに躓いた。
バランスを崩し、体が揺らぐ。
「しま……!」
「葉月ちゃん!」
巨大馬の攻撃を諸に受けそうになった次の瞬間、体が強く突き飛ばされた。
クレーターの縁に足が引っ掛かり、私は何度も地面を跳ねた。
地面に出来た凹凸に体がぶつかり、鈍い痛みが走る。
しかし、それどころではない。
慌てて顔を起こした私が見たのは、私の代わりに攻撃を受け、巨大馬の前足を諸に横腹に喰らう蜜柑の姿だった。
「蜜柑!」
「カハッ……!」
苦しげに吐息を漏らす蜜柑。
今はまだ、魔法少女の力と彼女の魔力で、苦しいだけで済んでいる。
しかし、このまま踏み続けられ、魔力が途切れたら……?
「蜜柑ッ!」
そう思った瞬間、私は一気に駆け出した。
しかし、走りながらも、考える。
私が駆けつけたところで、何が出来る?
奴の強さを相手に、何とか出来るか?
凡人の私に?
しかし、考えながらも、私の足は止まらなかった。
ボコボコした地面を蹴り、巨大馬の元に近付く。
「蜜柑に……酷いことするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
その時、ギンが叫んだ。
直後、大きな風が巻き起こり、私の体が前のめりに倒れる。
叫びにブレス攻撃を連動させているのか、かなり強い風だ。
私の体は浮き、巨大馬と共に飛ばされる。
とはいえ、巨大馬への攻撃に巻き込まれた程度なので、地面を何度か跳ねて、歪な壁に当たって止まる。
「ちょ、ちょっとギン!」
「ご、ごめんなさい!」
慌てた様子で謝りつつ、ギンは蜜柑に駆け寄って介抱をする。
とにかく、蜜柑のことはギンに任せよう。
今は巨大馬の解決策を練らなければならない。
そう思って立ち上がろうと壁に手を当てた時、バチッ! と音を立てて弾かれた。
……へ?




