第106話 敵のお出迎え
あれから、ルーフィさんによる『アタシの人生を変えてくれたムートコラ』のお話は、一時間近く続いた。
よくそれだけ喋りっぱなしで疲れないものだ。
そして、疲れを見せずにずっと相槌を打ち続けていたフラムさんの体力も素晴らしい。
私は途中で飽きたギンの相手をする形で逃げた。
あの後でルーフィさんから説明を受けた所、服はギンの意思によって、ドラゴンの姿と人間の姿を入れ替えるタイミングで変えられるらしい。
本人の意思次第では裸になることも可能だし、裸の時に別の服を着せて一度ドラゴンになると、チョーカーの中にしまわれるらしい。
逆に、いらなくなった服は、脱いで処分すれば良い。
チョーカーの貯蔵魔法は服をしまうことのみに適した繊細な魔法なので、それ以外の物をしまうことは出来ない。
全て説明を受けた上で、私はギンに制限を課した。
……だって、制限しないと、ずっと全裸or魔法少女服になりそうなんだもん。
まず、魔法少女服になるのは魔物と戦ったりする時のみ。
人間の姿で戦えるか疑問だったが、ギン曰く、人間の時でもドラゴンだった頃と同じ力が発揮できるらしい。……めっちゃ怖い。
というわけで、魔法少女服の着用は戦闘時のみというのが、まず一つ目の制限だ。
二つ目の制限は、公の場では全裸にならない、だ。
流石に街中とかで裸になったら、捕まりそう。
この世界の法律とかは分かりませんけど。
捕まらなくても、変なロリコンとかに狙われそうで怖い。
連れて行かれるとかじゃなくて、犯人の方がね。ギンって子供だから手加減とか知らないでしょ?
……死ぬよ? 相手。
だから、基本的には、ルーフィさんが作った普通の服を着てもらうことにした。
着るものは、気温に合わせて変える感じで。
今は春秋用の服を着ているのだが、ヤンチャなギンの性格に合わせて、可愛らしくも動きやすい感じの素敵な服だ。
無事服を受け取り、私達は王都ソラーレを旅立った。
それからは、これまでの道中とは比べ物にならないくらい順調に行った。
王都ソラーレからオリゾンの町まで行って一泊し、オリゾンの町からドゥンケルハルト城までアルス車で走る。
久々のドゥンケルハルト王国だ。
まともに城下町から出たことないから、外だけ見ていても感傷に浸ったり出来ないんだけどね。
そもそも、ドゥンケルハルト王国に滞在してた期間って、実質五日間くらいだったハズだし。
そんな風に考え事をしていた時、アルス車が突然止まった。
「あれ……着きました?」
「……いや、城に着くのは、早くても夕暮れ時のハズだが……」
険しい顔で言うフラムさんに、私の中で、一つの仮説が浮かんだ。
そういえば最近……アレに出くわしてないよね。
旅路でしつこいくらい戦ってきたアレ。
もしかしたらと思ってアルス車から顔を出すと、そこには、巨大犬がいた。
わんわんお!
「葉月、何かいた?」
「……犬」
「え?」
背後から聴こえた明日香の声に、私は端的に答えた。
え、何ですか。お出迎えか何かですか。
てか、敵ってアルトームの御神体を壊そうとしてるんでしょ?
今の立ち位置だと、むしろ御神体護ってるように見えるよ?
一緒に帰ろう?
「久しぶりの敵ですね」
「なんだか、やっと帰って来たって感じがするね」
ほんわかと蜜柑が言ったことに、私はガクッとずっこけた。
敵を見て帰って来たって……ドゥンケルハルト王国での思い出って敵しか無いの!?
……いや、確かに敵と戦った思い出多いですけど!
「まっ、さっさと終わらせよっか!」
「……簡単に言うな……」
苦笑していると、沙織の表情が突然険しくなった。
何だろうと思って視線を向ける。
彼女の視線の先には、魔物の群れがいた。
……敵だけでも厄介なのに、魔物か……。
どうしようか迷っていた時、ギンがキラキラした目で魔物の群れを見ていた。
「……ギン……?」
「ママ! あの魔物倒したい!」
「えぇぇ……」
まさかの要望に、私は考える。
一応ギンの力はドラゴン時代のままみたいだし、超強い魔物をアッサリ倒して捕食するくらいの力はある、か……。
「じゃあ、ギンは魔物の方に行って。あと……明日香と沙織もその補助で」
「え……二人で大丈夫?」
「多分大丈夫だと思いたいけど……もしダメそうだったら、沙織に判断を任せる」
「……それは構いませんけど、何かあってからでは遅いですよ?」
「うーん……まぁ、沙織を信じるよ」
私の言葉に、沙織は呆れたようにため息をついて眼鏡の位置を正した。
久々の戦闘だ。平和ボケしたり、体が鈍っていなければ良いけど……。
そんなことを考えながら、私はアリマンビジュをネックレスにして、宝石部分に触れた。
体を光が包み込み、服が変わっていく。
薙刀を両手でしっかり握って構え、巨大犬に刃を向ける。
「葉月やる気満々じゃん」
変身を終えた明日香はそう言って笑い、胸の前で拳をぶつけ合う。
それに、私は笑い返した。
「早く帰りたいもん。流石にそろそろ、旅、飽きた」
「ママぁ! まだ戦ったらダメー?」
不満そうに抗議をしてくるギンに、私達は苦笑した。
気付いたら蜜柑も沙織も同じように変身していて、武器を構えていた。
「……じゃあ、葉月もそう言っていますし、さっさと終わらせましょうか」
沙織の言葉に、私達は頷き、巨大犬と魔物の群れを睨んだ。




