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第10話 女騎士との語らい

 若菜に会いたい。

 ただ、そんな漠然とした願いがあった。

 もちろん、それが叶わない願いであることは分かっている。

 しかし、幼い頃からずっと一緒にいた彼女が突然隣からいなくなるというのは、かなり辛いものがあった。


「……はぁ……」


 ため息をつき、私は目の上に腕を置く。

 これがホームシックか……。

 思いのほか早いな。ホームシック。


 それもこれも、全部山吹さんがあんな風に甘えてくるから悪いんだ。

 人に責任を押し付ける形になるが、そうしないとやってられない。

 しかし……いずれは戻れるものだとして、しばらくの間帰れないのも事実。

 そんな長い間いなくなるというのに、戻った時に何も無しでは、正直彼女に申し訳ない。


 そこまで考えて、私はとあることを思いつき、飛び起きた。

 すぐに自分の机の引き出しを開けたりして、何が入っているかを確認してみる。

 しかし、机の引き出しには何も入っていないし、筆記用具らしきものも見つからなかった。


「……何も無い……」


 一人呟き、私は立ちあがる。

 恐らく、これは全ての机に共通していることだろう。

 そう考えると、他の机を探して見ても無駄足になる。

 私はしばらく考えてから、部屋を出て、私達に与えられた生活スペースの玄関からソッと外に出た。

 夜にも関わらず、廊下はまだ思いのほか明るくて、私はホッとする。

 ひとまず使用人の誰かを探そう。そう思って一歩外に出た時だった。


「こんな夜に外出とは……何か用事か?」


 突然そんな風に声を掛けられ、私はビクッと肩を震わせた。

 それから声のした方に振り向いて見ると、そこには、鎧を身にまとった女性が立っていた。

 正確には、玄関? のすぐ横の壁に凭れていた。

 ……誰!?


「申し訳ない。私はドゥンケルハルト王国騎士団副団長、フラム・シュヴァリエだ。魔法少女様の護衛の任務に就かせてもらっている。どうぞ、お見知りおきを」


 そう言って胸に手を当てて跪く女騎士ことフラムさん。

 綺麗な赤髪に、金色の目がよく映える。

 彼女の相貌にしばらく見惚れていたが、私はハッと我に返って、慌てて彼女を立たせる。


「そんな跪いたりなんて……あ、私は、林原葉月。魔法少女の一人、です」

「知っている。黒い髪を見るのは生まれて初めてだったので」


 そう言って微笑むフラムさん。

 マジかー。この国では黒髪ってマジで珍しいのかー。

 私は自分の頭を押さえて顔を顰めた。


「そうなんですか……やっぱり目立ちます?」

「あぁ。すごく」


 日本では絵に描いたような凡人だった私が髪色だけでかなり目立つとは……世の中何が起こるか分かったものではない。

 私は苦笑しつつ、腕を下ろし、ため息をつく。


「で、話は戻るが……葉月殿は今からどちらに?」

「あ、えっと……欲しいものがあったので、使用人でも探そうと思って……」

「あぁ、そういう事だったら、私から伝えておこう。何が欲しい?」


 フラムさん滅茶苦茶良い人だ!

 私は突然目の前にいる女性が眩しく見えて、つい目を細めた。

 しかしなんとか持ち直し、私は口を開く。


「ではお言葉に甘えて……文字が書けるものと、あと、日記帳のようなものが……」

「……日記?」


 聞き返された言葉に、私はコクコクと頷いた。

 日記。そう、私はこれから日記を付けたいのだ。

 きっと、これからの異世界生活では、奇想天外な事がたくさんあるだろう。

 この世界であったことを記し、日本に帰った時の若菜への手土産にしたい。


「……日記とは、何だ?」


 しかし、どうやらこの世界では日記というものはあまり知られていないようだった。

 少し驚きつつも、私はちゃんと説明することにした。

 色々とお世話になるし、それくらいするのが礼儀だ。


「えっと……日記っていうのは、私の世界にあったもので、その日にあった出来事を書いたりするんです」

「ふむ?」

「楽しかったことだとか、悲しかったことだとか、色々」

「……それを書いて何になるんだ?」


 私の説明に、そう言って首を傾げるフラムさん。

 まぁ私も説明しながら思ったけど!

 内心苦笑しつつも、私は説明を続ける。


「まぁ、そうなりますよね……でも、私の場合は、自分の為に書くんじゃなくて、その……前に住んでいた世界に残してきた幼馴染に、この世界での出来事を教えたいだけなんです」

「この世界でのことを?」

「ハイ。ここでの魔法少女としての戦いは、前に住んでいた世界では味わえないような刺激的なものになると思うんです。……急にいなくなって心配させただろうし……それをお土産話にしたいなって」


 私の言葉に、フラムさんは神妙な顔で顎に手を当てて考え込む。

 それから無言で元いた場所に戻り、壁に凭れ掛かる。

 えっと……。


「フラムさん……」

「葉月殿の要望は了承した。次に使用人が来た時に言っておく」


 素っ気ない様子でそう言ったフラムさんの言葉に、私は自分の顔が綻ぶのが分かった。


「ありがとうございます。それと……お仕事、お疲れ様です」


 私の言葉に、フラムさんは少し驚いたような表情をしてから、「ふんっ」と小さく声を漏らし、目を背けた。

 それはどういう感情の現れなのだろう、と不思議に思っていた時、部屋から山吹さんが「林原さーん」と私の名前を呼ぶ声がした。


「あっ……」

「林原、とは?」

「わ、私のことです……じゃあ、私は戻ります。……護衛、頼りにしています」


 私の言葉に、フラムさんは目を背けた。

 それに私は笑い、部屋の中に戻った。


 フラム・シュヴァリエさん。

 護衛の仕事の内容だとか、どういう人なのかとか、まだまだ知りたいことはたくさんある。

 でも、それもきっと、これから知ることが出来るハズだ。

 フラムさんともっと話す。

 この世界で出来た一つの目標に、胸が熱くなるのを感じながら、私は部屋に帰った。


 リビングに行くと泣きそうな顔で私を呼んでいた山吹さんに滅茶苦茶心配されたが、それはまた別の話。

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