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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第4章 ノールト国編
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第98話 寝不足とマドレーヌ

 昨夜は中々眠れなかった。

 部屋に帰って髪を乾かした後、ギンが部屋で物凄く遊びたがったのだ。

 外は未だに大雪だし、ギンの服装的に、外で遊ばせるわけにはいかない。

 だから部屋の中で遊ぶのに付き合った結果、夜遅くまで起こされたのだ。

 というわけで、現在私は物凄く寝不足なのである。


「ふわぁ……」

「……まぁた欠伸……」


 何度目かになる欠伸をすると、明日香が呆れたような表情で言った。

 現在、私達は宿屋のロビーに集まっている。

 ラムダさんがアルス車でこちらまで向かっているらしく、それまで待機だ。

 しかし……眠い……。

 明日香の言葉に、私は瞼を擦りながら「んぅぅ……」と声を漏らした。


「うっせぇ……こちとら寝不足なんだよ……」

「ガラ悪いぞー?」

「……まぁ、原因は大体想像出来ますが……」


 明日香の隣に立つ沙織は、そう言って前の方を見た。

 そこでは、蜜柑に何か言っているギンの姿があった。


「だーかーらー! ママに近付かないでって言ってるじゃん!」

「き、昨日作ってたマドレーヌが美味しく出来たから、皆に味見して欲しいだけだよ……ギンちゃんの分もあるよ?」

「いらない! てか、気安くちゃん付けすんなー!」


 イーッと歯を見せながら言うギンに、蜜柑は困ったような表情をしている。

 よく見ると、その手には可愛らしいバスケットを持っていた。

 マドレーヌ……そういえば、朝食は移動中に食べるみたいで、今日はまだ何も食べてないんだよなぁ……。

 そう考えた瞬間、お腹が小さく鳴った。

 ……お腹減ったし、眠い……。

 てかギンの声、結構頭に響くんだよなぁ。寝不足には少し辛いです。


「ホラ、葉月、保護者でしょう? 止めないと」

「えー……」


 急かすように手を叩きながら言う沙織に、私はゲンナリした。

 寝不足なんですけどー。今すっごい眠いんですけどー。

 とはいえ、ギンのことでただでさえ色々迷惑を掛けているし、仕方がない。

 私はため息をつき、二人の間に入った。


「ほら、ギン。蜜柑を困らせないの」


 ひとまずギンの肩を引っ張って、そう言う。

 すると、ギンは不満そうな顔をして、私の顔を見上げた。


「なんでー?」

「なんでって……これから一緒に行動することになるんだし、喧嘩ばかりじゃダメでしょ」

「でも、このビッチママを誑かそうとするんだもん。ママはお母さんのものなのに」


 そう言って頬を膨らませるギンに、私は困ってしまい、頬を掻く。

 寝不足のせいで頭が働かない。

 どう答えようか迷っていた時、トネールが私の腕に自分の腕を絡めた。

 うん?


「トネール……?」

「大丈夫よ、ギン。私と葉月は蜜柑様が間に入れないくらい愛し合っていますから」

「愛……!?」


 トネールの言葉に、私は動揺してしまう。

 え、トネール急に何言ってんの!?

 戸惑っていると、彼女は私の耳元に自分の口を寄せ、囁いた。


「話を合わせて。ギンを納得させるために」

「へ? うん」


 私は小さく頷き、ギンを見る。

 彼女は私とトネールを交互に見る。


「……本当?」

「え? う、うん。本当だよ。私はトネールだけを愛しているから」


 まぁ、それは割と間違っては無いんだけど……。


「じゃあキスして!」

「キッ……!?」


 まさかの反応に、私は言葉を失った。

 見れば、彼女はキラキラと輝く目で私達を見ているではないですか。

 えーどうすれば良いの!? 寝不足のせいで頭が働かないんですけど!

 混乱していると、トネールが屈み、ギンの頭を撫でて微笑んだ。


「そういうことは二人きりの時にするものなのよ」

「そーなの?」

「えぇ。ギンにも好きな人が出来れば、きっと分かるわ」


 トネールの言葉に、ギンは「ふーん」と納得した様子で呟いた。

 ……いや、納得させちゃったよ。

 ポカンと口を開けていると、トネールは私の顔を見てクスッと小さく笑った。


「どうしたの? すごく間抜けな顔してる」

「……いや、なんか……凄いなぁ、と」

「フフッ、これくらい王族だったら当然よ」

「……流石です」


 内心拍手をしながら言うと、トネールはクスクスと笑った。

 その時、私のお腹が情けない音を発した。


「ぅぁ……お腹空いた……」

「あ、えっと……マドレーヌ食べる?」


 蜜柑がオズオズと勧めてくれたマドレーヌを、私は有難く頂いた。

 ……うん。美味い。

 お腹が空いていたので、私は夢中になってマドレーヌを頬張った。

 ただでさえ美味いのだろうが、空腹というスパイスによって、余計に美味しく感じた。

 多少腹が満たされて落ち着いて見ると、ギンが微妙そうな表情で私を見ていた。

 あー……。


「み、蜜柑のマドレーヌも美味しいけど……トネールの唇の方が美味しいなぁ」


 咄嗟に出たハッタリに、自分で言って恥ずかしくなってきた。

 そして、私の言葉に、トネールはカッと顔を赤くした。

 やめて! マジの反応やめて! こっちが恥ずかしくなってくる!


「えへへ……ママとお母さんはラブラブなんだね!」


 そして嬉しそうに笑いながら言うギンに、いよいよ後戻りが出来なくなる。

 いよいよ困惑していた時、私とトネールの間に入るように明日香がやって来た。


「マドレーヌ美味しそう! 僕も一個良い?」

「え? あ、うん! 皆食べて」

「では、お言葉に甘えて私も一つ」


 続く沙織の言葉に、なんとか周りの空気が和んでいく。

 ギンもひとまず納得してくれたみたいだし、とりあえずはこれで解決かな。

 ただ、一つ気になることがあるとすれば……。


「ねぇ、トネール」

「何?」

「えっと……トネールは、これで良いの?」

「……?」

「だから、その……トネールには……」


 好きな人がいるんでしょう?

 その言葉を続けようとした瞬間、喉に何かが詰まったように、声が出なくなった。

 突然口を止めた私に、トネールは不思議そうに首を傾げた。


「葉月……?」

「おーい、そろそろ……何をしているんだ?」


 その時、フラムさんが入ってきた。

 彼女の登場に、私は、これ幸いと話を打ち切り、口を開いた。


「いえ、蜜柑がマドレーヌを作ってくれたので、食べていたんです。……あっ、フラムさんも良かったらどうですか?」

「……まどれーぬ……?」

「あ……私達がいた世界のお菓子なんです。美味しいですよ」

「たくさん作ったので、良かったらどうぞ。あ、トネールさんも」


 私とフラムさんの会話に気付いた蜜柑が、そう言ってフラムさんとトネールにマドレーヌを渡す。

 フラムさんはしばらく訝しむように見ていたが、一口頬張った。

 次の瞬間、その目を大きく見開いた。


「これは……美味いな」

「良かったぁ」


 蜜柑が安心したように笑うと、フラムさんはハッと我に返った様子で、顔を上げた。


「それより、アルス車が宿屋の前まで来たから、そろそろ行くぞ」

「あ、ハイ」


 彼女の言葉に、私達は各々の荷物を抱える。

 この旅路では色々あったが、いよいよ帰るのか……。

 そう考えると、少し感慨深かった。


 ……しかし、まだまだこの世界での戦いが終わったわけではない。

 私達の戦いはまだ、続くんだ。


「ギンちゃん。良かったらマドレーヌ……」

「いらない!」


 これからへの意気込みを一人でしていた時、蜜柑のマドレーヌの布教を突っぱねるギンが見えた。

 ……この二人の関係はまだ悪いみたいだなぁ……。

次回から第5章です

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