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魔道具屋レオンハート〜チート級魔道具有り〼〜  作者: INGing
王都の魔道具屋 編
9/14

簡易式転移門

お読み頂き有難うございます。

「ご報告をいたします。先日ついに、魔族領の魔物の生息数が10万を切りました。このままいきますと・・・」



妾の前で膝をつき、頭を垂れて報告をあげる魔族の女。

先代が崩御し、妾が当代魔王に就任した時に側近へと引き上げた者だ。

少々堅物で融通の効かない性格では有るが、真面目で有能。

治世に疎い、妾の教育係でもある。


そんな者があげてくる大事な報告も、玉座に座って聞いてる妾の耳には大して入って来ない。

それよりももっと、大事な事を考えているせいだ。



「・・・た」


「魔王様?」



妾の呟きを耳聡く拾った側近は、徐々に険しい表情になっていく。

聞こえているくせに、いちいち聞き返して来るのが何やら小憎たらしく感じる。



「尽きたと言っておるのだ!」



妾にとって最も大事なモノが、もう尽きた。

毎月レオンがやってきて補充していってくれるのじゃが、どうも最近減るのが早い気がする。



「この前補充したところですが・・・」


「足りん!全く足りん!今すぐレオンを呼べ!!このままじゃ倒れてしまう!」



そんな妾の癇癪をうけて、側近は深くため息をついた。



「我慢なさってください、魔王様。レオン様も忙しいお方です、急に言って来れる訳が無いでしょう?」


「何故じゃ!奴ならばこの城まで一瞬で来れるじゃろ?!ほんのちょっとで良いんじゃ!今すぐ補充を・・・」



奴はこの城まで来るのに、ほんの僅かな時間も掛からん。

大した手間でも無いのじゃから、来てもらっても構わんじゃろ?


そこまで言って、側近から物凄い重圧がかけられているのを感じた。



「魔王様、いい加減になさって下さい。その様な我が儘ばかりおっしゃるならば・・・」


「じょ、冗談じゃ!まだもう少し、ほんの僅かに微妙に残っておる。我慢するから、抑えよ!殿中じゃぞ」



慌てて、さっきの言葉を取り消す。

主従の関係とは言え、どうにもコヤツには頭が上がらん。

宥める様に声をかけ続けて、ようやく側近は落ち着きを取り戻した。



「はぁ・・・それでは魔王様、続いての報告に移ります」


「う、うむ」



それからしばらく、ここ最近起きている出来事などを大人しく聞いていく。

そろそろ報告も終わろうかと言うところで、部屋の外が騒がしくなってきた。



「失礼します!取り急ぎ耳に入れて頂きたい事が!」



バン!と勢い良く扉を開き、中へと入ってくる魔族の男。

それをたしなめる側近、男は謝罪をし妾の前で跪いて報告をあげた。



「先程、魔族領より魔物の群れが出て行きました!向かう先は人間領、王都ウェンリード方面です!」


「何ですって!?」



男の報告に、側近は目を見開いて驚いた。



「その数、約3000!このままでは・・・」


「緊急事態、と言う事じゃの?」



妾がそう告げると、側近はさらに目を見開いてコチラに目を向けた。



「魔王様、まさかとは思いますが・・・」


「なに、ちょっと行って治めて来るだけじゃ。大して時間は掛からん」


「いけません!魔王様が直接動くなど!」



玉座から立ち上がり、扉の外へと向かう。



「すぐ帰るからの」


「いけません!魔王様!」



側近が止める声も聞かず、妾は一目散に駆け出した。


いい感じに、外へ出る言い訳が出来たの。

目指すは人間領じゃ!





ビュンビュンと人間領の方へと飛んでいくと、魔物の群れが見えてきた。

近付こうとすると、爆炎が群れの端からこちらへと向かってくる。


そのまま行くと妾も爆炎に巻き込まれてしまう、仕方がないのでその場で止まり大きく息を吐き出した。

そして爆炎が妾の眼前にまでやってくると、今度は逆に大きく息を吸う。


すると、爆炎を形どっていた魔力が妾の体内へと入っていき、体面を整えていられなくなった爆炎は霧散していった。



「ふむ・・・今の魔法、なかなかの質であったな。ただの人間に、ここまでの魔力が有るとは思えんが」



そう自分で言ってから、ふと気付く。



「いや、奴なら可能か。レオン・・・そこに居るのか?」



隙を見て王都まで会いに行こうと思っていたが、これは好都合。

手間が省けて何よりじゃ、妾は魔法の始点に向かい再度飛翔した。



「む、もう一度か」



飛び始めてすぐ、再度爆炎に襲われた。

うん?レオンならここまで近付けば妾だと気付いてくれるのじゃが・・・残念、ハズレじゃったか。


再度魔力を吸収し、すぐに見えてきた人物を見てガッカリする。



「強大な魔力を感じてやってきたのじゃが、どうやらハズレだったようじゃの」



落胆した妾を見て、目の前の人間が話しかけて来た。



「魔王・・・!」



どうやら妾の事は知られている様じゃ、滅多に姿は現さんから地味に嬉しいのぅ。

目の前の人間の魔力を探っていると、さっきの魔法はこの人間のモノじゃと分かった。

ふむ、良い魔術師じゃ精進せえよ。


しかしその魔力に少し、気になる残滓がある。



「ん?お主・・・僅かに、奴の匂いがするのぅ?」



クンクンと匂いを嗅いでおると、人間が緊張しているのが分かる。

心配せぬとも、食べたりせんよ?



「や、奴っちゅうんは?」


「奴じゃよ、お主は知ってるはずじゃがの」


「ひっ!?」



何故叫び声を上げたのかは知らぬが、奴を知っている人間を見つけて嬉しくなる。

ああ、そう言えば人間は個体の識別に”名前”と言うものを使っておるんじゃったの。

妾はニコリと笑ったまま、人間に奴の名前を告げる。



「妾の探し人、それは希代の付与術師レオン・ウィルハートじゃ」



そう告げて見るも、目の前の人間は首を傾げるだけじゃった。



「レオン・ウィルハート?わ、悪いけど知らんわー」


「そんな訳が無かろう!お主の魔力に残滓がこびり付いておる!」


「ひっ!」



ついつい声を大きくしてしまった、人間も身体が石みたいに固まってしまっておる。

ふと、人間が持つ杖を見た。

この作品は・・・



「その杖、奴の作品であろう?」


「え?は、え?これ?」


「うむ。レオン・ウィルハートの作品に間違いない、本当にその者を知らんのか?」



妾が念押しにそのように聞くと、人間はブンブンと勢い良く首を横に振り。



「い、いや。これ作ってくれた人やったら知ってるわ、魔道具屋の店主はんや」


「魔道具屋?錬金術師でも無いのにか?」


「・・・え?」



相変わらず奴はズレた感覚の持ち主じゃの。

付与術師が魔道具屋をするなんぞ、錬金術師に喧嘩を売るようなもんじゃないか。


目の前の人間も、付与術師と聞いて驚いておるの。

王都では錬金術師と偽っておるのか?

だとしたら内緒にしといた方が良かったかもしれん・・・



「まぁ、それはさて置き。今はどこに居るのじゃ?」


「店におると思うけど・・・」


「そうか、じゃあ・・・行くかの」



そう言って人間の手を掴むと、王都の方へ向けて飛翔する。



「ちょっと待って!行くって・・・」


「王都じゃろ?妾は人間の街には不慣れじゃ、お主が案内せぃ」


「いや、流石に魔王が中に入るんは・・・!」



少しうるさかったから速度を上げてやる、案の定に風圧のせいか人間の口は閉じられた。



「安心せぃ、襲ったりせんよ。王とも知り合いじゃしのー」


「・・・はぁ?!」


「不可侵条約を結んでおる、騒ぎにせんかったら王都に入って構わんと言って貰っとる」



あ、コレも言ったら駄目じゃったか?

人間の表情が面白い事になっておる。


まぁ、細かい事は良いじゃろう。

とっとと王都へと行くとしようぞ。





王都の門が視界に入ったので、飛翔を止め歩いて向かう。

流石にそのまま向かうほど、妾も非常識ではない。



「おかえりなさい、ベル様!先程報告が有りました。魔物の群れを撃退なされたとか」



鎧姿の人間が、人間に礼をした。

・・・人間が人間にって、ややこしいの。

ベル?とか言ったか、今度からはそう呼ぶとするか。



「なんじゃ、ベル?はお偉いさんか?」


「いや、大した事ないで。宮廷魔術師隊のちょっと上の方ってだけや」



妾の疑問にベルが答えてくれるのだが。



「いやいや、ベル様の上には隊長しかいないじゃ無いですか」


「・・・と、言っておるが?」



そう言った鎧姿の言葉を聞いて、ベルはバツが悪そうに頭を掻いた。



「いやぁ、ホンマに大した事無いんやけどな」


「ところでベル様、こちらの方は?」



声を上げた事により妾に意識が向いた鎧姿は、こちらの方へと向き直りベルへと尋ねた。

ちなみに服装は、普通の町娘が着ている様な物に見せているので特に言及は無い。



「その魔物の群れ近くに迷い込んでいた人や、危ないから保護して連れて帰ってきた」


「うむ、迷いこんだ魔王じゃ」


「魔王・・・?」



あ、言わん方が良かったかの。

ついつい”人”と言うのを躊躇ってしまうのじゃ。

別にバレても構わんのじゃが、無駄に混乱さすのもどうかと思うの・・・


鎧姿が困惑している所に、すかさずベルがフォローを入れてくれた。



「そうそう、マオはんって言うねん。ちょっと疲れてるからもう中入ってええか?身元はウチが保証するから」


「はぁ。マオさん、ですか?ベルさんがそう言うなら構いませんが」


「う、うむ。マオじゃ、宜しくの」



上手いの、聞き間違えたと思わせるのか。

ベルの意外な策士っぷりに軽く驚き、門の中へと入るとベルが小声で注意してきた。



「魔王はん、頼んますよ。裏では条約結んではるんか知りませんけど、ウチですら知らんかったモンやねんから。一般の兵士はんが、魔王とか聞いたらそれだけで死んでまいますわ」


「う、うむ。すまんかった、妾の固有名詞みたいなモノでの。ついつい口に出てしまうんじゃよ」



しかし先程のは・・・



「ベルは、レオンから妾の事を聞いてたりするのかの?」


「ん?いや、聞いてへんけど。店主はんに会ったんも今日で2回目やし、あんま仲良くはないんよ」



と、最後の方は何故かヘコんだ様子になっていった。

そうか・・・と、言うことはたまたまじゃな。



「そろそろ着くで。王都唯一の魔道具屋、レオンハートに」


「・・・唯一?」



これ程の規模の都に唯一とは、随分とおかしな話じゃの?

どういうことか悩む間もなく、それからすぐに店の前へとついた。

魔道具屋レオンハート、そう書かれている看板を見上げる。


中に入ればレオンが居るのかと思うと、少し鼓動が高鳴ってしまう。

軽く深呼吸して扉を開くと、正面に見えるのは銀髪紫目のレオン・ウィルハートその人じゃった。



「レオン・・・!!」



声を掛けようとして、レオンの後ろにいる者に気付く。



「魔王様、あれ程・・・いけませんと、申し上げましたのに」


「メ、メリッサ。何故ここに・・・」



レオンの後ろに控えておったのは、融通の利かない堅物で有能な教育係、妾の側近メリッサじゃった。



「魔王様を連れ戻しに来たに決まってるでしょう!まだ政務は、山ほど残っているんですよ!こんな所で油を売ってる暇は無いんです!」



メリッサの怒声を受けて、助けを求めるようにレオンの方を見る。



「さっきメリッサさんから連絡が来てね、マオがこっちに向かってるって聞いたんだ。困ってる様子だったから迎えに行って連れて来たよ」



そんな!メリッサばっかり、レオンに迎えに来てもらってズルいのじゃ!



「ほら、あまりメリッサさんを困らせちゃダメだ。いい子だから、大人しく城に帰って」


「い、嫌じゃ!せっかくここまで来たんじゃ!補充もせずに帰るなど、そんな事出来ん!」


「魔王様!レオン様はお忙しいのです、我が儘を言ってはいけません!」


「い、嫌じゃ!嫌じゃ嫌じゃ!」



離れた所でこちらを伺っていたベルも、なんやなんや?と訝しげに見ている。

むぅ、周りに人が居るが仕方ない。



「レオン!妾をぎゅーっとハグしてくれ!!頭を撫でてくれ!匂いを嗅がせてくれ!妾は・・・妾はもうレオン分が尽きておる!補充させてくれー!!」


「魔王様!人前ですよ、自重なさって下さい!」



レオンに思いっきり飛びつくと同時に、そう大声で叫んだ。

メリッサは引き剥がそうとするが、妾はイヤイヤと頭を振ってレオンの胸にグリグリとこすり付ける。


途中ベルがポカンと口を開いているのが見えたのじゃが、ここまで来たらもう関係ないの。

身体に手を回し、妾の頭を擦り付けると同時に、レオンの匂いをクンクンと嗅ぐ。

やっぱりいい匂いじゃ、脳みそが溶けていくかと錯覚しよる。


しばらくするとレオンも観念したのか、妾の頭に手を置きゆっくりと撫でてくれた。

乱暴にはせず、髪が乱れない程の手つきで、頭頂部から後ろへと撫でていく。

絶妙な力加減でツボを押さえながらのナデナデは、スッと疲れがそこから抜けていくような感覚で、下手をすると全身から力を奪っていきかねない危険さを兼ね備えておる。


そんな、魔族をも魅了する神の手を動かしながら、レオンは妾に告げる。



「ごめんな、マオ。明日で良ければ城に顔を出すよ、それじゃ駄目かな?」


「本当か?!」



今日こうやって会えただけでもしばらく頑張れそうじゃ思っておったのに、更に明日も会えるじゃと?

願ったり叶ったりとはこの事じゃ!



「しかし宜しいのですか?」


「良いんですよ、ほら・・・」


「・・・ああ、なるほど。納得致しました」



嬉しさのあまり、グリグリの速度を上げた妾の頭の上で、レオンとメリッサが何か話しておる。

理由なんてどうでもいいのじゃ!大事なのは、レオンと一緒に居れる!それだけじゃ。



「魔王様、そろそろ・・・」


「うむ!今日のところは帰るとするかの!」



メリッサに引き剥がされ、素直にそれに応じる。

妾が落ち着いたのを見てか、ベルもこちらへと近付いて来た。



「なんや魔王はん、まるで子供みたいやなぁ」


「まるで、じゃ・・・」



何か言おうとするレオンの口を慌てて塞ぎ、指を口の前で立てる。



「それは内緒じゃよ」


「そうだった。ごめんね、マオ」


「・・・なんや?」



意味がわからなかったのか、ベルは困惑した表情になった。



「では、失礼します」


「あ、メリッサさん。少しお待ちを」



店の外に出ようとした妾達を、呼び止めるレオン。

店内をキョロキョロと見渡すと、一つ頷いた。


何かあるのかの?

店内には、ベルと赤髪の人間、白い鎧を来た人間と亜人、それと体格の良い白髪の人間が居る。


レオンは妾達に向けて右手を差し出すと、つけているブレスレットの内の1つに魔力を込めだした。

そして手の平に小さな黒い点が出来上がり、それが次第に大きくなっていく。

やがて人が通れる程の大きさまでに拡がると、レオンが妾達に告げた。



「送りますよ」


「重ね重ね申し訳ありません、レオン様。ではお言葉に甘えまして」



そう言ってメリッサは、躊躇なくその黒点に跳び込んだ。



「じゃあ、マオ。明日の昼過ぎには行くから」


「本当じゃな?絶対じゃからな?」


「大丈夫だよ、明日は宜しく頼むね」



そう言って、蒼い目を優しく歪ませて笑うレオン。

うむうむ、レオンの笑顔は格別じゃの!見てるだけで元気が出て来るのじゃ!



「うむ、任せておけ!それじゃあの!」



そう言って妾も、その黒点へと勢い良く跳び込んだ。

その際、周りの人間達の口が、大きく開かれていた気がするが・・・まぁどうでもいいかの。





黒点を抜けると、そこは見慣れた玉座の間じゃった。

相変わらず、凄まじい魔道具じゃの。

妾でも不可能な空間転移を、こうも容易く実現させるとは。


レオンの素晴らしさをじっくりと噛み締めた後、グッと気合を入れ直す。

それじゃあ、明日に備えて準備でもするかの。

そう思って歩き出すと・・・



「魔王様・・・」



後ろから、途轍もなく冷えた声をかけられた。



「メ、メリッサ、どうしたんじゃそんな怖い顔をして・・・」


「どうしたもこうしたも有りません!ちょっとそこに座って下さい!」



凄い剣幕のメリッサによって、玉座へと座らされ、そのまま2時間くらい拘束される羽目になった。



「大体魔王様は、いつもいつも私に・・・」



そろそろ晩御飯の時間なのじゃが・・・

いつまで経っても終わる気配の無い説教に、ついぞ集中力が切れてしまう。



「魔王様!聞いていますか!貴方はいつもそうやって・・・」



どうやら、火に油を注いでしまった様じゃ。

うーむ、やっぱりコヤツには頭が上がらんの。


グーと鳴るお腹をさすりながら、その後も1時間みっちりと説教を受ける事になった。

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