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魔道具屋レオンハート〜チート級魔道具有り〼〜  作者: INGing
王都の魔道具屋 編
2/14

ポーション

「リリィ!ちょっと聞いて!」



探索者ギルドに入るや否や、私は受付に居た女性に話しかけた。



「あら、マリアじゃない・・・どうしたの?いつもと様子が違うけど」



リリィは私の様子に気付くと、驚きの表情を浮かべて声を上げた。

私は続けて声を上げる。



「なに、あの店?!レオンハート!ヤバい、かなり凄い!」


「ちょ、ちょっと落ち着いて!あんたキャラ崩壊してるわよ!」



リリィに言われてハッと気付く、どうやら素が出ているようだ。

別に演技をしていた訳では無いが、普段の私と比べて今の私は歳相応の話し方になっている。

今日の出来事にかなり興奮していた様だ、いくら唯一慣れた受付嬢相手とは言え少し恥ずかしい。

周りの探索者達も、何処か怪訝な表情でこちらを眺めている。



「・・・ごめん」


「落ち着いた?じゃあ、何があったか教えてくれる?」



コホン、と咳払いを1つし少し落ち着きを取り戻す。

リリィがそれを見て続きを促してきた、私はコクンと頷くといつもの様に話出す。



「・・・15階層で牛人(ミノタウロス)と遭遇、数人の探索者が犠牲」

「15階層って・・・あなた、相変わらず無茶するわ。自分がソロだって分かってる?」



必要最低限、と言った報告をするとリリィが大きく溜息をつく。

15階層といえばどれだけ優秀な探索者でも、最低数人でのパーティを組むのが基本だ。

私の様に、一人で探索する奴は誰もいない。

一人の方が身軽だし、何かあったとき逃げるのも楽だと思っている・・・まぁ、運が悪ければ今回の様な危機に陥ってしまうのだが。


私が無言でリリィの呆れ顔を見ていると、ゴソゴソとカウンター下から何かの用紙を取り出し私に差し出した。

報告書と書かれたそれを左手で受け取る、私の様に非力な探索者はこういった報告で報酬を貰う。


右手(・・)にペンを持ち、スラスラと今日有った事を書いていく。

ダンジョンの様子、魔物の生息階数、探索者の進捗状況、罠等の有無。

魔物の素材や魔石の売買益に比べたら微々たるものだが、こう言った情報の提供によって探索の安全度が増すのだ。

私はいつも、進んで報告をあげている。


ダンジョンでの出来事を書きながら、その後(・・・)の事も報告すべきか逡巡する。





「おかえりなさい!」


「・・・はぁ」



見覚えの有る少年は、先日寄らせて貰った魔道具屋【レオンハート】の店主だった。

私と同じ年齢なのに、かなり優秀な錬金術師(・・・・)だったので記憶に残っている。


綺麗な銀髪に透き通るような赤い目、見目麗しい外見は私に社交性が有ればもっと積極的に話しかけていたに違いない。

派手な装飾をいくつも付けているが、落ち着いた黒のローブを身に纏い上手く調和して嫌味たらしく無い物になっている。



店主は優し気な笑顔のままこちらを見つめている、人見知りの私は何て話しかけるべきか分からず無表情で見つめ返してしまう。

しばらくその状況が続いたが、店主が視線を少し下を向け何やら驚いた表情になる。



「ナナ!すぐにポーションを!」



店主が慌てた様子で扉の外に声を掛ける。

ポーション?そう思って店主の視線を追うと、そこには肘から先が存在しない私の右腕が見えた。

ああ、そういえば。と、自覚して顔から血の気が引く。

慌てた表情でお互い見つめあっていると、扉の外から女性の声が聞こえてくる。



「マスター、ポーションをお持ちしました」



店主に声を掛け、部屋へと入ってくる女性。

メイド服を身に纏い、落ち着いた所作で店主に瓶詰めのポーションを渡す。

珍しい黒髪をストレートに伸ばし、漆黒に見える瞳を持つ顔は私以上に表情の無い様に思えた。


首には奴隷を表す首輪がつけられている、細身の身体に力仕事等は向いていない。

恐らくそういう(・・・・)目的の奴隷だろう、この若さで奴隷を持つだけでも驚きだと言うのにこれ程の美貌の性奴隷など一体いくらかかる事やら。



痛みを紛らわす為、そんな不躾な事を考えていると店主がポーションを差し出して来た。

笑顔で「サービスです」なんて言われると、私としても断る理由はない。

ただ、唯一残った左手は右脇の下だ。

これを差し出してしまうと、勢いよく血が吹き出し床一面を汚してしまう。


どうしたものかと逡巡していると、それに気付いた店主が瓶の蓋を開けて私に近付いてきた。

私は少し身構える、やはりあまり面識の無い人物に近寄られるのは緊張してしまう。

しかし私はポーションを恵んで貰う立場なのだ、逃げる訳にも拒絶するわけにもいかない。

身体を固くしてその場に立ち止まり、店主が近付くのを待った。



そして店主は私の口に瓶をあてがうと、ゆっくりと傾けていく。

口内に流れこんできたポーションはとても澄んだ味がして、本当に薬効が有るのかと少し不安になる。


しかし・・・そんなことより、今回の様な外傷に対してポーションの使用法がおかしい。

体力を消耗した時に、ポーションを飲むと回復する事は広く知れ渡っている。

しかし回復するのは体力のみで、味が悪い高価なポーションをそんな風に無駄遣いする奴は居ない。

余程金を持った変人くらいだろう、普通は外傷にふりかけて治癒を促す物だ。



いくら優秀な錬金術師とは言えまだ成人になったばかりの若者だ、ポーションの使用法が2種類有るとは知らないのかもしれない。

指摘した方がいいのかもしれないが、口内に次々と注がれるポーションのせいで口を開けない。

無駄に1本使わせてしまったが、後で料金を払えば良いのだろうか?


物によっては、1日の稼ぎが全額消えてしまう程に高価な物もある。

背に腹は変えられないとは言え、その事を考えると牛人(ミノタウロス)と対峙した時並に冷たい汗をかいてしまう。



「・・・あ」



全て飲み干して瓶が口から離れた、すかさずお礼と謝罪をしもう1本譲って貰わなければ。

私みたいな人間には勢いが大事なのだ、少しでも間が空いてしまうとまた口ごもってしまう。

そう思って口を開くが、続く言葉が出てこなかった。


ーーー何故なら、飲み干したと同時に全身を光が包み呆気に取られてしまったから。


眩しいとまでは思わない物の、強く発光する私の身体。

驚愕で思考が停止してしまい、軽く目を細めて成り行きを見守る事しか出来ない。

やがて光が収まると、私の身体に信じられない変化が起きていた。

失ったはずの右手が、以前と変わらない様子でそこにあった。

夢でも見ていたのだと誰かに言われたら、そうだったのかと納得しかねない。

それほどにごく自然に、何事も無かったかの様に右手が再生した。



心配そうな顔をしていた店主も、再生した右手を見て「良かった・・・」と呟いている。

再度笑顔に戻って私に話しかけて来るが、それに返事を返す余裕なんか無い。

それほどに頭の中が混乱している。



「この前来られた時にも思いましたけど、随分と無口な方ですね」



あまりに無反応な私をみて、店主は苦笑いを浮かべた。


違う!確かに私はあまり喋らない方だが、今回はそれを抜きにしても声が出てこない。

なんとか返事をしようとしても「・・・ぁ」とか「・・・ぅ」とかしか出てこない、元々低い会話スキルも足を引っ張っている。



「とにかく、無事でなによりです。ナナ、お客様を出口までご案内して」



口ごもっている私から視線を外し、奴隷に声を掛ける店主。

何とかお礼を言おうとしている私に対して「こちらへ」等と言いながら腕を引いていく奴隷。

結局外へ出るまでにお礼を言うことは出来なかった。





不思議なポーションについて考えながらも、手は止まらずに報告書を書き続けていた。



「で?何が凄いの?」



リリィにそう問われて、ピタと手が止まる。

最初は興奮してしまって聞いてくれと言ってしまったが、よくよく考えれば言わない方が良いのかもしれない。

傷口を瞬時に塞いでくれるだけの物でも、かなり高価なポーション。

欠損を治せる物なんか、お伽噺の中でしか聞いたことが無い。


信じてもらえるかどうか、というよりもその様な貴重な物が二つとして有るのかも分からない。

余計な情報を渡して混乱させるのも気が引ける、私は無言で首を振り報告書の続きを書く。


先ほどとは違い、落ち着いてしまった私はかなり口数が少ない。

それを知っているリリィは「やれやれ・・・」と、少し呆れた声を出したがそれ以上深く聞いてくる事はしない。


全ての項目を書き終え、報告書を提出する。

不備が無いことを確認し、その報告書を受け取ったリリィ。

僅かな報酬を得て、私はギルドを後にした。


明日もう一度店に行ってお礼をしようと思う。

どれほどの対価を求められるか不安だが、あれがなければ私は死んでいただろう。

生命の恩人に対して、今度こそ失礼が無い様にしなければ。

周囲に誰も居ない事を確認し、私は発声練習をしながら帰路についた。

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